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「…………」

濯匡がさっきからずっと無言。

「あたし今かなり素直な事言ってると思う…今回の事だってそりゃショックだったけど…
一番辛かったのは…濯匡以外の男に身体を許しちゃったって事だった…
もう濯匡には会えないって思ってたし…」

「………」
「あ…そうだ!」
「?」

あたしは脱がされた自分のシャツで胸を隠しながらバックの中から
あの写真を出して濯匡に渡した。


「何だ?」
「4日前かな?あたしのお店に送られて来た。」
「この写真…」
「あたしが連れ去られた時に入ったホテルだと思う。」
「………4日前つったな?何ですぐオレに言わない?」
「え?あ……」
「そしたらもっと打つ手があったかもしれないだろ?」

「………」
「真琴!」
「!!……だって……」
「だって何だ?」

「濯匡にこれ以上辛い思いして欲しく無かったから…」

「真琴…?」

あたしはまともに濯匡が見れなくて…俯いちゃった…

「別に何されたってわけじゃないし…ちょっと様子見てからって思って…」

オレに辛い思い?ああ…正臣か柊夜に聞いたのか…
そう言えばさっきもオレに謝ってたっけ……そう言う事か…


「怒っ…た?」
「ん?」
「黙ってたから……」
「まぁな…でもオレに気を使ってくれたんだろ?」
「裏目に出ちゃったみたいだけど…やっぱりその写真も関係してるのかしら?」
「タイミング的にそうだろうな…」

オレはそんな真琴との会話の間にもある考えが頭に浮かぶ…
写真に柊夜の店に突然現れた朔夜…まったく…

「声掛けて来た男の顔覚えてるか?」
「会えばわかると思う…見た目はホストって言われても違和感無くて…
いい所のお坊ちゃまって感じ…背は…濯匡よりは低かったかな…」
「………」
「濯匡?」
「いや……」
「………」
「?何だ?」
「ううん…」

だって何だかさっきのあたしへの返事が今更的な感じで…掻き消えちゃったみたい…
もう一度なんて言えないわよ…何となく…身体を隠してたブラウスに袖を通した。

「!?何で着てる?」
「だって…何だかそう言う雰囲気じゃないかなぁ…って…」
「さっきの条件だけどな…」
「え?」

「もう少し可愛いげがあれば…合格なんけどな…」

「可愛いげ?……やっぱり無いかな?」

まあ…自分でも自覚してるけど…

「努力してみるか?」
「…!!なんか…ムカつく!」
「だからそれが可愛いげ無いんだよ…あの時は可愛い顔と声出すのにな。」
「!!も…いやらしいわねっっ!!」
「いやらしくて結構!それがオレだしオレの女になるならそんなの覚悟しないとな。」
「……わかった…」
「!?わかったのか??」

スゴイびっくりされた…何でよ?

「?何で?わかったらダメなの?」
「いや…お前オレの事そんなにマジに思ってたとは思わなかったから…
呆れてたんじゃないのか?オレの事?」

「最初に…此処で濯匡に負けた時…もう濯匡の事が好きになってたみたいなんだもん……」

気付かないフリしてたけど…じゃなきゃ何度も濯匡に抱かれたりしない…

「!!」

あ!また驚いてる…

「………」

何か言いなさいよ…

「ホント素直じゃないな!」
「ちょっと…」

濯匡が子供にするみたいにあたしの頭をクシャクシャと撫でた。

「ンッ!」

そのまま後頭部から項を掴まれて思いっきり口を塞がれた。

「んっ…あ…」

勝手に声が漏れる……

「濯匡…」
「ん?」
「返事聞かせて…ダメなら…諦めるから…」
「何だ…急にしおらしくなって?」

「だって…身体だけの関係はあたしには出来ないししたくない…
それって濯匡はあたしの他にも女の人がいるって事で…
そしたらあたしいっつもヤキモキしてなくちゃいけない…
そんなの嫌だから…だったらきっぱり諦める。」

時間掛かるかもしれないけど…

「……真琴の男になる条件って何だ?」

「え?あたしの?」

急にそんな事聞かれたけど……考えた事無かった…

「え…んー…あたしを守ってくれて…あたしを支えてくれて…絶対浮気しない人!」

「後は…?」
「あと…?後は………身体の相性がいい人……」

うわっ!何だか恥ずかしい!

「何だじゃあオレは軽くクリアしてるな。」
「え?絶対浮気しない人よ?」
「しないけど?」
「……うそ…あたしと知り合ってからだってあんなに他の女の人と付き合いあったじゃない!」
「仕事絡みとかな。オレ別にそう言うの昔からあんまり気にしない質だから…」

「遊び人…」

思わず嫌味を言っちゃった…

「!!…別にお前と付き合ってたわけじゃないんだから浮気にはならないだろ。」
「でもあたしと……した後でも…他の女の人と出来たんでしょ?」
「色々と事情があるんだよ。」
「じゃあこれからもそうなんでしょ…色々事情があるって…仕事だからって
他の女の人相手するんだ…そんなのヤダ…」

仕事でって言うのも良くわからないけど…

「そしたらするわけ無いだろ。バカだな。」
「え?」
「オレは浮気はしない男なの!だから相手の浮気も許せないけどな。」
「…うそ…」
「ウソじゃない。で?どうする?」
「え?」
「オレは真琴の男になる条件は満たしてるぞ。」
「…どうするって…だってあたしは…濯匡の女になる条件満たしてないんでしょ…」
「じゃあ可愛くオレにお願いしてみれば?」
「ええ!?い…嫌よ恥ずかしくてそんな事出来ないから!!」

「真琴…」

「!!」

真っ正面で人差し指1本で頬をなぞられた…それだけで身体がゾクリとなる…

「あ…」

思わず目をつぶるとそのまま人差し指で顎を持ち上げられる…

「真琴…」
「やだ…耳元で囁かないで!」
「何で?」

やだ…濯匡が話す度に濯匡の息と声が耳に掛かって…また身体が…

「だって…慣れてない…もの…」
「真琴は男に慣れてそうなのに本当は全然なんだよな。」
「だって…初めは大人しくしててもすぐにボロが出ちゃうんだもの…皆引いちゃうのよね…」
「ひ弱な男ばっか選ぶからだ。無い物ねだりか?本当は守ってやりたいのか?」

「違うわよ!あたしは守って欲しいの!引ったくりに遭っ…ても…
あたしを自分の…後ろにかばって…くれる…ひ…と…んっ…」

途中から濯匡が啄む様なキスをするから…
最後はお互い相手を求める様な思いきり舌を絡めるキスをした…

あたしは濯匡に抱き着いて…濯匡はそんなあたしを抱きしめてくれる…


「いいの?」
「可愛い女じゃないって事か?」
「……違くて!…他の男と…寝た女を…」
「…ああ…まあ今回は不可抗力だろ?逆にお前の方が被害者だと思うし…」
「そうかもしれないけど…」

「もう…忘れろ…」

そう言ってあたしを抱き寄せてオデコにキスしてくれた。

「…うん…」

あたしはそんな濯匡に目をつぶって寄り掛かった。





「…ん…ぁン……」

お互いを離さない様に相手の身体に腕を廻す…

「あっ…あっ…濯匡……」

いつもと同じ…濯匡をあたしの中で敏感に感じる…
押し上げられると息が詰まるし濯匡の身体があたしから離れると力が抜けちゃう…
そんな事を繰り返されてあたしはどんどん身体の奥が疼き出して
濯匡にしがみつく腕に力が篭る…

濯匡は自分が抱けばあの暢と言う男を忘れられるかと言ってたけど…
ずっと意識が無かったあたしはあの男にどんな風に抱かれたのかわからないから…
あたしの中ではあんまり実感が無い…


「あっあっあっ!!濯…匡!!」

もう…そんな事どうでもいい…今は濯匡を感じてたい!!


「…真琴…オレの女になれ…」
「あっ…」
「オレが守ってやる…オレが支えてやる…だからオレの女になれ…」
「も…こんな…時に…」
「こんな時だからだよ…一番素直になれるだろ?」
「アン!!もっ…バ…カ…」
「真琴…」

何でそんな事言いながら…こんなに激しく押し上げるのよ!!
ダメ…返事が出来な…


「あっあっあああっっ!!!」

本当は…返事をするつもりだったのに…





「…ひゃ…」

濯匡がちょっと動いただけでそんな声が出る…

「…まだ返事聞いてないぞ…真琴…」
「はぁ…はぁ…ちょっ…待っ…」
「待たない。」
「ンアッ!!」

ギシリとベッドが軋んで濯匡が体重を掛けてあたしを押し上げる。
さっきより身体が持って行かれてその度に濯匡があたしの身体を引き戻す。


「真琴…返事!」

「あっ…わかっ……なる…濯匡の女に……」

「よし。浮気は許さないからな…覚えとけよ…」
「濯…匡こそ…」

身体が弾けそうになるのを必死で堪えて今度は返事した。

「するか!信じろ。」
「…う…ん…嬉…しい……アウッ!!!」

言った途端奥まで押し上げられて大きくのけ反った!

「可愛いげ…出せてるぞ…」

そんな濯匡の言葉があたしには聞こえなくて…
ただただ…思いきり濯匡の背中にしがみついてた…

その後も浴室でこれでもかって言うくらい抱かれた…




「…も…無理…」

裸のままベッドに倒れ込んで布団に潜り込む…
心地良い疲れとシーツの肌触りの良さで眠っちゃいそう…

一番は濯匡の恋人になれた事かな…

濯匡は上半身裸のままお気に入りの窓際で外を眺めながらタバコを吸ってる。


「…彼氏が出来たんだ…」

布団に包まりながらそんな事を呟いた。
しばらくして濯匡がベッドに入って来た。


「何だ起きてたのか?」
「…うん…眠いのに寝れない…」

きっと嬉しくて興奮状態なんだと思う。

「ならまだするか?」

「え″っっ!?」

余計目が覚めた。

「冗談だよ。とりあえず今は満足してる。」

「………」

今は?



「濯匡……」
「ん?」

俯せで寝転んでるあたしの隣に濯匡が仰向けで横になる…

「あたしの事…好き?」

言っちゃった…

「!!」

ほら…驚いた顔してる…

「ああ…好きだ。じゃなきゃオレの女になれなんて言うわけないだろ。」

「!!!」

今度はあたしが驚いた!まさか真面目に答えてくれるなんて思わなかったから…

「うそ…」
「ウソって何だ?」
「え?あ…だって…」
「あんなにオレに突っ掛かって来た女って真琴が初めてだったからな…
気になってついつい深入りした…」
「え?」
深入り?あれで?
「彼女なんて学生以来だ…」
「………」
「?何だ?」
「ううん…」

濯匡って意外と真面目?

「そう言えば真琴はどうなんだ?」
「え?」
「はっきりオレに惚れてるって言ってないぞ。」
「!!…そ…そう…」
「誤魔化すな。」

仰向けの濯匡があたしの方に寝返る。

「うっ…!!」
「今言え。」
「なっ…そんな威張って言う事ないでしょ!」
「………」
「ううっ!」

そんな文句を言っても濯匡は頬杖をついてジッと黙ってあたしを見てる。
あたしが返事するのを待ってるんだ……

「………」

あたしは目が泳ぐ。

「真琴…」

「……濯匡のことが…好き…です………ンッ!!!」


言い終わった瞬間…濯匡が腕を伸ばしてあたしを引き寄せて…キスしてくれた…



その日の夜…濯匡の腕枕で眠りながら自分の胸に付いていたキスマークに視線がいく…
あんまり自分では見る事が出来なかったけど…

今夜改めて見ると…

付けられたキスマークを消すように濯匡が付けたキスマークがはっきりと付いていた…