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「あのね…惇哉さん……私の……父です。」


突然由貴の父親を紹介された。

まだ由貴が小さかった頃離婚してそれから会ってなかったはずの父親がいきなり現れた…

しかもその父親が再婚した相手がなんと智匱の母親で由貴と智匱が異母姉弟だと知らされた。

智匱はちゃっかり由貴の事を 「 由貴姉 」 なんて呼ぶし…もうオレの頭の中はパニック状態。

父親の事や智匱との事もあったけどオレはまた要らぬ誤解と心配をしてたらしい…

しかもその事が由貴に何となくバレてると言うのが何とも情けない…


だけどそんな事…微塵も感じさせない様にオレは皆の前でにこやかに笑って見せた…




「何なんだよ…この展開…」

「ごめんなさい…惇哉さんには早く話さなきゃって思ってたけど…でもずっと仕事忙しかったから…」
「だからオレに終わる時間聞いてたの?」
「そう…だから今日いきなり早く帰れるなんて言うから…でも今日逃したらもう当分無理だと思って…
一緒にいた智匱君にどうしようって相談して…で…お父さんに連絡して来てもらって…」

急いで智匱が駅に迎えに行ったのか………はあ…

「………お父さんの事…早く言ってくれれば良かったのに…」

じゃなきゃこんな醜態晒さなくて済んだのに……

「だって…やっぱり直接父に会ってもらって話聞いてもらいたいじゃない…」

「やっぱり智匱の態度は誤解を招いてたんだよ…だから由貴のお父さんも焦って話したんだろ…」
「そう?別に普通だったけど…本人だってあんなに否定してたし…」

それは由貴が気にしなさすぎだからだよ…

「それに智匱君好きな子いるじゃない…」
「好きって言う感情と憧れって言う感情はちょっと違うだろ?」
「私に…憧れてたって…言うの?」
「多分…だからオレまで誤解する……」

「…………」

「何で黙るの?」

「それって…ヤキモチって事?」

「………ハッキリ言うな……」


オレは今どんな状態かと言うと…
ソファでオレの方を向いて座る由貴の膝の上にうつ伏せで臥せってる…

もちろんオレの両腕は由貴の腰を抱きしめてる…

オレの 「 無言のごめんなさいポーズ 」 だ…これで2度目…

そんなオレの頭を由貴の手の平が優しく撫でる……


「何でヤキモチなんて…そんなの意味の無い事なのに…」

「由貴の事が好きだからだろ……鈍感なんだから…由貴は…オレの気持ち全然わかってない…」

「失礼ね!」
「じゃあわかってる?」
「……わかってるわよ…」
「ホントかな……」

「だって私…惇哉さんの奥さんなのよ……わかるわよ…」

「………」

由貴がそっと両手でオレの頬を挟んで持ち上げる…これって…

「さっきの…続き……」

「由貴……」

オレはちょっと身体を起こして由貴に近付く…

「お帰りなさい……ちゅっ ♪ 」

「……ん…」

由貴にしては珍しく…触れるだけじゃない…
オレの唇をちょっと押し上げるくらいの強さのキスをしてくれた……

オレから離れた由貴は少し照れた様な顔でニッコリと笑う……

ああ…もう…ダメだ……クラクラする…


オレはまたもや由貴に……撃沈させられた…!!





「はははは!!ホントバカだなお前って!!」

次の日の撮影で当然の様に昨日の事を聞いて来たレンジに
仕方なく一部始終を話すとそんな暴言を吐かれバシン!と背中を叩かれた。

「痛いって!バカって言うなっ!オレだって昨日はマジで心配だったんだよ!」

「そう言うのを 「 骨折り損の草臥れ儲け 」 って言うんだよ。
ホントちょっとは様子を見れば良いものを…」

「だから彼女のいない独身男にはオレの心配はわからないんだよ!!」

「そう言う問題じゃ無いだろ?可哀想に…メガネちゃん疑われてたって事だろ?
ああ…確か前もそんな事あったよな?んで結局母親の恋人の息子だったんだっけか?」

「……ぐっ!!」

余計な事憶えてやがって…サッサと忘れろっての!

「まあ可愛い弟も出来て良かったじゃねーか!」
「良くないっての!「 由貴姉 」 なんて馴れ馴れしく呼ぶわ何気に由貴と仲が良いわ…
それに堂々と由貴に近づける口実が出来たって事だろ?」
「どんな妄想展開してんだ!この変態野郎!弟だろ?」
「15年間全く知らなかった 「 男 」 だろ!!レンジは由貴の鈍感さを知らないんだよ…
気付いた時には押し倒されてる…」
「アホか……」
「それにさぁ……」
「ん?」
「アイツ…別れ際にさ……」
「?」

「 「じゃあなお兄様 ♪ 」 なんて言ったんだぞ!!そうなんだよ!
由貴の弟って事はオレにとっても義理の弟なんだよな!何だか納得出来ない!!」

そう…当たり前の事なんだが……何だか…

「まあ俺としてはまた楽しみが増えたけどな〜
じっくりとお前のバカさ加減を観察させてもらう ♪ 」

「いつかシメてやる!レンジ!」
「いつでも相手になるぞ…惇 ♪ 」

そんな事を言いながらレンジは昔からの笑顔でオレに笑いかける…

まあ…そんな事を言ってるオレだけど…智匱も杏華ちゃんって言う子もいるから…
早々心配は無いんだけどさ……

早いトコあの2人にもくっ付いてもらうしかないか……



まったく…結局散々な目に遭ったのはオレだけか…

「あ!遼平!」

スタジオの入り口から入って来る遼平を見付けた ♪

「惇哉さんおはようございます。」
「遼平〜聞いてくれよーー」
「えっ!?」

オレが遼平目掛けて走り出したから遼平がちょっとびっくりしてる。

「どう思う遼平!」
「は?え?」
「このバカ!主語すっ飛ばして聞かれたってわかるか!なぁ遼平。」
「いや遼平ならオレの気持ち分かってくれる!だよな?遼平!!」
「あ…あの…一体…?」

訳がかわらないと言った顔の遼平にオレは昨日からの散々な出来事を
強制的に聞いてもらってちょっとスッキリ ♪

遼平には災難だったかもしれないがまあ…勘弁してもらって…


後もう少しで撮影も終わる…そしたら待ちに待った披露宴だ ♪