由貴ヤキモチ編 05





オレと由貴と智匱で杏華ちゃんの映画初出演決定のお祝いをした。

そのお祝いに至るまでに杏華ちゃんに泣きながら抱きつかれて…
オレも思わずそんな杏華ちゃんを抱きしめちゃったのを目の前で由貴に見られて…

何とも変な状況に陥ってるらしい…

由貴は怒ってはいない様な素振りなんだけど…オレに対してはどうも素っ気ない気がする…

だから智匱達が帰って2人きりになるとそれは如実に現われてる気がしてならない…


「由貴〜」
「何?」
「一緒にお風呂入ろうか?」

「いやっ!!!!」

「あ!」

目の前で浴室のドアを閉められた…

「由貴〜〜〜」

ベッドで後から由貴を抱きしめた。

「しばらく無理だから!!」
「え?」
「………無理になっちゃったの!!」
「あ……」
「おやすみなさい。」
「………由貴…」
「…………」

「まだ怒ってんの?」

「怒ってなんていません!怒る事じゃ無いじゃない…」
「じゃあこっち向けよ!ずっとオレの顔見ないじゃん!」

そう…由貴はずっとオレと視線を合わせない。

「見飽きた!」
「はあ?何それ?」
「もう…とにかく今日は放っておいて!お休みなさい!!」
「………由貴…」
「……………」

「怒ってないなら……もしかしてヤキモチ妬いたの?」

そう言った瞬間由貴がガバッと跳ね起きた!!

「 !!! 」

「誰もヤキモチなんて妬いてないからっ!!!!!」

そう叫んでまだバタリと布団を被ってオレに背を向けて寝た…

「…………」

由貴…わかりやすい……

「由貴〜〜 ♪ 」

オレは強引に由貴を後から抱きしめて顔を覗き込んだ。

「いや!もう寝るんだからやめて!」

ギュッと目を瞑ってオレの方に向こうともしない…

「別にいいよ由貴は寝てて…オレが勝手にするから。」
「それじゃ寝れないでしょ!」
「じゃあ起きてなよ…由貴〜〜〜 ♪ 」

無理矢理顎を掴んでオレの方を向かせて由貴の唇を塞ぐ。

「……ンッ!!ンン!!」

由貴は無駄な抵抗をいつもする…唇弱いくせに…ものの数分でクッタリだ。

「寝ないの?」
「…はぁ…はぁ…誰のせいで…寝れないと思ってるのよ…」

「由貴…ヤキモチ妬いてくれるのは嬉しいけど…気にしすぎだよ…
彼女オレのファンだから…オレのちょっとの行動で舞い上がっちゃうんだ…
オレも彼女が頑張ってるの知ってるし健気だからつい手助けしたくなっちゃうだけで…
それ以外の感情なんて無いよ…」

「………わかってるわよ……」


そうわかってる…そんな事…

だから鳥越さんにも…惇哉さんにもハッキリと何も言えないんじゃない…

ファンとして惇哉さんに憧れを抱くのわかるし…


私はそんな惇哉さんを独り占めしてる気分になって…


変な罪悪感が生まれる……




「こんちは〜 ♪ 」

午後を過ぎて大分経った頃久しぶりに事務所に顔を出した。

「あら惇哉君?どうしたの?珍しいじゃない撮影は?」
「次の出番まで大分時間空いたからちょっと遊びに来た。あれ?由貴は?」
「今日は休憩時間にケーキ食べようって…あの惇哉君の好きなケーキ屋さんが
今日10%オフなのよ〜 ♪ だから今柊木さん…奥様が買いに行ってるの。」
「そう…じゃあすぐに戻るよな…」
「ええ…座って待ってれば?」
「ん〜〜あ!じゃあ今日はオレがコーヒー淹れてあげるよ ♪ 」
「え?本当?」
「由貴に教えたのオレだから美味しいよ ♪ 」
「え?そうなの?柊木さんだってかなり美味しく淹れてくれるわよ。」
「楽しみに待ってて ♪ 」


久しぶりの事務所の給湯室…
良くここでコーヒーを淹れる由貴を捕まえてチョッカイ出したな…

結婚してからはそんな事も無くなって…ちょっと寂しい…

あれから由貴の事抱いてない……タイミングが悪いんだよな…はあ…

怒ってもいなくてヤキモチだってわかっても由貴の態度はイマイチおかしい気がする…
まあ体調もあんま良くない時だから仕方ないか…


「え?惇哉さんが?」

私が買い物に出てる30分くらいの間に惇哉さんが事務所に来たらしい。

「惇哉君が今日はコーヒー淹れてくれるんですって ♪ 」
「へえ…じゃあ私ちょっと手伝ってきます。」
「フフ〜 ♪ ごゆっくり〜〜 ♪ 」
「コーヒー冷めない程度にね〜 ♪ 」
「何ですか?それ!そんな事しません!!」
「え〜〜そんな事ってどんな事?」
「………もう!」
「あ!でもちょっと前に惇哉君にお客さんが来て今話してるんじゃない?」
「お客様?」
「そう!子供連れの美人 ♪ 」
「え?」
「何でも高校の時の同級生だって言ってたかな?」
「高校の…同級生?」
「こっそり行った方がいいわよ。怪しい事の真っ最中かも!」
「どんな怪しい事ですか!」

すぐそうやってからかうんだから…

なんて言いながら給湯室の近くになったらナゼか静かに歩いてる自分がいて…
何やってるのかしら…

給湯室に近付くと確かに人の話し声がする…ドアは開いてた…

「近くまで来たからどうかと思ってさ。仕事中だとばっかり思ってたから。」
「今日はたまたま…ホント久しぶりだよな…」
「そうね…何ヶ月ぶり?ちゃっかり結婚なんてしちゃってさ!こっちには内緒で。」
「悪い…ちょっと急いでたから…それにしても大きくなったな…もう2歳になった?」
「2歳と2ヶ月…ほらリンパパよ〜 ♪ 」
「憶えてるか?」
「しばらく会ってないからどうかな?あ!でも泣かないよ。
やっぱりちょっとは憶えてるんじゃない?」
「そうか?忘れられないか?こんなイケてる父親だもんなぁ〜 ♪ 」

………え?

「ちゃんと認知もしてやったし…問題ないよな?」

……認知?……認知って…?

惇哉さんの…子供って事?


「冷たいパパよね〜全然会いに来てくれないんだから。」
「忙しいんだよ〜それに昔みたいに遊ばなくなったの。」
「ホント大人しくなったと思ったら結婚だもんビックリよ。」
「はは…旦那元気?」
「元気よ。現場で会ったりしない?」
「最近は…それに七瀬さん舞台の方が多いだろ?」
「そうなのよね〜だから毎日留守がちで…2人でつまんないんだよね〜リン。」
「まあ子供が小さいうちは仕方ないんじゃん?」
「そうだよね〜子連れで夜遊びは出来んし…」
「ちょっとの我慢だよ。飲んでく?」
「ううん…ちょっと寄っただけだから。もうすぐこの子もお寝むだし…帰るわ。」
「そ?じゃあ今度ゆっくり会おう。由貴にも話しとく。」
「うん。ゴメンネいきなり…」
「いや…久しぶりに会えて楽しかったよ。娘にも会えたし ♪ な!リン ♪ 」

「あ!」
「 !! 」

ボーっと立ってたら2人が給湯室から出て来たのに気付かなかった…

「由貴…」
「………」
「え?奥さん?」
「あ…初めまして…」

そう言って頭を下げたけど無意識で自分では憶えてなかった…

「由貴初めてだっけか?
こいつ高校の同級で 『 七瀬 宏美 』 あの 『 七瀬 優二 』 さんの奥さん。」
「え?」
「由貴も1度会った事あるだろ?レンジと一緒に皆で飲んでさ…」
「あ…」
「初めまして。七瀬です…惇哉とは高校の時の同級で色々世話になりました。」
「そうだよ…七瀬さんのファンだからってオレに紹介しろ紹介しろって
とんでもなく煩かったんだよな!」
「だってお近付きになりたかったんだもん ♪ 」
「まあその甲斐あって無事に結婚してくれたからオレの苦労も報われたけどね…」
「いいじゃないよ〜高校の時散々面倒見てやったんだから!
無事に卒業できたの誰のお蔭よ!」
「オレのお蔭だよ!頑張ったのオレ!」
「ノート貸してやったでしょ!提出物だって手伝ってやったし…」
「はいはい…そうでした。」

「…………」

「じゃあ連絡頂戴ね。旦那にも言っとくからさ。」
「ああ…気をつけろよ。」
「じゃあね!ほらリンバイバイって。」
「じゃあな…」

エレベーターの前で扉が閉まるまで惇哉さんは手を振ってた…
私はほんの軽く会釈をしただけで…一応笑って見せた…

そんな間も頭の中でさっきの言葉が木霊してる……

「惇哉さん…」
「ん?あ!今日ここのケーキ安かったんだって?オレの好きなのある?」
「…………」
「由貴?」
「……無い…」
「え?そうなの?じゃあ他ので我慢するか…」
「…………」
「由貴?」
「ううん……沢山買ってきたから何かあるんじゃない…」
「今日はオレがコーヒー淹れたからバッチリだ。」
「そう…じゃあ皆待ってるから…」
「ああ…」


何となく…何も聞けないまま…

惇哉さんはまた撮影の仕事に戻って行った……