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「えー智クン惇哉さんの家に行ったのぉ〜〜〜いいなぁ!!」

「お誘い受けただけだよ…」

ここは羽柴家のリビング。
智匱が惇哉の家で夕飯をご馳走になった次の日の夜のお話…

智匱は飲み物を飲みながら…杏華は智匱と一緒に座ってるソファのクッションを抱きしめながら
たった今聞かされた…自分にとっては夢の様な話を興奮しまくって聞いている最中だ。

「で?惇哉さんは?惇哉さんもいた?」
「後から帰って来た…」
「えーーーいいな!いいなぁ!!」
「全然良くねぇよ…煩いし独占欲超強いんだぜ。
あんなテレビで見てる様な男じゃ無いからな!杏華!」
「独占欲強いなんていいじゃん ♪ 由貴さん愛されてるって事でしょ?で?」
「で…って?」
「何にも無しに帰って来たの?」
「夕飯ご馳走になった。」
「え?由貴さんの手料理?」
「ああ…多分。」

「 楠 惇哉 」 と2人っきりになるなんて嫌だったから何となく
キッチンに逃げ込んであの女が料理作る所を見てた…

目の前で作ってたからレトルトじゃ無い事は確かだ…

「で?味は?美味しかった?ううん!!美味しかったよね?」
「まあ…不味くは無かった。」

って結構美味かったりもしたんだよな…
でも杏華にそんなこと言うとまたウルサイから話半分にしとく。

「へえ…いいなぁ…」

そう言うと杏華はもっとクッションを抱きしめてウットリとしてる…
どんな想像してんだか…


でも…俺なんであんな簡単にあの女の誘いについて行ったんだろう…
別に夕飯なんて買って帰れば良かったんだ…

だけど……

『1人で食べるなら一緒に食べましょうよ。食べ盛りなんだし…惇哉さんも今日は早く帰って来るし…』

そんな普通の言い方だったんだよな…断ろうと思えば断れたのに……

何でだか…断れなかったんだよな……



「おばさん今日は夜勤ですか?」
「え?ああ…」

ダイニングテーブルで酒を飲んでる親父に杏華が声を掛ける。

会社員の親父に看護師のお袋…
夜遊びをしない親父は結構家にいる時が多い。

まあ反対に不規則なお袋の代わりに親父が家に居てくれてるって事なんだろう…

子供の頃からそうだった…
食事の支度も…家事や俺の世話も…親父との思い出の方が多い…

中学の後半からはあんまり俺に干渉しなくなったけど…
何気に家にはいるよな…

中学の頃はそんな親父が頼りなく思えた時もあったけど…
お袋とそんな約束をしてたんだよな…俺の面倒はちゃんと自分が見るって…


「あれ?智クン指…どうしたの?」

「え?ああ…今日撮影中にちょっと挟んじゃって…」

杏華があざとく俺の指の包帯を見付ける。
ちぇ…隠してたのに…何で見付けんだよ…

「え?大丈夫?お医者さんに見せた?」
「大袈裟だな!大丈夫だって骨も何とも無いし切れてるわけでもないし…アザになっただけだよ…」
「でも指って神経が集中しててすっごく痛いんだよ!!」
「大丈夫だって!ガキじゃあるまいし…ったくあの女と同じ事言うなよ!」
「あの女って…由貴さん?」
「他に誰がいるんだよ?」
「もう!智クン由貴さんの事 「 あの女 」 なんて呼んでんの?」
「だって仕方ないだろ?マネージャーって呼ばせないし…」
「じゃあ 「 楠さん 」 とか 「 由貴さん 」 って呼べば良いじゃない!」
「 「 楠 」 はアイツがいるだろ?それになんで俺が女の名前をさん付けで呼ばなきゃいけないんだよ!」
「…………」
「なんだよ?」

杏華が何とも言えない顔して俺を見る…

「え?何…智クン…まさか由貴さんの事…意識しちゃってるの?」
「はあ?」

何言い出すんだ??コイツは??

「だって…そんなに照れるなんておかしいじゃん!」
「別に照れてるわけじゃ無いって!」
「ダメだよ!智クン!由貴さん人妻なんだからね!!それも新婚さんで新妻なんだよ!!」

杏華がとんでもなく真面目な顔でそんなふざけた事を言う。

「年上の女を 「 さん 」 付けでも呼びたくねぇんだよ。」
「何でよ?別にどって事無いでしょ?」
「そりゃお前は女同士だからだろ?俺は嫌なんだよ!」
「えーー?変なのぉ…」
「…………」

まさか照れて恥ずかしいからだなんて言える訳ねえだろう!!


「…………」

そんな俺と杏華の他愛も無いやり取りを親父はじっと見てた…



同じ日の…こちらはもうちょっと夜の遅い時間の 『 楠 家 寝室 』



「え?」

由貴が布団に潜りながら顔だけオレに向けて不思議顔。

「だから明日由貴は仕事休んでいいって ♪ 」
「何で?」
「社長命令 ♪ 」
「えっ!?社…社長命令って……」
「明日オレ急に休みになったんだ ♪ 」
「え?だって忙しいんじゃ……」

「だからオレが由貴の代わりにアイツのマネージャーやってやるから ♪ 」

「 ……………………え?」

私の…聞き間違い?
考え込んでた私の気持ちを察したのか惇哉さんが私の気持ちを言い当てた。

「聞き間違いじゃないからな。オレが明日由貴の代わりにアイツの…」
「え?なんで??どうして惇哉さんが??」
「由貴は明日とーーっても疲れてて起きれないから ♪ 」
「そんな疲れてないわよ…そりゃ内勤の時よりは大変だけど…そんな仕事休むほど…」

「社長命令だって言っただろ?由貴…」

「……惇哉…さん?」

惇哉さんがゆっくりと私に覆い被さって来る…
ぎゅっと繋がれた両手は私の頭の上の枕に押し付けられてゆっくりと沈む…

「社長とちゃんと話したから大丈夫…由貴…」
「話し…たって…何を?」

私の心臓はドキドキ…
だって…惇哉さんの瞳が…何だか怪しいんだもの……

「え?明日由貴に休みを下さいって ♪ 」
「なんでそんな勝手な事…」
「だから…由貴は疲れて動けないから ♪ 」
「惇哉さん?」
「由貴…… ちゅっ ♪ 」

私の名前を耳元に囁きながら惇哉さんが耳にキスをした。

「 ひゃっ!! 」

身体がビクンと跳ねたけど惇哉さんに押さえつけられた!

「 愛してる… 」

「え!?………あっ…ちょっと……」



その後… 「 由貴は疲れて動けないから  」 って言う惇哉さんが言った言葉の意味を…

イヤって言うほど思い知らされた!!!


もうーーーー!!惇哉さんのバカァ!!!!





「……ん?」

次の日の朝…目覚ましの音も気付かないほど私はグッスリ眠ってたらしい…

目が覚めて時計を見ると時間はもうお昼近い……

本当に…起きれない程に…惇哉さんってば…

帰って来てたらコッテリとお説教なんだから!!


でも…大丈夫なのかしら…あの2人で…

って言うより惇哉さん…マネージャーなんて出来るの?

「はあ……」

ゆっくりとベッドから下りて浴室に向かう…

もう身体中スゴイ事になってる……この事もお説教追加ね……

こんな所にもまたキスマーク付けられちゃった……


頭からシャワーを浴びながら考える…

もしかして惇哉さん……気付いてるのかしら……


別に…智匱君の事が気になるワケじゃ無い……でも…

何だろう…自分でも良く分からないけど…
最近智匱君を見てるとおかしな感覚に襲われる…

何処かで会った事…あるのかしら……そんな感じ…?

でも昨日聞いたら会った事は無いって言われた……

そんな微妙な気持ちを惇哉さんは感じ取ってるのか…
でもそしたら惇哉さんが黙ってるはず無いものね……

「ふう…」

あんまり考えても仕方ないから……考えるのよそう……

「確か今日はそんなに遅い時間まで撮影入ってなかったから…帰って来るの早いわよね…」

この前デート潰しちゃったから…今日は惇哉さんが帰って来たら出掛けようかな…


なんて思って…何を着て何処に行こうかなんて考えてる自分がいた…




由貴が起きるちょっと前…

なんとオレ直々の運転でアイツを学校の前まで迎えに来てやった。


「今日1日…オレがお前のマネージャーになってやる。感謝しろよ ♪ 」


目の前に現れたオレを見てアイツの驚いた顔って言ったら…見物だった。