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「………もう…いいでしょ…離して惇哉さん…」
「ヤダ…」
「惇哉さん…子供じゃ無いんだからそんなに駄々捏ねないで!」

そろそろ出勤しようかと言う頃…惇哉さんに捕まってソファに強制的に座らされて
抱きしめられ…もうどれだけの時間が経ったんだろう…

「だって今まで何ヶ月一緒にいたと思ってるんだよ!」
「んー映画の撮影があったから5ヶ月弱?」
「だろ?そんな長い間一緒だったのが今日から別々なんだぞ!由貴は平気なのか?」
「だって最初からそう言う約束だったし…仕事だし…」
「由貴!!!由貴はなんて冷たいんだっっ!!」
「…んっ!!!」

ブチュって言う擬音が似合う様なキスまでされる!

「…ンッ…うぅ…んーー!!」

いくら顔を背けても惇哉さんは諦めずに何度も何度もキスをする。

「ンッ!!!」

そのままソファに押し倒された!

「…ンンっ!!んーーーっ!!」

ブラウスが捲り上げられて惇哉さんの手が乱暴に入って来る!

ゴ ン ! !

「……痛って!!!」

頭突きを喰らって後ろにのけ反った!

「いい加減にして!もういい大人が何してるのよ!」
「……っつーー !!由貴!ヒドイぞ!!」

オレは涙目のオデコから手が離せない。
由貴はケロッとしてるし!

「ヒドイのは惇哉さん!朝から何するのよ!行ってきますから!」

由貴が乱れた服と髪を直しながらリビングを出ていく。

「なら後で事務所に顔出すからな!」
「迷惑だから来なくて結構です!」

ムッ! アッカンべーをされた!

「由貴の石頭!!」
「石頭で結構です!」

昨夜のあの素直でハニカんだ由貴は何処にいったんだ!?

「うー………由〜〜貴〜〜〜!!」
「………もう…」

あと少しで玄関ってとこで仕方なく引き返す。

「はあ…本当に手がかかるわね…」
「由貴の事がそれだけ好きなんだよ…」
「もう…」
「由貴…」

ソファに座ったままのオレの前に立つ由貴の腰に腕を廻して
抱き寄せて顔をうずめる…

「好きだよ…だから早く帰って来て…」
「真っ直ぐ帰るわよ。惇哉さんはちゃんと彼女に連絡してね。」
「彼女?あいて!」

パシリと頭を叩かれた。

「幼馴染みの彼女よ!大丈夫?」
「あ…うん…大丈夫…わかった。」
「じゃあ行ってきます。」
「気をつけて…チュッ…」

出来るだけ背伸びをし て由貴に近付く…由貴も少し屈んでくれて触れるだけのキスをした。

「いってらっしゃい……」


パタンと玄関のドアを閉めた…

「はあ………」

閉めたドアにもたれ掛かる…もう…これから毎朝こうなのかしら…

そんな事を考えたら眩暈がした…



「さて…」

由貴が出て行った後オレはソファからスクッと立ち上がる。

「痛…まさか頭突きが来るとは思わなかったな…
まったく由貴の奴…相変わらず加減ってのをしないんだから…」

オデコを摩りながらそんな事を愚痴ってキッチンのコーヒーメーカーに残ってる
由貴が淹れたコーヒーをマグカップに注ぐ。

「でも楽しかった ♪ 」

ヘタレ男演じてみた ♪ 明日はゴネル男でも演じてみるか…

由貴相手なら何をやっても面白い。
毎朝の日課にでもしようか…クスッ ♪



「おはようございます。」

本当に久しぶりの内勤勤務…この朝の感じ…懐かしい〜

「あー柊木さん!」
「あっそっか!今日からまた内勤か!」
「はい。また宜しくお願いします。」
「でもさぁ〜本当はこれからが一緒にいたかったんじゃないの?」
寺本さんがニンマリ笑う。
「いえ…そんな事…」
「良く惇哉君が承諾したわよね…」
「はあ…何 とか…」

皆さん彼の性格良くご存知で…

「その調子じゃ今朝もひと騒動だったんじゃない?」
「え?」
「だって口紅が剥げてるわよ。」
「え″っっ!?」

思わず自分の唇を手の平で隠した。

「ウソよ ♪ きゃ〜どんな事してきたのか想像しちゃう〜 ♪ 」
「首筋にキスマークが!」
「え″っっ!?」

咄嗟に両手で首筋を押さえた。
付いてないのわかってるのに…

「ウソよ〜 ♪ 愛し合ってるのね〜」
「………」
「さて!じっくり聞かせてもらいましょうか?柊木さん ♪ 」
「え?」
「ふふ…そうね…今夜は付き合ってもらいますからね。」

期待タップリの顔に怪しげな笑顔の面々…
早く帰るなんて言ったけど…これは……今夜帰してもらえるのかしら…

そんな事を考えて…惇哉さんのこれまた文句たらふくな態度と顔を想像する……

ああ…もう…あのままマネージャーの仕事してた方が平和だったのかしら…?



由貴の帰りが遅くなるなんてコレっぽっちも知らなかった午後…
オレはとある喫茶店で霈(megumi)を待ってる。

午前中にアチコチ連絡を取ってやっと霈の携帯番号とメールアドレスがわかった。

こんなに苦労して調べなければ霈と話しも出来ないのに…何であんな事…
しかも何度携帯に掛けても留守電でメール送ってやっと連絡がついた…まったく!

本当は兄貴に聞くのが一番早かったかもしれないがどうしても聞けなかった…


「あんた自分の立場わかってんの?」
「ん?」

後から声がして振り向くといつの間にか霈が立ってた。

「週刊誌に騒がれたばっかでしょ!」
「別に…」
「まったくコレだからスキャンダルに慣れてる男は…堂々とオープンカフェに陣取るわけだ…」
「この前のはスキャンダルじゃないし!お前のせいでオレはエライ迷惑してるんだからな!」

ホントに迷惑被ってるよ!
出せる筈だった婚姻届けがお預け状態なんだからな!

「とにかく座れ!納得のいく説明してもらうならな!」

「…………」


未だに立ち続ける霈を…

オレはサングラス越しに睨んでそう命令した。