Yuusuke & Ukyou





「止めろ。」
夜の10時を過ぎた頃外出先からの帰り道…
車の外にふと視線を向けると彼…慎二君の知り合いの『新城祐輔』だったか…
彼がホテルに入って 行く所だった。
彼が入ったホテルはこの辺りでも高級のランクに入るだろう…と言う事は…
ある考えが頭を占めて振り払う事が出来ず思わず車を止めさせた。

「…!?」
ロビーのソファに座ってボーッとタバコを吸ってたら目の前が暗くなった。
かったるく見上げるとアイツが立ってた。
何でだ?何でコイツがここに いる?

「挨拶くらいしたらどうだい?」

いつもの如く人をイラつかせるデカイ態度だ。
「テメェが先にしたらな。」
誰がするかっ!
「まったく 相変わらず常識が無いな君は。」
「一般常識の無いテメェに言われたかねーな。」
薦めもしないのに隣のソファに座りやがった。
「何の用だよ。オレは用なんか ねーぞ。」
「君なんかに用は無い。」
「はぁ?」
わけわかんねー?
「慎二君は何処だい。」
真顔で聞いてきやがった。
「………」
阿呆クサ… 付き合いきれねー
「慎二君は何処だい?」
「二度も聞くな!見てわかんねーのか。いねーよ!」
「隠すとためにらないよ。」
「隠すかっ!」
「君がいる と言う事は慎二君もいると言う事だろう。」
真面目にそう思ってる顔してんじゃねー…殴りてー…
「待ち合わせしてんだよ。」
正直に話す義理は無いがこれ以上 質問されるよりかマシだ。これで黙んだろ。
「後何分したら来るんだい?」
「知るか!」
「なら連絡を取りたまえ。僕がいる事は内緒にしたまえ。慎二君を 驚かせる。」
「………」
マジ殴りてー…
「何でオレがんな事しなきゃなんねーんだよ。テメェでかけろ。携帯位持ってんだろ。」
「電話など今まで一度も 掛けた事も取った事も無い!君が掛けたまえ。」
「……!!」
つくづくムカッ腹の立つ野郎だな!
「使えねーな!オレは携帯持ってねーんだよ。
慎二の所に 忘れて今慎二がここに持って来る事になってんだよ。」
「使えないね…しかも慎二君の手を煩わせるなんて…何様のつもりだい?
自分で取りに行きたまえ。僕なら 喜んで慎二君の所に取りに行くがね。」
テメェこそ何様のつもりだ!
「じゃあ取りに行ってこい。オレはここで待っててやる。」

右京とオレはお互い相手に 殺気込めた視線を送り続けていた。
思えばくだらない理由で…だ。

「新城様…新城様はいらっしゃいますか?」
幸か不幸か血の海は見なくて済んだらしい。
フロントに行くと慎二からの電話だった。
『ゴメン祐輔。時間かかりそうだから僕の部屋で待っててくれる?
祐輔のトコ帰るより僕んトコの方が近いだろ? ホントゴメンね!』
何か言う前に一方的に自分の用件だけ言って切れた。
よっぽど急いでんのか?まぁいい…これでアイツともおさらばだ。
「慎二来ねーぞ。 じゃあな。」
オレは自然に顔が緩みつつ心の中で『ざまあみろ』と呟いていた。
右京は何故か凜とした顔でオレをじっと見上げてる…なんだ?
「僕も行く。」
「は?」
「慎二君には会うのだろう?場所が変わっただけだ。なら僕も行く。」
「断る!」
「君にそんな権限は無い。
僕が慎二君に会うと言ったら会うんだよ。 君は僕を連れて行けばいいんだ。」
「……!!…テメェは…」
「僕は慎二君に会いたいんだ。邪魔するな。」
どこをどうすればそんなセリフが出てくんだ… マジムカつく!
…ただ…慎二の顔が浮かんでムカつく気持ちをため息で吐き出した。

コイツを連れて行った時の慎二の嬉しそうな顔が脳裏を過ぎったからだ。

「ったく…歩きだぞ。」
右京は無言で立ち上がった。
「その前に…」
言いながら右京の手がオレに伸びる。
「さっきから煙いんだよ。」
伸びた手が オレのくわえていたタバコを摘んでそのままロビーの応接セットの
テーブルにある灰皿に押し付けた。
「!!」
親の敵の様にグニグニと潰す。
「百害あって 一利無しだよ。」
最後にタバコを摘んだ指に息を吹き掛けた。
コノヤロ〜〜…澄ました顔しやがって…
睨みつけてやろうと右京を見たがオレの方を見もせずに さっさ歩いて行きやがった…


夜の10時を過ぎても通りを歩く奴らは多い。
オレは普段夜の街は出歩かない。
耀がかなりの確率でナンパされる様に オレはほとんどの確率で絡まれるからだ。
慎二が言うにはオレの瞳のせいだと言う。
そんなのオレのせいじゃねーとにかくかったるいから夜は出歩かない事にしてる。
そんなオレの横を右京が大人しく歩いてる。
ただオレよりも目つきの悪い奴だ…何事も無く慎二の所に着きゃいいが…
オレはそんな事を思いつつタバコを取り出して 火を点けた…
「ん?」
点かねー…?
何度ライターを擦ってもカチカチと言うだけで点く気配が無い。
さっきのホテルじゃ点いたんだからガスが無い筈が無い。
…!!視線を感じて右京を見た。
右京はオレが見た瞬間さっと顔を正面に向けた。
テメェ…今瞳が怪しく光ってただろ?『力』使いやがったなっ!流石にキレた!
「右京テメェ殺すぞ!」
言ったと同時に両手で右京の胸倉を掴んだ。
「気安く僕に触るな!それに呼び捨てにするなっ!!」
ホント今日こそシメてやるっ!!
「おいおい!お前等邪魔なんだけどォ?」
揉み合ってたらそう声を掛けられた。
見ればチャラチャラした軟派そうな男が三人ヘラヘラと笑ってやがった。
「誰だい?」
「知るか!」
知っててたまるか!
「お前らホストか?」
ジャケット姿のオレとスーツにネクタイの右京を見て覗き込まれた。しかも夜の繁華街だ。
「これからお仕事か?いいよなぁ…
ちょっとばかし俺等より顔が良いからって楽して金が稼げんだからよぉ」
右京は相手をガン見だ…異星人を見る様な目付きだ。
「その綺麗な顔台なしにされたくなかったら金置いてきな。」
どうやらカツアゲらしい。右京はまだ相手をじっと見てる。どうした?
「おら早く出せよ。」
ウゼェ…まったく今日は厄日か?そんな事を考えてたら右京が口を開いた。

「顔が不自由な君達はお金も稼ぐ事が出来ないのかい?不憫だな…」

一瞬の 沈黙が訪れた。心底相手を憐れんでる声だ。ため息まで吐き出した。右京…
「ふざけた事吐かしてんじゃねーぞっ!オラァ!」
ほらキレた。あー余計ウゼェ…
「お前が事を大きくしたんだから責任とって何とかしろ。」
「お金など持って歩いた事など無い。いつも持って歩くものなのかい?」
心底不思議に思ってる顔だ… ホント使えねぇ奴…
「だったらあれでさっさと片付けろ。」
こう言う時の『邪眼』だろーがっ!
「あれ?ああ…!やってもいいが手加減するつもりは無いよ。 殺してしまうけれどいいのかい?」
コイツは…涼しい顔で言いやがって…
「いいわけねーだろっ!」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ!あーー?」
「金出せって言ってんだよっ!」
痺れを切らした相手が実力行使に出た。
「ったく…」
ホントウゼェ!仕方なくオレがそいつらの相手をしなきゃならなくなった。
かったるいから一人に一発ずつ蹴りを喰らわせて黙らせた。
「右京これ貸しだからな。覚えとけよ。」
睨んで嫌味ったらしく言ってやる。
「野蛮な事が好きな君には得意分野だろう?好きな事をして何故僕に貸しになるんだい?」
「……!!」
くぁぁぁ……!!マジ腹の立つ男だっ!

「祐輔遅かったね。先に帰ってると思って…た…え?」
超気まずい雰囲気と超不機嫌な空気を纏いつつ何とか慎二の部屋に辿り着いたのは
あれから一時間も経ってからだ。
あのカツアゲをキッカケに右京が周りに興味を持ち始めて何かっちゅーと足を停めて
興味深げに観察する。
揚げ句の果てにたむろってる奴等に説教までする始末だ。
まったく冗談じゃねー。

「右京さん!?えっ?何で?祐輔何で?」
慎二が思いっきり驚いてる…そんな事も右京の思惑通りになったかと思うと余計腹が立った。
「知るか!」
オレは不機嫌な態度で部屋の奥に歩いた。タバコ吸ってやる!
「やあこんばんは。慎二君。」
ニッコリと右京さんが笑う…本物だよね…
「右京さんどうしたんですか?一人ですか?」
「ああ…外で偶然彼に会ってね。声を掛けたんだ。」
「でも…大丈夫でした?言ってくれれば僕が迎えに行ったのに…」
大丈夫と聞いたのは祐輔と二人だったからだ…二人きりなんて何かあってもおかしくないから…
「貴重な体験だったよ。連絡しなかったのは慎二君を驚かせようと思ってね。 成功したかな?」
またニッコリと笑ってくれた。
僕はそんな右京さんを見つめて笑い返す。
「ホントにびっくりしましたよ。嬉しいびっくりですけど。」
そして 僕は祐輔の方を見て
「ありがとう。祐輔!」
って言った。
「慎二に言われる筋合いはねー。ソイツが言うのがスジだろうが。」
タバコを吸いながら右京を 睨んだ。

「ご苦労だった。」

右京がソファにもたれ掛かって腕と足を組みながら威張りくさった態度でオレに向かってそう言った。
「…!!!…」
あっさりと我慢の限界が越えた。
「ふざけんなっっ右京!!!オレがテメェの為にやったなんて思ってんじゃねーぞっ!!」
「祐輔…!!」

        夜も更けた慎二の部屋でまた虚しい争いが始まった…