tokubetu 03





    * 椎凪プロフィール : 生後1ヶ月の時施設の前に捨てられている所を保護され施設で育つ。職業は刑事。
                    明と暗の2つの性格を持ち普段は明るくて軽い自分を演じている。
                    不機嫌な時や軽い自分に疲れると本来の自分に戻ったりする。それが『 オレ 』と言う性格。
                    耀と知り合う前までは遊びで数多くの女性と一夜限りのお付き合いをしていた。





オレは耀くんの為だけに存在するんだ…


オレは耀くんの為だけに生まれてきたの…


だから…オレの愛を…ぜんぶ耀くんにあげる…







「はっ…あっ…あっ…」

ベッドサイドのテーブルの上に置かれたステンドグラスのスタンドが照らす
薄明るい部屋の中で…
さっきからキングサイズのスプリングのきいたベッドがキシキシと揺れる…

そんなベッドの真っ白なシーツの上でもう1時間程この部屋の主である
『 叶華 』(kyouka)を抱き続けてる…

背中まで伸びる黒髪が真っ白なシーツの上で映える…

身長はオレよりも大分低い…
でも身体は申し分の無い…オレをいつも満足させる…

歳は多分オレと変わらないくらいだろう…
落ち着いてて…仕事のせいか…独特な雰囲気をかもし出してる……

不思議な女……オレはいつもそう思う…


同じ女となんて滅多に無いオレがもうこの女とは何度目だろう…?

なぜか人肌恋しくなるとそれがわかってるかの様にオレに誘いの電話が入る。

『 あなたの肌が恋しいの… 』

冗談半分のそんな誘い文句にオレは 『 いいよ… 』 と返事をして彼女の部屋を訪れる。

都心からちょっと離れた閑静な住宅街の一角に聳え立つ高層マンションの一室…
ある政治家絡みの殺人事件でアリバイの確認で訪れた相手…

そっちの世界ではなかなか有名な占い師だった。

黒髪の純日本人の顔立ちなのにどことなく違う…上手く言えないが…そう思った。

彼女の証言でその政治家のアリバイは成立し捜査はフリダシに戻ったが

『 騙されたと思ってこの男を調べてみて下さい。 』

そう教えられた男はその政治家の学生時代の同級生だった。
学生時代の妬みから罪をなすり付けようと今回の犯行に及んだらしい。
でも彼女のお陰で早期の事件解決となったわけだ。

それからちょっと経ってオレの携帯に彼女から連絡があった。
どうしてわかったのか聞くと…知り合いの偉い奴に聞けば簡単な事だと
初めてオレに抱かれながら彼女はそう言った…


「ふ…ン…ちゅっ……」

舌を絡めるキスを繰り返しながら彼女の身体を何度と無く押し上げる。
オレの身体に廻された彼女の腕と足は…オレの身体にしっかりと絡みつく…

オレに押し上げられる度に彼女のボリュームのある胸が揺れる…

身体の相性は抜群にいい…そう…抜群に…

でも…それだけだ…



「身体は満足したけど…心は満足して無いってところかしら?」

ベッドから優雅な物腰でスルリと抜け出ると
床に落ちてる浴衣を拾い上げて裸の身体に羽織る。

普段から着物を着てる彼女は洋服より浴衣が似合う。


「……気にする事無いんじゃない…いつもの事だから。」

オレはベッドに入ったままタバコに火を点けた。

本当に珍しい…いつもならさっさと帰るはずなのに…

「占ってあげましょうか?」
「は?」
「あなたの運命の人…知りたいでしょ?」
「いいよ…」
「あら?なんで?」
「どうせそんな相手現れないから。そんな相手に巡り会うなんて有り得ない。」
「そんな事…占ってみないとわからないわよ。」
「いいって…それにオレ占いなんて信じないし…」
「まあ…失礼ね。」
「ああ…悪い…」

彼女は占い師だった…


もうすぐ日付の変わる頃…オレは彼女の部屋から家に帰る途中だ。
流石に人気も無くシンと静まり返る道路…でもオレには心地良い…

今夜は満月で闇夜じゃ無い…
アスファルトも周りの景色も月明かりで青白く照らされてる…

何とも幻想的な光景…でもあとホンの数十メートルでそんな世界ともおさらばだ。

だって…あの曲がり角を曲がれば繁華街が立ち並ぶ街の中に通じる路地に出るから…


こんな夜中に人…人…人………うんざりだ

特に酔っ払いやガラの悪そうな奴が目立つ…チャラチャラ軽そうな奴ばっか…

まあオレには関係ないからサッサと帰ろ……

「ん?」

腕を掴まれて足が止まる。
振り向けば未成年と成人の境にいそうな茶髪の女。

「なに?」
「お兄さん ♪ あたしと遊ばない ♪ 」
「遊ばない。離して。」
「何よぉ〜ピチピチ女子大生だよ ♪
泊まるトコ無いのぉあたしの事好きにしていいから今晩泊めて ♪ 」
「やだ。離して!」

女子大生が泊まる所ないなんておかしいだろ?大学はどうしてるんだよ…まったく…
すぐバレるウソついて…


「サービスするしあたし慣れてるから楽しめるよ。いいじゃん…ね?」
「間に合ってるし…赤の他人泊める気無いし。」
「だから赤の他人じゃ無くなる事しようって言ってるの!」

「…………」

ああ…なんでオレを放っておいてくれないかな…

「お兄さん ♪ 」

掴んだオレの腕に自分の身体を摺り寄せてくる…

「 慣れ慣れしくオレに触んな…ガキ……離せって言ってるだろ…テメェしつこいんだよ… 」

『 オレ 』 で思い切り殺気を込めて睨みつけてそう吐き捨てた。

「 !!! 」

「テメェみたいなガキ相手にしないんだよ。オレがキレる前に早くどっか行け…」

「…………」

その場でオレの腕を離して立ち尽くしてる…
まったく…最初から大人しく離してくれてればお互いこんな嫌な思いしなくて済んだのに…

ああ…折角のいい気分が台無しだ…

オレはタバコを取り出して…ため息をつきながら火を点けた…



彼女にはオレには運命の相手なんていないし巡り会うなんて有り得ないって言ったけど…
本当はそんな相手をずっとガキの頃から探し続けてて…でも探し出せなくて…諦めたクチだ。

ずっと待ってた…ずっと探し続けてたけどオレの探し求める人は現れない…
だからそんな相手はいないんだと思ってる。

探し求めた人だと思ってた相手にはあっさりと否定されて拒絶された…

ガキの頃からの事だからもう期待するのも疲れた…
だからガキの頃から空いてるオレの胸の中の暗くて深い穴は塞がる事も無く開き続け
どんどん暗くなって深くなる…だからあんなガキ相手でも容赦無く罵倒を浴びせられる…


オレが愛せる相手は一体何処にいるんだろう…

あんなに色々な女の相手したのはいつか偶然に

オレの捜し求める相手に出会えると思ったからだ…

まあ今までそんな相手は現れなかったけどね…



「はーあ…」

真っ暗な部屋の電気を点けても明るくなったのは部屋の中だけで
オレの胸の中が明るくなる事は無い…

一体いつまでこんな気分が続くんだろう…

誰にも必要とされてないオレ…親ですらオレは必要じゃなかった…

でも…オレはそれでも生まれて来た理由を知りたい…
ただ意味も無く時間だけが過ぎていく…

そんなオレが存在し続けなければいけない理由…

それは一体何なんだろうな……



オレはただ…たった1人に愛されたいだけ…


そんな相手に巡り会えたなら…オレはオレの全てをその人に捧げる…

オレの身体も心も命も……全部その人に捧げるのに……


でも…そんな相手…いるはずがない…オレなんかに……いるわけないんだ……






「あっあっああっ……」

あのいつものベッドでいつも以上に彼女を攻めて攻めて…乱暴に押し上げる…
後ろから攻める間彼女はずっと両手で白いシーツを握り締めながら喘いでいた…

「ンア…あ…」

オレの上でオレに押し上げられながら…彼女の黒髪がサラサラと揺れてる…

彼女が逃げない様に捕まえてる華奢な腰を掴むオレの手を無意識に彼女が触れる…

しっとりと汗の滲んだ掌…

彼女をオレの上に乗せながら腹筋で起き上がると彼女が大きくのけ反った。

どうやら深く彼女に入ったらしい…

「あ……」

のけ反る彼女の背中に腕を廻してオレの方に引き寄せた。
顔に掛かる黒髪を空いてる手で退けてやる。

「…どうか…したの?今夜は随分積極的…ね」
「今夜で最後だから…」
「……そう…」
「転勤…」
「……そう…」

一昨日辞令が出た。

「わかってた?占い師さん。」
「さあ…どうかしら…あなた占い信じないんでしょう?」
「ああ…」


そんな会話を交わしながら彼女の項に手を廻して強引に舌を絡めるキスをして…

今度はお互い向き合ったまま彼女を攻め始めた……





「今夜で最後なんて名残惜しいわ…
あなた優しいし綺麗な顔だし…上手だし…相性も良かったのに…」

「そんなに褒めてくれるなんて…一応礼を言った方がいいのかな?」

ズボンだけ穿いて窓際でタバコを吸う…
彼女はいつもの様に浴衣を軽く身体に纏わり付せて…
紐を軽く腰の部分で縛ってるだけだから
肌蹴てる胸元はもう少しで胸が見えそうなくらいに淫らだ…

「ん…」

彼女がオレに腕を廻してキスをする…オレは素直に受け入れた。


「結局あなたは私のモノにはならなかったわね…残念だわ…」
「オレは誰のモノにもならないよ…誰かに縛られるなんてご免だ。」
「クスッ…」
「ん?何で笑う?」

「今に運命的な出会いいがあるわよ。もうすぐあなたは1人のモノになる…」

「何それ?もしかしてオレの事占ったの?」
「ええ…今までのお礼。」
「オレの事は占わなくていいって言ったのに。」
「ふふ…好奇心よ…」
「じゃあそれはハズレだ。オレが誰かのモノになるなんてありえない。」

そう…オレの探してる相手なんて現われるはずなんかない。

「私の占い外した事ないの知ってるわよね。」

「そりゃ…ね…」

彼女の評判は各方面からお墨付きだ。

「でも不思議なのよ…相手が男か女かわからないの。」
「え?」
「とても不思議な心を持った人物…あなた心当たりある?」

「全く無いね!」

「そうよね…会ってれば今頃その人に夢中のはずだもの…私なんて抱きに来ないわ。くすっ」

「もーやめやめ!!んなのいつの事かわからないんだろ?オレそれだけは信じないよ!」

「でも…避けられないわ…ずっと昔から決まってた事みたいだから…
もうすぐよ…楽しみにしてて…ふふ…」


「…………」



オレはそんな彼女の言葉に半信半疑…いや…殆んど信じてなかった…

最後に彼女が別れ際にオレにキスをして…

それが彼女との最後のキスになった……



それからどのくらい月日が経ったのか…そんな彼女の言葉も忘れてた…





オレは一人…街をふらついていると携帯が鳴った。

「 はい?………了解。」

携帯をズボンのポケットに仕舞って 「 お仕事!お仕事! 」 と呟いた。


夜の街に一際目立つ高級ホテル。
その大広間で事件が起こってるらしい…
広い廊下を抜けると吹き抜けの天井に高そうなシャンデリアが光り輝く…

そこで起こった人質事件……
巻き込まれた女の子の彼氏に思い切り殴られて…
気分直しでタバコを吸おうとホテルの廊下を歩くと何枚もの大きな一枚ガラスで覆われた
廊下に出た。
外の景色がガラスなんか無いみたいに綺麗に見える…


そこにいたんだ…


髪は…短くて…サラサラなびいてる…背は…オレより大分低い…

上下黒の服を着て…窓ガラスに…手を添えて…外を眺めていた…

…その子を見た時…


      オレは…自分の時間が止まった様に思えた…


最後の出会いのシーンです。大分前に描いたから今と感じが違いますがこんな出逢いでした。

耀は椎凪に気付かず1言も話さずに別れた2人です。