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「じゃあ結婚指輪って事なんですけど…一応こちらに何個か選んでみましたけど…」

そう言って布張りのトレーの上に何種類かのペアのリングが乗ってた…

「え?」

由貴がマヌケな顔と声で慎二君を見た。

「何て顔してるんだよ…結婚するなら必要な物だろ?」

「そうだけど…」

惇哉さんがそんな所までちゃんと考えてたのがビックリで…
今まで何も言わないから…私が言い出さなきゃ気にもしないと思ってたから…

「その 「 意外 」 って顔すんな!
言っとくけどな!由貴よりオレの方がこの結婚大事に考えてるんだからな!」

「し…失礼ね!私だって真剣に…」
「そうだよな〜この結婚 「 私も嬉しい 」 って言ってたもんな ♪ 」 
「え?何言ってるの?私そんな事言った覚えないわよ?夢でも見たの?」
「…………」

やっぱり…酔った勢いか…でも…

「これなんか新作のリングですよ。」
「へえ…」
「わあ…素敵…」
「他にも細かい細工の入ってるものとかありますけど…」
「由貴は?」
「これ…いいかも…」

最初に見せてもらった新作と言うのがデザインが気に入ってしまった…

「プラチナと18金で出来てます。嵌めてみます?」
「あ…いいんですか?」
「どうぞ。」
「わあ…」

細かい細工は無いけどプラチナのシルバーの色に細くゴールドで縁取りされてる…
シンプルだけどキラキラ光ってて…綺麗…それに丁度いいリングの細さ…

「気に入った?」
「うん…」
「ひと目で気に入ってもらえるなんて良かった。」
「じゃあこれに決めるか。」
「え?惇哉さんは?」
「オレは由貴が気に入ったのでいい。」
「でも…」
「オレも気に入った!」
「……なら…いいけど……」
「じゃあサイズは柊木さんはそのサイズでいいですよね。惇哉さんは?」
「オレもこの持って来てくれたので大丈夫。」
嵌めたらピッタリだった。
「そうですか?良かった。」
「流石慎二君…サイズまでピッタリ。」
「前撮影で指輪使った事ありませんでしたっけ?」
「何年前の話してるんだよ…しかも由貴の分まで…」
「テレビで拝見してたので…このくらいのサイズかなって…」
「はあ……」

何だか…思わす溜息…そんなんでわかっちゃうものなの?

「あ!惇哉さん!!」
「ん?」

私は惇哉さんの服を引っ張って耳元に口を付ける。

「値段…大丈夫なの?」

コソコソと耳打ちする。

「あのな…由貴はそんな心配する必要無いの。」
「だって…」

『 TAKERU 』 の新作リングなのよ…

「何かご心配事でも?」
「あ…いえ…別に…」
「ちゃんとオレに払える金額だから心配するな。」
「え?ああ…金額のご心配ですか?」
「えっ!?あ…その………もう…」

大きな声で言っちゃうんだから…

「確か婚約指輪も無かったってお話ですし…こんな時ぐらいはおねだりしても
いいんじゃないですか?惇哉さんもそうしたいみたいだし…
それにそんな心配する様な値段ではないですから。」

「……そうですか?」
「はいペアでも片手はいきませんから。」
「え?」

片手って…きっと単位は千円とかじゃ無いわよね…
それにきっと万でも”0”が1桁上かしら……?

「じゃあ内側に日付と2人のイニシャル入れるので1週間ほどお時間下さい。」
「ああ…」
「…………」
「由貴?」

由貴が何でだか放心状態?

「今度またうちの仕事もお願いしますね。」
「事務所OKならいつでも ♪ 」
「はい。」

「そう言えばあの謎のモデルって誰?」

ちょっと前から時々「TAKERU」のポスターに起用される男のモデル2人…
確かプロフィール全て不明なんだよな…ちょっと気になってて…

「え?ふふ…謎だからナイショです。」

「じゃあ今度その2人と仕事したいな。」
「そうですね…1人はノリノリでやってくれると思いますけど…もう1人は気難しいので…」
「へえ…楽しみにしてる。」

「はい。………惇哉さんもお幸せに……」

「ああ…ありがと ♪ 」





「何だか変わった人だったわね…」
「ああ…慎二君?そうだな…年下とは思えないんだよな…
噂じゃ満知子さんみたいに色んな所にコネがあるんだってさ。」
「へえ…」

2人で 「 TAKERU 」 のお店を後にして街の中を歩いてる…

「こんな風に由貴と歩くなんて久しぶりだ。」
「そうね…」

「由貴…」

「ん?」

「1人で待ってるの寂しい?」

「は?」

「オレが仕事行ってる間…」
「なっ…急に何言い出すのよ…別に!寂しいわけ無いでしょ!!子供じゃあるまいし…」
「そう?」
そう言いながら惇哉さんが私の顔を覗き込む。
「そうよ!!しつこいわね!!」

「ホント素直じゃないな…意地っ張り健在だ。」

「え?何の事?」

「別に…いいんだ!オレ由貴の本心知ってるし ♪ 」
「なっ…何よ!私の本心って!!」

「本当はオレの事が好きで好きでたまらなくて…
オレといつも一緒にいたいって思ってくれてるって事!」

「なっ!!誰がそんな事思ってるもんですか!」
「言ってろ言ってろ ♪ 」
「何よ!失礼ね!!」

「由貴…」
「な…なに…」

急に惇哉さんが真面目な顔で私を見つめるから…

「あの指輪…ずっと嵌め続けて…絶対外すなよ。」
「惇哉さん…」
「オレは仕事柄無理だけどさ…でも許す限りオレもいつも嵌めてるから…」
「……うん…」
「約束だぞ…由貴…」
「うん……」


何で惇哉さんがそんな事を言ったのか…

私は何となく理解出来てしまった…

最近…感じてたちょっと変な孤独感を惇哉さんは何でだかわかっててくれてる…

だから2人でなるべく同じ指輪をして…繋がってるって…

思わせてくれてるのよね……私に…


「惇哉さんって変な所で優しいのよね。」
「はあ?オレはいつも優しい!」
「そうかしら?」
「そうです!!じゃあ今夜もそれを証明…」
「もう!!そんな恥ずかしい事言わないで!!折角褒めてあげたのに!」

由貴がオレの口を両手で塞ぎながらそんな事を言う…あれが褒めてたのか?

「あ!惇哉さん…」
「何?」

由貴のオレの口を押さえる手を1ずつ外しながら返事をした。

「指輪…炊事の時は外してもいい?」
「はあ??」

「だって…高いから…痛めない様に…ね?」

「ね?じゃないっ!!高いからとか言うな!ダメったらダメっ!!!一生外すな!!!」

「だって本当に高価なものじゃない…」
「高価とかじゃ無くて2人の大切な物だろ?まったく由貴は!!」
「………ぷっ!!」
「なっ!!何でそこで笑うんだよ!!」
「ううん…別に…」

何でだかこだわってる惇哉さんが可愛いと思ってしまった…

「別にじゃ無い!!由貴!」
「本当に何でもないってば!ほら!お昼食べましょうよじゃないと時間無くなっちゃうわよ。」
「あ!由貴。」
「なに?」
「今日一緒にスタジオに行こう ♪ オレの撮影見てれば良いんだ ♪ 」
「いいわよ…真面目にやってるの知ってるし…」
「いいじゃん ♪ それに今一緒にやってる弟役の遼平って奴と
一緒に食事しようって約束してるし ♪ 」
「私も?」
「そう!あと遼平の彼女と!」
「そんな急に都合つかないんじゃないの?」
「まあその時はその時でオレとデート ♪ 」
「えーーー!?その時はサッサと帰るわよ!!」
「なっ!!由貴!!なんて冷たい!!」



そんな会話を交わしながら…

もう随分と人混みの多くなった歩道を惇哉さんと一緒に…

当たり前の様に手を繋いで歩き出した……