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自分の浅はかな判断で妊娠してしまった…

濯匡には自分が自信を持って『大丈夫!』なんて言い切ったのに…

妊娠が発覚して1週間…未だに濯匡には言えないあたし…
産むことには決めてる…でも濯匡は…濯匡にはこの事を押し付ける事は出来ない…

だって…あたしのせいだから…濯匡はちゃんとしてくれてたもの…



「はあ…」
「何だよ?朝からため息ばっかだな?」

いつもの様に濯匡の部屋に泊まった次の日の朝…

「え?あ…ごめん…」
「調子悪いのか?」
「え?ううん…そんな事無い…」
「そうか?そうとは思えないけどな…」
「!!濯…匡…」

濯匡が窓際に立ってタバコを吸いながらあたしを真っ直ぐ見つめて…
ちょっときつめな言い方で聞いてくる。

「昨夜もイマイチだったみたいだし?」
「濯匡…」

確かに…妊娠の事が気に掛かって抱かれてる間も上の空だったから…
濯匡は敏感に感じ取ったんだ…

「オレに何か言いたい事あんじゃねーの?」
「え!?」

あたしはドキリとなった…まさか…濯匡…知って…

「別にオレは構わねぇぞ…」

「…………」

え?うそ…本当に?

「濯匡…」

「別れたいなら別れたって…」

「 !? …え?」

「5ヶ月か?付き合いだして…まあもった方か?」
「濯匡…?」

違う…違うのに…でもこのままじゃ…

「 ! ! ! 」

濯匡の身体がピクリとなって固まった。
あたしが泣きながら濯匡の胸に飛び込んだから…

「真琴?」
「違うの…違う…」
「何だよ…何が違うんだよ。それに何泣く事があんだよ?」

濯匡がタバコを避けながらあたしの肩を掴んで覗き込んだ。

「…ごめん…濯…匡…ごめんね…」

もう…涙が止まらない…

「は?何だよ?また何か遭ったのか?」

「ちが……うっ…グズッ…」

「しっかりしろっっ!ちゃんと話せ!」




「……………」

ちゃんと話せと言われて濯匡のお気に入りのあの窓際のソファに座って10分が経った。

「……何だよ?いい加減話せよ。」
流石に濯匡が口を開いた。
「…………」

どう…切り出そう…

「真琴…」
「!!」
「言いにくい事なのか?」
「…………」

濯匡があたしの頭に手を置いてクシャってした。

「ごめんってどう言う事だ?謝る様な事が遇ったのか?」

濯匡が言葉を選びながら優しく話し掛ける…

「…ごめん…あたしが悪いの…濯匡のせいじゃ…」
「だからそれじゃ分かんないだろうが…」

「…ん…ふぁ…」

濯匡があたしの顎を持ち上げて舌を絡めるキスをした…
あたしをいたわってくれるキスだ…

「あの…あのね…」

あたしはまた黙る…でも…

「あ……赤ちゃんが……出来た…」

「は?」

流石に濯匡も驚いた。

「濯匡のせいじゃ無いの!あたしが自分の事わかってなかっただけで…だから…」
「だから?」

濯匡の声が静かな響きに変わる…

「大体何でガキが出来るんだよ?オレはちゃんと気を付けてたぞ。」

「だからあたしの不注意で…大丈夫と思ってて…
濯匡のせいじゃないから…あたし1人で育てるから…だから…」

それがあたしが出した結論…濯匡に父親になってなんて言えない…


「はあ……」
「濯匡…」

濯匡が大きなため息をついてソファの背もたれにもたれ掛かる。

「…………」

一瞬窓の外に視線を向けて…そしてあたしに向き直った。

「堕ろせ。」

「え…?」

「ガキなんてオレは望んでねぇ。」

「…………」

ウソ…濯匡………今…何て言ったの?

「あ…」


涙が…勝手に…溢れて…零れた…

だって…そうだよね…濯匡は望んでないんだもの…

いくらあたし1人で育てるって言ったって…

自分の子供がどこかにいるなんていい気分じゃないもの…

でも…


「ってオレが言うって決め付けてたんだろ?」

「え?」

「何で1人で育てるなんて言うんだよ…馬鹿野郎が…」

「………あ…」

濯匡があたしの頭をぎゅっと抱き寄せて自分の頭をくっ付けた。

「オレの子供でもあるだろうが…」
「…でも…だって…」
「やってみるがあんま期待すんなよ…」
「え?」
「多分オレに父親は似合わないと思う。」
「…濯匡…」
「イケナイ事も子供の頃から教え込むかもしれない。」
「…それは…だめ…」
「じゃあ気を付ける。」
「…………」

「?何だよ?何でそんな顔してる?」

真琴の奴が涙を零したままポカンとオレを見てるから…

「だって…本当にいいの?濯匡はそんなつもりなかったのに…あたしのせいなのに…」
「別に出来ても良いと思ってたさ。ただ真琴はまだいらないって思ってるみたいだったから
何も言わなかったけどな…」

言いながらあたしの涙を拭ってくれる…

「…出来ても良いと…思ってたの?」
「……ああ…」
「本当に?」
「ああ…」
「何で?」
「何で?…さあ何でだろうな…でも真琴となら良いと思った…それだけだ。」

「…うっ…濯…匡…濯匡…」

年甲斐も無くあたしは大泣きで濯匡に抱き着いた。

「ほ…本当は…1人で育てるなんて…い…ヒック…嫌…だった…」

「素直にオレに話せばいいんだよ…ったくバカだな…」

「ご…ごめ…うー…ありが…とう…」




『ゆうべ満足出来なかった責任取れ!』

って言われて濯匡はあたしをソファから抱き上げてベッドに運んだ。



「…濯…匡…濯匡…あ…アン…」

ギシギシとベッドがいつもより大きく軋んでる…
2人共昨夜の物足りなかった行為を取り戻す様にお互いを激しく求めあう…

「あっ!あっ!」
「ったく相変わらずキツイな…子供産んだら少しは違うのか?」
「も…今そんな事…言わないで…ああっっ!!」

あたしの上で激しく動く濯匡にしがみついて密着する。

濯匡の肌の温度があったかくていい気持ち…

「あ…濯匡…気持ち…良い…アン!!」

両足を抱え上げられて濯匡が思いっきり奥まで入ってあたしを押し上げる。


「…好き…好きよ…濯匡…あなたの事が…誰よりも……あっ…」

「知ってる…」

「…もう…ああっっ!!!」



それから……

       2人で時間を忘れるくらい愛し合った……