01

    * 亨のお話なので当然なんですが…BL要素あります。
      椎凪との絡みらしきものもほんの少し最後にあります。
      なので椎凪のイメージ狂うの嫌な方は最後の方…ご注意を… *






慶彦に友達を押し付けられた。

何でも昔同じ署で同じマンションだったとか…
最近近くの警察署に移動になって慶彦を訪ねて来たらしいけど…
今夜は慶彦は 夜勤だからって…何で僕が彼の面倒を見なくちゃいけないんだ…
何でだったか…?そう言えば…彼は慶彦の料理に惚れてるとか…
僕も同じ位美味しいって慶彦が 彼に説明したんだ…
そしたら食べたいの一点張りで…慶彦はそのまま仕事に戻るし…
2人残されて何だか僕の家に連れて来る羽目になったんだっけ…
ナゼか… 初めっからハメられた様な気がする…

慶彦め…後で憶えてなよ…

僕は密かにどんなお仕置きをしようか考えていた。


「何だ?美味しそうな匂いだな…何を作っている?」

そう言って僕の背中かに凭れかかりながら覗き込んで来た。
随分馴れ馴れしい…

「ちょっと…大人しく待ってられないの?重いし邪魔!」
「椎凪と同じ位美味しいと言うから楽しみでな…」
そう言って笑いながら僕から離れた。

確か慶彦と同じ26歳のはず…
なのに何とも古風と言うか…変わってると言うか…
シャワーを浴びた後に着替えたのは浴衣だし…
しっかり持参して たんだよね…泊まる気満々だったんだ…
だから慶彦の奴僕に押し付けたな…
だったらホテルでも泊まらせればいいのに…
後で聞いたら彼はホテルが嫌いだとか… 我が儘だな…
それに喋り方も今時珍しい…親の躾か?…それとも本人の趣味?

「 うまい。 」

彼が一口食べてそう言った。
「当然だろ。」
「椎凪の言っていた事は本当だったな。
お前の作った料理は椎凪と同じ位美味しいぞ。気に入った。 」
そう言ってニッコリ笑った…何て子供っぽい顔で笑うんだか…
思わず暫く眺めてしまった。
「お前じゃない真鍋亨。しかも君より年上だから。」
「では真鍋でいいか?さんや君を付けた方が良いかな?」
「真鍋でいいよ… なんか君って調子狂うんだよね…」
「そうか?それはすまない。」

ホントにそう思ってるのか疑問だったけど…まあもういい…諦めて箸を進めた。

僕の家にはベッドは一つしかない。
しかも来客なんて慶彦以外いないから布団なんて他に無い。
慶彦が泊まる時は一緒のベッドだから。
だから彼にはソファで 寝てもらった。
大体なんで初対面の男を泊めなきゃならないんだ?ご飯まで食べさせて…
そんな事をさせてしまうのは彼の素行の成せる技か?
図々しい訳では なく遠慮している訳でもなく…
独特な雰囲気を醸し出してる…だから僕のアンテナに引っかかるのか?

「……ん?」

夜中に目が覚めた。
何だ?…って!!
「何してんの?誰がここで寝ていいなんて言った?
ふざけるんじゃないっ!!ほらっ!出てっ!!」
隣を見て驚いた。
彼がいつの間にかベッドに入ってしっかり寝る体勢だ。
何で僕が慶彦以外の男と一緒に寝なきゃいけない?!
「ソファは駄目だ…身体が痛い…やはり ベッドがいいな…」
何?何で猫がじゃれるみたい枕にしがみ付いてる?
しかもまた子供みたいな顔して…

こんな夜中に怒鳴り散らすのも気分が重い…
かといって引き摺り下ろすなんて肉体労働も勘弁して欲しい…
…仕方なく諦めた。

朝目を覚まして隣で眠る男を見た。
一緒に寝てた のかと思うほど存在感が無くて
今も僕に背を向けてベッドの端っこで丸まって眠ってる…
その姿がまるで猫みたいだった…
「にゃあって鳴いてご覧…」
フザケ半分で耳元で囁いた…
ビクンとなって「ハフッ…」って溜息を漏らした…面白い…
まあ今日で彼の面倒を見る事も無いからと思うと…ホッと溜息が出た。


「ふむ…」

真鍋の部屋の玄関の前。
俺は人差し指を顎にあてて考えあぐねていた。
今真鍋は留守だ。仕事中と言うのも分ってる。

だから…だ… さてさて…どうするか?


「何で君がここに居るっ!!どうやって中に入った?鍵持って無いだろ?」

帰って来るなり部屋の電気が点いててビックリした。
泥棒かと思って危うく警察に電話をする所に彼が「おかえり。」
とヒョッコリと顔を出した。
しっかり浴衣に着替えて…

「どうやって入ったんだ?」
「鍵を落としたと言ったら開けてくれたぞ。」
「はぁ?」
「警察手帳を見せたら疑いも しなかった。流石国家組織だな。」
「…………」
冗談じゃない…
「これって不法侵入だろ?刑事がそんな事してもいいの?って言うか何しに来たの?」
「実はなまだ部屋が決まっていなくてな。椎凪の所に厄介になろうと思っていたのだが
まさか女と暮しているとは思わなくてホトホト困っていたのだ。」
「何で慶彦の所?マンションでも借りればいいだろうに。」
「何を言っている。折角椎凪の傍に転勤になったのだぞ?
あやつの料理を毎日食べるには一緒に住むしか あるまい?」
「は?」
「だが丁度いい所に真鍋がいてくれたのでな。
真鍋の料理も俺の口に合う。だからここで暮す事にした。これから宜しく頼む。」
「ニッコリ笑ったって誤魔化されないよ!冗談じゃないっ!
勝手にそんな事決めるんじゃないっ!!出てけっ!今すぐこの部屋から出てけっ!!」
「それは困る。 どうにか考え直して貰えないか?真鍋。」
「考え直す余地無しだよっ!!」
「うーむ…家賃はちゃんと払うぞ。食費や光熱費も。」
「そんなの当たり前だろ。」
「では…うまいお茶を淹れてやる。毎日な。」
「僕はお茶なんて飲まない。」
「ナゼ?日本人なのに?ナゼだ?」
「僕はコーヒー派。ってそんなの今関係ないだろ。」
「うむ…参ったな…ではせめて住む所が決まるまで面倒を見て貰え ないか?」
「すぐ探すって約束するならね。」
「よし!決まりだ。宜しく頼むぞ真鍋。俺の事は『樹』で良い。呼び捨てで構わん。」
「あ…そう… じゃあホントに早く見つけてよ。僕気は短い方なんだから。」
「わかった。して早速なのだが腹が減った。」
「はぁ?」
「真鍋が帰って来るまでずっと 我慢していたのだ。」
「…………」

眩暈がしてきた…


「はあ…やはり真鍋の料理は美味しい。」

もの凄い満足気な顔してる…まったく… 何で僕がこんな奴の面倒を…
邪魔ではなかったからか?鬱陶しくないのは確かだ…不思議な男だ…

遅い夕食を終えて樹が寝る支度を始めた。
「では真鍋 おやすみ。」
「ああ…おやすみ。」
早く寝てしまえ…ってまさか僕のベッドで…!!

「 ちゅっ 」

「………!!………」

何っ!? 僕にキスした?

「どうした真鍋?」
「どうしたって…こっちが聞いたいね…なんのつもり?」
「椎凪が言っていたぞ。真鍋の家では挨拶は全てキスだと な。
多少驚いたが世話になる身なのでその家のしきたりには従わねばな。」 
真面目な顔で言ってる…本気にしてるのか?…

慶彦の悪戯っぽい顔が浮かぶ… 慶彦の奴…楽しんでるな…憶えてなよ…
新たにお仕置きの項目を増やしつつ僕は決意を新たにした。


樹は空気みたいだ…
僕の中に踏み込んで来ない…
こんなに傍で一緒に生活してるって言うのに…

樹が僕に関心が無いからか…生まれ持った性質のせいか…
樹は気ままで…自由だ…
それなのに自分が居候だと わかってる…

まるで猫みたいな男だと思った。


「腹が減ったメシ!メシを喰わせてくれっ!!メシくれ!」

この時だけはやたらと自己主張が 激しい…子供じゃあるまいし…喧しいっ!!

「わかった!ちょっと待ちなって!」
「メシ!!お腹と背中がくっ付いてしまうぞ!真鍋!」
「うるさいな君は!だったら少しは手伝え!そうすれば少しは早く食べれるだろ!」
あんまり煩いしウロチョロ邪魔だからそう言った…
んだけど…やらすんじゃ 無かった…後悔した。
凄い大雑把な男だというのを思い知らされた。

「あ!バカッ!!それは砂糖だって…
ああっ!!塩そんなに…入れ過ぎだって!! あーもうー樹!!」

「真鍋は怒ってばかりだな?もう少し心を広く持った方がいいぞ。早死にしてしまうぞ。」
味の調整を必死になってやり直してる僕に 向かってそんな事を言う。
「誰のせいだと思ってんのっ!!」
「そら…また怒った。」
「ほんと誰が2倍怒らせてんだ!!自覚しなよっ!!自覚!!」

自分の事を言われてると理解して無い様だった…また眩暈が…


あれから結局2週間経った。
最初の1週間は多目に見た。
しかし…どう見ても住む場所を 探してる様には思えなかった。

「樹…次住む所決まったの?」
「ああ…その事だが実は警察の寮に入ろうと思っているのだが
今の所空きが無くてな。 だからもう少し厄介になるぞ。」
「なら空きがでるまでの住む場所探しなよ。僕の所じゃなくてもいいだろ。」
「!」
キッ!!っと樹が僕を睨んだ。
なに?何か文句でもあるのか?負けないぞ。受けてたってやる!!

「真鍋はそんな薄情な男だったのかっ!!
俺がどれだけ真鍋の料理に惚れ込んでるのか知っている だろう!!
そんな俺を追い出すのか?俺を飢え死にさせたいのかっ?!」

胸倉掴まれて叫ばれた。
目がマジだ…なんでそこまで食べ物に執着する。
僕は溜息交じりで樹の両手を掴んで壁に押さえつけた。
不思議と抵抗しなかった。

「樹…僕男でもOKだから知らないよ…だから早く出て行って…」

真っ直ぐ樹の瞳を見つめてそう言った。
マジだってわかるだろ…

「男でもOKと言う事は…男とでもすると言う事か?」

キョトンとした顔で聞きなお された。
「そうだけど?」
「真鍋は俺とそう言う事がしたいのか?」
「別にしたい訳じゃない。
でも好きじゃなくてもそう言う事は出来るって言ってるんだよ。だから…」
普通男同士なんて引くだろうと思ってあえてそう言った。
これで出て行くだろ…
「別に俺としたいわけではないのなら問題無かろう?
そう言う好みなのは 別に否定せんが?」
「………」
今度は僕がキョトンとしてしまった…この男…どこまで気ままなのか…
自分に言われてるって思わないのか?
「ああそうだ! おやすみ真鍋。先に休むぞ。」
「ちゅっ」
「…………」

ホント…この男…マイペースなのか鈍いのか…
ああ…また眩暈してきた…
思わず壁に手を付いて項垂れてしまった…
「どうした?真鍋?」
そんな僕を見て張本人の樹が心配そうに声を掛ける。
「いや…なんか疲れた… 出来の悪い生徒相手にしてるみたいだ…」
ナゼか落ち込んでしまった…
この僕を落ち込ませるなんて…とんでもない男だ…君って奴は…


それから更に月日は流れて半年が過ぎた。
もう寮の順番待ちなんてしてるのか疑問だ。
そんなある日樹が夜中になっても帰って来ない…
気になって携帯に連絡した。

「あ!樹?何してんの?は?帰れない?
電車無くなった?タクシーは?え?お金足りない?
今何処にいるの?はぁ?何でそんな所にいるの?」
樹の話だとここから 車でも2時間は掛かる場所にいた。
一体何やってるんだか…

明け方に樹はタクシーで帰って来た。
足りない分は帰ってから払えって言って帰って来いって 僕が命令した。
部屋に入ると樹は照れた様に笑った。

「いやー…今日から新しい職場でな…帰れると思ったのだが
事件が重なったら帰れなくなってしまった。参った。」
「バカじゃないの?通いきれるわけ無いだろ?」
ホント呆れた。
「んー…そう思ったのだが俺は真鍋の料理が食べたいのだ!毎日なっ!!」
真剣な顔で僕に 宣言した。人差し指付きで。
「本当にバカだね。君は…今回は諦めな。遠すぎるよ。」


樹は最後までゴネた。
でも自分でも無理な事は分かっていた らしい…最後は諦めて出て行った。
こうして半年間の共同生活は終わった…結局僕たちは身体を重ねる事は一度も無かった。
キスは…まあ毎日の様にしてたけど… 挨拶で…

慶彦へのお仕置きは半年間溜めに溜めて樹が出て行った後で決行した。
僕の所に呼んでお詫びのキスをしろと命じて目を瞑らせた後
2人の思い出の 首輪を付けてやった。
鍵付きだから自分では外せない。
抱くまではしなかったけどそれに近い事を要求してたっぷりと虐めてやった。
ざまあみろ!だ。
当分あの子の前じゃ裸になれないくらい身体中に僕の印を付けてやった。
暫く慶彦は僕に会いに来ないだろう…まあ僕は十分慶彦の身体を堪能したから構わない。


樹が出て行って1ヶ月…一度も僕に会いに来ない。
本人曰く一度でも僕の料理を食べると我慢出来なくなるからだそうだ。
散々世話になっておきながらそんな理由は 許されない。
これはワザと僕の料理を食べさせてイジメてやろう…苦しめばいい…ふふ…

樹がその時どんな顔をするだろうと想像しながら次の休日に会いに 行く事に決めた。