侠哉 高校生編 04





「どうぞ。」
「え?ここって?」
「オレの母さんの実家。」
「え?実家って…?」

そう言ってたった今出て来た隣の玄関を振り返る。

「元は2人ともお隣さんだったんだ。母さんの親…つまりオレの母方のおばあちゃんが
親父のファンでさ…親父に近付ける為にわざわざこの部屋を買ったんだって。」

「スゴイ…」
「まあ金とコネに物言わせてらしいけど…」
「お金とコネって?」
「母さんの母親って「柊木 満知子」 なんだ…知らない?エステで有名らしい。」
「え?あの良くCMとかで流れてるあのエステの?」
「うん…」
「本当…楠君の周りって…なんか…あたしとは違う世界の人みたい…」
「そんな事無い…オレは至って普通の16歳の高校生だよ。毎月お小遣いが足りなくてバイトしてるし…」
「え?楠君バイトしてるの?」
「ああ…ファミレスのキッチン。結構こう見えても器用なんだ。」
「へ〜意外…楠君ならフロアでも十分やれるんじゃない?なんか固定客まで取れそう…」
「店長にもフロア勧められたけどもうそう言うのホント勘弁だから…裏方で十分。」
「そう?何だか勿体無い気もするけど…でもそっちでいいか。」
「え?」
「え?!あ…ううん…」

オレと白根と真由とで久しぶりにこっちの部屋に来た。
母さんは時々こっちの部屋に来てるみたいだけど…オレは早々用事も無いし…

ああ…そう言えば母さんがこっちに来てると親父も何気にこっちに入り浸ってるな…
まったく…2人して…いや…親父ってば……

そんな事を考えながらとある部屋の前に来る。

「ここ…」
「うん…」

ゆっくりとドアを開けて中に入る。

「わあ…」
「パァパ ♪ 」

白根が驚きの声を上げて真由ははしゃぐ。

「スゴイね…お母さんなんて足元にも及ばないかも…」

そりゃ驚くだろう…部屋一杯の親父の写真やらポスターやら雑誌やら…
その他なかなか手に入らない超レアもののお宝もある。

「オレも昔何度か見ただけで最近は入った事なかったな…
親父のこんなもの見ても仕方ないし。」
「そうだけどさ…わあ〜今まで出演したドラマの台本とかもある…あ…」
「ん?」
「このお父さんの写真…楠君そっくり…」
「げっ…」
「きょうちゃ ♪ 」
「真由違うって!」

多分今のオレと同じ位の頃の写真…
真由には違うって言ったけど自分で見ても似てる…くそ〜〜〜!!

「あ…DVDも一杯…ドラマじゃなくてトーク番組とかもあるね。」
「もう何から何まであるんだなよな…親父の方のおばあちゃんもこんな部屋作ってるんだぜ。」
「え?そうなの!!」
「ホント信じらんない…ん?」
「なに?」
「これ…」

DVDの中から1つ目を引いたタイトルが…それを手に取った。

「『公開プロポーズ』?なんだそれ?」
「あ!私お母さんから聞いた事ある!」
「え?」
「確か2人のプロポーズの事だよ。」
「はあ?」
「お母さん楠君のお父さんの結婚スゴイショックだったけどこのプロポーズ見て
納得したって言ってたもん。」
「納得した?」
「そう。お母さんが言うのは感動モノだったらしいけど…流石に映像は持ってなかったな…
だからあたしも話でしか知らないけど…」
「…………」

何だか興味が湧いてさっそく見てみる事にした。
今までオレも気にした事もなかったし親父も母さんもおばあちゃん達も何も言わなかったし…
きっと母さんの口止めが厳しく掛かってるんだろうと推察。

だから余計見たいと思ったのか…

DVDをデッキに入れて3人でソファに座る。
準備OKだ。

「一体どんなんだ?」

ちょっと興味深々 ♪


リモコンの再生のボタンを押すとものの数秒で再生が始まる…

『今日はおめでたいニュースが入って来ました。』

これって…芸能ニュースか?

映し出された映像はどこかの撮影所か?
何人ものレポーターにマイク向けられてる親父に…母さん?
ウソだろう…2人共若い!!!って当たり前か…
それに親父の髪の毛…何で黒いんだ?今まで見た事無いぞ。

『 「楠さーん!あの週刊誌の件なんですけどーーー!!」
  「今度は真面目なお付き合いなんですかーー!!」
  「あ!そちらがマネージャーさんですよね!!」 』
                              
色んな人が色々言いながら2人に迫ってくる。
今度は真面目なお付き合いって…
どんだけ不真面目なお付き合いしてたんだ!親父の奴!
それも一体どこの誰と??
それにマネージャーって?
母さん親父のマネージャーなんてやってたのか?

「あ…」

そんな時親父が歩いてる母さんの腰に腕を廻して…そのまま抱き寄せた。
え?何?一体何するつもりなんだ?親父…

そんな親父の行動でさっきまで騒いでたレポーターも静になった。

『柊木由貴さん。』
『…は…はい……』

真剣な親父の顔と声だ…こんな顔も出来るのかとちょっと感心する。

『 オレと結婚して下さい。 』

なっ!!お…親父!?

『……惇哉さん……』

ハッキリと…ちゃんと聞こえたぞ…

『……あ…』

ハッキリとプロポーズの言葉を言った親父は…
そのまま…皆の見てる前で……堂々と……

母さんにキスをした……

「なっ!!!」
「わぁ…」
「ちゅぅ…」

オレ達3人はそれぞれ別々の声を上げた。

『 「返事!どうされるんですか!!」
  「楠さん今のプロポーズですよね!!」
  「公開プロポーズですか!!」
  「返事!!返事聞かせて下さい!!」 』

レポーターが口々に捲くし立てる。
そんな状況で母さんがパニックになってる…

『由貴の正直な気持ちを答えてくれればいいから…』

そんな母さんの状況がわかって親父がそっと話し掛けた。

『………』
『正直に…言って…』
『惇哉さん…』

その後…母さんは…

『……宜しくお願いします。』

そう返事をして頭を下げた……



「…………」
「…………」

見終わって…どうしてこんな恥ずかしい様な…照れる様な感覚に襲われてるんだろう…

何気に心臓がドキドキしてるし…
あの後もレポーターに捲くし立てられても親父は平然と返事をして…最後に…

『あ!そうだ…今回オレ達の事リークしてくれた人には感謝してます。どうもありがとう!』

なんて気障なセリフまで言ってた!まったく…
週刊誌にすっぱ抜かれたのかよ!!



「何だかドキドキしちゃった。」

DVDを元に戻して玄関で白根がそんな事を話し出した。

「そ…そう…」

オレは何だか居ても立ってもいられない気分だ。
それに恥ずかしいと言うか…ドラマで親父のラブシーンなんかは大勢に見られるのも
平気なのに…さっきのはどうにも…自分の親のキスを同級生に見られるなんて…

って言うか全国放送か!?母さんが口止めするわけだ…

「お母さんには内緒にしとこう…羨ましがられてうるさいから。」
「そ…そうだな…」
「どうしたの?大丈夫?」
「ああ…まあ…」
「楠君知らなかったの?」
「ああ…母さんが口止めさせてたみたいで…」

気持ちはわかる…

「でも素敵だったよ。羨ましいな…」
「え?!あれが?大迷惑じゃん!」
「あんなに気持ちのこもったプロポーズだったじゃん。お父さん真剣だったし…」
「まあ…確かに…」

ってあの場面でふざけたら母さんのカミナリどころじゃない…

「ありがとう。楠君。」
「え?」
「今日はあたしにとってすごくいい日だった。」
「!!」

そう言って白根がニッコリ笑った…そんな笑顔にオレは久しぶりドキンとなる。
昔と変わらない白根の笑顔…そう言えば最近この笑顔も見てなかったかも…

それって…オレのせいだったのか…

「久しぶりに楠君と話せて優しくしてもらって…あんな素敵なDVDまで見せてもらって…」
「そう?まあそう思ってくれるなら…」

オレも救われる気分だよ…

「それに…楠君と仲直りも出来たし。」
「白根…」
「え?出来て…なかっ…た?」

急に白根の顔が不安げな顔になる…

「はい。握手!」

今度はオレから白根に手を差し出した。

「え?」
「仲直りの握手!結局さっきしないで終わったから。」
「……楠君…」
「ん!」

差し出した右手をちょっと動かして催促したら白根が怖ず怖ずと自分の手を出した。

「遠慮なんて白根に似合わないぞ。」
「う…うるさいわね!!」
「それにオレと握手なんて超レアだぞ。真由以外有り得ないんだから。」
「な…何が超レアよ!たかがちょっとくらい顔が他の人よりイケてるだけでしょ!
生意気の自意識過剰よ!!」

そう言いながらぎゅっと手を握られたからオレもぎゅっと握り返した。

「顔が真っ赤だぞ白根。」
「うるさい!あたしとの握手だって楠君より超レアなんだからね!
なんせ他の誰とも繋いで無いんだから!」
「へえーそうなんだ。」
「な…何よ!」

同年代の女の子とこんな風に話したのは本当に久しぶりで…

でもそれは相手が白根だったから?



その日の夜…帰って来た親父にどうしても言いたい事があって…

「何だよ?」

帰って来た親父を睨んでたら流石に気付かれた。
ってそのつもりで睨んだんだけど…

「 気 ・ 障 ・ っ !!! 」

「はあ??」


親父は訳がわからないって顔してたけど…はあ〜オレはスッキリした。

楠侠哉16歳!親父にはこれからも色々迷惑掛けられそうだけど…

オレはオレらしく頑張っていくつもりだ!!