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「今日はお忙しい中参加して頂きましてありがとうございました。
気をつけてお帰り下さい。」


お昼前に参観が終わった。
たまには昼飯を外で食べるか……

「ん?」

気付くとオレの目の前に園児の女の子が1人…オレを見上げて立ってる。

まあこのくらいの歳の子にしては可愛い方か?どうなんだろう?

「何か?」
「しゅんやクンでしょ ♪ 」
「え?」
「 『 くすのき しゅんや 』 クンでしょ?」
「そ…そうだけど?」

この歳の子にクンって…何だか…

「会いたかった〜〜〜 ♪ 」

「 !! 」

いきなり足に抱きつかれた!なんだ!!??

「え?ちょっ…君…」
「わたしねしゅんやクンのこと大すきなの ♪ 」
「は?」

なんだ?このマセガキは??

チョイチョイと手招きされたから思わず屈む。

「なに?」

「 ちゅっ ♪ 」

「 !!! 」

いきなり頬にキスされた!!

「きゃあ〜ちょっと絵梨香何してるのっ!!」

「ママ…」

「す…すいません…この子楠さんの大ファンで…」
「は…はあ…いや…」

ビックリした…いきなり頬チュウなんて…大人の女でもしなだろう?
ああ…子供だから出来るってわけ?

って…待てよ?

「あの……絵梨香…ちゃん?」

振り向くと侠哉が帰り支度をして立ってた。

でもその顔は…色んな事にショックを受けた顔だ。

「侠哉…」
「あ!きょうやクン」
「あの…いつも侠哉クンにはうちの絵梨香が遊んでもらって…」
「いえ…」

立ち上がりながらオレはこの後の事が頭をよぎる…
これ以上余計な事言わないでくれよ……

「こんどしゅんやクンのおうちにあそびにいってもいいですか?」

「は?」

「ちょっと絵梨香!」

何で惇哉クンのお家なんだ?侠哉クンのお家だろ?

「え…あー」
「楠さんは忙しいんだから無理言ったらダメよ!」
「なんで?ママだってたのんでみたらって言ってたじゃない。」
「え?あ…そんな事言ってないわよ…もう…」
「すいません…もう行かないと…」
「あ…ごめんなさい…」
「じゃあね絵梨香ちゃん。」
「バイバイ!しゅんやクン ♪ ぜったいまたこんどね。」
「………」

一応手を振った……


おーい……この気まずい雰囲気…どうしてくれんだよ…

朝はあんなにルンルンで手まで繋いで歩いた同じ道を今はお互い無言で…

侠哉なんて頭上に暗雲まで見えるのはオレの目の錯覚か?

ホントあんな尻軽女こっちから振ってやれ!なんて言葉が喉まで出かかった…




「お帰りなさい。」
「ただいま…」
「どうだった?」

期待一杯の由貴の顔だ。

「いや…それが…」

「………」

「え?」

ボ カ ッ !!

「イッ……!!!」

「侠哉!!」

侠哉が思いきりオレの足を蹴った!

「もうパパなんて幼稚園こなくていいからなっっ!!」


そう叫んで自分の部屋に駆け込んでしまった…



「……いて〜侠哉の奴思い切り蹴りやがって…オレは何も悪くないっての!」
「まさか絵梨香ちゃんが惇哉さん狙いだったなんてね…
息子の彼女を取っちゃうなんて…なんて親かしら…」
「人聞きの悪い事言うなよな!オレは悪くない!
大体あの歳で初対面の男にキスするなんて末恐ろしいよ!」

オレに娘が生まれたら絶対おしとやかに育てる!!決めたっっ!!

「どうするの?」
「え?ああ…侠哉?放っとくしかないだろ?慰めてもイジケルだけだ…」
「そう?」
「そう!」


惇哉さんはああ言ったけど…


「侠哉…」

「………」

あら〜ベッドにうつ伏せで…落ち込み方はイッチョ前なのね…

「お昼…ご飯食べないの?」

「…………」

「侠哉?返事しないとママ怒るわよ…」

「 !! 」

ビクンと侠哉の身体が跳ねた。

「……パパなんてキライだ…」

「でも…パパが悪いわけじゃないでしょ…良く考えてみて…」
「………」
「絵梨香ちゃんがパパの事好きだって侠哉知らなかったの?」

「………「 きょうやクンパパににてるね 」 っていわれたことはある…」

(結構毎日言われてた侠哉だったらしい…後日談!)

「そう…絵梨香ちゃんパパのファンなんですって…」
「………」
「だから普通の好きとは違うと思うけど…」
「ホッペにちゅうしてた…」
「よっぽど嬉しかったのよ…」

「ママは怒らないの?パパがよその女の子とそんなことしても!」

「え?……そりゃ大人の女の人なら怒るけど…絵梨香ちゃんなら…許しちゃうかな…」

「なんで?」
「まだ子供だから…かな?」
「ふーん…子供はあいてにしないから?」
「そ…そうね…」

相手にしないからって…分かってて言ってるのかしら??


「女なんてもうしんようしない…」

「 !! 」

ええーーーーーっっ!!一体何処でそんなセリフを…???



「 ! 」

侠哉が由貴に連れられてバツの悪そうな顔でリビングに入って来る。

「ほら…侠哉。」

由貴にオレの方に背中を押されながらまた渋々顔の侠哉だ。

「侠哉!」

ちょっとキツメな言い方で侠哉の名前を呼ぶ…
雷が落ちる5段階前くらいか?

由貴は流石母親と言うべきか…ここぞと言う時にとんでもない雷を落とす。

オレにはそれプラス頭平手打ちか耳引っ張りか…最悪頬っぺた抓りが加わる…
流石に侠哉にはしないけど…

でもそれをやられてるオレって……


「ごめんなさい…」

「………侠哉…」

「…………」

「別に怒ってないよ…」

そう言って侠哉の頭をクシャクシャとしてやった。

「………へへ…」

「さあじゃあお昼にしまよう。」
「たまには外に食べに行こう。本当はそう決めてたんだけどさっきので言いそびれてた。」
「ホント?じゃあオレチョコレートパフェがたべたい!」
「じゃあそれが食べれるところな。いいだろ?由貴。」
「うん…外食なんて久しぶりね…」
「じゃあ行こう…腹減った。」



地下の駐車場まで仲直りの肩車で行った。

元々背の高いオレの肩車は侠哉のお気に入りだ。

「はあ〜あ…女の子ってホントにわかんない…」

「は?」

侠哉がオレの肩の上でそんな事を言い出す。

「もういいや…えりかちゃんはパパにゆずるよ。」
「え゛?」

譲られても困るんだけど……

「いいんだ…オレにはまなちゃんもいるしともこちゃんもいるから…」

「は?何侠哉…お前そんなに女の子の友達なんているの?」
「えーそのくらいみんないるよ。でもオレがいちばんおおいほうかな…
みんなは1人か2人だけどオレは5人くらい?」

「  「  え゛っっ!? 」  」

ちょっ…ちょっ…待てよ…待てよ…!!

「えりかちゃんはそのなかでいちばんかわいかったけどともこちゃんもかわいいしな…」

「ばっ…侠哉…ストップ!」

肩車してるから侠哉の口に手が届かなかった!ばか!黙れ!!

「侠哉ぁ〜〜〜〜」

「ハッ!ママ…」
「ちょっと…由貴…落ち着いて…」

「そこから下りなさいっっ!!!」

「……パパ…」

オレに掴まってる侠哉の手に力が入ってオレにしがみ付く。

「由貴…子供の…言う事だから…それに怒るのは胎教に良くない…」

オレは侠哉を肩車したまま後ずさる…

「いいから…侠哉下りなさい。」
「……はい…」

仕方なく侠哉を肩から下ろした。

「いい?あなたみたいに小さな子供が女の子をそんな風に見てるなんて……」

あちゃ〜始まったよ…


でも…そんな光景を眺めながらそれでもオレはホッとしてるんだ…

男の子はあのくらいで良いと思うし…

やっぱり母は強しであんな風に怒られるのもオレは良いんじゃないかと思う。

だって…


「わかった?侠哉!」
「はい…ごめんなさい…」
「じゃあこれで怒るのはお終い。」

「もう…おこってない?ママ…」

「怒ってないわよ。チュッ ♪ 」

怒ってないって言う証拠の由貴からの 「 ホッペちゅう ♪ 」 だ。 

「へへ…」
「さあ行きましょ。」
「由貴。」
「ん?」
「オレにもして ♪ 」
「何を?」

「ホッペちゅう ♪ イテテテテ!!!」

「子供の前で何言ってるのよ!」

キスの代わりに耳引っ張られた!

「パパオレだからママはちゅうしてくれるんだぞ!」

「違います!オレにもしてもらえます!」

お前よりとんでもなく大人のキスなんだからな!

なんて口では言えないけど…

「まあいいや…夜にた〜くさんしてもらおう ♪ 」

「しませんから!」

「しないってさパパ…ぷっ!」

「…………」

まったく…2人して父親をイジメるのか…



それから数ヵ月後…

オレと由貴には娘が1人…侠哉には妹が誕生した。




                                 ……FIN