yuusuke&kazumi+shinji 2





「あの浅野さん…このモデルさんの事知ってます?」

私『杉浦 彩加』大学生。
つい先日バイトでこの会社…『TAKERU』に入ったんだけど…目的があった から…
大分前に発売された雑誌片手に社員の浅野さんに話しかけた所…

「あーこの人この会社でもトップシークレットなのよ。」
写真を覘き込んでそう言った。
「えーそうなんですか?私この人に会いたくて此処に入ったんですけど…誰も知らなくて…」
時々『TAKERU』のポスターや雑誌に登場する人…
何処に問い合わせ ても調べても何も解らなくて…でも…だから余計に知りたくて此処まで来たわけで…
お察しの通り…私この人のファンです。
だからどうしても彼の事知りたいっ!! せめて名前くらい知りたいっ!!

「何でも極端なマスコミ嫌いなんですって!社長絡みの人だから大変らしいわよ。
だから彼の事は全て橘さんが任されてるの。」
「橘って…橘 慎二さんですか?」
何度か此処で擦違った…チョットだけ話した事もあるけど…優しくて…礼儀正しい感じだった…
でも結構上の方の役職持ってる んだよね…若いのに…って思ったのを憶えてる。
「そーだから外部はおろか社内にも秘密は漏れないってわけ!」
「えーっ!!橘さんじゃ教えて貰う事出来ないじゃ ないですか…!!」
「そ!だから事実上このモデルの事を調べるのは無理だからさ。」
軽く言われた…
「悪いけどそこの荷持つ下の車に積んどいてくれない?」
「あ…はーい。」
諦めきれなかったけど仕方なく仕事に戻った。

「ちぇ…それじゃ意味無いじゃん…」
エレベーターを待ちながら思わずブツブツと独り言を 囁いてしまった…
だって…本当何の為に此処にバイトに入ったのか分らないじゃない…
「ん?」
その時…背中に気配を感じた…誰か来たんだ。
無意識に後ろを振り 向いた…

『 ええーーーーっっ!!うそぉっっ!!!ほっ…本物??? 』

一瞬だけ見て直ぐに前を向いた!ホント?本物?確かに…彼だった…よね?
そう…彼が私の後ろに立ってたよね???
どうしよう…こんな偶然…ウソみたい…話し掛けてみようかしら…
えーーっ!!どうしようっ!!どうしたら?

「おい…」
「はっ…はいっ!!」
一人で焦り捲くってたら声掛けられた!!

今日は撮影だった…メッチャ気分が悪りぃ…最悪だ!勝手に休憩を取ってタバコを 吸おうと思ったら
撮影用の服で持ってなかった…ちっ…面倒臭せぇ…わざわざ買いに行かなきゃならなくなった…
確か下の販売機にあった様な気がしてエレベーターの 所まで来た…女が一人エレベーターの
前に立ってる…しかもボタンも押さずにボッケっと立ちやがって…
「邪魔なんだけど。」
言われる前に気付け!
「へ?」
「ボタンの前に立ってられると押せないんだけど?」
「あっ!!すいませんっ!!」
きゃぁ…話しかけられちゃった…
横にずれると彼が私の横に 立った…わぁ…嬉しい…なんてラッキーなのっ!!

一緒に乗ったエレベーターが動き出した。
彼は1Fで降りた…私は本当は地下で降りなきゃいけなかったんだ けど…一緒にいたくて
当然の事ながら一緒に降りた…だってこんなチャンス絶対無いものっ!!
スタスタと歩いて行く彼の後をこっそりとつけた…何処行くの?って…
販売機の前で止まった…あ…タバコ?…?どうしたんだろ?彼が販売機を睨んだままで動かない…?

タバコの販売機の前で動きが止まる…くそっ!此処まで来て気が 付いた…
オレの服じゃないから…金…持ってねー!

「祐輔っ!!」

その時彼を呼ぶ声がした…あ…橘さんだ!
思わず廊下の影に隠れた。
「何してんの? 勝手に動き回らないでよっ!!探しただろ!」
「タバコ持ってるか?」
「僕は吸わないんだから持ってるわけないだろっ!!早く戻って!」
「じゃあ金。」
「財布オフィスの机の中!」
「……チッ…」
『ゆうすけ』さんった言うんだ…わぁ名前判っちゃった!
そんな事を喜んでたら持ってた荷持つを落として しまったっ!!ヤバッ…!!
「ん?」
橘さんが気が付いた…こっちを見て…私に気が付いた…怒られるかな?一応ペコリと頭を下げた…
橘さんはエレベーター に乗りながら私に向かってニッコリと笑った…怒って…無いって事かな?
でも…橘さんの笑顔もなかなか…思わずドキッとしてしまった…
「もー…仕事増やして くれちゃって…」
慎二の奴がエレベーターに乗った途端文句を言った。
「?」
オレは理由が分らない…何だ?
「祐輔のせいだっ!!」
「はぁ?」
何だ?オレのせい?わけわかんねー…オレが何かしたのか?

『TAKERU』ビル内の撮影スタジオ…突然いなくなった祐輔を連れ戻して撮影を再開した。
「なんか殺気感じるんだけど…?」
馴染みのカメラマンの高山さんがカメラを覗いて直ぐにそう言った。
「ニコチンが切れて禁断症状が出てるんだよ…まったく…」
祐輔はヘビースモーカー…一応成人してから吸い始めたはずなのに…
なんであんなに吸う様になったのか…
「たばこ?それであそこまで殺気出すか?」
「はは…」
笑うしかない…ホント目つき変わっちゃってるし…祐輔ぇ…
「いいよ…吸っても…」
殺気出し捲くりの祐輔を見かねて言ってくれた…
「本当?ごめんね…中断 させてばっかりで…」

「死ぬかと思った…」
急いで持って来させたタバコに火を点けながら祐輔が呟いた。
「ったく…子供じゃあるまいし…少しは我慢 しなよ。」
「大人だから吸ってんだろ。ふー…生き返る…」
「大袈裟だな…」
そんなタバコを吸う祐輔を高山さんがジッと見てる…確かに今の祐輔は身体の力を 抜いてて
リラックスしてる…こんな祐輔きっと高山さんは見た事ないんだよね…

「祐輔君はいつも怒ってるね。」
シャッターを切りながら話しかけた。
「当たり前だろ。やりたくも無いこの仕事させられて…この髪だって邪魔でしょうがねー…」
「それでもドタキャンせずにちゃんんとやってるんだから君って律儀だよね。」
「別に…ジジィとの約束だからな…」
思い出したくもねーけど…これでドタキャンなんかしたらホントにジジィに負けた気がして…
自分が許せねーんだよな…
「オレなんかモデルにしたって仕方ねーと思うけど…ジジィの気がしれないぜ。」
「そうかな?君の瞳には力がある。」
「は?」
「君の笑顔の写真… 一度撮りたいね。ふふ…」
何言ってやがる…この男…期待満々の顔で笑い掛けんなっ!!誰がカメラの前で笑うか!!

「一生無理だな。」
キッパリと言い切った。

「えー!!社内の人知ってるんですか?」
「そう…まあ一部の人だけどね。」
ここは会議室…さっき祐輔の事を見られたバイトの子 を呼び止めた。
「じゃあどうして?」
「連帯責任にしてるから。もし祐輔の事が世間にバレる事があったら例外を認めず社内の人間が
漏らした事とみなして全員クビに なる。」
「ええっっ?そんな…」
「…驚いた?」

まあ最悪そうなんだけど…その位本気で言っとけばみんな信じるからね…僕の性格知ってれば…

「ネットで情報が流れてもそっち関係でも手を廻してあるし…一応色々コネあるから…今まで何事も無く
通ってきたし…だから君も約束してね。祐輔の事誰にも 話さないって…」
「………」
何だか…急にそんな事言われても…
「して…くれるよね?」
ニッコリと橘さんが笑ったけど…なんだろう…とっても冷たくて… 怖い感じがした…
「バラしたら祐輔に殺されるよ。」
「えっ!?」
「って言うのは冗談だけど…」
「どうしてそこまでするんですか?」
「えー?祐輔が 嫌がるから。騒がれるの大嫌いだから…」
「だったらモデルの仕事…しないほうが…」
「そうだよね…それでもモデルの仕事続けるなんて不思議だよね…
でも祐輔が ポスターに出る様になってから売り上げ上がったんだよね…
君みたいに祐輔の事知りたがる人もいるから話題性もあるし…一番の理由は僕が祐輔に
この仕事続けて欲しい からかな…祐輔が『TAKERU』と繋がってて欲しいから…
自分の事がバレたらもう仕事しないって言ってるし…」
さっきとは違って優しくて穏やかな雰囲気に なってる?
「あの…どんな方なんですか?祐輔さんって…」
「え?祐輔?ああ…そうか…まだ言ってなかったね…彼は新城祐輔…新城たける…
うちの社長の孫だよ。」

「 ! 」
「…あ!」
撮影の休憩中…一服しようと廊下に出ると和海とバッタリ会った。
「祐輔さん。」
「なんで和海が此処にいんだ?」
「慎二さん が用事があるって連絡くれて…」
…ったく…慎二の奴…オレが撮影の時は和海には知らせんなって言ってあるのに…
なんだ?嫌がらせか?
「もしかして祐輔さん… 撮影ですか?」
「ああ…」
言いたかねーけど…な…

祐輔さんは撮影の仕事をしてるのを私に見られるのが好きじゃない…
「あ…じゃあ私…今日は… きゃっ!!」
帰ろうとしたら腕を引っ張られて壁に押された…
 バ ン ッ !!
祐輔さんが両腕を壁について私を捕まえた。
「何日ぶりかね? 刑事さん!」
「え?け…刑事さん?えっと…8日ぶり…かな?」
えー?何?祐輔さん怒ってる?
「連絡ぐらい入れろよ。心配すんだろ?和海の仕事柄。」
「ご…ごめんなさい…でも祐輔さん携帯嫌いって言ってたし…最近事件でバタバタしてて…
なかなか連絡出来なくて…その…」
「ったく…本当仕事熱心な事で…」
「ごめんなさい…」
溜息…つかれちゃった…また謝ってる自分がいた…いつもそう…祐輔さんには謝ってばっかり…

「ん?」
人の話し声がする…この声は? 廊下の角からそっと覗いた…
あれ…祐輔君じゃないか…新しい彼女か?
思わずこっそりと見てる事にした…こんな所で彼女と一緒にいるなんて初めて見たし興味があったから。
「 ぎゅっ! 」
「 ! 」

和海が突然オレに抱きついて来た…そんな事珍しい…不覚にも動きが止まった…
「祐輔さんは…私に撮影の仕事見られるの 嫌だったかもしれないけど…私は祐輔さんに会えて
すごく嬉しい…」
「………」
久しぶりの和海の感触…暖かくて…いい匂いがして…何より癒される…気持ちがいい…
オレは…思わず微笑んで…和海を抱きしめた…

「………」
なんだってぇ…!!!祐輔君が…祐輔君が…笑ったっ!!!しかもなんて良い笑顔なんだっっ!!
ああっっ!!カメラが欲しいっっ!!きっと一生に一度のシャッターチャンスだったろうに…
くあぁぁぁ…悔しいっっ!!!


高山に見られているとも知らずに…しばらくの間2人は2人の世界を満喫…ラブラブでした。