02





高級クラブ『雅』のママの高梨雅さん。
推定年齢30代後半かしらと言うお年頃…
独身で言う事を聞いてくれる殿方は数知れず…と言う噂。
あたしとは馴染みのお店の店員と常連のお客様と言う関係。

「でも私が声を掛けなかったら本当に彼とやり合うつもりだったの?」

2人で高梨さんのお店に向かって繁華街を歩きながら呆れた顔で覗き込まれた。

「ハイ!ああ言う男は1度痛い目を見ないと!!」
「返り討ちに遇っちゃうわよ。」
「そんなに?」
「噂だけど…」
「ヘエ……」
「でも真琴ちゃんは少し 『 ソレ 』 押さえないと彼氏出来ないわよ。」
「……すぐ身体が反応しちゃうんですよね…子供の頃からの習慣で…
今日だってせっかく久しぶりの男の人とのデートだったのに…」
「前のデートの相手は目の前で引ったくり犯殴り倒したんですっけ?」

「違います。蹴り倒したんです……何であたしがデートって時にそう言うのに
遭遇するのかしらっっ!!きっと恋の女神に嫉妬されてるんだわ!」

「でもいくら男性とお付き合いが無いからって乗り気の無い殿方とは
止めた方がいいんじゃないしら?自分を安売りしちゃ駄目よ真琴ちゃん!」
「別に安売りしてるわけじゃないんですけど…あんまりにも出会いが無くて…
チャンスがあったらどんどんチャレンジしようと思って…」
「じゃあ黒沢クンともチャレンジするのね!」
「えっ!?何で?アイツは例外!願下げです!」
「どうして?あの人なら真琴ちゃんのその腕力!受け止めてくれるわよ。話しといてあげるから ♪ 」
「や…やめてくださいよぉ!!絶対ですよ!!」
「やぁねぇ照れちゃって!結構上手くいくかもしれないわよ。キスまでした仲でしょ」
「あんな事する常識の無い男なんて嫌です!」
「楽しませてくれるわよ。彼楽しい人だから。」

「絶対嫌です!」




「いかがですか?いつもよりちょっと短めにしてみました。」

鏡に写った40代のご婦人に営業スマイルと音声で話し掛ける。

「軽い感じでいいわね。」


満足して頂けたらしくご満悦で帰って行った。

「ありがとうございました。」
お店の入口のドアまでお見送りして下げた頭を上げると…

「 オッス ♪ 」

「ゲッ!!」

目の前の歩道にあの男が片手を上げて立っていた。


「美容師だったんだな。」
「……高梨さんってば……」
「アイツじゃ無いかんな。」
「え?」
「アイツの店の娘にお前の人相聞いたらすぐ分かった。」
「………まったくみんな口軽すぎ…」
「いや…結構頑張ってたぞ。」

「は?」

「3回イかせたらやっと喋った。」

「………は?」

この男は何を言ってるのかな?

「何でだか意地になっててなかなか話さないから。」
「………」

暢気にタバコ吸うんじゃない!!

「……で?一体何のご用でしょうか?今仕事中なんですけど?」

これでも100歩譲って敬語で話しかけた…顔は引き攣ったけど!

「昨日の続き。ホテル行くぞ!」

ブ チ ッ !! っとキレて正拳突きをコイツの顔面に1発…

「店の連中と客が見てんぞ。」
咥えタバコでニヤリと笑われた。
「ぐっ!!」

「逃げたって無駄だから…じゃあ仕事終わったらな。」

「………」


終わったらなって…誰がアンタの事なんて相手にするもんですか!!

そう心の中で呟いて…
振り向いてお店に戻った時にはまたいつもの営業スマイルで店内に向かって微笑んだ。




「ふあ…あ…あ…あ……濯匡ちゃ…アンっ!!ああああっっ!!!!」


とあるマンションの一室でオレに攻められて力尽きた女がベッドに崩れ落ちた。
こいつはある高級クラブで働いてる沙耶と言うホステスだ。

「はぁはぁ…やっぱり…濯匡ちゃんは…ううん…若い男はいいわね…フゥ…」
「60ならまだいけんじゃねーの?」
オレはまだ火の点いていないタバコを咥えながらシャツを羽織った。
「そりゃ…多少は…ね…はぁ…でもやっぱり持久力が無いのよね…
久しぶりよこんなにヘトヘトになったの ♪ 濯匡ちゃんのお陰 ♪ 気持ち良かったぁ ♪ 」
「どういたしまして。でもバレたらうるさいんじゃねーの?」
オレには関係ないけど。
「そんなドジ踏まないわよ!甘えておだてて…
今までそうやって何人もの親父達を手玉に取って来たんだも〜ん ♪ 」
「強いねぇ〜ここでやっていけてる女は…」
「こうやって気分転換もしてるからよ。ありがとう濯匡ちゃん ♪ ちゅっ!」
抱き着かれて頬にキスされた。

「また遊びに来てね ♪ 」

「そうだな…気が向いたらな。」


本当は柊夜に言われたからなんだが…それはコイツには内緒だから黙っとく。




ピンポ〜ン ♪

「あら…誰かしら?」
帰ろうと玄関に向かう途中でチャイムが鳴った。
「はい?」
オレは気にせず靴を履く。

「お!」

ガチャリと玄関が開くと視界一杯にカラフルな色の花が飛び込んで来た。

「お誕生日おめでとうございます。いつもごひいきにして頂いております榊原様に
『カペッリ』からささやかですがお祝いのお花をお届けに参りました。」

「あら…綺麗…」

「あ!」
「え?………なっ!!」

目の前にあの最低最悪男がまた立ってた!!

なんていう偶然なのよーーーーっっ!!



「………」

「よっぽどな運命の赤い糸で結ばれてんだな。オレ達 ♪ 」
「アンタが運命の赤い糸なんて言わないで!赤い色が黒くなる!」

まったく…何でこんな確率で…
これじゃこの男に会わない様にってこの仕事引き受けた意味が無いじゃないよぉ!!

「って何で一緒のエレベーターに乗ってるのよ!」

当然の様に隣に立ってるんですけど?

「何でってこのままデートだからだろ。」
「じょ…冗談でしょ!!誰が…え?!」

エレベーターの角に追い詰められてアイツが両手を壁についてあたしを捕まえた。
しまった……油断した…

「あ!ちょっとやめて!」
「何で?」
「あんたおかしいわよ!!自意識過剰なんじゃないの?」
「自意識過剰?」
「誰でもあんたとどうにかなりたいと思ったら大間違いなんだからっっ!」
「オレはオレがしたいからするだけ。相手がどう思って様が関係無い。」
「だからそれって犯罪だって言うの!」
「でも今まで訴えられた事なんか無い。」
「………どうせ脅したりしたんじゃないの?」

何か脅しになる様な証拠を握ってるとか……ありえそう……

「するか!そんな事!!」
「………とにかくあたしに構わないで!」
「何で?」
「!!」

アイツが更に近付いて来てあたしの頬に手で触れようとするから…

「触らないで…」
「何でだよ?まさか怖いとか言わないよな?」

「…あの人を抱いた身体であたしに触れないで!!」

花を受け取ったお客様はスケスケのキャミソールにガウン姿だった…
裸の身体が透けて見えてたし…どうみてもついさっきまで2人で何をしてたのか
一目瞭然だった…それにコイツからは微かに香水の匂いも漂ってくるし…

「何だ?もうヤキモチか?」
「はぁ!?一体どんな思考回路?」

「だってそうだろ?オレの事嫌だって言ってるのに何でそんなに怒ってんだよ?」

「なっ…!!お…怒ってなんかいないわよっっ!!頭おかしいんじゃないの!?
それが自意識過剰だって言うの…あ…」

チュッ…っと軽いキスをされた…

「や…ちょっと…」

顔を反らしてもアイツの手でアイツの方に向かされて今度は舌を絡めたキスされた…
おかしい…絶対おかしい!!

ああ!きっと久しぶりのキスであたしも舞い上がってるんだ!

え?舞い上がる?この男…に?


「ちょっといつまでくっついてんのよ!離れろっっ!!」
「お!」

ドン!!とアイツの身体を押し戻した。

「あれ?まだ1階に着かないの?」
確か3階だった筈だからそんなに時間が掛かるはず……
「下に着いてまた上に向かってる。最上階押した。」
「ええっっ!!もう何でそんな事…」
「2人でいたかったんだろ?しっかり目瞑ってたぞ。」

カァ……!!っとなったのが自分でわかった!

「バッ…バカ!!そんな事ないって言ってるでしょ!!それに時間の無駄!!」

「ああ…もうウルセェ!!いつまでゴネてっとホントにヤルぞ?」

「!!!そ…そんな事したら本気でぶっ飛ばすわよっっ!」

「そういやまだ決着ついてなかったな…今からやるか?二度と反抗出来ない様に
叩き潰してオレに服従させてやる。そうすりゃ納得出来んだろ?真琴 ♪ 」

「!!!なっ…馴れ馴れしく人の名前呼ぶなっっ!!」
「何でだよ?名前くらい呼ぶだろ?オレはた・く・す…濯匡でいい。」
「誰が呼びますかっての!黒沢さん!」
「……可愛くねぇ…ん?」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
アイツの携帯が鳴った…

「…何だよ?ああ?構わねぇけどチャント金払えよ!!……ああ…じゃあ今から行く。」

良かった帰るんだ…早く帰れ!!

「次は絶対オレとするんだからな!覚えとけ!」
「誰が…あ…」

どんなタイミングなんだろう…
こっちが構える前にいつもコイツはあたしにキスをする…

「……んっ…んん……」

がっしりとまた顎を掴まれた…今回は腰にも腕を廻されたし……

「じゃあ明日だからな…」
「……べーーーー!!!」

ニヤリと笑って昨夜と同じ…サッサと…1度もあたしを振り向きもせずに行っちゃった…


って…何であたしこんなにガッカリしてんの???
何恋人が帰っちゃったみたいな雰囲気???

ヤダヤダ……冗談じゃ無いってば!!!