yoshihiko&tooru01





 「おや!…へぇ…」

 仕事の帰り道…可愛い子猫…野良猫みたいだけど…おいたが過ぎて怪我をして動けないらしい…
 見た目は僕好み。
 傷口から血が止まらない…僕のシャツにも血が付いた…
 早く帰って手当てしてあげなきゃ…目をつぶった顔が…可愛い…
 痛いのかな…少し苦痛に顔を しかめてるみたいだ…
 どうしても欲しくて…抱いて帰った。
 初めて自分のモノにしたいと思った…

 「はっ!」

 急に目が覚めて飛び起きた… 途端に左肩に激痛が走った。
 「ぐっ…!」
 そのまま倒れこんだ…痛ぇ…息が…出来ない……
 …何だ?ここ…ベッドの上だ…なんで?病院?まさか… 園に帰って…
 慌てて周りを見回すと…どこかの部屋だ…何処だ?ここは一体…

 「結構深い傷だから動かない方がいいよ。」
 オレの後ろで声がした。
 「 !? 」
 驚いて振り向くとメガネをかけた若い男が腕を組んで立っていた…頭の良さそうな奴…
 「そんな顔しないでよ。助けてあげたんだから。」
 「…!…あ…あなたが…?どう…して?」
 「どうして?ほっとけないだろ?あんなに出血してたらさ…ほっといて欲しかった?」
 そう言って腕を組みながら オレの寝てるベッドに近づいて来た。
 「いえ…ありがとう…ございました…」
 「どうするの?家の人に迎えに来てもらう?」
 「……いや…えっ…と…」
 即答出来なかった…うー…どうしよう…帰れないよ…こんな怪我して帰ったら園の先生にバレちゃう…
 「どうやら訳ありみたいだね…じゃあ泊まってく?連休だし 僕は構わないよ。」
 「えっ?いいんですか?」
 オレの態度を察してそう言ってくれた。
 「君なら…いいよ。」
 「?」
 何だか言葉に…引っかかる 言い方だった様な…気がしたけど気のせいか?
 本当は少しでも早くここから出たかったけど…施設に帰る訳にもいかないし…
 動けないんじゃどうしようもない… くそっ…ドジった… 
 オレは助けてもらった恩人に見えない様に顔を俯くと舌打ちをした。
 「家の電話番号教えて…僕が掛けてあげる。その方が信用されるでしょ?」
 「あ…」

 電話の呼び出し音が鳴る…何度目かで相手が出た。
 ガチャ! 「はい。愛育園です。」
 施設?
 「あ…そちらにいる椎凪慶彦君 なんですけど…僕友人の真鍋 亨と言います。
 実はこの連休彼をウチに泊める事になりましたのでご連絡したんですけど…
 はい…実は僕駅前で進学塾の講師 してまして…慶彦君に勉強見て欲しいって頼まれまして…」
 「 ! 」
 上手く…話作ってくれてる…
 「中間近いですから…はい…多分来週まで 泊まって勉強すると思いますので…はい…
 ちょっと待って下さい。代わってって…」
 そう言って受話器をオレに差し出す。
 「あ…もしもし…はい… ごめんなさい急に…はい…」

 電話のやり取りをする彼の後姿を眺めながら…さっきの事を思い出す…
 身体中アザだらけ…昨日今日出来たアザじゃない… 殆んど背中とお腹…
 服を着てれば分からない様にか?施設で虐待でもされてるのか?それとも…

 「あ…すいません。真鍋さん…ありがとうございます…」
 そう言って受話器を差し出した。
 「『亨』でいいよ…大丈夫だっただろ?」
 「はい…すいません…」
 「慶彦君は中二?」
 「はい…そうです…」
 「そう…これ鎮痛剤…飲んで少し眠った方がいい…出血も酷かったし…」
 「はい…すいません…ありがとうございます…」
 きっと…傷のせいもあったん だろう…園の人にバレずに済んで安心したのか…
 差し出されたクスリを素直に飲んだ…
 薬を飲む前から…身体がだるくて…眠くて…いつもなら…警戒してた はずなのに…

 オレは無防備にも…深い眠りに落ちてしまった…

 どの位眠ったんだろ…気持ち良くて…まだ…眠っていたい…
 ジャラ… ん? 何だ?ジャラ?何の音?
 不思議で…ゆっくりと起き上がると首から重みが伝わった…

 「え?」

 直ぐには理解不能だった…目の錯覚か…? いや…ちゃんと…掴める…現実だ…
 それでもオレは訳が分からず呆然とそれを掴んで叫んだ。
 「 ええっ!!何これ…鎖…?え?首輪…付いてる…何で…?」
 いつの間にか付けられたのか…オレの首に金属製の首輪が付けられてる…ウソだろ…?
 ガチャッ
 「あれ?起きたの?」
 亨さんが食事を持って 入って来た。
 オレはすぐ首輪の事を聞いた。
 「あ…あ…あの…亨さん…これって…」
 「亨でいいって。見ての通り首輪だけど?」
 平然と何事も 無いかのように笑ってる…
 「あ…あの…何で?」
 オレとしては首輪を付けられた理由が知りたくて聞き直した…当然だろう。
 「やだな。君が逃げない為に 決まってるだろ。」

 「 だから何でだっつーの!! 」

 当たり前の説明にキレた!そんな事聞いてるんじゃないっ!!
 「僕は君が気に入ったの。 来週までの9日間逃げ出さない様に繋がせて貰いました。
 鎖長いからトイレも行けるしお風呂も入れるから不自由じゃないでしょ?」
 ニッコリと笑ってやがる…
 「そう言う問題じゃない!!早く外せよ!!」
 あんまりにも身勝手で頭に来て『オレ』が出た。
 「へー…やっぱり慶彦は面白い…」
 『オレ』に気付いた奴が うっすらと笑う…しかもいきなり名前を呼び捨てにされてる…馴れ馴れしい…
 オレに断りも無しかよ!聞かれたら絶対許さない!『様』呼びにさせたいくらいだっ!!
 「僕…こっちの慶彦の方が大人っぽくていいな…」
 「 ふざけんなっ!! いいから早く外せっ!! 」
 「あ!助けてもらった相手にそう言う事言うの?」
 「 うるさいっ!! 」
 もう何も構っていられなかった。
 怪我をしてても無理すればこの男位なら倒せるだろう…
 でもこの首輪を外すにはカギが必要だからそれをこの男からどう奪うかが問題だった。
 「ふーん…」
 そう言うと自分の足元に伸びた鎖を掴んで思いっきり自分の方に引っ張った。
 「うわっ!!」
 急に引っ張られて…バランスを崩してベッドにうつ伏せに倒れた。
 「ぶっ!」
 倒れ込んで直ぐには起き上がれず…そんな左肩に…手が触れる感覚がした…その途端…
 「 がっ!! 」
 傷口を力一杯押さえ込まれた…
 「そう言う子には…お仕置きだよ…くす…」

 楽しそうに鼻で笑ってる…オレは思いっきり傷口を鷲掴みされて…激痛が…身体を走る!

 「…………」
 あまりの痛さに…声が…出ない…
 「かはっ…はぁ…あっ…」
 やっとの思いで一呼吸吐き出す事が出来た。
 「あーあ…傷口開いちゃったよ。」
 楽しそうに自分の手の平に着いたオレの血を眺めてそう言った…
 「あんた…ハァ…変…態?ハァ…これ…狙ってたの?くっ…」
 起き上がれず…顔だけ奴の方を向いて話しかけた。
 「まぁ僕の好みだと思ったたけどさ。じゃなきゃ助けない。
 でも変態じゃないよ…別に僕君には本当に9日間大人しく怪我を治して欲しいだけ。
 ただチョット『S』って事だけかな…今のは大人しくしてないとこうするって警告!
 早く治したいならいい子にしててね。」
 「………」
 ニッコリ…笑われても笑い返す わけ無いだろ…アホか…
 「ああ!君助けた時シャツ一枚ダメにしちゃったからさ…弁償して!」
 思い出したように視線を宙に向けてそしてオレに向き直った。
 「……」
 何だ…いきなり?何で急にそんな事を言うんだろう?手に付いたオレの血を見てそう思ったのか?
 「わかったよ…後で…」
 「今だよ。今払って。」
 「は?今って言われても…無…んっ!!!!」
 無防備な所にいきなりキスされた…オレはビックリして…
 「なっ…!!」
 言いかけて…口を少し開けた瞬間…奴の舌が…入って来た…
 「んっ……!!…んーーーーーっ!!!! 」
 抵抗して奴を押し戻してみたけど…ビクともしない…
 それどころか…オレの顔を両手でガッシリと掴んで 余計オレに入り込んで来る…
 逃げようとするオレの舌を追い駆けて来て…思いっ切り絡め取られた!
 「ばっ…やめっ…んーーー!!むーーーーっっ!! 」

 「…は…んっ…」
 勝手に声が出た…何でだ…身体が酸素を求めてるのに…息が出来ない…
 オレは喘ぎながら奴の二の腕の服を思いっきり 掴んでた…
 大分経ってから…やっと奴がオレから離れた…
 オレは…息が…弾んで…喋るのもままならない…やっとマトモに呼吸が出来る…
 「シャツ一枚分確かに貰ったよ。 キスしてる時喋ると口が開いた瞬間に舌…入れられちゃうよ。」
 散々口の中でオレの舌を弄ばれた記憶が生々しく思い出された…
 「 変態!! 」
 オレは微かに濡れてる自分の唇を手の甲で必死で拭った…コイツの唇の感触を掻き消す様に…
 「もしかして慶彦今のファースト・キス?」
 「 やかましいっ!! 」

 図星で余計腹が立つ!!
 こんな奴と…キスなんて…変態野郎はオレを見つめながらニッコリと笑ってるし…
 くそっ…とんでもない奴に…助けられたみたいだ…

        オレは無意識に…未だに唇から手を離さずに…ジッと目の前の男を睨んでいた…