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「濯匡タバコはダメだよ!」

「!!ったく…真琴と同じ事言うな。」

「真琴さんにも言われてるならいい加減自分で止めなよ!ねぇ匠君 ♪ 」


正臣がオレの膝の上に座る生後8ヶ月の赤ん坊を覗き込んで話し掛ける。
やっと下の歯が出てきたばかりのオレの遺伝子を半分受け継いだ
身長1mも無いチビがオレの膝に当然の様に座ってる。


「濯匡が保育園の送り迎えしてるの?」
「ああ…オレの方が時間の自由がきくからな。」
「でも黒沢さんが結婚して子供まで生まれるなんて意外も意外!」

香奈が相変わらず驚く…もう会うたんびにそれだいい加減納得しろ!

「た・く・み・く〜ん ♪ 美人のお姉様が抱っこしてあげますからいらっしゃ〜い ♪ 」

香奈が匠の目の前に両手を広げて差し出した。

「…………」

匠は香奈を見上げてるだけ…まったく行くそぶりが無い。

「あれ?何で?」

「ペチャパイの色気の無い女はヤダってさ!クックッ…」

「んまっ!今からそんなエロイお子様でどうするの!!黒沢さんの教育間違ってますっっ!!」

香奈は顔を真っ赤にして喚く。

「からかうのやめなってば…もう…
今度匠君用の椅子用意しておくからねぇ〜ふふ…おいで匠君 ♪ 」

今度は素直に手を伸ばして正臣に抱っこされた。

「何で!?」

香奈は納得がいかないらしい。

「人を見るんだよ。ああ…美形好みなのかもな…残念だったな香奈…」

「んなっ!!」

納得がいかない顔をしてる香奈にそう言った。




「匠もう寝ちゃったかな…」

仕事からの帰り道…早足で歩きながら腕時計を見た。
自信なさ気だった濯匡の父親宣言はあたしがびっくりするくらい協力的で
ちょうど良い距離を取って匠と親子をやっている。
意外と子育てが上手らしい。


「真琴ちゃん ♪ 」

ちゃん付けで呼ばれて振り向くと濯匡の父親が手を振って立ってた。

「真守さん!」

お父さんと呼ぼうとしたら名前で呼んでと言うのでご希望通り名前で呼んでいる。

「匠元気?」
「はい。歯が生えてきたんですよ。今度会いに来て下さいよ。」
「もう少し大きくなったら色々教えに会いに行くよ。」

濯匡に気を使ってか彼はあまりあたし達に会いに来ない。

「変な事教えないで下さいよ。濯匡も大きくなったら色々教えてやるなんて
あたしに隠れて匠にヒソヒソやってるんですよね…もう…流石親子ですね…」

そう…振り向くと濯匡は時々匠の耳元に何やらヒソヒソと話し掛けてる時がある…
その姿が怪しくて…

「……クスッ」
「真守さん?」

真守さんがちょっと寂しそうに笑った気がしたから…

「濯匡のダチの連中も知ってるから真琴ちゃんにも話しておくけど…
俺と濯匡…本当の親子じゃないんだよね。」

「え?」

いきなりそんな話しでびっくりで…

「濯匡は覚えて無いらしいんだけど…濯匡が2歳の時濯匡の母親は
惚れた男を追い掛けて濯匡を置いていっちまった…」
「え?」
「クラブのホステスでね…母1人子1人で…店の常連だった男に惚れて…
周りが見えなくなっちゃったんだろうな…」
「真守さんとは…どんな関係だったんですか?」

「俺の片思い。」

「え!?」

更にびっくり!

「店にも通って口説いたんだけど全然相手にしてもらえなくてさ…
でも俺に濯匡を預けて行ったんだよ…彼女は…まあ濯匡も俺に懐いてたし…
置いてかれた者同士…一緒に生きてく事にしたんだ。」
「濯匡はその事…」
「しばらくは知らなかった…俺に愛想つかして母親に逃げられたと思ってた…
俺はそれでいいと思ってたし…」
「濯匡の……母親は今どこに?」

「その5年後…追い掛けて行った男刺し殺して警察に捕まった。」

「えっ!?」

「でも濯匡の耳には入らなくて済んだ…だから濯匡にはずっと知られないで済むと思ってたんだが…
余計な事を言う奴はいるんだよ…濯匡が高2の時服役してた刑務所で母親が病気で死んでね…
それをご丁寧にも濯匡に喋った奴がいて…結構ショックだったらしくて…
今まで以上に捻くれて…グレて暴れてたよ…」

あ…あの荒れてたのってその頃…

「そして女の子がさらわれる事件が起きて濯匡にとってダブルショックだったって訳。」
「だから濯匡と距離を置いてるんですか?」
「距離?いや…俺達は結構上手くやってるよ。
男同士だしお互いあんな性格とこんな性格だからそう見えるのかもしれないけどね…
濯匡が小学校4年の時交通事故に遭ってさ…その時俺の血を濯匡に輸血したんだ…
濯匡の身体の中には俺の血が流れてる…
だから俺と濯匡は…本当の親子だよ…紛れも無い…ね!」

優しい笑顔で真守さんはそう言って笑った。

「濯匡のお母さんの事…とっても大事に思ってたんですね…」
「はは…これでも結構一途なんだよ ♪ 」
「きゃっ!ちょっと!!」

油断してたらお尻触られた!!

「嫁のお尻触るなんて!」

「まさか君が本当に濯匡の嫁になるとは思わなかったよ…しかも可愛い孫まで…感謝してる…」

「真守さん…」

「濯匡に子供はどうだろって心配はしてたんだがね…本当に良かった。良い父親やってるらしい…」

そう言ってまた真守さんは嬉しそうに笑ってた…




「今日真守さんに会ったのよ…」
「ふーん…」
「匠が大きくなったら色々教えてやるって。」
「ったくあのバカ親父…」

言いながら抱っこしてた匠をベビーベッドに寝かせる…

「グズらずに寝ちゃったね…何だかすっかりパパっ子みたい…」
「オレといる時間の方が長いからな。当然だろ。」
「何だか悔しい気分…」
「その代わり真琴が空いた時間をオレに費やすんだよ。じっくり奉仕してもらう。」
「あ…濯匡…」

ドサッっと2人でベッドに倒れ込んだ。

「少しは変わると思ったのに相変わらずキツイんだよな…」

あたしのパジャマを脱がせながら濯匡がため息混じりで呟く。

「ダイエットも兼ねて空手やってるからかしら…戻りがいいのかな…?わかんない…」

「まあオレは結構な刺激になるから構わねぇけどな。」

「うあ…」

下から胸を持ち上げられて胸の先を舌の先で舐められたから身体がビクンと跳ねた。

「や…濯…匡…」
「次はいつオレを驚かせてくれるんだろうな…」
「…え?」

「またいきなりガキが出来たって言われるのを楽しみに待っててやる…」

「……それって…あたしの好きな時に…次の子供作って良いって…こと?」

「そう言ってる。」

「……ありがとう…濯匡…」



初めて会った時の濯匡の印象は最悪だったけど…

本当は至って普通で…逆に浮気もしない…あたしを初めて守ってくれる人だった…

しかもあたしよりも腕力が強い男…ずっと探し求めてた男だった…

だからあたしはもう……絶対濯匡を離さない………


「ん?」

濯匡があたしの顔を覗き込んで不思議そうな顔をする…


「ううん…幸せって言ったの…」


「そうか…真琴が幸せならオレもそうなんだろう………」



  そう言ってあたしを抱きしめながら…

            濯匡が優しく笑った……




                          …FIN