出会い編 05





「へふしゅ!」

「!!」

エレベーターの中で彼が小さなくしゃみをした。

彼の所属するプロダクションに勤め始めてもう3年目になった…
ここに引越してもう5年目になる…

「うつさないでよ!」
「ヒドイな由貴…心配もしてくれないの?グズッ!」
「あ!誰か噂してるんじゃない?きっと悪口よ!」
「確か悪口って2回じゃなかったっけ?って違う!心配してって言ってるの。」
「誰がくしゃみくらいで心配なんてするもんですか!」

「なんかさ由貴と話してると学生時代を思い出す。」

「何それ?」

「んー真面目な優等生のクラスメイトと話してるみたいでさ…由貴ってどんな女子高生だったの?」
「……ノーコメント!」
「ふーん…じゃあ勝手に想像しとこ。」
「ちょっと!変な想像しないでよ!」
「変なって?」

「へ…変は変…よ…」

「わあ由貴ヤラシイ ♪ 」

「!!!」

「くっくっ…相変わらず由貴ってからかうと面白い ♪ 」
「私は不愉快よ!」

クスクス笑ってる彼をシカトしてさっさと自分の家に入る。

久しぶりに帰りのエレベーターで彼と鉢合わせした。


「あーもうむしゃくしゃする!先にお風呂入ろう!」

お風呂に入ったら少しはさっぱりした。

「はあ〜気が晴れ……」

彼の顔が頭の中に浮かぶ…あの人をバカにした顔が…

「ああ!!余計腹立って来た!!」

冷蔵庫から缶ビールを取り出して一気に半分ほど飲んだ。

多少気が晴れたのにそれ以上に気分の落ち込む音がした。
玄関のドアが連打されて…そんな事するのは彼しかいない…まったく…

私はテーブルの上に置いてあった眼鏡を掛けて玄関に向かう。





「由貴?」

「……………」

オレに文句を言いながらビールを飲んでた由貴がテーブルに俯せで動かなくなった…

「……寝た?由貴?」

「…………」

やっぱり反応無し。

「信じられない…マジ?」

「……ん…」

由貴がテーブルの上で寝返りをうった。

「……………」

とりあえず自分の食事を終わらせて食器を流しに運ぶ。

「このままって訳にもいかないよな……由貴!」

名前を呼んで肩を揺すったけど起きる気配はない。

「仕方ないな…よっ…と!」

テーブルに俯っつぷしてる由貴をお姫様抱っこで抱き上げた。

「……ンン…」
「 !! 」

そう…由貴も女なんだよな…
抱き上げた身体は柔らかいしフンワリとイイ匂いがする…風呂上がりの石鹸の匂いなのか…

「失礼。」

一応断ってから由貴の部屋に入った。
今まで入った事あったかな?

「…せっ…と!」

静かに由貴をベッドに下ろす。

「…………」

本当に起きる気配が無い。
メガネを外してベッドの棚に置く…メガネを掛けてない由貴の顔って
オレはあんまり見た事が無い。

昔2人で廊下に倒れ込んだ時…間近で由貴の顔を初めて見た…
良く見るとなかなかの顔立ちでもしかして由貴って綺麗なんじゃないかと思った事があった。

確かめようと無意識に延ばした手は由貴の文句で止まって確かめられなかったけど…

「…ふあぁ…ねむっ…」

食欲が満たされて睡魔が襲って来た。

「明日起きれるか?」

イマイチ自信が無かった…明日朝早いんだよな…

「…………」

眠ってる由貴をしばらく見つめて部屋を出る。

「確か置いてあったよな。」

洗面所に行くとオレの為の由貴の家用の歯ブラシ見っけ ♪
寝る準備をして由貴が寝てるベッドに潜り込んだ。
目覚ましのセットも忘れない。

「おやすみ由貴。明日の朝ヨロシク。」

覗き込んだ由貴は淡いピンクの頬で…気持ち良さそうに眠ってる…

「こうしてると可愛いのにな…」

え?可愛い?

由貴がオレの世話をする様になってから確かに親密度が増した気がするけど…

それは男と女の関係では無くて…何だろう…

仲のいい友達同士みたいな…姉弟みたいな…そんな感覚に近い…

だからこんな風に寝る事も出来る。

「…………」

そう思いながらも……

片腕を由貴の身体に絡ませて…オレの方に引き寄せて眠ったのは……

何でなんだろう……


「あったかくて…柔らかくて…いい匂いで…気持ちいい……由貴……」



オレはそんな事を呟いてあっという間に眠りについた…


次の日の朝…由貴にこっぴどく怒られるとも知らないで……