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「どうしたんですか?菅谷さん?」
「え?」
「顔がニヤけてますよ…」

お店のスタッフの女の子が超ハイテンションのあたしに気付いてそんな声をかける。
あたしはもうあれからルンルンのハッピーだ…

朝から濯匡の顔がチラついてる…

「もう…… ♪ 」


今朝当たり前だけど濯匡のベッドで目が覚めた。
今までの…泊まってた時とは違う…もう身体だけなんだよね…
なんて思わなくてもいいんだもん。

あ…そうだ…
朝ご飯の支度しようかな…迷惑じゃ無いよね?

起き上がろうとモソっと動いたら濯匡が目を覚ました。

「……ん?もう仕事に行く時間か…」
「まだだけど…朝ご飯作ろうと思って……迷惑?」
「なんで?」
「だって…なんかそう言うのウザイな…って思うタイプかなって…」
「…オレってどんな風に見られてんのかね…そこまで冷血?」
「だって……って…ちょっ…濯匡?」
「まだ時間あるんだろ?」
「でも…起きたばっかりで……」
「何?出来ない?」
そう言ってあたしの顔のホント目の前に濯匡の顔が近付く。
「別に…出来ないとかじゃ無いけど……」
「今までだって寝起きでやった事あるだろうが…急にしおらしくなるな。」
「そう言うわけじゃ……あっ…」

口を濯匡の口で塞がれ片手で身体を抱きしめられて片手で片足を持ち上げられて…

有無も言わさずに押し上げられた!



「ん?」
「だから…もしかしてちゃんと付き合うのって濯匡が初めてかも…」
「は?マジ?」
「だって中学高校ってあたしが空手やってるの男子って知ってたし…ずっと空手部だったから…
学生の時チカン捕まえたりカツアゲしてた男子叩き潰したり…みんな知って…たから……」

言いながら…しまったと思った…

「お前学生の頃からそんな事してたのかよ…くっくっ…」

食後のコーヒーを飲みながら濯匡が笑いを堪えてる…

「何だかあたしの周りってそんな事ばっかりで…大体あたしにじゃなくって
友達とかがそんな目に遭ってあたしが撒きぞいでって言うのなんだから…」

一生懸命いい訳をした…

「だから学生時代は誰もいなくて…社会人になってからも付き合ってるとは言えないうちに
愛想尽かされちゃってたし……
となると…やっぱり濯匡がまともに付き合う人になるのかなぁ…って…」

そんな話をしながらな濯匡を見つめてしまった…
だって何だかとっても恋人同士の雰囲気で…濯匡ってこう言う風にもなれるんだ…
なんて変な感心をしてた…

「さっきから何だよ?」
「えっ!?」
ボーっと見てるのを気付かれた!
「…ううん…ごめ…何でも…」
慌ててコーヒーを飲んで誤魔化した。
「またオレの事誤解してのが解けました!って顔だな?」
「ええ?そんな…ただ…」
「ただ?」
「濯匡って…結構普通なんだなって…」
「……だからオレは至って普通の男だっての…えらい誤解されてんな…
だからちゃんと甘い恋人にもなれるぞ…」
「え?」
「ちゃんといってらっしゃいのキスしてやる。」
「え?」
「なんなら朝店まで送ってやろうか?」
「い…いいわよ!そんなのこっちが恥ずかしいじゃない…」
「なんだ…残念。」
「本気?」
「ああ…本気だよ…」
「怪しいな…」

そんな会話をずっとして…
時間になって行こうとしたあたしに濯匡は本当にいってらっしゃいのキスをしてくれた…


真琴が出掛けてからしばらくしてオレは柊夜のマンションを訪ねた。
今で言うセレブと呼ばれる奴が住む高級マンションだ。

オレは息が詰まる…


「珍しいね…こんな時間に濯匡が僕の所に来るなんて…」

通されたリビングのソファに座って柊夜が淹れたコーヒーを受け取る。

「ちょっとな…これ。」
「ん?」

お返しに昨夜真琴から渡されたあの写真を渡した。

「これ…」
「真琴の店に送られて来た。」
「…………」
「まあ店に送られて来たってのは真琴にとって多少困る事だが…
だからってオレとのこんな写真なんの脅しにもならない。お互い独り身だしな…」
「そうだね…」
「そのすぐ後真琴がお前の店で働いてるって言う 『 ノボル 』 って言う奴に声掛けられた。」
「ノボル?そんなホストうちにはいないよ。」
「ああ…でもあの日の夜…柊夜の店でオレ達が飲んだの知ってたんだぞ。」
「ん?と言う事は誰かがそのノボルって言う奴に話したって事?」

「……その後オレの前に朔夜が現れた。」

「!!」

ピクリと柊夜が動いた。


「……そう…朔夜ね…はぁ…」

大きなため息を柊夜がついた。

「…和哉が日本に戻って来てる…」
「!!和哉が?」

「まったく…あの2人は…」

柊夜の瞳が妖しく光った…

「夜にでも正臣の所に2人とも来させるよ。濯匡は真琴さんを…」
「ああ…」
「?どうしたの?何か良い事あった?」

柊夜がオレの顔をチラリと見て微笑みながらそんな事を聞いてくる。

「そう見えるか?」
「うん。」
「いずれ…な。」
「?」

オレは話しをはぐらかしてコーヒーを一口飲んだ。




「こんばんは。」
「いらっしゃい!真琴さん ♪ 」

仕事が終わる間際に濯匡から連絡があって仕事が終わったら
正臣さんのお店に行くって言われて…大分遅い時間だったけど濯匡と2人で訪ねた。

ちょっとドキドキした。

「香奈ちゃんは?」
「もう遅いしそれに今夜はちょっと…ね。」
「え?あ…」

お店の奥の席に柊夜さんが座ってた。

「え?何で…こんな所に柊夜さんが?」
「こんばんは。」
とっても静かにニッコリと微笑まれた。
「ヤダな…何でってここは喫茶店で柊夜は僕の友達だよ。」
「え?あっいえ別に…」

マズイ…失礼だったかな?

「和哉は?」
「朔夜と一緒に来る筈だけど…まだだね。」

柊夜さんが機嫌悪そうに言うのが気になった…

それにしても…もしかしてこれって濯匡の親友メンバー勢揃いってやつ?
やだ…何?まさか改まって皆に紹介…とか?わぁ…ドキドキ!


「あーあ…せっかくの全員集合なのにこんな事で集まるなんてさ。」

正臣さんがとんでもなくガッカリの言い方で嘆いた。

「 !! 」

こっ…こんな事?え?ウソ…もしかして皆反対してるとか?えーーーーっっ!!



キイ…

「 ! 」

そんな事を悩んでたらお店の入口のドアが開いた。

「こんばんは。お久しぶりだね…皆。」

そう言いながら入って来たのは…来たのは…来たのはって…

「ああっっ!あの時のっっ!」

目の前にあの日あたしに声を掛けて来た男が立ってた!!見間違える筈無いっっ!!
口よりも先に身体が動いてた。

一気にその男との距離を縮めてとりあえず顔面に一発入れるつもりで右手を握り締めて…


パ シ ッ !

「!!」

その腕を掴まれて引き止められた!

「慌てるな。」
「濯匡…」

振り向くと濯匡があたしの握り締めた腕を掴んで笑ってる…

「あ…」

腕を離した後あたしの頭をポンってした…何か…女の子扱いされたみたいで焦る…
それにあたしの事…止めてくれた…って言うか…止めれる男が現れたんだと
感動と喜びが込み上げて来る!何だか嬉しい ♪ 

「流石濯匡の彼女か?腕に自信有り…か…」
「説明してもらおうか?和哉…」
「朔夜も早くお入り。」

柊夜さんが入口に向かってものすごい命令口調で誰かを呼ぶ。
え?誰かいるの?

ちょっと拗ねた感じであの男の後ろから20代前半と思える若い女の子が入って来た。
清楚な感じで…大人しそうで…あたしとは正反対っぽい…

「朔夜…濯匡と真琴さんに謝る事があるんじゃないの?」

「…………」

柊夜さんが彼女がお店に入るなりそう切り出した。

「??」

あたしは訳がわからないんですけど??

「あ…紹介が遅れましたね…彼女は僕の妹で『朔夜』と言います。大学4年です。」

「え!?柊夜さんの妹さん?」

当の本人はほんの3メートル程しか離れていないあたしから視線を外してる。
え?何なの?この態度??あたしこの子に何かしたかしら?

「で隣にいるその男が僕達の高校の時からの親友で…」

「水本和哉と言います。…1度お会いしてますよね?」
「…暢さんじゃなかったのかしら?」
「あれは偽名でして…本名は和哉です。」
「…………」

まったく…白々しいったらありゃしない…
本当ならマジに顔面に1発入れたいところだわ……

「何で真琴を狙った?」

濯匡が彼の目の前に立って凄む。
ちょっと…親友なんじゃないの??ってああ…あたしのせいか?

「頼まれたから。」
「誰に?」
「誰にって…わかってるんだろ?だから僕と朔夜ちゃんを呼び出したんだろ?」

「朔夜!説明しなさい!」

柊夜さんが超不機嫌の腕組の足組で奥のテーブルからの1言…

「………何で?」
「何?」

こっからはまるで兄妹喧嘩みたいだった。

「私は兄さんと同じ事をしたまででしょ?濯匡さんに近付く女の人を遠ざけただけです。
兄さんだって彼女を呼び出して散々濯匡さんに近付くなって言ってるじゃない。
でもこの人はそれを止めなかった…だから私からも忠告したまでよ!」

「本当に忠告したまで?こんな写真彼女のお店に送りつけて?和哉に協力させて?
しかも僕のお店のホストだなんて彼女騙して…何考えてる!朔夜!!」

ガタリと柊夜さんが席を立って妹さんの方に近付いて行く…

「私は私なりに濯匡さんの事を思って……」

パ シ ッ ! ! !

「…………」

お店の中が一瞬で何の音も聞えなくなったみたいだった…

それは…あたしが彼女の頬を平手打ちで殴ったから…

他の皆の動きが止まったせい…


「ふざけんじゃなわよ……濯匡の為を思ってですって!あんたがした事で濯匡がどんだけ
傷付いたかわかってるの?自分のせいで他人を巻き込んだって…
それがどれだけ濯匡を苦しめるかわかってんの!!!」

「……………」

彼女があたしに殴られた頬を押さえながらあたしを睨んでる。

「そりゃあたしも注意が足りなくて…濯匡には迷惑掛けちゃったけど…
でもあたしが気に入らないなら柊夜さんみたいにあたしに直接言って来なさいよ!
いつでも相手になってやるわよっっ!!!」

「真琴さん…」
「何よっ!!」

横から声を掛けて来た暢こと和哉って人が彼女をかばう様にあたしの前に立った。

「もう…いいでしょ…彼女もわかってます…こんな事が濯匡の為になんてならないって…
でも…どうしてもやらずにはいられなかったんですよ…そんな胸の内…わかって貰えないですか?」

「え?何よ…どう言う事??」

「彼女は……濯匡の事が好きなんです…ずっと前から…」

「え?」

何よその爆弾発言は!!!???
でも…でも……

「……だから…何よ…」

「はい?」

「この世の中片思いの人なんて沢山いるわよ…だからって…相手に他の相手が出来ない様に
こんな姑息なマネしてもいいなんてルールは何処にもないわっ!!!」

ワナワナと身体が震えるのを必死で押さえながら姿勢を正す。

「でもこれからは柊夜さんにも…彼女にも…
もう濯匡の相手の事でご心配なさってもらわなくて結構ですからっ!!」

「?」

「真琴さん?」


「自分の身は自分で守れる あ・た・し・が!!

  昨夜から濯匡の正式な彼女になりましたのでっ!!ご心配なく!!!」


ぐっと親指を立てて堂々と2人に宣言した!