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ここは都心から少し離れたとある撮影所…
今日は今人気歌手グループの1人がレギュラー出演していて話題を呼んでいる
学園ドラマの撮影の真っ最中。
その中で準レギュラーの 「 羽柴 智匱 (hashiba tomoki)」 と言う15歳の少年…
身長は175を少し切る…どちらかと言うと痩せ気味の体格にこげ茶色のショートな髪…
今時のヤンチャな性格とまだあどけなさを残す顔で人気が出て来たばかり…
「オイ!前田!何モタモタしてんだよ!もう帰ってもいいんだろ?」
ちょっと後ろを歩いて来る自分のマネージャーに向かって強気な物言いだ。
前田と言う彼のマネージャーは今年24歳人の良さそうな庶民派タイプ。
自分もまだマネージャーとしての経験が浅いのを自覚してるせいか智匱にも強くは言えない様で…
智匱が2人目の担当だった。
「ちょっ…待ってよ!智匱君!皆に挨拶したの?」
「したした!うるさいな…前田は…」
「ちゃんと挨拶しないと…この世界は挨拶と上下関係うるさいんだから…」
「はいはい…って前田!何チンタラ歩いてんだよ!」
「う…ん…ちょっと…お腹が…」
「はあ?何?腹痛?俺に隠れて何か食ったの?」
「まさ…か…でも…何だか…ちょっと変でさ……」
「オイ…?」
そう言いながらお腹を押さえてその場に蹲ってしまった…
「柊木さん…あ…じゃなくて 「 惇哉君の奥さん! 」」
事務所の廊下を歩いてると後ろから社長に呼び止められた。
「社長!!わざわざそんな呼び方しないで下さい!!普通に楠か何なら柊木でも構いませんけど?」
結婚式から2週間が過ぎた…
披露宴は惇哉さんの今撮ってる連続ドラマの撮影が終わってからという事でまだ大分先の話…
「だってさ…惇哉君に頼まれてるんだよね…柊木さんが早く結婚した実感がわく様にって…
そう呼んでくれって…」
「だからって惇哉さんの言う事真に受けないで下さい!!もう社長は惇哉さんに甘いんだから!」
「僕だって1日も早く君にはいい奥さんになって欲しいと思ってるんだよ。」
「………で?何ですか?」
「ちょっと社長室の方にいいかな?」
「…………」
私はちょっと警戒する…
だって社長が私を社長室に呼ぶ時ってろくな事が無いから…
今まで全部そうだった…でも仕方なくついて行く…
「この子知ってるよね?」
社長のデスクの上に一枚のスナップ写真が置かれる。
「……確か先月ここの事務所に移籍して来た 「 羽柴 智匱 」 君…ですよね?」
何度か見掛けただけだけど…確かそうだと…
「そう元は大手の子役の劇団に所属してたんだけど今回準レギュラーでドラマの仕事をするのを
キッカケにウチで預かる事になったんだけどね…」
「はい…」
「さっき連絡が入ってね…彼のマネージャー…前田君が急に盲腸で入院しちゃって…」
「盲腸?」
「そう盲腸!もう手術は終わって本人は至って元気なんだけど…1週間は出て来れないから…」
「は…あ……」
あ!何だか嫌な予感…
「でね…」
「お断りしますっ!!」
「え?まだ何も言ってないけど?」
「聞かなくてもわかります!!どうせその入院した人の代わりにその子の
マネージャーやれって言うんですよね?」
「あ!凄いな!人の心読めるの?柊木さん…あ…じゃなくて 「 惇哉君の奥さん! 」」
カ チ ン !
「だからその言い方止めてくださいって…」
「他に誰も出来る人がいなくてね…」
「…………」
「うちもそんな大きな事務所じゃないから…皆今の担当で手一杯でね…
惇哉君の奥さんなら惇哉君で経験済み済みだから慣れてるだろ?」
「それは相手が惇哉さんだったからで…他の人では無理だと思います…」
「ほお…」
「な…何ですか?」
社長がニンマリと笑う。
「何だ…君も何だかんだ言いながら惇哉君一筋って事なんだね…うんうん!」
「ち…違います!そう言う意味じゃなくて…」
「1週間…いや10日間だけだから…頼むよ惇哉君の奥さん!」
「ですから…その呼び方は!」
「確か僕は君達の仲人だったよね?」
「 !! 」
あ!…そっちに話を持って行ったわね…
「仲人を邪険にするの…しかも君の旦那さんの事務所の社長だよ?
それに君の勤めてる事務所の社長だよ?」
「何でいきなりそんなに強気になるんですか?」
「頼むよ…由貴君!」
あ…由貴君になった。
「…………」
「智匱君きっと由貴君に面倒見てもらったらもう少し仕事にも積極的になると思うんだよね。」
「は?どう言う意味ですか?」
「まあ…彼ちょっと問題アリの子でね…由貴君みたいな人と一緒にいた方が勉強になると思うんだ…
それに君の旦那さんは惇哉君だし…2人で彼にこの仕事の事教えて欲しいんだ。」
「問題って?」
「会えばわかると思うけど…若い子だからなかなか人付き合いも問題ありでね…」
「惇哉さんに何て言うんですか?きっと反対しますよ。」
「そこは由貴君がカカア天下でガツンと一言…」
「えーどうして私がカカア天下なんですか!」
失礼しちゃう!!
「え?違うの?」
「違いますっ!!」
「そうかな?まあそれは良いんだけど…」
良くないわよ!
「とにかくこれは社長命令だから!惇哉君にもそう言えば大丈夫だから。」
「…………」
「本当なんでしょうね…社長命令って言えば惇哉さんが納得するって…」
私は廊下を歩きながらぶつぶつ文句の言いっ放し…
なんで私がまたマネージャーなんてやらなきゃいけないのよ…
そりゃ確かに雇われの身で…社長には仲人お願いしてるけど…
って…ああそうだ…今回はマネージャーって事じゃなくて良いって言われたんだ…
私が散々ごねたから…
だから今回はお世話役って事で10日間彼の面倒を見ればいいのね…
「はあ〜〜〜でも…これからの事が思いやられるわ…」
惇哉さんの行動と態度が手に取る様にわかるから…
「由貴っっ!!」
「!!」
惇哉さんが帰って来るなり大きな声で私を呼ぶ。
玄関に向かう途中で惇哉さんと鉢合わせした。
「お…お帰りなさい…」
「どう言う事?」
「え?あ…」
が し っ!と両手で肩を掴まれた。
「な…何?どうかした?」
「どうかしたじゃない!またマネージャーやるんだって!」
「え?なんで知ってるの?」
「寺本さんが教えてくれた!」
「え?」
何で寺本さんが?内緒にしてたのに……もう…何でも耳に入っちゃうんだから…
「別にマネージャーってワケじゃ無いの。期限付きの…しかも10日間だし…」
「でも相手男だろ?あの先月事務所に入って来た。」
「惇哉さん会った事あるの?」
「ああ…当たり前だろ!オレ先輩だし。」
「そう…で?どんな子なの?私ちょっと見掛けただけだから…」
「生意気なガキ!それだけ。」
「生意気?」
「一応挨拶はしたけどホント上辺だけ。まあ人気出てきた所だから浮かれるのはわかるけど
調子に乗ってるとしか言いようが無い。」
「そんなに?」
「ああ言うのは一度もまれて痛い目見ないとわからない。
自分で理解しないとどうしようもないからな。」
「そう…」
それで社長あんな風に言ってたの…
「何で断らなかったんだよっ!!」
スゴイ怒ってる?
「だって…社長命令だったんですもんっ!!断れないでしょ!困ってるって言うし…
社長仲人だし……私事務所で働いてる身だし…それに1度惇哉さんでやってるからって……」
「…………」
「惇哉さん?」
「……社長……命令?」
「そう……」
え?何?惇哉さんが……黙った?
「う〜〜〜〜〜はぁ………くそっ…」
「?」
「絶対10日間でキッパリお終いだからなっ!それに十分気をつけろよっ!!
いくらガキだって…自分の事務所に所属してるって言っても男なんだからな!!」
「う…ん…移動には事務所の車で…運転してくれる人もいるから…
そうそう2人きりにはならないと思うし……」
って…仕事絡みなんだからそんな心配する事無いと思うんだけど…
女のマネージャーが男の人を担当するとかってあるでしょ…
「あっ!」
バ ン っ !!
っと壁に追い詰められて惇哉さんが両手を壁に付いて私を捕まえる…
久しぶりにこんな事された……
「……惇哉…さん?」
「本当に……気をつけろよ…」
「……うん…」
「由貴……」
「はい……」
「……由貴……」
「……は…い……」
「はぁーーーーまったく…」
「ごめんなさい…でも…本当に断ったのよ!」
「わかってる…」
「うそ…怒ってるくせに…」
「怒ってない!!」
「ウソっ!!!」
「本当…怒ってない… 「 社長命令 」 はあの事務所では絶対なんだよ… 」
「え?」
「社長普段あんな惚けた顔してるけど…あの社長が 「 社長命令 」 って言う時は
何か考えがある時なんだ…」
「え?そうなの?初めて聞いた…」
「まあ由貴は事務だしな……所属してる連中は皆知ってる…」
「その命令聞かない時は?」
「クビ!」
「え?」
「まあそれは最悪の場合だけどさ…だからよっぽどなんだろうけど…何で由貴なんだ?」
「私と一緒の方が彼の為になるみたいな感じで言ってたわ…それに惇哉さんもいるからって…」
「……そう……」
「惇哉さん……」
私はさっきから俯き加減の惇哉さんの顔を両手で優しく持ち上げた…
「そんな顔しないで…私は大丈夫だから…それにマネージャーでもないし
世話役って言っても付き添ってるだけだから…」
「……しばらく別々だ…」
「ごめんなさい……」
「由貴……ちゅっ……」
「……ぁ……ン……」
惇哉さんが深い深いキスをする……
私は今は拒むことはしないで惇哉さんを受け入れる……
明日から…ちょっと問題ありの 「 羽柴 智匱 」 と言う子と一緒に仕事をする事になった…
一体…どんな子なんだろう?