惇哉マネージャー編 01




楠 惇哉(kusunoki syunnya) : 由貴のマネージャー
柊木 由貴(hiiragi yuki) : 人気急上昇中の女優。






「じゃあ明日の取材の件はこちらの事務所で10時に…はい…宜しく…」

芸能プロダクション 『 大藪エンタープライズ 』 の事務所で
明日のスケジュールの確認を終了して受話器を置く。

「由貴!」
「はい?」

同じ部屋に置かれた応接セットのソファにさっきから大人しく座ってる
女優の 『 柊木由貴 』 に声を掛けるとオレの方を向いて返事をする。

見た目は真面目な大人し目で優等生タイプ…
悪く言えば洒落っ気の無い色気の無い女…なのになかなかどうして…
プロポーションはかなりイケてるし軽く化粧をするだけですれ違う男を
振り返させる事の出来る程の顔…

最初見た時はオレでさえもみとれた程だ。

本人はその事をさほど気にしていないらしく仕事と思わなければ
普段自分に構う事は無いから面白い。

「今日はもう帰れるから…送っていく。」

残ってるスタッフに挨拶をして事務所を後にした。


「はあ〜〜」

オレは部屋に入るなり大きく息をつく。
都心のとある高級マンションの一室が由貴の部屋だ。
母親が全国展開でエステサロンを経営してるからこんな高級な所にも
この若さで住めるってわけだ。

そんな部屋のリビングでスーツのジャケットを 脱いでソファに放り投げる。
ネクタイを緩めて掛けていた眼鏡を外してテーブルの上に置いた。

「仕事の時間終わり!」
「私コーヒー淹れるわね。」
「ああ…」

由貴がそう言ってキッチンに入って行く…
オレはそんな由貴を目で追って緩めたネクタイをソファに投げて由貴の後を追う。

「由貴……」
「ちょっと…」

流しに立つ由貴を後ろから抱きしめた。

「もう…コーヒー淹れられないでしょ!それにこれってセクハラだから!!
マネージャーが担当してる女優に手を出すなんて!」
「手なんて出してないだろ?可愛いもんだろ?抱きしめるだけなんだから…」
「だからそれが手を出すって事じゃな…」

「手…出しても良いんだ?」

耳元でそんな事を囁かれて…身体がビクン!と跳ねた!

「あ…や…」
「由貴……」

彼が私の名前を呼びながら私の耳にフゥ…っと息を掛けるから…

彼の名前は 『 楠惇哉 』 私のマネージャー…
のはずなのに…何でだか仕事が終わるとこうやってセクハラを繰り返される毎日…

そんなにイヤらしい事をされるわけじゃないけど…
抱きしめられて…時々オデコにキスされたり…

彼との出会いは3年前…
大学在学中にスカウトされ卒業と同時にこの世界に入った。

そして私のマネージャーに抜擢されたのが彼…
元々乗る気だった母は彼を見るなり気に入って 『 お任せします! 』
なんて言っちゃって全信頼を彼においてる…
私は何でなんだか納得が行かなかったけどどうやら母は彼の顔が気に入ったらしい…
全く人は顔じゃ無いと思うんだけど…

確かに人目を惹く顔立ちなのは否めない…

母の目に狂いは無くて彼はマネージャーとしては有能だった。
私が動きやすい様にありとあらゆる手を尽くして…気を使ってくれて…
仕事で嫌な思いをした事は1度も無かった…

いつからだろう…彼が私にこんな風に接して来たのは…

確かこの仕事を始めて1年くらい経った頃…
熱があるのに撮影の仕事があって調子が悪かった時…
仕事を何とかこなして寝込んだ私を看病してくれたんだ…

『 由貴の事が1人の女として心配なんだ…… 』

そう言ってずっと朝まで付き添ってくれた…

その時から…彼は…惇哉さんはこんな風に私に接する様になった……
名前で呼ぶ様に言われたのもこの頃で…
それに3年も一緒にいればちょっとは気心が知れるもので…
しかもこんな仕事してれば尚更かもしれない…


「ちょっ…本当に離し…て!!社長に報告するわよ!!」

流石に彼の密着に根を上げてしまっていつもの決め台詞を言う。
だって…背中からぎゅっと抱きしめられて…

男の人にそんな事されたら誰だって……


「そうやっていつも逃げるよな…由貴は!」

惇哉さんが全然気にした様子も無くそんな事を耳元に囁く。

「べ…別に逃げてるわけじゃ…ただ…」
「ただ?」
「こ…困る…」
「困る?」
「どうしていいか…わからないから!」
「どうしていいかなんてわかってるくせに…」
「……どう言う…意味?」
「くすっ……今に気付くよ…」
「?」
「いい加減からかうのやめよ ♪ コーヒー飲もう。」

そう言って惇哉さんが私から離れて棚からコーヒーカップを取り出す…


やっぱりからかってたんだ……からかわれてたんだ……

でも…今に気付くって……

一体何に気付くって言うの?