koukouseinikki





「何もここまでしてくれなくてもよかったのに…」

「僕の親切が気に入らない?」
「いや…そう言う訳じゃ…」

ここは都立の某有名進学校。…の廊下。
今日から3日間この高校では文化祭が行われる。
初日の今日は一般公開では無く生徒達対象に行われる。
「この学校の女なんかに君の貴重な時間を使わせる訳には いかないからね。」
そう言い切る男…真鍋亨17歳。この高校の生徒会長。
「まったく…くだらないイベントだよ。僕の権限で今年から廃止にしようと思ってたのに…」
「仕方ないよ。理事長の馴れ初めが絡んでるんだから…」
亨をさっきからなだめているのは同じクラスで生徒会副会長の奥園 郁(かおる)。
「くだらないよ。 何でこの学校の女と君が一日デートしなくちゃいけないんだよ。
しかもミスコンだなんて…どの女も似たようなもんじゃないか。」
「真鍋…」
この高校の文化祭での 恒例の行事。
なんでも創立者で初代の理事長がそのミスコンで優勝した女生徒と結婚したとかで毎年ミスコンの
優勝者にはその時に女生徒のアンケートで一番デートをしたい 男子生徒とデートする事が出来ると
決めた。それをきっかけに何組かは結婚を決めているらしい…
そのアンケートの一番の男が今僕の隣にいる奥園なんだが…

僕は彼に好意を持ってる。
それは恋愛感情ではなく一人の人間として気に入ってるだけだ。
容姿、性格、頭脳、人間性…そして一番の気に入ってる所は内面から湧き 出る独特のオーラ。
有名な華道の家元の息子だからか…生まれ持ったモノが違うんだろう…
僕は普通の人間には興味が無い。普通と違う何かを持っている人間に 興味をそそられる…
更に僕のタイプに当てはまれば男だろうが女だろうが興味が湧く…
だから彼に普通の女とデートだなんて絶対にさせない。
それが学校の…理事長の 命令でもだ。

「……真鍋…本当にいいのか?それで…」
「ああ。必ず優勝してみせるよ。君の為にね。」
「でも…参加者は女子だろ?既に反則なんじゃ?」
「良くポスターを見てみろ。参加者は全生徒対象ってなってるだろ?」
「あ!本当だ…いつの間に…」
「コレくらいは僕の一存で改定OKだからね。」
「はぁ…凄いよお前…優勝…するかもな…」
「当然だ。この為に支度に2時間もかけたんだから。」
カツラに化粧に女子の制服…何処から見ても女子高校生だ。


「さて。いつデートしてもらおうか。」
「マジ?…まあお前ならいいけどさ…そん時は女装してくんなよ…」
奥園が呆れた顔で僕を見た。
ミスコン優勝。 当然の結果だった。
僕の登場にホールは驚きの声が上がる…名前を聞いて更に驚きが増した。
それはそうだろう…生徒会長が女装してミスコンに参加するなんて 前代未聞だろうし…
インパクトもあったし何より参加した女の中で僕が一番綺麗だったと確信してた。
案の定審査員満場一致で僕の優勝。

「男に告白される んじゃないのか?真鍋。」
「君以外のこの学校の男子生徒なんて僕の眼中に無いよ。興味ない。」


「…………」
次の日の朝…文化祭2日目…
朝一で 生徒会室に行くと…見事なバラの花束がドアの前に置いてあった。
「何だ?これ…」
奥園が拾い上げメッセージを読む。
「なになに…僕は男ですが昨日のあなたに 心を奪われました。愛を込めて。」
「………」
いつの間にか後から来た生徒会の役員までもがそのメッセージを覗き込んでいる。
「ブッ…!!あははははははっ!!」
奥園が思いっきり笑った。
他の役員達も後ろを向いて肩で笑ってる…
バ サ ッ 
僕はその花束とメッセージカードを奥園から奪い取ってゴミ箱に叩き捨てた!
「バカとしか言いようが無いなっ!」
「だから言っただろ?いるんだよ中にはこう言う奴が。」
奥園が笑いを堪えてる…そんなに可笑しいのか?
「女子の間でも 凄いですよ。いつも冷たい生徒会長が女装して…それに優勝したなんて…
昨日のうちに会長の写メ…出回ってますもん。ほら!」
そう言って1年の書記の子が携帯の 待ち受けを僕に見せた。
「隠れファンクラブも結成されたらしいですよ。」
今度は2年の会計の子が楽しそうに話す。
「…バカらしい…男だって判ってるのに… ファンクラブなんて作る暇があるんなら
単語の一つも覚えればいいのに…まったく…」
僕は心の底から呆れた。
「そう言えばミスコン優勝者って文化祭の間 ずっと校内を回ったり来校者の接待したり
するんじゃなかったでしたっけ?」
女の副会長が…余計な事を思い出した。

「きゃぁ…」
「わぁ…」
僕が通る度に…周りの生徒や一般の来校者が声を上げる…まったく本当にくだらない…
優勝した後の事なんか覚えてないよ…去年もこんな事してたっけ?
いつもは寄って来ない女達が一緒に写真を撮りたがった。
男共もだ…何度も文句を言いかけたが横で 奥園がそんな事をしたらデートは無しだと言うので
仕方なく我慢した。
僕の女装がそんなに珍しいのか?

「お疲れ。」
「こんなのを明日もするのか?」
「だろうね…クスッ」
「悪夢だ…」

三日目の朝…また生徒会室のドアの前にバラの花束が…
「なになに…」
「読まなくていい!」
「昨日も綺麗でした。今日もまた会えるのを楽しみにしています。愛するあなたへ…だって。」
昨日 同様即ゴミ箱行き。
「誰がこんな奴の言う通りにするかっ!!」
僕は女装せずに過ごした。
「何だよ真鍋…もう女の格好しないのか?」
「ああ。サービスは もう終わり。」
「真鍋先輩綺麗だったのに…」
「男の僕に綺麗と言う前に少しは自分の事を気にした方がいいんじゃないの?」
言われた女生徒が硬直する…
「真鍋…」
奥園が呆れた様に僕の名前を呼ぶ…何だ?本当の事だろう?何か言いたい事があるのか?
「あっ…あのっ…」
「ん?」
見れば一人の男子生徒が顔を 真っ赤にして立っていた。
「もう…あの…格好は…しないんですか?」
「ああ…しないよ。バカな子がいて僕に女装を強制するような事を言って来たから。
あえて しない事に決めたんだ。言いなりになんかなりたくないからね。」
「強制って…?」
「この2日間僕にバラの花なんか贈って来た子さ。学年も名前も知らないけど。」
「バラ…」
「何を勘違いしてるのか…僕は男だしそう言う趣味があってあんな格好 をしたわけじゃない。
僕はそこにいる彼の為にやっただけだ。他の事なんかに興味など無い!
そのバラを贈って来た子も昨日から写真を撮ってた子達もね。」
「だって…綺麗だったから…」
「は?」
彼がボソボソ何か言い出した。
「好きになっちゃったんです。前から…素敵な人だとは思ってたけど…あの女装した 姿を見たら…
余計好きになちゃって…この気持ち…伝えたくって…知って欲しくって…
でも…面と向かって言えなかったから…だから…バラを…」
「バラって… 君だったのか?」
奥園が確かめる様に聞いた。
その子はコクリと頷いた。
「ホントバカな子だね。面と向かって言えないとか言ってこんな公衆の面前でバラしてちゃ
意味が無いじゃないか。」
見れば周りには人が集まり出していた。
「その上履きの色…1年だね。君…学年順位何番?」
「え…?」
「何番?」
「1…15番…」
「…僕はね…頭の悪い奴と普通の奴には興味無いんだよ。僕の目に留めて欲しいなら
その条件をクリアしたまえ。」
僕は彼を見つめて続けて話す。
「まず学年で5位以内見た目もあるけど内面のオーラが重要!よって君は僕に関心を
持たれる要素は何ひとつない!」
「……う……」
「学年10位以下しかも どう見ても普通の顔…普通の顔以下!内面から滲み出るオーラも皆無!
君の何処に興味を持てと?」
「真鍋…」
奥園が取り繕うように僕の名前を呼んだけど無視した。
「僕の女装に惹かれたかも知れないけど…もっと自分と言う人間を分析してから出直して来たまえ!
まぁ成績はどうにかなるとしてもその普通以下の顔にまったくもって 内面から湧き出るオーラの無い
君の事など出直されても相手にしないがね!」

そう言って僕はサッサとその場から立ち去った。
残された彼がその場で膝から 崩れて廊下に手を着いてうな垂れた。
周りの生徒も黙りこくっている。
「お前…相変わらずきついな…」
呆れた顔で奥園がついて来る。
「僕と付き合うならコレくらい普通だよ。 普通でバカはどうしようもない。
僕の場合バカって言っても成績だけの問題じゃないから。」
「じゃあオレは普通じゃないって事か?家元の…息子だから?オレ成績 良くないし…」
「違う!君はね内面からのオーラが違うんだよ。自分では分かってないの?
君…華道のセンス…普通じゃないだろ?だから家元の息子なんだよ。 ちゃんと生まれて来る所を
間違えてないじゃないか。僕はそう言う所に惹かれるんだ。僕の言ってる事分かる?」
「……何となく…褒められてるらしいのは分かる…」
「褒めてるんだよ。もう…鈍いな。」
「お前が複雑すぎんだよ!…でも…さっきの奴…立ち直れんのか?」
「これで自分を見直して学業に励むようであればまだ救えるね… イジケて成績が下がる様なら
僕の読みは当ってたわけだ。そう言う所が普通って思われる所なんだよ。彼のね。」
「…お前…『S』だろ?そうやってイジメて楽しんで るんだ…」
「 『 S 』 ?何?今頃気が付いたの?」
「やっぱり…楽しいか?」
「楽しいね…クスッ…」
「うわぁぁぁぁ…怖えぇ…」