06





「苑子!」

「!!」

車から降りて来て苑子の名前を呼びながらこっちに駆け寄って来る男。
明らかにさっき襲って来た奴らとは違う。

「颯太さん!!」
「!!」

苑子の腹の子供の父親?

「え?なに?」

目の前でしっかりと抱き合う男女!?あたしは何が何だか??

その直後…警察が駆け付けてオレと真琴で片付けた連中を連れて行った。
残ったオレ達は最初に苑子と待ち合わせした喫茶店に戻って落ち着く事にした。

「大丈夫か?苑子…」
「うん…大丈夫…」
「身体も?」
「うん…大丈夫よ…颯太さんの方こそ大丈夫なの?家の人に捕まってたんじゃないの?」
「今回の事…僕の家の方は何も動いてないんだよ。」
「え?」
「!!」
「?」

濯匡と彼女はとんでもなく驚いた顔をしてた。
あたしはやっぱり話しがわからなくてちんぷんかんぷん。
だから仕方なく大人しく黙ってた。

「苑子には黙ってたけど僕には結婚を約束してた相手がいたんだ…」
「え?」
「と言っても別に正式に約束してたわけじゃなくて家同士でなんとなく話があっただけなんだけど…
でも相手は本気にしてたみたいでね…」

そりゃ本気にすんだろう。
大方政略結婚みたいなもんだとは思うが…相手にしてみりゃ玉の輿って奴だろう。

男の話によるとその相手の女から苑子の妊娠が男の家にバレて
苑子と腹の子供を始末しようとしてると言われたと言う。
男の家には内緒で苑子を助けると申し出た相手の女の言葉を信じて
男は言われるまま自分も身をかくして苑子が来るのを待っていたと言う。

「彼女は僕との事は考えてもいないと言ってたんだ。家同士の決めた事だって言って…
だから僕と苑子の事は応援して助けてくれるって言ってくれた…
だから僕はその言葉に甘えてしまったんだけど…うちの家では僕と苑子の事は
反対されるのはわかってたから…でも2人の事はちゃんと親には話すつもりだった。
子供だって出来たしね。」

ただそれは口先だけの事でその女は苑子を助ける振りをしてそのまま苑子も子供も
消すつもりだったんだろう。最初に手切れ金を持って来たのもその女の差し金で
その金を受け取らなかったから今度は直接苑子を狙った。

「でもどうも彼女の様子がおかしくてね…家にも連絡させないし苑子にだって会わせようとしないし…
それに何もかも急に事を運ぼうとするから念の為に家に連絡してみようとおもったんだけど
携帯もいつの間にか手元から無くなってるし彼女の別荘にかくまわれてて身動きが取れなくて…
やっとそこを抜け出して苑子に連絡して…僕も追われてたから詳しく話せなくて…
ごめん…苑子には心配させちゃったよね。」
「ううん…颯太さんが無事ならあたしは…」
「何とかさっき家に戻って調べると両親は何も知らないしもちろん苑子に対しても
何も身に覚えが無いって言うし…だからすぐに苑子を迎えに行こうと思って…
携帯も繋がらないし…やっと苑子のお店の知り合いに会えて…ここに来れたってわけ…」
「颯太さん…」
「自分の甘さを痛感したよ…だからこれから両親にちゃんと苑子の事を話そうと思うんだ。
今回の事で親にもわかっってしまったしね…一緒に来てくれる?苑子…」
「え?……そんな…いいわよ…あたしは…」

「良くないだろ?ちゃんと今後の事話し合えよ。」

濯匡の静かな声が響く。

「まあ…これからの方が大変だと思うけどな。簡単にそんな女の策略に嵌る様な男だから先も見えてる。
親の言いなりにならない補償は何処にもなさそうだしな…頼りなさ過ぎて呆れるくらいだ。」
「濯匡!」
「ふん…」

濯匡が腕を組んで不機嫌そうに横を向く…
濯匡は濯匡なりに心配してるんだと思うし確かにちょっと頼りない男かも…なんてあたしでも思う…

世間知らずなお坊ちゃま…かな?なんて思えなくもないけど…

「颯太さん…でしたっけ?」
「あ…はい…」
「ご両親を説得できる自信…お有りなんですか?」

だって女としてはやっぱりそこ大事でしょ?子供までいるんだから。

「……確かに頼りないかもしれませんが…今回の事で僕もしっかりしなければと思ってます。
苑子と…それに今彼女のお腹の中にいる僕達の子供がもしいなくなったら…
なんて考えただけで僕はおかしくなる所だった…そんな気持ちを今回はつけ込まれたんですけど…
でもこれからはちゃんと見極めて…苑子とお腹の子供を僕が守って行きます。
両親に認めてもらうのは難しいかもしれませんが時間が掛かっても納得してもらえる様に話していくつもりです。」

「そうですか…1日でも早くご両親が認めて下さるといいですね。」
「はい…ありがとうございます。じゃあ僕達はそろそろ…これから家に戻って今後の事も考えなければいけないし…
あちらの家とも話し合わなければいけないので…どうやら今回の事は彼女の独断の行動らしいですから…
なるべく表沙汰にはしたくないのがあちらの本音らしいですし…」

「二度とその女に手出しさせない様に脅しとくんだな。じゃなきゃ苑子と腹の子供が安心して暮らせねぇぞ。」

「はい…もう2度とこんな事は起こさせないとここでお2人に約束します。」

「颯太さん…」

「…………」

濯匡はそんな彼を睨んだだけで…あたしは…

「頑張って下さいね。それから苑子さん…お身体大事にして下さいね。
もう自分1人の身体じゃ無いんですから…」

一応母親の先輩としての気持ちを言った。

「ありがとう…」


2人は仲良く喫茶店から出て行くと彼が乗って来た車に乗って帰って行った。
あたしと濯匡はそのまましばらく喫茶店の中で座ったままだった。

「あの2人上手く行くかしら…」
「さあな…後は2人の問題だ。オレ達には関係ねぇ。」
「そうだけどさ…は〜〜何だかいきなりの事でビックリよ…」
「オレだってこんな展開になるとはビックリだ。荷物運ぶだけだって言ってたのによ。
後で柊夜の奴を問いただしてやる。」
「濯匡も知らなかったの?」
「ああ…荷物だって言ってたからな…知ってりゃもっと他にやり方があった。」
「そう…そうなんだ…」
「ああ?何だ?そのホッとした顔は?」
「え?あ…ううん…無事に済んで良かったな〜って。」
「もしかしてオレが女絡みの仕事なのにウソついてたのかとか思ってたんじゃねーの?」
「え”っっ!?」
「やっぱり…ホント真琴ってすぐ顔に出るよな?わかり易い。」
「え?そ…そんな事…あ!じゃ…じゃあもう今日の仕事終わりって事よね?ね?」

あたしは誤魔化す為に話題を変えた。

「そうだな…やる事無くなったし…」
「そっかぁ ♪ じゃあ今日はゆっくり出来るわよね?」
「ああ…ってなんでそんなに嬉しそうな顔してんだよ。」
「え?だって……」

嬉しいんだから仕方ないじゃない。
ギリギリで今日の結婚記念日を祝わなきゃいけないかと思ってたのに
ゆっくりと過ごせるんだもの ♪

「じゃあ行くか。」
「うん。あ!ちょっと買い物付き合ってよ。夕飯奮発するんだ。それにケーキも買い直さなきゃ…」
「ケーキ?」
「うん…さっきの騒動で思いっきり落としちゃったからきっとグチャグチャになってると思うんだ…
折角予約注文して買ったのに…仕方ないけど…」
「それ買いにここに来てたのか?」
「うん…この先のお店…美味しいって有名なのよ。ちょっと値段は高いけど今日は特別だから…」
「………いいからそれ食べようぜ。」
「え?」
「見栄えが悪くたって味は変わらねえだろ?」
「そうだけど…きっと本当に凄い事になってると思うわよ…」

あの勢いで道路に叩きつけられたんだし…
くそ〜〜〜思い出しただけでも腹が立つ!!!くぅ〜〜〜〜!!

「イイって…それが食いたい。」
「濯匡…」
「その前に食いたいモノがあんだけど…付き合え。」
「え?」

濯匡がそんな事言うなんて珍しい…
なんて思いながら言われるまま喫茶店を出た後濯匡に手を引かれたまま歩いてる。

「この辺にお店なんてあるの?」
「まあな。」
「?」

どう見てもそんなお店なんて無い様な風景…
駅前の大通りからちょっと離れたこの道は独特な雰囲気をかもし出してると思うんですが…
旦那さん!!

「ここでいいか。」
「!!」

連れて来られたのはお店なんかじゃなくてラブホテル!?なんで?
まあ随分と洒落てはいるけど…

「あ…」

立ち止まったのは一瞬で直ぐに入口を入って行く…
まあ相手は濯匡だし…旦那様だし…夫婦だし…問題は無いんだけど…

部屋に入った途端抱きしめられて唇を奪われる。

「んっ…んんっっ………はぁ…濯匡…」

お互い向き合って…濯匡の腕はあたしの腰に廻されてギュッと濯匡の方に
引き寄せられて凄い密着してる…
あたしはそんな濯匡の首に腕を廻してお互いのオデコを密着させてた…

「ホント今日は真琴がいてくれて助かった。オレ1人じゃ苑子守り切れたかわかんなかったかもな。」
「あたしだってビックリだったわよ。いきなり彼女守れなんていわれてさ…
でも…あたし役に立てた?」
「ああ…期待以上に…惚れ直した。」
「ホント?」
「ホント…なんてな…」
「え?」

なんてな…なんて…何?違うってこと?

「オレだってずっと真琴に惚れ続けてる。」

「 !! 」


濯匡からのそんな言葉があたしの胸をいとも簡単に打ち抜いていく…

普段そんな甘いことを言わない濯匡からの言葉だから…

あたしの心臓はドキドキの…


「真琴…くすっ…顔真っ赤だぞ?」
「だって…」
「だって?」

「そのギャップが……たまんないんだもん…」

濯匡を見上げてそう言った瞬間にまた濃厚な口づけをずっとされた…

「随分可愛いことを言う様になったな…真琴……」

ちょっと離れた唇の隙間から濯匡のそんな言葉が漏れる…

そうでしょ…濯匡のお蔭で随分可愛い女になりましたよ…
それに濯匡はそれがご希望だもんね…


その後は…時間を忘れるくらい2人で愛しあった ♪

買い物なんて後回し…そんな時間も勿体ないくらいベッドの中で2人で過ごした。
時間が来て匠を2人で迎えに行って…その後買い物をして帰った。

ちょっとは豪華な食事だったかもしれないけど予定してたモノとはかなりの差があったのは仕方ない。

『その代わり真琴をたっぷりと頂いたから。』

なんてまた濯匡はそんな照れる事を言う…


想像してた通り取り出したケーキは見るも無残な姿だったけど濯匡は全く気にする様子も無く…
豪快にそのままフォークを突き刺して美味しそうに頬張ってた。

そんな濯匡の姿がなんともおかしくて…嬉しくて…

バタバタした初めての結婚記念日だったけどあたし達らしいって言えばらしいから気にしない。

でもでも…1つだけ思う事があるの…それは…


濯匡と結婚で出来て本当に良かった〜〜〜〜 ♪♪

あたしには最高の旦那様よ ♪♪