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智匱の知り合いの女の子が智匱と言い合って撮影所の廊下を走って行った…

オレは智匱にスタジオに戻る様に言って女の子の後を追い駆けた…

名前は…




「杏華ちゃん見〜つけた ♪ 」

撮影所の裏口から出てちょっと歩いた所の大きな木の下で
無造作に置いてあるブロックに膝を抱えて座ってた…

「………」

ゆっくりとオレを見上げる…涙で潤んだ瞳で…

「智匱じゃなくてゴメンネ。」

そう言ってオレも隣に置かれたブロックに座る。

「……えっ!?く……楠さん!!!あっ!!やだ……」

慌ててセーラー服の袖で顔をゴシゴシ拭いてる。

「智匱も本番始まっちゃってさ…来ようとしたのを止めて戻らせた。」
「……いいんです…それで…私智クンの邪魔はしたく無いから…」
「智匱とは幼馴染みなの?」
「はい…お向かいさんです。中学まで同じで高校は別々で…」
「そう…」

「………そんなに…恥ずかしい仕事だったですか…」

「え?」
「………押し倒されちゃうシーン…」
「ああ…さっきの?」
「はい……」
「アレだけ見ちゃうとね…でも恥ずかしくはないんじゃない?話ではちゃんと続いてるんだし…」

「……智クン…呆れてた…」

「あれは呆れてたんじゃなくてショック受けてたんだよ。」

「ショック?」
「幼馴染みの女の子が男3人に襲われる所なんてさ…いきなりだったろ?」

「そうですけど…撮影ですよ?周りにスタッフの人もいるし…
ただ押し倒されてちょっと上に乗られただけだし…
あんなの子供の頃喧嘩した時自分だってやったのに!」

「自分は良いんだよ。」

「は?」

「自分が杏華ちゃんに触れるのは良いの ♪ 」

「え??」

本当にわからない素振りで…何だかちょっとだけ智匱に同情した。

「でも…ちょっとだけ…怖かったのは本当です…」
「………」
「知ってる人誰もいなくて…頭ではわかってても身体は震えちゃうし…」
「そっか…」
「でも…こう言う仕事もやって行かないと…ただでさえそんなに仕事がある訳じゃ無いし…
だから直前で智クンと楠さんに会えて本当に勇気貰えました ♪ 」

「そっか!頑張ったんだ ♪ 杏華ちゃん!」

楠さんがそう言ってくれて…私の頭をポンポン!ってして…よしよし…って撫でてくれた…

だから…

「ふえっ……」

別に泣こうなんて思ってなかったのに…ポロポロと…涙が次から次へと溢れて来て……

止まらなくて…


「今日の事だけじゃ無いんだろ?今まで沢山大変で辛い事一杯あったんだ…
でも智匱自分の事しか見えてないし…智匱には言えないし……
ずっと1人で頑張って来たんだよな…杏華ちゃんは…」

「うえっ……ひっく…」

「エライよ…」


そんな優しい楠さんの言葉で余計涙が溢れて……

どのくらい泣いてたんだろう…
いつの間にか手には楠さんが貸してくれたハンカチを握り締めてて…

「え?」

左肩に楠さんの手があって…抱き寄せられてて…
しかもちゃっかりと楠さんの肩に凭れ掛かってる自分がいて……って…

「 !!! 」

無意識に見上げたら……

「落ち着いた?」

そう言って…ニッコリ微笑む楠さんの顔が…顔が……顔がぁぁぁ!!目の前に!!

「 ひゃあああああ!!!!ごっ…ごめんなさい!!! 」

慌てて後に飛びのいた!!

「あああ…わ…わた…私…ごめんなさ……そんな…そんなつもり…」

「くすっ…そんなに慌てなくても…」

そんな笑ってる楠さんだけど…私の顔が当たってた辺りは水に濡れた様な痕が…
ってそれって私の涙の痕???

「きゃあ〜〜〜!!ごっごめんなさい!!すみません!!洋服…汚しちゃいました!」

慌てて楠さんに飛びついて持ってたハンカチでゴシゴシ擦った。

「大丈夫だから…すぐ乾く。」
「でも…」
「ホント大丈夫!」

またニッコリ笑われて…顔が爆発!!

「…………」
「はは ♪ 杏華ちゃん顔真っ赤 ♪」
「…………」
「いつから2人で劇団に入ったの?」
「……え?…あ…小学校の1年生の時です…私から智クン誘って…」
「へー…何で?何か理由あったの?」

「……その頃…人気のある女優さんが色々ドラマに出てて…色んな役やってて…
だから…女優さんになれば色んな人になれるんだなぁ…って…
花嫁さんにだってなれて……そしたら…」

「そしたら?」

「…………えっと…」

どうしよう……言わなきゃ…ダメ…かな…

「そしたらドラマで智匱のお嫁さんになれるかもしれない…から?」

「えっ!!??」

「可愛いね〜杏華ちゃんは ♪ 」

「あ…」

またさっきより更に真っ赤になった。


「………最初は2人でその他大勢の子供とか…出れたんですけど…でも…
中学に入った頃から智クンの方が色々仕事が入る様になって…
確かに智クン段々カッコ良くなって来たと思ってたし…私は…普通も普通で…
綺麗でも無いし…可愛いでもなくて…インパクト無いんですよね…
だから仕事もちょこっとだし…誰の目にも留まらないから……」

「…………」

「最近は…このまま続けてても…私の夢は叶わないのかな……って…
智クンは最初そんな乗り気じゃ無くて…私に付き合ってくれただけなのにな…
なのに人気が出ちゃって……私の手の届かない人になっちゃった…」

「オレから言わせればまだまだだけどねー根性は杏華ちゃんの方があると思うけど…
それにこの仕事に真剣に取り組んでるのも杏華ちゃんの方だとオレは思うけどな…」

「…根性…ですか?」

「そう!自分の夢の為ならどんな仕事でもするってさ。オレもそう思ってるから…」
「楠さんもですか?」

「オレはこの役者の仕事好きだから…それが続けられるならどんな事でもする…
まあ納得いかない時はとことん話し合うけどね…」

「………」

楠さんも…そんな風に思って仕事してるんだ……

「あれ?意外とか思ってる?」
「え?あ…いえ…そんな事…同じ志で…嬉しいです。」
「くすっ…いえいえこちらこそ。」

2人で笑い合ってる…楠さんと…2人で…

ウソみたい……夢?夢じゃないよね??

「そうだ…杏華ちゃんってオーディションって受けた事ある?」
「はい…何度か…でもなかなか受からなくて…」
「北館監督って知ってる?」
「北館…監督です…か?はい…この前の楠さんの映画の監督さんですよね?」
「そう。その監督が次の映画で主人公の妹役探してるんだよね。」
「え…映画ですが?」

「まあ候補が何人かいるけど…杏華ちゃん挑戦してみる?」

「………え?」

楠さん…今…なんて??

「あの人新人使うの好きでさ…自分の作品で必ず1人は新人使うんだよね。」

そう言えばこの前の楠さんの相手役もそうだったかも…

「でも…」
「ただオレの紹介だからって優遇されるなんて思わないでね ♪ 」
「はい?」
「北館監督そう言うの嫌いだから…」
「………」
「だからオーディションに受かるには杏華ちゃんの実力で勝負するしかない!」
「…実力で?」
「そう…逆にオレからの紹介なのにこんなもんなのか!なんて言われるかもしれない。」
「…………」

「どうする?決めるのは杏華ちゃんだよ…」

「…………」





「杏華!」


ドラマの撮影が一段落して休憩に入ると杏華がアイツと一緒にスタジオの後で立ってた。

「………もう…大丈夫なのか?」
「大丈夫って?……最初から大丈夫だよ…私は…」
「そっか…ならいいけど…」
「…………」
「ケガとか…してないのか?」
「うん……」
「ホントか?お前運動神経ニブイんだから…後で家に帰ったら俺がちゃんと見てやるから…」
「もう!大丈夫だから!ニブクなんて無いから!!」
「文句言うな!……って何ニヤニヤしてんだよっ!!」

視線を感じたと思ったらアイツがニヤニヤ笑いながら俺達を見てた!

「いやー杏華ちゃんには優しいんだな〜ってさ ♪ 」

「うるせぇ!幼馴染みなんだから当たり前だろ!」
「えーー?幼馴染みだと当たり前なのか?ふ〜〜〜ん……」
「なっ…何だよ!何が言いたいんだよ!!」
「別にぃ〜〜 ♪ 」

「智クン!あのね…」
「ん?」

「私…北館監督の映画のオーディション受けてみる事にしたの!」

「映画?」
「うん。まだ決まってない役があって誰か探してるんだって…
映画のオーディションなんて初めてだけど…
楠さんが監督に話してみてくれるって言うから…」
「はあ?アンタが?」
「そうオレが!智匱と違って杏華ちゃんは根性があるから!仕事にも真面目に打ち込んでるし。」
「俺が言った時はキッパリと断ったくせに…」
「だって智クンとの共演が目標なのに本人の紹介じゃ意味が無いなじゃない!」
「これも1つのキッカケだ。」
「…………」
「智クン?」

「無理…してないのか?」

「うん!してないよ。逆にやる気が一杯!」

「ふーん…」
「あ!何よ!そのバカにしたふーんは!」
「バカになんかしてないって…まあ頑張れば…」
「うん!頑張る!!」


晴れ晴れとした顔に笑顔で…そんなに嬉しいのか…

杏華がそうしたいなら俺は何も言わないけど…さ…

でも…この何とも言えない複雑な気持ちは…一体何なんだ…?


それからしばらくして…今日のドラマの撮影が終わった。