yuusuke&you






 夜の7時を少し廻った頃…買い物があって外に出た。
 買い物を済ませて家への帰り道…家の近くの細い路地に人影を見つけた…
 ブロックの塀に凭れ掛かってる… その人影に見覚えがあった。

 「 ! 」

 立ち止まって見ていたオレに気付いたらしい…見上げた顔は…やっぱりそうだ…

 「君…同じクラスの新城君だろ?」

 近付いてみて気が付いた…すごい怪我してる…シャツも所々破けて血が付いてる…
 「お前…」
 警戒しながらジッとオレを見てる。
 「喧嘩したの?」
 人見知りのオレにしては珍しいく自分から話し掛けた…
 「お前には関係ない…」
 そう言うとヨロヨロと寄り掛かっていた身体を起こして歩き出した。

 「 !! 」

 一瞬…息が止まった…オレに背を向けて歩き出した新城君の背中が…
 右肩辺りから左脇にかけて切り裂かれていて…血が流れ落ちていたから…
 寄り掛かっていた壁にも血がベットリ付いていた…

 「関係…ないけど…」
 思わず話しかけちゃった…
 「そんな怪我見たら放っとけないだろ… ウチにおいでよ…手当てしてあげるよ…」
 自分でも不思議だった…殆んど話した事の無い他人にこんなにも係わろうとしてる自分が…
 ううん…違う…本当は分ってる…
 「オレに構うな…ロクな事にならないぞ…」
 睨まれた…でも…
 「別にいいよ…オレ一人暮らしだし…今日は一人でいたく なかったから…」

 きっと…凄く辛かったんだと思う…オレの部屋に入るなりソファに倒れ込んで動けなくなってた…

 「血は止まってるから大丈夫だと 思うけど…ナイフ?」
 傷口を拭きながら聞いた…出血の割には傷口は深くなかった…
 でも切り口が滑らかだったからナイフかと思って聞いた…やっぱり斬られてる 所は長かった…
 「ああ…」
 「何で喧嘩なんて…?」
 「絡まれてた女助けたらこうなった…
 逃げろって言ってんのにキャアキャア喚いて逃げやしねぇ…庇ってこの様だ…」
 そう言いながら 溜息をついた…
 「新城君は…」
 「祐輔…」
 「え?」
 「祐輔でいい…」
 痛みを堪えながらそう言ってくれた…それって…オレに気を許して くれたって事…?
 「うん…」
 オレは内心嬉しかった…
 「オレは耀…望月 耀だよ。」

 同じクラスなのに今初めてお互いの自己紹介をした… 話したのもコレが初めてだった…



 「祐輔ってさ…他の人と違うよね…クラスでも落ち着いてるって言うか…大人っぽいって言うか…
 他の人を寄せ付けない雰囲気 って言うかさ…」

 話しかけて気が付いた…いつの間にか祐輔は静かに寝息を立てて眠ってる…気付かなかった…
 「なんだ…寝ちゃったのか…クスリが 効いたのかな…」
 ホッとした…何とか傷の手当も出来たし…飲ませた鎮痛剤のせいか痛みも落ち着いてきたみたいだし…
 オレは祐輔が眠ってるソファの前の床に膝を抱えて座った。
 「君の事はね初めて会った時から気になってたんだよ…
 クラスの人は君と目を合わせない様にしてたけど…
 オレは逆だった…君の…その瞳に惹かれちゃったよ… もの凄く印象的な目だったもの…」
 そう…祐輔の瞳は綺麗なのに鋭くて…瞳に力があるんだ…目が離せなくなる…
 「………」
 オレは少し考えてた… でも…
 「オレの話し…君なら聞いてくれるかな…今まで誰にも話せなくて…
 でも本当は誰かに聞いて欲しくて…さ…君ならオレの話何も言わずに聞いてくれると 思ったんだ…」
 祐輔が眠ってるのは分っていた…でも…オレはそれでも聞いて欲しくて…話し続けた。

 「今日はね…オレの母親の月命日なんだ…
 オレの母さんさ…オレの6歳の誕生日に…オレの目の前で飛び降り自殺して…死んだんだ…」

 今でもハッキリと憶えてる…母さんの最後の声…最後の顔…オレに伸ばされた…母さんの手…

 『 ──ごめんね…耀…お母さんもう…耀の事…育てる事が出来ない…── 』

 「その時は母さんの言ってた事が分らなかったんだけど…オレの両親は子供が出来なくてさ…
 養子をもらう事になってオレがもらわれてきたんだ…
 でもね…オレ本当は父親と…愛人との間に生まれた紛れも無い父親の子供だったんだ…
 母さん には施設から引き取った子供として育てさせてさ…でも…母さんは初めっから知ってたんだ…
 オレが愛人の子だって…
 日に日にその愛人に似てくるオレを母さんは 見るに耐えなくなって遂に自殺したんだ…
 自分を裏切って愛人に産ませたオレを自分の子供として育てさせた父親と…
 夫を奪った女にそっくりなオレをこれから先… 一生育てる事に耐えられなかったんだよね…」

 いつの間にか…涙が零れてた…零れた涙が頬を伝って落ちた…

 「やっと母さんが死ぬ間際に言った事が 分ったんだ…だからオレをもう育てる事が出来ないって…」
 涙を堪えきれなくて立てた膝に蹲った…

 「オレ…生まれて来ない方が良かった…
 オレさえ いなければ母さんは苦しむ事もなかったし…死ぬこともなかった…オレなんて…」

 「 !! 」
 優しく…オレの頭に何かが触れた…
 「今の話でお前が責任感じる事なんて1つも無かったぞ。」
 祐輔がそう言ってオレの頭に手を乗せていた…
 「母親が死んだのはお前の…耀のせいじゃない …大人の…親の身勝手だろ?
 そんな事に耀が泣く事はない…」
 「 う…… 」
 涙が…止まらない…
 「お前は母親の事が好きだったんだから…それで いいんだよ…」
 祐輔が優しくオレの頭を撫でてくれた…オレは…自然に祐輔に手を伸ばしてた…
 祐輔もそんなオレを拒みもしないでギュッと抱きしめてくれた…

 「……祐輔…う…祐…輔…ヒック…」

 生まれて初めて他人に触れた…
 そして…思いっきり泣いた…涙が次から次へと溢れて…止める事が出来なかった…

 今でもオレの母親は母さんだけだと思ってる…
 でも母さんが死んだのはきっとオレのせいなんだ…だけど子供だったオレには何もしてあげられなくて…
  存在するだけで母さんを苦しめていたなんて分らなかった…
 でも…自分では自分を許せなくて…誰かに許してもらいたくて…なんで祐輔なんだろう…
 でも…祐輔なら オレの気持ちわかってくれると思った…あの…瞳を見た時…そう思ったんだ…

 その後も祐輔はいつまでもオレを抱きしめててくれた…

 それから1週間… 怪我が治るまで祐輔はオレの所に泊まった…

 高校1年の…もうすぐ夏になろうとしてた頃…オレは生まれて初めて…友達が出来た…


       ただ…一人の…オレをわかってくれた…大切な…友達…