05

     * 亨のお話なので当然なんですが…BL要素あります。
         今回椎凪との絡みがありますので椎凪のイメージ壊したくない方…ご遠慮下さい。 *




「椎凪!」
「ん?」
呼ばれて振り向くと樹が片手を上げて近付いて来る所だった。

近くの喫茶店に入って向かい合う。
「亨と上手くやってんの?」
こっちに戻ってから樹は亨の所に居候してる。今回で二度目だよな…
「イジメられてないの?」
煙草に火を点けながら聞いた。
「イジメ?まったく。優しいぞ 真鍋は。」
樹が笑ってそう言った。
「優しい?亨が?」
嘘だろ…別人なんじゃないのか?思わず疑ってしまった…
「まぁ…たまに怒られるがな…ハハ。」
樹が照れた様に頭を掻いてる…
「飯は相変わらずいつも美味いしな。俺はそれだけでも満足だ。」
またニッコリと笑った。
「………」
何だろ… 微かに違和感が身体を走った…
「亨と一緒に寝てんの?」
だよな…あそこベッド一つだし。
「ん?…ああ…前世話になった時もそうだったしな。」
一瞬樹の頬が紅くなった様な気がしたのは気のせいか?
「そっか…」
何故かぎこちない笑いになった。
オレも泊まる時は一緒に寝てたっけな…なんて思いつつ…
「もしかして挨拶のキスもちゃんとしてるとか?」
覗き込む様に樹を見ながら尋ねた。
「お前が初めにそう言っていたではないか。ちゃんとしているぞ。 それが礼儀だ。」
今では樹の方が積極的にしているとは言えない…
「へぇ…」
どうでも良いような返事になって…視線も樹から離れてる。
亨が…ねぇ…

それから樹に呼ばれるまでオレは何を考えてたのか覚えていなかった。


「慶?」
「よ!」

亨の仕事が終わる頃何となく足が向いて寄って しまった。
「どうしたの?」
「ちょうど仕事の帰り。」
「そう?お疲れ。」
「亨もな。」

そのまま二人で夜道を歩いて行く。
「あの子 待ってるんだろ。これから夕飯の支度?」
「うん…そっちもだろ?」
「ああ…樹もお腹空かして待ってるからね。」
「待ってる…か…」
「ん?」
「いや…」

ホントどうしたんだオレ…昼間からなんかおかしい。

2人して黙々と歩いていく。
「どうしたの?慶…何か僕に用があるんじゃないの?」
亨がオレを軽く覗き込みながら話し掛けて来た。
「別に無いよ。ホントたまたま時間が合ったからだって。」
オレは微かに笑ってそう答えた。

「じゃあ僕を見なよ。慶彦。」

「…!!」

気付かれたか…
「さっきから僕を見ないじゃないか…何か僕を見れない事でもしたの?」
「ばっ…んなわけあるか。」
慌てて否定して更に疑われたらしい。
「慶!」
手首を掴まれた。
「ホント何でもないよ…」
「………」
亨がオレを 睨んだまま掴んだ手首を放さない…観念して話すしかない。

「……はぁ…今日樹に会ったんだよ…」
亨から視線を逸らして呟いた。
「樹に?だから?」
「樹と上手くやってるんだってな。」
「やってるって言うのか…面倒見てるって言うか…
大体最初に樹を僕に押し付けたのは慶だろ?」
「そうだった… そうだったよな…」
亨の顔を見れなくて足元のアスファルトを見つめながら笑った。
「何?」
「いや…だから何でもないって言っ…」
「僕と樹の事が 気になるの?」
「!!…バッ…何…」
「好きだよ。じゃなきゃ樹と一緒になんて暮らせないよ。
キスだって毎日してる毎晩一緒に寝てご飯食べて…
好きじゃなきゃ出来ないだろ。」
まあ…挨拶のキスだけど…
「………」
慶彦が瞬きもせずに僕を見つめてる。
「それが聞きたかったの?僕が樹をどう 思ってるか…僕の口から…」
「……さぁ…わかんねぇ…」

それは本当なんだろうと思った。
きっと自分でも何故だか分からずに僕に会いに来たんだ。
ホント可愛いね。慶彦…
「そう好きだよ。樹の事…」
「………」
慶彦がジッと僕を見つめてる…瞬きもせずに…
「好きだよ。」
もう一度言って僕も 慶彦をジッと見つめた。
「…わかった。もういい…」

「 でも愛してるのは慶彦だけだよ… 」

「 !! 」

強引に僕から離れようとしてた 慶彦の動きが止まって僕を振り返った。
「 そう…愛してるのは慶彦だけ…だから何も心配する事は無いよ。 」
ニッコリと笑ってみせた。
「なっ…何言ってんだ… オレは別に…」
あーあ…照れちゃって…
「ホント可愛いね…全部顔に出てるよ。慶。」
「 うるせーっっ!!」

「不安になったんだろ?僕が 離れて行くみたいで。」

「違う!ガキじゃあるまいし…んな事…」
「そう?でも安心しなよどんな事があっても…慶があの子の事好きになっても
あの子と 結婚しても慶は僕のものだから。」
「違うって何度も言ってんだろ?オレは耀くんのものだって…」

「僕も何度も言ってるだろ慶彦は僕のものでもあるって。
あの時…あの九日間でそうなったじゃないか…」

「………」
困った顔になってる…益々そそられる。
「あっちの慶になりな。これは命令だよ慶。」
優しく耳元で囁いた。
「……ン…」
慶彦の身体がビクリとなった…相変わらず感じ易い事…

そして目を閉じてゆっくりと目を明けると…
そこにはもう一人の 慶彦がいた。

「ふふ…」
「何だ…」

あの暗い瞳が僕を見つめてる…僕の一番好きな瞳…
「僕はこっちの慶彦が好きだよ。」
「あーそう…」
二人の距離はもう鼻の頭がくっ着く程近い。

「 お前だけを愛してる…慶彦。 」

何か言いかけた慶彦の唇を塞いで思いきり舌を絡ませた。
「ン…」
慶彦は逃げずに大人しく僕を受け入れた。
部屋の中ならそのまま押し倒して愛し合いたい所だが
路上じゃキスが良いところだ。

「こっちの慶とキスする なんて初めかな?」

言いながら慶彦の唇を舐めた。
「出血大サービスだ。」

舐めた舌を慶彦の舌が追いかけてくる…
そのまま…また深くて淫らなキスを延々と繰り返した。


「安心した?」
「うるせー!!」
そう照れながら呟いた慶彦はもういつもの慶彦に戻ってる。
「愛されてるなんて幸せだよ。」
「愛してねーよ。嫌いじゃないだけだ。」
「苦しい言い訳だね。」
そう言って笑う…
「慶彦風に言うと  『 僕は慶彦のモノ 』 か?」
そう言ってまた笑った。


亨をオレのモノだと思った事は一度も無い。
今日のオレの中で沸き上がった感情はそんなん じゃない…
父親が再婚する様な…兄貴が結婚する様な…そんな感じに似てる…
分かっているのに素直に喜べない…そんな気持ち…だと思う… そう自分に納得させた。
一番ビックリしたのはオレでしかも亨にあんな風に悟されるなんて思わなかった…
絶対優越感に浸ってるに決まってる!亨の今の状況が 手に取るようにわかる…
これから先一生今まで以上に上から目線で絡まれるのが分かって眩暈がした…
今までもそうだったんだが…そんな事になってもシカトで 逃げ切ろうと心に誓った。


ただ…さっきから抵抗出来ずに亨のキスを受け入れているオレに

一抹の不安がよぎるのは否めない…