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「え?何?ドッキリ?」
アイツがキョロキョロと辺りを見回す。
「アホか!!お前みたいな奴にドッキリなんて来るわけ無いだろ!」
「じゃあ何だよ!アイツは?」
「今日は休みだ。だからオレが由貴の代わりに来てやったんだろ?ほらいいから乗れ!」
「何?後輩イジメ?新人潰し?」
「オレにとって今のお前なんか何の脅威にもならないっての!いいから早く乗れ!遅刻すんだろう!」
「アンタも遅刻遅刻って…どうせ定刻に行ったって他の奴等も遅れて来るんだよ。」
「だからなんだ?」
「え?」
「他の奴等が遅れて来るからってお前が遅れていい理由にはならないんだよ。」
「…………」
「お前この仕事ナメてんの?真剣に取り組めないんだったらさっさと辞めろ。」
「…………」
何だよ…こいつ…あの時と随分態度違うじゃん……だって瞳がマジだ…
「行くんだろ?」
「ああ…行くに決まってんだろ!」
「じゃあ早く乗れよ。」
何だか…いつもと違う緊張が走る…
ピリピリピリピリ……でも押し潰される様な緊張じゃなくて…刺激されてる緊張感?
「おはようございま〜す ♪ 」
スタジオに入るなりアイツが大きな声で挨拶をする。
その場にいたスタッフも…俳優も…一斉に奴を見る。
「え?な…ウソ!? 「 楠 惇哉 」?」
「オイ!なんで??」
ザワザワザワザワ…スタジオ中がざわめく…
「え?楠さん?ええ?何??」
奥からスタッフの1人がアイツに近付いてくる。
「あ!近藤さんお久しぶり ♪ 」
ニッコリと笑って手を振る。
「何で楠さんが此処に?これに出番無いでしょ?」
「今日はオレはマネージャー ♪ 」
「マネージャー?」
「そ!同じ事務所の後輩でコイツのね ♪ 」
「え?…ああ…羽柴君…そっか…同じ事務所なんだ…」
「オレの事は気にしなくて良いから〜で?監督は?」
「あ…ああ…あそこ…」
遙か向こうで他のスタッフと話してる男を指さす。
「誰?」
「…知ってる?大澄さんって監督…」
「ああ…何度か一緒に仕事したことある…」
現場に緊張感無い監督なんだよな…だからか…こいつ等のこの雰囲気…
「智匱!」
「え?」
初めて名前で呼ばれた…
「オレ監督に挨拶してくるから…」
「ああ…」
「セリフ…ちゃんと頭に入ってるか?」
「何とか…」
「ああ?何とかって何だ?完璧入れとけ!新人のお前がNGなんて10年早いからな!」
そう言い捨ててサッサと監督の方に歩いて行く…
歩きながら傍にいるスタッフ1人1人に挨拶していく…笑顔付で……
何なんだろう…アイツがスタジオの中を動き回るだけで空気が変わってる気がする…
まさか…な…
「大澄監督!」
「ん?」
「お久しぶりです。楠です。」
「え?ああ!ホント久しぶりじゃない?何?今日はどうしたの?」
「後輩の付き添いで ♪ 」
「後輩?へえ…」
「今日だけですので気になさらずに。もしオレで手伝える事あったらなんなりと ♪ 」
「え?ああ…わかった。その時は頼むよ…」
「じゃあオレアッチの隅に立ってますから。何かあったら声掛けて下さい。」
「そんな隅っこなんて言わないでさ。俺の後ろで見てれば良いじゃないか?」
「オレ今日はマネージャーなんで ♪ ひっそりと見てます。じゃあ!」
撮影の始まるスタジオの中をグルッと見回す…
学園もののせいか10代〜20代前半の俳優が目立つ…
最近オレはそんな仕事はしてないから何だか新鮮に写る…いいなぁ〜若いって。
ってオレもまだ生徒役できっかな?
なんて自分の身体を上から下まで眺めてしまった…まあ…何とか行けそう…か?
ああ…でも…
何処に行っても…この空間……落ち着くな〜〜〜 ♪
「なに?なんかあった?今日?」
主役の本郷と言うアイドルがスタジオに入るなりそう言った…
そうなんだよ…何でだか今日のここの雰囲気はいつもと違う…緊張が漂ってる…
でも圧迫感のある緊張じゃない…程よい緊張感で皆がキビキビ動いてる様な…
「え?」
マネージャーがコソッと耳打ちをした。
そして視線はアイツに… 「 楠 惇哉 」 に行く…
アイツはそんな視線に気づいてニッコリと笑う。
「え?オレに?」
何かあったらなんて言っておいたら本当にお声が掛かった。
「リハとカメラテストなんですけど…いいですか?本人他の仕事で地方行ってて
あと1時間くらい遅れるって連絡あって…いつもは俺達でやってるんですけど…
今日は楠さんいるからって監督が…」
「え?ホント?何高校生役?」
「はい。主役と対立するグループのリーダーです。」
「え?じゃあ悪どい奴?」
「まあ…そうですね…主役の事が気に入らない役ですから。」
「いいよ ♪ オレでいいなら ♪ 」
さっそく台本をもらってセリフを頭に叩き込む。
「大丈夫なのか?いきなりで?」
「オレを誰だと思ってんの? 「 楠 惇哉 」 だよ ♪ 」
「顔…ニヤケてんぞ…」
「高校生役なんて久しぶりだし〜ワクワクする ♪ 」
「…………」
こいつの演技はテレビでしか見たことが無い…生でなんて初めてだ…
まあ今までのキャリアだってあるし現役で役者やってるんだし…
そうそう緊張なんてするはず無いだろうし…
「はーい!テスト行きまーす。」
学校の廊下での設定で…アイツが俺達の行く前に立つ…
「 永井……話があんだよ…ツラ貸せ… 」