naisyonohanasi

 * 思いっきりBL要素ありです。苦手な方ご遠慮下さい。 椎凪: 20歳  亨: 30歳*



「もういいよ。」

さっきから俺と舌を絡ませ合ってた年上の男の胸を押し退けて
ウンザリとして言った。
「…何だよ。今更止めるつもりじゃ無いだろうな?」
名残惜しそうに俺に手を伸ばす。
俺は軽く一歩後ろに下がると微笑んだ。
「最初に言ったじゃん。キスして俺がその気になったらって。」
「じゃあ…」
「やだな勘違いしないでよ。反対だよ。
全然その気になんない。あんたキス下手くそ。」
「なに…?」
俺に掴み掛かりそうになる奴の手から逃れて
小走りで 隠れる様に入り込んだ細い路地から飛び出した。
「じゃあね!」
ヒラヒラと手を振ってお兄さんにさよならをした。

暇だったんだ…
何をしてもつまら なくて街をフラついて相手探して…
男でも女でもよかったんだよね。
でも今日は男と遊びたかったから。さっきのは失敗。
やっぱり妥協したのが間違いだった。
気分を変えようと流行りのカフェテラスに寄った。
洒落た店。コーヒーは苦いからアイスココア。
いいじゃん。俺まだガキだもん。

俺は悠侠諒 (yuuki makoto)。17歳。ピチピチの高校2年生だ。
つい最近男同士なんてのに興味を持ちそれから直ぐアッサリと処女喪失。
相手は真面目そうなサラリーマン風 の男だった。
慣れてたらしく優しくしてくれて…あの人は正解だったな。
置かれたアイスココアをチビチビ飲みながら店内を見回した。
誰か相手してくれる 人いないかなぁ…


「え?来れないの?」
『悪い。事件重なってこれから現場行かなきゃならないんだ。』
「ふーん…」
『何だよ?疑ってんのか?』
「まさか…いくら僕に会いたくないからって僕の誕生日に
そこまで外道な事はしないだろう?」
『……お前…』
慶の呆れた声が聞こえた。
自分の普段の行いが 悪いせいだろ?疑われるのは。
「いいよ。その代わりちゃんと穴埋めはしてくれるんだろう?」
当然の要求だ。
『…それなりに…』
今度は渋々な声だ。
「じゃあ近い内に泊まりにおいで一週間。」
『はぁ?』
「嫌なら僕が慶の所行こうか?」
『…わかったよ…とにかくそう言う事だからさ。じゃあな。』
フフ…諦めたか。
時間が無い時の方が考える余地無しで決断が速い。
「慶!」
切ろうとする慶に声を掛けた。
『ん?ああ…!三十路の誕生日おめでとう。 チユッ!じゃあな!』
そう言うと電話が切れた。
「まったく三十路は余計だ。クスッ」

予想外のキスまでしてもらって僕は上機嫌。
今頃とんでもなく テレた顔してる慶が想像出来て思わず笑ってしまった。
会えないのは残念だけどそのお陰で更に楽しみが増えた。
携帯を仕舞って飲みかけのコーヒーを飲む。
さて…予定が無くなったな…とりあえず後一杯コーヒーを飲んだら出て…
夕食でも食べて帰ろうか…ああ早く慶が泊まりに来ないかな…
なんて泊まりに来た時を想像して 人に判らないように一人でクスッと笑った。

「お兄さんフラれたの?」

突然目の前の空いてた席に誰かが座った。
誰だ?聞き覚えの無い声だ。
見れば高校生らしき年頃の男の子が頬杖をついてニッコリと笑ってる。
しかも飲み物付きで。
「?…君誰?」
思わず眉間にシワが寄る。
「そんな怖い顔 しないでよ〜ニコッ。」
「僕に何か用?」
「……お兄さん綺麗な顔してるんだね…
女の人に見えるとかじゃ無くて…男なのに綺麗なんだ…」
じっと顔を見られて 納得した様に呟いてる。
「は?いきなり何?大体君なんなの?さっきから。」
「あ!ごめんなさい。俺悠侠諒って言います。ヒマしてるんなら俺と遊びません?」
「は?」
またニッコリと笑われた。
これってもしかして…僕はこの子にナンパされてるのか?
「俺お兄さんをナンパしてるんですけど?」
見透かされた様に 言われた。
「たいした趣味だね。他にやる事無いの?」
「息抜きだよ。今時の高校生は結構キツイんだから。」
「……遊ぶって?」
見つめられた瞳が余りにも キラキラしてて思わず話しに付き合ってしまった。
相手をするかは別として。
「んー…カラオケでも遊園地でも映画でも何でもいいよ!
出来ればご飯食べさせてくれると 嬉しいけど…」
「………」
片肘で頬杖をついて愉しそうに笑ってる。
良く喋る子だと話を聞きながら眺めてしまった。
そんなのを勘違いされたのか…

「ご飯食べさせてくれたらそれなりのお礼するし。」

って悪戯っ子の様な顔をした。
「慣れてるの?そう言う事…」
「まさか!」
嘘だ。
笑った顔が 何とも挑発的じゃないか…
「どうかな?俺じゃダメ?」
「……じゃあ食事だけ驕る事にしよう。ちょうど僕も食べる所だったし。」
「やった!ご馳走様! じゃあ行こうよ。ね!」

今はまるで無邪気な子供の様だ…
そんな子供の顔の下にどんな顔が隠れているのかと
ちょっと興味が湧いたのは事実だった。

「俺さあんまり遊ぶ相手の事聞かないんだけど名前くらい教えてよ。
呼ぶのも困るし。
俺さっきも言ったけど諒。お兄さんは?」
「真鍋。」
「名前は?」
「言わない。名前で呼ばれたく無い。」
「へー変わってる。」
後ろ向きで歩きながら小首を傾げた。
何から何まで計算ずくらしいその辺の物好きなら
その仕草 だけでいくらでも出しそうだ。

僕は名前で呼ばれるのは好きじゃ無い。
慶彦だけに呼ばれたいから。

「何ご馳走してくれるの?」
「何がいいの?」
「う〜ん…何がいいかな?真鍋さんは?」
「僕はパスタ。」
「じゃあそれで決まり!いいお店知ってる?」
「それなりの所なら。」
「そ!じゃあ行こう。 ……ねぇ…」
「ん?」
下から上目使いに見上げて来た。
「腕組んでもいい?」
「……組みたいの?」
見下ろして聞いた。
彼はキョトンとした顔をしてる。
「!!…聞き返されたの初めてだよ。クスッ。
ホントに変わってるね。真鍋さんって。」
「そうかな?」
僕って変わってるのか?
慶彦がいたら何度も頷いてる様な 気がして何だかムカッときた。


「真鍋さんって公務員?」
「…そう見える?」
「うん。真面目そう。」
食事も済んでコーヒーを飲んでる。
さっき飲みそこねたから余計に美味しい。
真面目そうねぇ…慶彦が居たら驚くかな…
なんてつい慶彦を引き合いに出してしまう…マズイ…重傷だ…
「ご馳走様でした。じゃあ今度は俺がお礼する番だ。」
「無理しなくていいよ。僕は別にそんな事望んでない。」
「俺そんなに魅力無いかな?」
店を出て歩き ながら話してるんだけれども…
一応話は噛み合ってるんだろう…ただ気持ちはチグハグなのか?
「俺が男だから?」
「そう言う訳じゃ無い。」
「俺は真鍋さんと したい。」
「…はっきり言うね…」
ちょっと苦笑い。
慶にもこんな積極的な所があれば…ねぇ…あーまた慶彦の事考えてしまった。
「じゃあこう言うのは? 俺とキスして真鍋さんがその気になったら俺とする。ね?
どうせ遊びなんだから良いでしょ?」
「………」
上目使いに見上げられて一瞬見つめてしまった…また瞳が キラキラと輝いてた。
「…ンッ!」
抱き着かれて首に腕を廻されていきなり唇を塞がれた。
確かに慣れてるみたいだ…何の躊躇も無く舌を絡ませて来たから…
「…ン……」
首に廻した腕に力が入って引き寄せられた。
とりあえず彼に任せて大人しくしていた。
「…ハァ…どう?」
息が弾んで頬が仄に赤い… やっぱり子供か…
「?」
戸惑った顔で僕を見上げてる…僕が無言で見てるからだ。
「真鍋…さん?」
「まだまだ勉強不足だね。」
「え?」
「特別に個人授業をしてあげるよ。」
「個人…授業?」
「そう…本当に特別だよ…」
言いながら彼の顎を軽く持ち上げた。
「あ…」
今度は僕が彼を引き 寄せた。


「…ンッ…ンッ…あっ…真…鍋さん…待っ…」
「待たない…」
「…ふぁ…あっ…アッ…や…」

此処はホテルのベッドの中…
一体どの位時間が経ったんだろう…
真鍋さんの唇が…舌が…手が…俺の身体を変えていく…
もう自分の身体じゃないみたいだ…俺…こんなに感じる奴だったけ?
今までの相手なんか比べものにならない…しかもまだ本番でもないのに…

お互いシャワーを浴びて真鍋さんが優しくキスしてくれた…
最初は息が出来ないくらい の激しいキスされてあっという間に
頭の中が真っ白になったけど…
今は気持ち良くて…いつまでも真鍋さんとキスしてたいって思ってる…

最初っから好きだった のかな…
見つけた瞬間ドキドキして…一緒にいたかった…

「…あ…」
中々感じ易い身体らしい…
慣れてるらしく僕の動きに戸惑いも無く反応してくる。
「…真鍋さん…お願い…もう…」
潤んだ瞳で催促された…
「いいよ…」
そう言うと彼は僕に抱き着いて来た。
「…ンア…」
ゆっくりと彼に入っていく…
彼の顔が苦痛で歪む…目はつぶったまま身体を大きく反らして…
「…うあ…あ…」
のけ反った彼の顎にキスをして下から舐め上げた。
「ひゃ…うっ…」
舐め上げてそのまま口を塞いだ。

「…ン…」
あ…どうしよう…気持ち…イイ…
直ぐに思い切り押し上げられた…何度も何度も…
それが激しくて…必死で 真鍋さんにしがみついた。

「真鍋…さ…ん…好き…アッ!!」

思わず口走ってた…言った瞬間更に押し上げられて…身体に電気が走ったみたい…

「これは…遊びだろ…」

俺を押し上げながら余裕な声でそう言った。
「!!」
それが返事…そう…だよね…チェ…残念…
「本気に…なり…そう… なんだもん…
こんな風に…抱かれたの…初…めて…ウッ…アッ…アッ…」
「余計な事言ってないで…イッといで…諒…」
「…!!…」
名前…呼んでくれた…

「あっ…ああああっっっ!!」

そう思った瞬間…身体が弾けて…頭が真っ白になった………


「…ン…?!」
目が覚めると…ベッドに一人…
あーあ…逃げられた…って言うのはお門違いなのは分かってるけど…
俺はそんな気持ちだった。
「チェ…もっと迫ろうと思ってたのに…」
俺は久々に本気になった らしい…でもあっという間に失恋か…
頭を掻きながら…俺は裸のまま浴室に歩いて行った。


あれから一週間…あの人以上の人は現れない…
って言うか 他の人に目が行かないってのが本音かな…
また会えないかとフラフラと街をフラついてる毎日だ。

「あっちの店にあるんじゃないか?」
そう言って店から出て 来たのは…
「…あ…」
見間違える筈無い真鍋さんだ…やっと会えた…真鍋さんも俺に気付いてる。
ジッと俺を見つめてる。
だよな…だってこんな目の前… 俺は顔が一気にほてったのがわかる…嬉しくて…
「真…」
真鍋さんに一歩踏み出した瞬間…

「本当にそこに売ってんのかよ?無くても良いんじゃね?」
店の中から明らかに真鍋さんの連れとおぼしき男の人が
歩きながら真鍋さんに話し掛けた。
俺は思わず言葉を飲み込んでしまった。
動き出した身体もピタリと止まる。

「隠し味で必要だって言ってるだろ?これだから慶はダメなんだよ。」
「そこまで言われる筋合いはねーだろ。」

何だ…すごく仲良さそうな会話…
「折角僕の手料理食べさせるんだから完璧じやなきゃね。」
「だからオレはそこまで気にしないって…」
真鍋さんが俺を見ながら会話する…

「…!?…亨?」

…とお…る?…名前で呼ばれてる?
「ああ…今行くよ。慶。」
そう答えると俺から視線を外して…なんの躊躇も無く俺に背を向けた…

「?…何だよ?」
「何も…」


言いながら2人がどんどん遠ざかって行く…
俺はそんな2人を暫く見送って…2人とは反対の方へ歩き出した。