由貴ヤキモチ編 08





「……ぜぇ…ぜぇ…やっと…捕まえた………げほっ…」


どこかの路地で横にそれて先回りされたらしい…

そう言ったまま惇哉さんがずっと息をゼエゼエするだけで喋らない…
でも私を抱きしめてる腕の力は緩まない…


「………大丈…夫?」

あんまりにも辛そうで思わずそう声を掛けた。

「はあ?誰のせいだと思ってんだよっ!!げほっ!」

「勝手に追い掛けて来たのは惇哉さんじゃない!」
「由貴っ!!」

目の前で大きな声で怒鳴られてビクンとなった。

「ちゃんと説明しろ!一体こんな時間にこんな場所で何やってる?あの高校生は誰だ?」
「…………」
「由貴っ!!!」
「……だって…惇哉さん怒ってるじゃない…」

「当たり前だろっ!!家にいると思ってた自分の奥さんがこんな夜の街で高校生と一緒にいて
挙句の果てには腕組んで走って逃げられたんだぞ!怒るだろ?普通!!!」

「………だから…ボーイフレンド……よ…」
「ちゃんとオレの目を見て話せ!由貴!」
「………」

捕まえて抱きしめてこんなに密着してるのにオレと目を合わせてない!

「本当にそうなら…とことん由貴と話し合わなきゃならないな……その覚悟あんの?」
「…………」
「レンジにあいつ捕まえてもらってるからあの坊やも一緒に参加してもらわなきゃな…」
「…………」
「由貴…本当にそれでいいの?」
「離して…」
「ん?」

「離してっ!!!」

そんな由貴の言葉にちょっと腕の力を緩めたら腕を突っ張られて突き飛ばされた。

「由貴!?」
「……………」
「何?一体何なんだよ…」
「もとはと言えば惇哉さんのせいじゃない!!」
「は?オレが何したって言うんだよ?」
「うそつき!!」
「うそつき?何が?」
「私の事裏切らないって言ったのに…」
「オレは由貴を裏切った覚えなんてないけど?」
「ウソ!!聞いたんだから…」
「聞いた?何を?」
「…………」
「由貴…そこ話してくれないとわからないんだけど?」
「……今日…聞いたの…」
「だから何を?」
「七瀬さんの奥さんと……惇哉さんの話…」
「え?ああ…昼間事務所に来た時の?」
「ええ…」
「何の話?あの時由貴を裏切る様な事話してた?」
「してわよっ!!とぼけるの!」
「は?………身に覚えが無……ぶっっ!!!」

いきなり由貴のバックが飛んで来てもろ顔面にヒットした!

「……痛っ…つう……!!」

鼻が痛い!!

「今日彼女が連れた来た子供は惇哉さんの子供なんでしょ!!」

「はあ?リンの事?」
「そうよ!」
「何で?何でそうなるの?」
「なんでって……やっぱりとぼけるのね!」
「とぼけてなんかいないって…どうしてそう思ったんだよ…」

「だって…惇哉さんが父親だって…パパだって言ってた!!それに…」

「それに?」

「惇哉さん…ちゃんと認知したって…言ってた…」

「 !!! 」

核心を突いたら惇哉さんが驚いた顔した……
やっぱり…本当の事だったんだ……その顔が何もかも物語って……

「くっ……くっくっくっ……」

「え?」

もしかして……これって…惇哉さん笑って……る?

「くっくっくっ……あははははは……ははは…」

もの凄い大笑いされてる!!

「何よ!!笑って誤魔化すの!!」
「だって…くっ…由貴…スゴイ勘違い……」
「え……?」
「はあ〜〜〜〜笑った笑った……」
「…………」

由貴がムッとした顔でオレを睨んでる。

「今から2年位前の単発ドラマ… 『 成嶋家の朝 』 って憶えてる?」

「……いきなり…何よ…」

急に惇哉さんが変な事を言い出した。

「いいから…由貴なら思い出せるだろ?オレが旧家の家の跡取りで結局親の決めた相手と
結婚して本当は好きだった幼馴染とは一緒になれなかった…でもその幼馴染がオレの子供を
身篭っててオレに内緒で生んで育ててた…って話。」

「 『成嶋家の朝』 ?憶えてるわよ…」

母に散々話聞かされたし…録画したのを何度も見せられたもの…

「それが何よ…今は関係ないでしょ!」
「その時オレと幼なじみの間に生まれた子供はどうなった?」
「え?あ…一緒には暮らさなかったけどちゃんと自分の子供だって認めて…」

「そう…その子を認知した。」

「………?」

「その時の認知した赤ん坊がリンなんだ。」

「……え…?」

「一緒に共演してた七瀬さんが言い出して即決で決まってさ。
それから柄本の奴面白半分でリンに会った時はオレの事パパって呼ぶんだよ。
オレも話し合わせて調子も合わせてるんだけどさ…」
「え…?」
「まさか由貴が聞いてたなんて思わなかった…」
「………」

「そんな誤解されてるのも…」

惇哉さんが優しい口調でそんな事言うから…

「………そ…そんな紛らわしい事しないでよっ!!」

私は一瞬で自分が誤解してた事に気が付いた!でもそんな事わかるはずないじゃない…

「由貴…」
「だって…あんなに仲良さそうにしてたら…勘違いするの仕方ないじゃない!」
「………」
「だって……」

もう……やだ……恥ずかしい!!

「由貴……」
「………」
「由貴がそんな風になるなんて珍しいね…」
「そんな事…ない…」
「ん?」

「ずっと…いつも思ってる…
惇哉さんは私以外の…たくさんの女の人から好かれてるんだもの……」

「由貴……それは心配?それとも…ヤキモチ?」

「!!!」

由貴が真っ赤な顔でオレを見つめた。

「え?ヤキモチ?」
「ち…ちがう!!違います!!誰がヤキモチなんて…」
「ヘエ〜〜〜 ♪ 」
「違いますからね!!」
「じゃああの高校生は?」
「………」
「オレへの当て付けなんだろ?」
「だから違います!!」

ちょっと頬を膨らませて焦った顔で由貴がプイっと横を向く。

「由貴…」
「違います!!」
「由貴…」
「違うったら!」
「由貴…」
「違うって……ンッ!」

また抱きしめられてたと思ったら腰に腕が廻されて身体を引き上げられて
項に手の平が力強く押さえ付けられて顔が上を向く…

向いた視線の先には惇哉さんがいて…もう目の前に…

「ンン!!…う……」

奪われる様な…濃厚なキスをされた…

「……ン……」

ずっとそんなキスをされて息が詰まって…クラクラする…
だから惇哉さんの洋服にしがみ付いた…

「…はぁ……」

やっと離してくれて息がつけた。
でもまだ腰に廻された腕と項に当てられた手の平は離れてない…

「由貴……」
「………」
「ヤキモチ妬いたって………認めて…」
「……いや……」
「何で?」
「妬いて……無いから…」

「ウソつき…」

それに相変わらず意地っ張り…

「ンンッ!!!」


頭の中が真っ白になるくらいの長い時間…またさっきと同じキスをされる…

離れるのかと思うとまた激しく唇が奪われて舌を大胆に絡められる……


「……はぁ……はぁ……」

「おいで由貴…」

「…え……?」


惇哉さんが私から離れてゆっくりと身体に廻してた腕を離す…

そのまま私の手を惇哉さんの手が握り締めた……

私はクラクラする頭で惇哉さんに手を引かれるまま……歩き出した。