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今回の相手役の女優の 「 紅林 藍 」 とのキスシーンの撮影が始まって
テイク2でOKが出た。
その後休憩が入ってオレは由貴を探しに外に出た。
さっきまでそこにいた由貴がいなくなったからで…
一緒に岡本さんもいなくなってるのが気になったから…
この撮影所で休める場所と言ったらベンチが置いてあるあの中庭しかない…
一応植物なんかも植わっててちょっとは和める感じで作られてる箱庭の様な場所だ。
案の定由貴と岡本さんがいた…
由貴は座ってて…岡本さんが由貴の目の前に立ってる…
と思ったら岡本さんが急に由貴の前に屈んで由貴の顔を覗き込んだから…
まさか…そのままキスしようなんて思ってないだろうな!
「由っ…」
由貴の名前を叫ぼうとした時…
「ちょっとこんな所で2人で何してるのよっ!」
「え?」
オレの後からいつの間に追いつかれたのか紅林さんがオレを追い越して叫んだ。
「 !! 」
「藍ちゃん?」
由貴も岡本さんもビックリしてる。
オレだってそうだ…
「このエロオヤジ!人妻つかまえて何誘惑しようとしてんの!」
「え?誘惑だなんて…僕何もしてないよ…」
「何言ってるのよ!皆が撮影にかかりっきりの時に2人でこっそりと抜け出してるくせに!」
「別にこっそり抜け出したわけじゃ…由貴ちゃんが気分悪そうだったからさ…」
「あ…すみませんでした…もう大丈夫ですから…」
「…………」
彼女が疑いの眼差しで2人を見てる…
「由貴…」
「惇哉さん…」
「ああ…楠君…彼女ちょっと緊張しちゃったみたいで…」
「すみません…由貴…気分悪いの?」
「……もう大丈夫…落ち着いたから…」
「じゃあオレの控え室で休もう……」
「はい……」
「じゃあすみません…」
「ああ…」
「…………」
「だから無理するなって言ったのに…」
「だって…大丈夫だと思ったんですもん…キスシーンはもう何度か見てたし…
今までだって何度も見てたから…」
「今はちょっと状況が違うだろ?」
「どう違うの?」
「昔はタダのお隣さんだったけど今は愛する愛する旦那様じゃん。」
「愛するは余計だけど…まあ確かに旦那様よね…」
「だから無理しなくていいから…」
「無理なんかしてないわよ。ちょっとは俳優の妻として覚悟はしてるし…」
「そう?」
「そうよ……」
「でもやっぱり無理しなくていいから!」
「…だから無理なんてしてないってば…」
「そうかね〜」
「そうよ!」
そんな事を言いながら…
でも今日はオレの命令でしばらくの間由貴を控え室で休ませた…
ブウブウ文句言ってたけど…
「岡本さんおはようございます。」
「あ!由貴ちゃんおはよう。もう大丈夫?」
「はい。今日は全然…」
「そう…良かったね…」
そう言って岡本さんがいつものおっとりニッコリスマイルで由貴に優しく笑いかける…
未だにオレは岡本さんのこの由貴に対する全ての事に
下心は無いのかと確信が持てない…
由貴にはそう言う気持ちが無い事はわかる…
でも岡本さんは独身のそれなりの歳の男で…小さな頃の由貴を知っててそれもあってか
あの仄々キャラで余計に由貴に警戒されてないみたいだから…
由貴は由貴だからオレが何気に昔馴染みでも気をつけろと言っても
全く聞く耳持たないし……
だからオレは未だに安心する事が出来ないと言えば出来ない…
そんな中…彼女… 「 紅林 藍 」 とのシーンが進んでいく…
「石原 竜二」 を忘れられないが為にどんどん深みに嵌っていく女…
どんなに思っても…慕っても…振り向いてもらえないとわかってる筈なのに…
愚かな女を演じてる…
演技としては普段の彼女からは考えられない白熱振りで…
真剣にこの役に取り組んでるのがわかる…
でも…オレには良くわからない人物だ…
「はあ…」
「由貴ちゃん?」
「あ…いえ…大丈夫です…」
何だかクラリと来て後の壁に寄り掛かった。
「大丈夫じゃないよ…顔真っ青だよ?気分悪いんじゃない?」
「……やだ…どうしたのかしら…でもちょっと休めば治りますから…」
昨日からどうも身体の調子がおかしい…
風邪でもひいたのかしら…まさか惇哉さんに変な病気うつされたとか?
なんて…そんなわけあるはず無いわよね…
「ちょっと…向こうで休んできます…昨日も少し休んだら調子が戻ったので…」
「じゃあ僕が一緒に行ってあげるよ…少し横になってた方がいいかも…」
「はい…すみません…お手数おかけしちゃって…」
「気にしないでいいから…僕と由貴ちゃんの仲じゃない…」
「由貴?」
また…由貴がいない…岡本さんも…
由貴の奴…また具合でも悪くなったのか?
昨夜家に帰ってからは何も無かったのに…
もしかして控え室で休んでるのか?
…………岡本さんと2人……で?
「休憩あとどのくらい?」
傍にいたスタッフに確認するとあと10分くらいはあるって返事がかえって来た。
オレは小走りで自分の控え室に向かう…
スタジオから小走りでも数分掛かる…だからもう結構な時間もしかして由貴は
岡本さんと2人っきりなのかもしれない…
なんて思ったら余計気持ちが逸って…
「由貴?」
自分の控え室のドアをノックもしないで開けた。
自分の控え室なんだから当たり前だし…
「 え? 」
「あ…」
12畳程の控え室の6畳くらいが畳が敷いてあって和室になってる…
そこに横になる由貴の上に覆い被さる様に……
「岡本…さん?」
「楠…君…」
「何してんですかっ!!」
一瞬で頭に血が上る!!
この野郎…由貴に何して……
ド ン っ !!
「…って!!!」
後からもの凄い勢いで突き飛ばされた!
「なっ…??なんだ??え?ええ??紅林さん??」
何でだかオレよりももの凄い剣幕で入って来た紅林さんが岡本さんに突進して…
紅林さんの右手が高々と上がったかと思ったら……
ば っ ち ーーーーーーー ん ん っっ !!!!!
「……いっったあああっっ!!!!」
「え?なに??」
もの凄い叩かれた音が控え室中に響く。
一体何が??どうして彼女が???
「藍ちゃん???」
「はあ…はあ…はあ……こ…この……」
「 ??? 」
岡本さんが殴られた頬を手で押さえながら仁王立ちしてる紅林さんを
へたり込んだまま見上げてる…
「 こ ・ の ・ っ!! 浮 気 も ーーーーーー ん っっ !!!!! 」
「はあ?」
何??どう言う事??余計わからない???
「藍ちゃん誤解だって…僕浮気なんてしてないから…」
「じゃあこのザマは何っっ!!どう見てもこの人気絶させて襲う所だったんじゃないの!!」
「違うってば…由貴ちゃん気分が悪くなって…ここに着いた途端倒れたから寝かせてたの!」
「え?」
「なっ…倒れたって…」
オレは彼女を押し退けて由貴の傍に駆け寄った。
「気分悪いって言ってたから…」
「………なんで……由貴!由貴!!!」
揺すっても目を覚まさない…
「救急車呼ぶから。」
「はい…すいません…」
そう言うと岡本さんが携帯を出して電話を掛けてくれた…
その間オレは由貴を抱き起こして…抱きしめてた…
息はちゃんとしてる…熱もないし…今日…ここに来るまでも何とも無かったのに…
「由貴……」
オレは胸が苦しくなるくらい心臓がドキドキと動いて…破裂しそうだった…
救急車で運ばれた由貴は診察室に連れて行かれて…
オレはそのまま廊下で待たされた…
ずっと目を覚まさない由貴……
どうしよう……このまま由貴の目が覚めなかったら……
重い病気だったら…どうしよう……
オレは1人廊下で待ちながらそんな考えが頭を過ぎってた…
「ご主人中にどうぞ…」
「あ…はい…」
看護師に呼ばれて中に入る…
だあああああーーーっっ心臓がっ!!
「…………」
診察室に入ると由貴は車椅子に座ってた。
腕には点滴が付けられてるし…
「由貴…大丈夫か?」
「うん…ごめんなさい…心配掛けて…」
そんな事を言う由貴だけどやっぱり元気が無い…
「あれ?同業者?」
「え?ああ…違います…」
撮影の最中にそのまま来たから「石原」の衣装のままで白衣を着てた…
「で…結論から言いますと奥さんの体調考えて2・3日入院してもらった方がいいと思うので…」
「入…院?」
「そのくらいで大分体調も戻ると思いますから…」
「あ…あの…」
「はい?」
「由貴は……由貴の病気って…一体…」
「………え?…ああ!申し訳ない…言ってませんでしたね。もうご存知かと思って…」
「………いえ…」
そんなの…知るわけないって……
「おめでとうございます。奥さん妊娠2ヶ月ですよ。」
「…………は?」