09





「お疲れ様。」

やっと1日の仕事が終わって家に向かう…
昨夜アイツとの電話の後からあたしの気分は憂鬱…
アイツはあんな風に言ってたけどあれからあたしの周りでは別に何も起こる気配は無い。


「…………」

どっか…飲みにでも行こうかな…なんて1人でふらふらと歩いてた。


「1人でフラフラすんじゃねーよ。人の言う事は聞け!」

「!!!」
すぐ後ろからアイツの声がした……何で?

「真琴!こっち向け!」

やだ…心臓がドキドキする…

「威張んないでよ!あたしとあんたは赤の他人なんだから!
…でも何で?…帰って来るのは2日後って…」

未だにアイツの方を振り向きもせず文句だけは言ってる…

「お前の為に帰って来てやったんだろ?」

「!!!」

更に心臓がドキーンって!!!

「ウソ…ばっかり…」

ヤダ…声が上擦る…でもその言葉でアイツの方に振り向いた。

「って言ったら満足か?」

「は?」

アイツがいつもの如く咥えタバコでニヤリと笑ってる!!

「!!!」
なっ!!カチンと来たっっ!!
「最低!!」
言うと同時にアイツを引っ張たいてやろうと振り上げた腕はあっさりと空振りした。
「当たるか。…イテッ!!」
よけられるのは分かってたからよけた瞬間アイツの足のスネを蹴ってやった。
「甘いのよ!フン!」
「…………」
「何よ…」
何とも不思議な眼差しで見つめられてる。
「いや…送ってくから帰れ。」
「は?何でよ!」
「まだ安全じゃ無いからだよ。」
「何よ安全って…?」
「色々だ。」
「は?」
「いいから行くぞ。」
「あ…ちょっと待ちなさいよ!」

サッサと歩き出さないでよ!!



「ちょっと待ってよ!」

「何だよ。」

前を歩いてるアイツに声を掛けた。

「お腹空いた!」
「家帰って食え。」
「ヤダ!作る気しないもん。」
「女だろ?手抜きすんな。」
「……いいでしょ!!」

誰のせいだと思ってんのよ!あんたのせいじゃないのよ!!

「仕方ねえな…正臣んトコ行くか?」
「今日は違う所がいい…」
今は正臣さんの所は行きにくい…
「じゃあ何がいいんだよ?」
「お酒も飲みたい。」
「………」
「何で呆れた顔すんのよ。」

「いや…お前も女なんだなぁって…な。」

「は?」

意味が分からない?

「いっちょ前に男に甘えるのか。」

「べ…別にそんな事思って無いわよ!」

「ふ〜ん…やっぱそうか。」
「なっ…何よ!」

「お前男に甘えた事無いだろ?」

「!!!」

「図星。」
「そっ…そんな事無いわよ…」
「ふ〜ん…」
「………」

あっさりとウソがバレてるのが何とも辛い……


「あんたこそ女の子と歩く時1人でそんなスタスタ歩くの?」
「ん?」
「………」
「別に腕組んだっていいんだぞ。でもお前がしないだけだ。」
「!!す…するわけないでしょ!!」
「じゃあ良いだろうが。」
「……別にいいけど…」
「………ったく。」

「!!!」

グイッと肩に腕を廻されて抱き込まれた。

「このくらい密着してんの。真琴には刺激強すぎか?」

ほとんど目の前にアイツの顔があって…物凄いびっくりした。

「いつでもキスができるようにな…」
「…………」

やだ…あたし顔…真っ赤じゃ無いわよね……

「ちゅっ……」
「……ぁ…」

そう言った濯匡が……あたしの身体をグイッっと持ち上げて……

そっとキスをしてくれた……



「あ…あ…あ…んあ…も…う…お腹…空いたって言ったのに……」

言いながらアイツの髪の毛に指を埋めた…

「お酒…飲みたいって言ったのに……アウッ…!!」

押し上げられる身体をアイツにしがみついて耐えた。

何でだかあのままホテルに直行で……あたしはまたアイツに攻められ続けてる……
いつもの濯匡の抱き方で…いつもの濯匡の身体で…気持ち良くてあったかい……


「ンア!ア!ア!アア!」

「まずはこっちから腹いっぱいにする。」

「………濯匡…」

「ん?」

「そんなに…色んな娘と……したい?」

「は?」
「……ううん……」
やだ…あたし何聞いてるんだろ…
「……何で真琴はこの時しか素直にならねぇんだか……」
「え?」
「オレの事を名前で呼ぶのこの時だけだろ……」
「…そ…う?」
「惚けんな。」
「別に惚けてなんか…」

頭では濯匡の事は忘れなきゃ…って思う…
だって濯匡にとってあたしは特別な相手にはなって無いから…
特別な相手を作る気はないのかもしれないって…思うから…
きっと昔の事があるからだろうけど…でも…濯匡に会うと…
そんな気持ちはどこかにいっちゃって…本当は独り占めしたい気持ちになってる…

え?…やだ!!…あたしが…この男を独り占めしたいですって?

「………う…」

「ん?」

「も…う…いい加減にして!!」

「!!」

グイッっと濯匡の身体を押し戻した。

「真琴?」
「身体だけの関係なんて御免なのっっ!!」
「は?今更…」

「今更でもこれからでもよ!!あたしとしたいならちゃんとあたしに交際申し込みなさいよ!
『好き』って言ったら考えてあげる!」

「なっ…!!誰がそんな事言うかっっ!!」

「じゃあ何も問題無いわよね!!どいて!!」

「!!!」

アイツが思いきりムッとした顔をして……あたしから……離れた……

何とも気まずい空気の中2人共身支度を整えて…アイツが先に部屋を出て行った……



「………」

胸が苦しい…

でも…これが正解だもの……いつまでも実らない相手と身体だけ繋がってたって……
あたしは…普通の恋がしたい…毎日平凡でいいから…
デートして一緒に食事して同じ時間過ごして……絶対浮気しない男がいい……


「…って誰が泣くかっての!!」

引きずらなきゃいいけどな……
はぁ…とんでもなく落ち込んで…重い足取りでホテルを後にした…

まだ…アイツの温もりが身体に残ってる…

アイツの掌の感触も…アイツの重さも……



ホテルを出て直ぐにあたし横に黒いワゴン車が停まった。

「?」

いつもならきっともっと気をつけてたと思う…
だけど今は精神的ショックが大きくて反応が遅れた。

後ろのスライドのドアが開いてガタイの良い男があたしを後ろから羽交い締めにして口を塞ぐ。

「ウグッ!!!」

何?コイツ…あたしを連れ込もうなんて!!甘いっての!!

気合いを入れて反撃しようとした身体が止まる…もしかして…濯匡をおびき出す為?

「!!」

ガバッと後部座席に引っ張っり込まれた。
同時にドアが閉まる。

「よし!出せ!」

急発進で車が動き出した。

「2人でやりまくりか?」
「………」
未だに後ろから羽交い締めのまま口を塞がれてる。
「本当なら今俺達の相手させてもいいんだけどよ…あの野郎の見てる目の前でやってやるよ!
楽しみに待ってな…アイツよりいい思いさせてやる…クックッ!」

そう言ってあたしの胸を揉んだ!

「!!!」

コイツ…今すぐそのイヤラシイ顔面に頭突き入れてやるっ!!



「……………」


なんて思ったけど…

いけない事に濯匡があたしを助けに来てくれるか…確かめたい衝動にかられて…

大人しく捕まる事にした………