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「いらっしゃい。」

「………」

兄貴が帰った後メグを部屋に呼び出した。

「話って?」

バツの悪そうな顔でオレを見上げる。

「とにかく上がれ。メグには色々聞きたい事がある。
それに明後日にはまた仕事であっちに戻るんだろ?その前に話がしたかった。」

「彼女は?」

リビングの入口で部屋の中を覗きながらメグが遠慮がちに聞く。

「由貴は事務所の連中と飲み会。」

本日2度目の説明だ。

「ふーん…」
「座れよ。」

ソファに視線を向けるとぎこちない動作でメグがソファに座る。

「スゴイ部屋ね〜あたしの部屋が何個入るかしら…」

ソファに座ってキョロキョロ…何処の田舎娘だ。

「お前オレに黙ってただろ?」
「え?何が?」
「兄貴との事だよ!お前しっかり兄貴と行くとこまで行ってるんじゃん!」
「え″っっ!!!ななな…なんでその事!?」

うわ…スゲェ顔真っ赤!

「兄貴に聞いた。」
「え?柾クンに会ったの?」

いきなり慌て出してまた部屋中をキョロキョロ見回す。

「いないよ。兄貴から電話があっただけだよ。そこで色々話したの。」
「………そう…柾クン…何か言ってた?」
「メグと連絡が取れないって。会ったのか聞かれた。」
「え?」
「本当にいいのか?このまま兄貴に会わなくても?」

「……い…いいのっ!!別にあたしには関係ないもんっ!!」

「ふーん…まあメグがそう言うならオレは何も言わないけど。」

「!!」

無言でメグの隣に座る。

「惇クン?」
「綺麗になったな…メグ…」
「え?ええ?何??どうしたの?いきなり??」

グッとメグに近寄った。

「昼間は由貴がいたから言えなかったけど…綺麗になって随分女らしくなった。」
「あ…ありがとう……あ…あの…話無いんだったら…あたし…これで…」
「そんなに急いで帰る事無いだろ?折角久しぶりに会えたんだからさ…」
「え…でも…ちょっ…どうしたの?惇クン?」

ジリジリとメグがソファの上を後ずさりで逃げて行く…
オレはそれを同じ様にジリジリと間を詰めて行く…

「しゅ…惇クン?」
「オレの事を片思いの相手に選んでくれたって事は少しはオレの事気にしててくれてたって事だろ?」
「……え?あ…別に…そう言う…訳じゃ…」
「オレも随分大人になったと思うんだよな…まあ兄貴から比べればまだ若いけど…」
「…………」
「兄貴の事は何とも思ってないんだろ?」
「…え……?」
「10年だって?兄貴の事フリ続けてるの?もういい加減兄貴の事解放してくれないかな?」
「解…放?」
「だってそうだろ?望みの無いお前に執着してても仕方ないじゃん。
兄貴に良い縁談があるんだって…親父が言ってた…」
「縁…談?」
「そう…これ以上待ってても望み無いだろ?だからこれ以上兄貴の貴重な時間奪うなよ。」
「 ! ! 」

ド サ リ ! とメグをソファに押し倒した。

「ちょっ…!!惇クンやめて!ふざけないでっ!!」
「ふざけてなんか無い…本当に既成事実作れば兄貴だって諦めるだろ?
それにメグだってふっ切れるんじゃない?」
「ちょっと…何言ってるの?惇クン……惇クンだって結婚約束した彼女いるじゃない…」
「そんなの黙ってるに決まってるだろ。それに今更何言ってんの…
オレが結婚したらメグ困るんだろ?ワザワザオレの所に文句言いに来たクセに。」
「あれは……」
「オレだってメグのせいで結婚先延ばしになるかもしれないんだぞ…」
「………」
「このくらいの見返り…貰ってもいいだろ…メグ…クスッ…」
「惇…ク……」
「初めてじゃあるまいし…」
「!!」

メグの身体をソファに押さえつけて首筋に顔をうづめた。

「あっ!!ヤダッ!!ヤメテ!!惇クン!!」
「往生際悪いぞメグ…」
「やっ…やあっ!!」
「暴れんな!」
「うーー!!」

『 メグ…… 』

ま…柾哉さん!!!


ゴ   ン   ッ ! !


「 いっ…痛………!!! 」

思い切りオデコに頭突き喰らった!本日2度目だ!!マジか!!

「惇クンのバカ!!」

メグがソファから転げる様に起き上がると慌ててリビングのドアに向かう。

「 ! ! 」
「メグ…」
「え?柾…クン?」

なんで?なんで柾クンが…ここに?幻覚?今…目の前に…本当に柾クンが立ってる?

「僕を呼んだ?」

「よ…呼んでなんか………無いわよ!!」
「そうかな?」
「そうよ…そうだ…もん…」
「ウソだ…呼んだだろ…」
「………」
「メグ…」

兄貴が優しくメグに微笑む…メグの言う柾クンスマイルだ。

「……ふ…ふえ…怖かったぁ〜〜〜柾クン……」

メグがポロポロと大粒の涙で泣き出して兄貴に抱き着いた。
そのまま兄貴の胸に顔をうずめる…

「はぁ…まったく…」

オレはオデコを摩りながら溜息だ。
怖がってもらわなきゃ意味が無いんだよ……良かった…何とか成功?

「大丈夫だからメグ…惇は後で僕がちゃんと叱っておく。」
「……う…ん…グズッ…」
「は?」

マジか?何でだ?………はぁ……もうどうでもいいよ…

「メグ!」
「……何よっ!」

何だよ!兄貴が来たら随分態度デカイじゃんか!

「さっきの全部冗談だからな!オレだって由貴だけなんだから!
誰がお前みたいな女手を出すかっての!女としてなんて見て無いって!!」

「………」

「もう意地張るな!皆が迷惑する!!」

特にオレがだ!!

「う…うるさい…」
「メグ…」
「ん?」

「まだ惇哉に片想い中?」

「………」

「オレはこれ以上のゴタゴタはご免だからな!!」

これは本心だ。

「何怒ってたの?」
「ま…柾クンが悪いのよ!いきなり訪ねて来て意地悪な事言うから!!」
「そうだった?」
「そうよ!」
「1秒でも早くメグに伝えたかったから…流石に10年は長かったよメグ…
僕もう限界だったから…僕の気持ちも分かってくれるよね…ね?メグ…」
「………」
「メグ……」
「………」

そんな優しい言い方の兄貴だけど…その呼んだ名前の裏側に
兄貴の気持ちが込められてる気がした…

たった一言に気持ちを込める……兄貴は今それをした……

そんな兄貴の気持ちが伝わったのか…メグが無言でコクンと頷いた。


「どうして…もっと早く会いに来てくれなかったの?」

は?何言ってるこの女!
お前が兄貴からの連絡全部シカトしてたからだろっ!!

「なかなか会えない方がこうやって会えた時嬉しさが増すだろう。」

そう言いながら兄貴がニッコリ微笑んでメグの頭を優しく撫でる。
メグは黙って大人しく兄貴に頭を撫でられてる…しかも何気に気持ち良さそう?

どんなカップル!?って言うか兄貴…しっかりメグを調教(?)してる?

「ゆっくり話そうメグ。」
「うん…」
「惇…色々世話になったみたいだな…また改めて話そう。」
「ああ…」
「メグ…」
「うん……惇クン……色々ごめんね…」
「別に…幼馴染みだろ…それに兄貴の好きな相手だし…」
「あたし…惇クンの事だって…」
「また兄貴に睨まれる様な言うな!!」
「………」
「またな!」
「うん!」


兄貴とメグは2人仲良く帰って行った…

10年と言う長い間の2人の想いがホンの小さなキッカケで1つになる…

そのキッカケがオレの結婚だなんて…不思議…

お騒がせなプロポーズで由貴には散々文句言われたけど…

こんな所で誰かの…兄貴の恋に関わる事になろうとは…な…

やっと始められるのか…兄貴……


「あーー由貴に会いたいなぁ……」


一体いつになったら由貴から電話が掛かってくるのか…

未だに鳴らない携帯を……

オレはソファに寝転びながらじっと眺めてる……