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「タバコ吸ってくる…」

そう言って惇哉さんがスタジオから出て行った…

「惇哉さん…」



「………はぁ…」

あんな由貴初めて見た…ちゃんとあんな風に普通な所もあるんだ…

ただ…その相手がオレじゃないのが何とも…

「でも…仕事に私情は持ち込まない……スゥー」

オレは深くタバコを吸い込んで…

「フゥー」

ゆっくりと吐いた…


「………」



「惇哉さん…」

喫煙場所でタバコを吸ってる惇哉さんを見付けて声を掛けた。

『………なに?』

「!!!」

いつもと同じ声なのに…いつもと違う惇哉さんがそこにいた…

「あ…あの…ごめんなさい…」
『何が?』
「あの…撮影の前に…浮かれちゃって…」
『仕方ないんじゃない…憧れてる俳優に会えたんだから浮かれるのも…』
「………」
『オレじゃなかったのは残念だけどね…』

「でも…結婚したのは惇哉さんなんだから…」

『?』

「私が選んだのは…惇哉さんなんだから…」

『 !! 』

「………」

『クスッ…』
「!」

惇哉さんが私の所まで歩いて来て肩を抱いた…

「あ…ちょっと…」
『やっぱりあるだろ…』
「え?……何のこと?」

『素直で可愛い所…』

「なっ…」
『チュッ ♪ 』
「!!」

『本当は気の済むまで由貴にキスしたいけど由貴に怒られるからな…
オデコで我慢する。』

「……タバコ臭い…」

照れ隠しでそんな事の文句を言う…だって…

『悪い…でも石原はヘビースモーカーだから…』
「そうね…」
『帰ったらな…』
「どうかしら…」

『へぇ…そんな事を言うんだ…由貴…』

「え?あ!……んっ……ンン…」

結局…息が詰まるほどのキスを延々とされて…

私はもう涙目の息切れの…

『いつまで経っても息継ぎ下手だな…由貴は…』
「…ハァ…ハァ……今に…上手くなるわよ…」
『へぇ…それは楽しみ…フフ…』
「!!」

「 石原 竜二 」 の顔で微笑まれて…ドキン!となる…

『行こう…』
「うん……」

『手繋いでやろうか?』

「け…結構よ!人に見られたら恥ずかしいでしょ!」

それにやろうかなんてなんて!その上から目線は何よ…

『キスの方が恥ずかしいと思うけど?』
「え!?や…誰かに見られてた?」
『さあ?』
「もう!いい加減なんだから!」
『……クスッ』
「何よ?」

『やっぱりいつもオレの傍に由貴がいてくれるといいな…』

「そう言うセリフは惇哉さんで言って!」

『はいはい…』
「「はい」は1回!」
『はい。』

「………機嫌直った?」

『さあ…キスも足りなかったからなぁ』
「もう!」
『でも撮影には支障ない…』
「うん…」


スタジオに戻るとスタッフの人達が慌ただしく動き回ってる…

直ぐに監督も入って来て大きな声で撮影の開始が宣言された。



「あんたどうもうさん臭いだよな〜」
『そんな事知るか。邪魔なんだよ…消えろよ…』


見慣れた 「 石原 」 の部屋のセットでいきなり惇哉さんと岡本さんの撮影が始まった。

惇哉さんにはああ言ったけどやっぱり生の岡本さんはじっと見てしまう…
いつだったか…何かのトーク番組で彼を見ておっとりした話し方と
あの声と…優しく笑うあの顔が気に入ってしまった…

それに…どこか懐かしく思えたの確かで…
そう言えば岡本さんも言ってたっけ…

もしかして本当に私達どこかで会ってるのかしら?

なーんて…そんなはず無いわよね…



「ああ!!そう!君…」

「え?」

撮影が始まって4日目…

一緒に休憩を取っていた岡本さんが私を見ていきなり叫んだ。

「君由貴ちゃんだろ?」
「は?」

由貴ちゃんなんて…子供の頃色んな人に呼ばれてたから…
確かに由貴ちゃんだったけど…

「あの柊木の所の由貴ちゃんだ!僕の事覚えてないかな?
由貴ちゃんの家の近くの公園で良く近所の子供と一緒に遊んだり
勉強みたりしてあげてた 「 お兄ちゃん 」だよ!」

「え?」

………子供の頃の記憶を辿る…
子供の頃私は母の実家で祖父母と一緒に住んでいた…

「僕も大学卒業と同時にこっちに出て来ちゃったし…由貴ちゃんも柊木さんちから
引っ越しちゃっただろ?って言う事は君のお母さんあの「柊木満知子」さんか…」

「……ええ〜〜〜!!!岡本さんあの「 お兄ちゃん 」なんですか!!??」

「そう…久しぶりだね…15年ぶりくらいかな?」
「名前が違うし…全然気付きませんでした……うそ…本当に…?」
「この名前芸名だから…いやーそうそう子供の頃の面影がある…由貴ちゃん可愛かったから…」
「そんな……」
「どこかで会ったかな…なんて思ってたんだけど…
まさか昔近所に住んでたあの由貴ちゃんとはね…」
「本当に…ビックリ…」

ズズ〜〜〜〜〜ッ!!

「 !! 」

惇哉さんが無言で飲み物を飲みながら私達を何とも言えない瞳で見てるっ!!

「あ…あの…惇哉さん…お…岡本さん私が子供の時母の実家に住んでた頃の
ご近所のお兄さんで…良く遊んでもらったり…勉強見てもらったりしたのよ…」

「らしいね…」

「…………」

う…何だか…この雰囲気……怒って…る?

「こんな偶然もあるんですね。岡本さん ♪ 」

惇哉さんが何事も無かった様に岡本さんに話し掛ける…

「そうだね…まさか役者の奥さんになってその旦那さんと共演するなんてな…
しかも由貴ちゃんが臨時でマネージャーまでしてるなんて…
じゃなきゃ一生会わないで終わってたかもな。」

「そ…そうですね…」

「……………」


その日の撮影は…惇哉さん演じる 「 石原 竜二 」 がいつも以上に

不機嫌で…負のオーラ出しまくってる様に見えたのは…

私だけ………?