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「え?遅くなる?」

『うん…どうしても皆で飲もうって…』
『惇哉君〜 ♪ 由貴ちゃん借りるからねぇ〜 ♪ 』

無理矢理代わった電話の向こうで…この声はいつもの如く寺島さん…

「だからオレが昼間話すって言ったのに…」
『だから今日は女同士で飲むって言ったでしょ〜 ♪ 』
「ったく…」

昼間事務所にメグを連れて行って色々と話した後事務所の女の子に強制的に帰された!
今日は男子禁制だそうで…

と言うかきっと突っ込んで聞いて由貴が焦る姿を楽しむつもりだろう…と推測出来る。

「あんまり由貴に酒飲ませんなよ!すぐ潰れるから。」
『え?そうなの?』
「前レンジ達と飲んだ時そうだったろ。」
『そう言えば…あ〜レンジさんとまた飲みたいなぁ〜』
「由貴をちゃんと帰してくれたらレンジに声掛けてあげるけど?」
『ホント?ヤッター ♪ 任せて!調度良い酔い加減で帰してあげる ♪ 』
「ありがと。由貴に代わって…」
『柊木さ〜ん!ダーリンが代わってだって〜 ♪ 』
『誰がダーリンですか!もう…もしもし?』
「由貴…あんまり飲み過ぎるなよ。」
『わかってるわよ。』
「車で迎えに行くから帰る時連絡するんだぞ。」
『え?いいわよ…自分で帰れる。』
「ダメ!今までの自分の醜態…忘れたの?」
『………わかった…』
「よろしい。じゃあ浮気すんなよ!」
『しないわよ!失礼ね!』
「ならいいけど。由貴…」
『ん?』

「チュッ ♪ 」

携帯に向かってキスをした。

『おバカっっ!!』

ブ チ ッ !!

「くっくっ……相変わらず初心だな由貴は…」

笑いながら携帯を切ってソファに放り投げた。

「コーヒーでも飲もう ♪ 由貴を迎えにいかないといけないからな…」

車の運転があるからお酒は飲めない…
でもコーヒーを自分で淹れるなんて久しぶり ♪ いつも由貴にいれてもらうからな。
テキパキとこなしてソファで自分の淹れたコーヒーを飲む。

「流石オレ ♪ 」

自我自賛してたら携帯が鳴った。

「え!?兄貴?」

携帯のディスプレイに表示されてる名前が兄貴だった…

「はい?」

緊張しながら通話のボタンを押す…

『惇?今平気?』
「ああ…」

昼間のメグの話を思い出す…

「どうしたの?」
『惇…今日メグに連絡ついた?』
「え!?あ…何で?」
『午前中メグの連絡先母さんやメグのおばさんに聞いたそうじゃないか…』
「あ…うん…」
『で?連絡ついた?』
「………ああ…」
『会った?』
「会った…」
『そう…メグ僕からの電話じゃ出ないしメールも返事くれないから…』

あいつ…兄貴から逃げてるな…

『じゃあ聞いた?』
「………何を?」
『惚けなくていいよ惇…僕がメグの事を好きだって事…』
「兄貴…」
『ついに惇に分かっちゃったね…クスッ』
「………」

『長い間隠し通したのに…』

「兄貴……今から時間ある?」
『何で?』
「ちょっと話したい…って言うか聞きたい…」
『何を?』
「メグの事…」
『………』
「兄貴…」


それから30分後…オレの部屋のチャイムが鳴った。

「いらっしゃい。」
「こんばんは。」

いつもの兄貴の笑顔…メグの言う柾クンスマイル?

「美味しい…」
「そう?口に合ってよかった。」

オレの淹れたコーヒーを飲んで兄貴が静に笑う。

「彼女は?」
「事務所の連中と飲み会。」
「そう…」
「………兄貴…」
「ん?」
「メグの事…本当に昔から好きだった…の?」
「………」
「兄貴…」
「メグの事はずっと昔から可愛いと思ってたよ。」
「 !! 」
「ウチは男2人だろ…小さい頃は僕と惇の後をいつも追い駆けて来て…
一緒に遊んだじゃないか…僕にとっては惇哉の他に妹がいるみたいな感覚だった。」
「そうだな…あいつ気が強いからオレといつも喧嘩して…
あいつはいつも兄貴に助けを求めるんだ。それでオレはいつも兄貴に怒られる…」
「怒ってなんていないだろ?ちょっとたしなめただけだ。」
「それが子供だったオレには怖かったんだよ。
そしたら今度メグは泣いてるオレを慰める…元は自分が兄貴にチクッたせいなのに…
それをいつも恩着せがましく言うんだ… 『 柾クンから守ってあげた。 』 って。」
「くすっ…メグらしい…」
「冗談じゃないよ…まったく!」
未だにそれを言うし。
「でもいつの間にか3人では遊ばなくなった…メグも女の子の友達と遊ぶ様になったしね…」
「………」

オレは何とも気を使って…なかなか核心を聞けないでいる…

「最初は…自分でも本当にメグの事が好きなのか分からなくてね…」
「え?」

いきなり兄貴が核心を突いて来た!
そう言えば兄貴ってば合理的主義な人間だった。

「異性としてメグを見てるのか…それとも幼馴染みとしてで異性とは見ていないのか…
だから中学・高校とメグ以外の女の子と付き合ってみた。」

「え?」
「友達としてだけどね…付き合って行くうちに相手の事が好きになるかと思ったんだが…
好きにはならなかった。」
「は?」

「何故だか好きにならなかったんだ…どんな相手でも…いつもメグの事の方が優先で…気になって…
メグと一緒にいる時の方が楽しかったし…メグの高校の受験勉強も僕が見ただろ…
あの時は毎晩の様に勉強見てあげて…ずっと2人きりで…
このまま時間が止まれば良いと思った…だからその時から他の誰かとは思わなくなった。
僕はメグの事を1人の異性として見てるんだってわかったから…」

「そこまで?」
「…不思議?」
「……まあ…」
「僕が6歳の時…飼ってた犬が死んだの覚えてる?」
「え?犬?………あの白くて大きい?」
「そう…」
「んー何となく…」

「 『 メテオ 』 って名前の犬で僕が生まれた時にはもう結構な歳でね…
大きかったけど大人しくて僕の遊び相手で仲が良かった…
死んだのはもう老犬だったからなんだけど…だから仕方ない事なんだって
わかってはいたけど悲しくて…皆に見られない様に良く1人で泣いてた…」

「!!」

兄貴が泣いてた?

「ある日部屋で1人で泣いてたらメグが入って来て…泣いている僕を慰めてくれた…
まだ4歳だったのに…小さいなりに一生懸命…」

兄貴…


「 その時胸の中がホンノリとあったかくなって…とっても楽になった…

  その時からきっと…僕の中にメグがいたんだ…

  自分でも気付かないうちに…… 」