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「惇哉さん遅いなぁ…」

午前中レンジさんに撮影の応援頼まれて出掛けたままもう9時になろうとしてる…
撮影が長引いてるのかと思って連絡は入れてないけど…大分落ち込んでたみたいだし…

半分は…私のせい…?

だって…私…真面目で融通がきかないから…


「あ!」

ガ チ ャ リ !と玄関の鍵が開く音がした。

「惇哉さん!」
「由貴…」
「遅かったわね…」

待ってられなくて玄関まで出迎えてしまった。

「レンジと飲んでたから…ギャラ無しの代わりに…酒奢らせた。」
「そう…じゃあ夕飯は…」
「ああ…ごめん…いらないや…」
「ううん…じゃあお風呂に入ってもう寝たら?」
「んーーーそうする……」

そんな会話の最中も惇哉さんはトロンとした顔でちょっとヨロメいてる…

「惇哉さん大丈夫?」
「何が?」
「………ううん」

惇哉さんはそのまま浴室に入って行った…



「はあ……」

風呂上がりの惇哉さんが ド サ リ! とソファに座る。

「撮影大変だった?」

私はそんな惇哉さんの髪の毛をいつもの様にドライヤーで乾かしてる。

「別に…いつも通り…」
「そう…」

そんな会話の最中も惇哉さんは目を瞑ったままで今にも眠っちゃいそう…

「はい。乾いたわよ。」
「うん…」
「こんな所で寝ないでね!ちゃんとベッドで寝て!」
「うん…」

そんな返事をしてもなかなか立ち上がらないから惇哉さんの腕を引っ張って
立たせようとしたけどどうしてだか一向に立とうとしない。

「惇哉さん?」

眠ってはいないみたいだけど…

「由貴……」
「なに?」
「座って…」
「………」

今夜は反抗せずに素直に隣に座った。

「違う!」
「え?ちゃんと座ったでしょ?」
「違う!ココ!」
「なっ!!」

惇哉さんが指さしてるのは自分の膝の上。

「い…イヤよ…」
「何で?」
「恥ずかしいから!」

この歳で人の膝の上なんて座れますか!

「あの時は座るのに…」
「え?」
「オレに抱か…イテっ!!」
「何恥ずかしい事言ってるのよ!おバカ!!」

有無も言わさず惇哉さんの頭を バ シ ン ! と叩いた。

「由貴…座って…」
「………」

別に惇哉さんの酔ってトロンとした顔に負けた訳じゃ無くて…
無下にするのも…可哀相かなって…
だから遠慮がちに惇哉さんの膝の上に向かい合って座った。

座った途端惇哉さんの腕が腰に廻されて捕まった。

「………」

惇哉さんが黙って私見上げてる…

「惇哉さん?」

やだ…そんな目で見ないでよ…変に心臓がドキドキするじゃない!

「由貴…」
「な…なに?」
「オレと結婚するの本当は…嫌なの?」
「え?」

「だって…ちゃんと親にも紹介したし…メグの事だってちゃんとしたのに
籍入れるの嫌がってるから…」

「惇哉さん…」

「ねえ…」
「嫌な訳…無いでしょ…ただ…」
「ただ?」
「私…融通がきかないから…」
「ん?」
「自分の中で順番があって…籍はご両親に挨拶をして…式をちゃんと挙げてからがいいな…って…」
「由貴…」
「今時そんなの流行らないけど……」
「由貴…」
「惇哉さんが籍だけでも入れたいって言うのもわかるけど…」

「じゃあお願いしてみれば?」

「え?」

「オレに式挙げるまで待っててって…そしたらオレもわかったって言うかもよ…」
「………」
「フフ…」

何で笑うのよ…何よその期待してる顔は…

「別に嫌ならいいけどね…じゃあ明日出しに行こうか…」
「何だかいい加減…」
「由貴のせいだろ…」
「………」
「入籍の日とかにはこだわらないの?」
「入籍した日が記念日になる。」
「……でもやっぱり…出来れば式を済ませてから出したい……」

由貴がちょっと考えてそう言った…

「……そう…じゃあお願いしてみようか?」
「え?」
「じゃなきゃ明日だけど?」
「……何だか…脅迫っぽい…」
「オレも必死なの…わかってよ…」

「………入籍は……結婚式が終わってからにして…下さい……お願いします…」

由貴が困った顔で…
でもワザと視線を逸らした顔は何とも色っぽい…初めて見る顔か?

「足りないなぁ〜」
「え?……何が?」
「今時言葉だけでなんて甘いよ…由貴 ♪ 」
「……どうすれば?」
「由貴は貴重なものを持ってるじゃん ♪ 」
「 !! 」

そう言って惇哉さんが私の唇に指先でそっと触れた…

「な…なに?」
「由貴からの熱〜いキスならオレも満足 ♪ 式が終わるまで待ってもいい。」
「……本当?」
「多分 ♪ 」
「…………」

期待一杯の惇哉さんの顔が怪しいけど…

「由貴……」

惇哉さんの指先が私の唇を優しく撫でて滑っていく…

ダメ……私…唇…弱いから……


「ちゅっ……」


誘われる様に……自分から惇哉さんに近付いて…そっと触れるだけのキスをした…

「こんなんじゃ…ダメだよ…由貴…もっとオレを納得させるキスじゃなきゃ……」

「………んっ…」

今度は惇哉さんが私に近付いて…下から押し上げる様なキスをする……

「こう言うキスしてよ…由貴……何度も…何度も…オレが満足するまで…」

「………もう……意地…悪……」

「……頑張れ……由貴……」


それからどのくらい2人でキスをしてたんだろう……


「……はぁ…はぁ…」

未だに息継ぎの下手な私は息が上がって…瞳はうるうるで……

「成長しないなぁ…由貴は…くすっ…」

そう言って私の頬を手の平で触れる…
それが暖かくて…優しくて……もう…ズルイ……

「これで……式まで待ってくれるんでしょう…?」
「ああ…待つよ…」
「本当?」

良かった……とりあえずホッと…

「でさ…由貴!」
「え?」
「今度の土曜日式場予約しに行くから。」

「え?」

土曜日って明後日じゃない…

「式挙げたら籍入れてくれるんだろ?ならサッサと式挙げる。」

「はあ?何よ…それ?」
「何が?」

「それじゃ先に籍入れると変わらないじゃない!もっと式は後になるんだと思ってたから…」
「入籍の条件が結婚式なんだから仕方ないだろ。とにかく一番早い日で決める。」
「ええ!?それじゃ今のお願いとかって意味が無かったじゃない!!
あんなことしたって今までとそんなに変わらないし…逆に式が早まったじゃない!」
「そう?」
「惚けないで!!私の事騙したの!!」
「騙してなんか無いじゃん。ちゃんと条件はのんでる。先に式挙げたらって!」
「…………」

確かにそうだけど……どうみても騙された様な気がするんだけど……

「由貴…」

「何よ!!」

「またオレに言わせたいの?いつもの言葉…」

「 !! 」
「それで由貴が納得するなら言ってもいいけど?由貴その言葉苦手なんだろ?」
「…………」

確かに…あの言葉言われると100%言い返せない…けど…
言われなくても言い返して勝てる自信が…

「オレの言ってる事間違ってないよな?由貴…ちゃんと由貴のお願い聞いてると思うけど?」

そう言って下から見上げる様に私を見つめる惇哉さん……

さっきの酔いは何処に行ったのよ……まさかあれも演技?

「由貴?」
「…………」

だから…そんな顔と瞳で見つめないでってば……



結局…

土曜日に惇哉さんと2人式場巡りをする事になった………