出会い編 03
「由貴はオレの世話係なんだよな?」
帰り際彼に絡まれてからかわれて…挙句の果てにそんな事言われた…
「 !!!! 」
「な?」
そう言ってにっこりと微笑む!!
「………」
確かに…そんな事になってるけど…でも…
「決めた!今まで遠慮してたけどもう止める。」
「え?い…今まで遠慮…してたの?」
「ああ。」
「…………」
アレ……で?
「由貴の世話になる事にする!!」
「ええっ!!」
「早速だけど由貴。」
「な…何よ……」
ええっ!!!いきなり??
「オレの部屋でオレの為に美味しいコーヒー淹れて。」
「は?」
「ほら!急いで!」
「え?ちょっ…まっ…今から?あなたの部屋で?」
「そう!喜べよ! 『 楠 惇哉 』 の自宅に入れるんだから!」
「べ…別に入りたくなんか無いんだけど……」
「由貴こそ遠慮しなくていいんだよ。」
「遠慮したいんだけど……ダメ?」
「ダメ!!」
「そんな……」
「オレが… 『 楠 惇哉 』 がお招きしてるのに断るなんて何考えてるんだよ!由貴!」
「だって…急に…そんな…」
「満知子さんにだって言われてるんだろ?オレの世話をちゃんとする様にって!」
「………」
それはそうなんだけど…まさか本当にそんな事になるなんて…思ってもみなくて……
「オレがオレの部屋でコーヒー淹れてって言ってる…由貴。」
「 !!! 」
「オレが言ってる…由貴…わかった?」
その声の響は…今までの彼のどんな言葉より…私の頭と身体に響いた…
何故か心臓が 『 トクン 』 と波打って……私の身体に刻み込まれた気がした…
「………わ…わかったわよ!その代わり変な事したらいくらあなたでも訴えますからねっ!!」
「使用人相手にそんな事しない。」
「ぐっ!!!使用人って言わないでよっ!!」
「じゃあ世話係?ああ!メイド?いいかも!メイドか ♪ 」
「どれも嫌よっ!!」
「ご主人様っていいんじゃない ♪ 」
「だから嫌だってば!」
「今度オレの世話をする時はメイド服着てもらおうかな ♪ あ!良いかも ♪ 」
「ふざけないで!!!絶対嫌ですからねっ!!!」
そんなからかい言葉と文句を言いながら…静かに彼の部屋の玄関のドアが閉まる……
ここに越して来て初めて……彼の部屋にお邪魔した。
「うっ!濃い!」
「ぶっ!薄い!!」
言われるまま彼の部屋のキッチンでコーヒーを淹れてる。
なのに作るコーヒー作るコーヒーをことごとくケナして…作り直させられる!
「もういい加減にしてよ!ちゃんと淹れてるわよ!」
「オレの好きな味じゃ無いんだよ!もう…オレの好きな味は…」
そう言ってコーヒーメーカーに微妙な分量のコーヒー豆を入れていく…
彼の好みはモカとキリマンジャロを微妙な配分で入れる事…なんだけど…
「ほら!この味だからな。」
「………」
淹れたてのコーヒーを渡された。
コクリと一口飲んだら……
「美味しい…」
「だろ?」
「だったら自分で淹れた方が早いし無駄にならないし好みの味で飲めるじゃない。
別に私が淹れなくても…」
「由貴がオレの為に淹れる事に意味があるの。」
「どんな意味よ。」
「オレだけの為に淹れてくれるって事に意味があるの!」
「……ちゃんと淹れてくれる相手いるでしょ?嫌よ私…あなたの彼女と鉢合わせするの。」
「そんな相手いないよ。」
「え?いないの?」
「今は…ね。」
「じゃあ前はいて…これからも出来るかもしれないって事よね?」
「前はいた…でも此処に越して来てからは今の所誰もいない。
この部屋に入ったのも女の人は満知子さんと由貴だけ。」
「うそ?」
「ウソじゃ無い…まあこれから先は分らないけどね ♪ 」
ちょっと前に付き合ってたといえる相手とはもう殆んど会ってなくて…
前にどこかのテレビ局で会った時には仕事が忙しくて
オレとはもう会う時間が無い…なんて言ってそれっきりだ……
自然消滅に近い状態……きっともう会う事は無いと思う……
「そうだ…由貴夕飯食べたの?」
「まだよ…帰って支度しようと思ってたのに誰かさんに部屋に引っ張り込まれたから!」
「引っ張り込んだわけじゃないじゃん。お招きしてあ・げ・た・んだろ!」
「感謝しろって言い方ね!」
「何にするつもりだった?」
「え?あ…パスタにでもしようかと思ってたけど…」
「じゃあオレのも作って。」
「は?」
「オレも夕飯まだだからさ。」
「なっ…何で…」
「満知子さん命令だろ?」
「!!」
そう言えばお母さん…食事の支度が何だとか言ってた…
「シャワー浴びたら行くから作っといて ♪ 」
「………え?何?ウチに来るつもり?」
「何で?ダメ?」
「ダ…ダメに決まってるでしょ!」
「でも材料とか持って来るの面倒だろ?オレが行った方が早い。」
「………」
そ…そんな…
「女1人の部屋に男の人入れる訳にはいかないから…」
「今とどう違うの?」
「え?あ…」
そっか!部屋が違うだけで状況は同じなんじゃない!
「この固い頭でもわかった?」
「イタッ!」
オデコをデコピンされた!
「じゃあそう言う事で ♪ また後でね ♪ 」
「 ……… 」
あっさり外に出されて… パ タ ン! と…玄関のドアを閉められた。