由貴ヤキモチ編 07





「もっとゆっくりしたかったけど皆明日仕事だからな…また今度ゆっくり会おう。
今日は宏美から惇哉の話し聞いて無性に会いたくなったから思わず誘ったけど…」

七瀬さんのマネージャーが運転するワゴン車で今日飲んだメンバーを送ってくれてる。

助手席に七瀬さん…後ろの席にオレと隣に七瀬さんの奥さん兼オレの同級生「旧姓 柄本」。
そのまた後ろの席にレンジがウトウトしながら乗ってる。

「柄本子供は?」
「じいちゃんばあちゃんに預けて来たわよ。たまには私だって息抜きしたいし皆と飲みたいもん ♪ 」
「そう…子供ってどう?可愛い?」
「そりゃね。なんたって2人の子供だし〜女の子で可愛いわよ〜
優二さんなんてパパすき ♪ なんて言われてデレデレなんだから。」
「へえ…七瀬さんが…」
確か硬派だった気が…
「余計な事言ってんな!宏美!」
「は〜い。で?惇哉の所は?まだ?」
「オレの所は披露宴が終わってから考える…
ってオレはもういつでも受け入れ態勢はOKなんだけどさ。」
「奥さん嫌がってるの?」
「嫌って言うか由貴は真面目だから…それに自分なりにこう結婚に夢があるらしくって…
ウチの親に紹介するまでは結婚式も籍も入れないって言い張ってさ…大変だったんだ…」
「お前がいい加減過ぎるんだろ?メガネちゃんは正しい。」
「何だよ!狸寝入りか?人の話盗み聞きしやがって…」
「…………お!」

窓の外を見てたレンジが一声上げた…珍しい。

「ん?」
「メガネちゃん…」
「はあ?」

オレは速攻窓ガラスに張り付いた。

「何処だよ?」
「通り過ぎたあのカラフルな看板の前。」
「………」

オレが見た時にはもうその場所からちょっと離れててしかも反対車線だったから確認出来ない。

「本当に由貴だったのか?」
「ああ…見間違いじゃない。何だか制服着た坊主と一緒だったな…」
「はあ?」

何だ?智匱か?いや…そんなはず…

オレは一瞬の間に考える…
このまま家に帰って由貴がいなかったらやっぱりさっきのは由貴で…
それからここに戻っても由貴は同じ場所にいるのか??

「七瀬さんスイマセン!Uターンしてもらえます?」

オレはそう叫んでた。


直ぐ先の大きめな交差点でUターンしてもらってレンジの言っていた場所を注意して見る…

「あ…」

さっきの場所から少し移動してるけど…やっぱり由貴だ…
こんな時間にこんな所で何やってんだ?それに一緒にいる男は制服姿の高校生だけど…
智匱じゃない…一体誰なんだよ…

2人のちょっと先で車を停めてもらってドアを開けながら叫ぶ。

「由貴!!!」

「え?」

「?」

「惇哉さん!?」

由貴が驚いた顔でこっちを見てる。
まあ当然だろう…こんな場所でこんな時間でこんなタイミングで!!

「…………」

一緒にいる高校生はちょっと理解出来てないみたいで呆然としてる。

「由貴!!こんな所で何やってんだよっ!!そいつ誰?」

「え!?何?あれって… 『 楠 惇哉 』 ??え?何で??えっ!?」

オレに気付いた高校生がそんな事を叫んでたが今はそんな事知ったこっちゃ無い!!

なのにオレの目の前で信じられない光景が…

由貴が一緒にいる高校生の腕を両腕でガッシリと組んだ。


「ボーイフレンドよっ!!!」


そう叫んで由貴と高校生が横の路地に一緒に走り出した。


「由貴っ!!」

オレは速攻飛び降りて後を追い駆ける。

ボーイフレンドって…一体どう言う事だ??


「ちょっと!惇哉!!」

ワゴン車から柄本の声がする。

「悪い!ちょっと待ってて!!って…お前…」

気付けばオレと一緒にレンジが横を走ってる。

「何しに来たんだよ!!戻ってろよ!!」
「嫌だね ♪ こんな面白い事見逃せるか!」
「ふざけんな!」
「ほらそんな事言ってると追いつけないぞ ♪ 」
「ったく…」

仕方なく先を走る由貴達に追いつく事に集中した。


「ちょっ…ねえ…ちょっとあれって 「 楠 惇哉 」 だろ?なんでお姉さんの事追い駆けてくんの?」

私に引っ張られながら後ろを気にして走ってる彼にそう訊ねられたけど
今はそんな事詳しく話してる訳にもいかず…ひたすら2人で走ってる。

「ちょっとね…いいから早く走って!追いつかれるでしょ!」
「もしかしてお姉さんの旦那って… 「 楠 惇哉 」 なの?」
「………そうよ!」
「ええっ!?マジ??何で逃げてんの?」
「い…色々事情が…っていいから真面目に走って!!」
「でも…」


何でだか変な事になちゃったけど…

だって…だって………惇哉さんが悪いのよっ!!

「このままじゃ追いつかれるけど?」
「え?」

チラリと振り向くと…

「え?何で?」

どう見てもレンジさんが惇哉さんと一緒に走ってる…何で??

「…………」

止まる?止まって…話す?

「由貴!!」

「……福原君!ありがとう!でもごめんなさい。」
「へ?」

そう言うと掴んでた彼の腕を離して1人で走り出した。

「ちょっと…」

自由になった彼はまだわけがわからないまま段々と走るのを止めて歩き出す…
そんな彼に惇哉さんとレンジさんが追いついた。

「レンジ!そいつ捕まえといてっ!!」
「OK!」

オレはレンジにそう叫ぶと1人になった由貴を追い掛けた。

一体何がどうなって由貴はオレから逃げるんだ?

「え?何??ウソ!?『 鏡 レンジ 』 ?」
「人妻に手ぇ出すとは…いい度胸じゃねーか?坊主…」
「へ?」

ボキボキと指を解す音がする。

「じっくりと話聞かせててもらおうか?素直に答えろよ。」

「ええーーーーっ!!!」

何で?何で俺がこんな目に???




「由貴!!待てよ!!」

オレの目の前20メートルくらい先を由貴がもの凄い速さで走ってる。

何度呼んでも止まりもしないしこっちを振り向きもしない…

大分走ってるのにその差が縮まらない…由貴ってそんなに走るの早かったのか?

「ハァ…ハァ…」

くそっ…こっちは酒が入ってるから結構キツクなってきた…由貴っ!!!


「はぁはぁはぁ…」

チラリと振り向いたら今度は惇哉さん1人が走ってた。
しかもどう見ても顔が怒ってる!!だから捕まらない様に必死になって走った。

いい加減諦めてくれないかと思うのに…いつまでも追い掛けてくる…

どうしてこんな事になちゃったのかしら…もう後は家に帰るだけだったのに…

「ちょっ…はぁ…はぁ…そろそろ…限界……」

息が上がって…もう限界が近い…チラッと振り向いたら…

「あら?いない…」

ずっと私の後ろを走ってた惇哉さんの姿が無い…

「はぁはぁ…え?諦めた?…はぁ…きゃっ!!!」

後ろを振り向きながら歩いてたらいきなり何かとぶつかった。

「ちょっと…何?」

しかもぎゅっと身体を抱きしめられた。


「……ぜぇ…ぜぇ…やっと…捕まえた………げほっ…」