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「どうしたの?祐輔!?」

朝携帯に出た祐輔の感じが変だったからマンションを訪ねた。
出て来た祐輔はごほごほと咳き込んで顔色が悪い…
どう見ても 病気だって事は一目瞭然だった。
「耀の風邪がうつった…」
立ってるのも辛そうに壁に凭れ掛かりながら喋ってる。
数日前から耀君も風邪で寝込んでる…
祐輔は暫く傍に付いてたんだっけ。
ただ耀君はもう峠を越えて微熱さえ納まれば完治らしいけど…問題は祐輔の方だ…
「医者は?薬飲んだの?」
廊下をヨロヨロ と歩く祐輔の後を追いながら聞いたけど…期待は出来ない。
祐輔は筋金入りの医者嫌い…それに薬なんて飲むわけが無い。
「寝てれば治る…」
案の定…思ってた 通りの返事が帰って来た。
「まったく…」
もう僕が何を言っても聞く耳を持たない事は判ってる…
咳き込んでるくせに…熱だってあるに決まってるのに。

「え?祐輔さんが?」
仕方なく攻め方を代えた。
『そ!僕の言う事なんて聞かないからさ。』
「わかりました。早目に様子見に行ってみます。」
『ごめん。 頼むね。』
多分僕よりは効き目はあるはずだからと和海ちゃんにバトンタッチだ…はぁ…落ち込む。

慎二さんから電話をもらって早々に仕事を切り上げて 祐輔さんの部屋に向かった。
祐輔さんが病気なんて珍しい…って言うか知り合ってから初めてかも…
慎二さんの話だと随分具合が悪いみたいだったし。

「祐輔さん?」
そっと寝室のドアを開けて声を掛けた。
「 !! 」
ベッドに眠ってる祐輔さんは顔が真っ赤で身体全体で苦しげに息をしてた。
静かに寝室 から出ると携帯で知り合いのお医者さんに連絡を取った。
「……あ!照美さん?和海です。ごめんなさい忙しい時に…あの…実は…」

「………何…此処…」
都心のオフィスビルを思わせる様な豪華なマンションを見上げて呟いた…しかも此処の最上階って…
一体幾らなのよ…溜息が出てしまった。

「ごめんなさい… 照美さん。わざわざ来てもらちゃって…」
和海が玄関のドアを開けて私を出迎えた…冗談じゃ無かったんだ…
私は八木原照美。
都内の総合病院で内科の医師を している。
和海とは子供の頃からの知り合いで同じ空手の道場に通ってた。
年下の和海は大人しくて控え目…そのくせ頑張り屋で正義感が強い和海の事を私は気に 入ってて
何より和海が傍にいると何とも言えない穏やかな気持ちになるが好きだった。
天然と言う所も気に入ってる項目の一つなんだけど。
「別にいいよ。」
本当にそう思って部屋に入った。
外からでも思ったけど部屋の中も豪華で洒落てた…ホント高そう。
「こっちなの。」
案内されたのは10畳以上はあろうかと 言う寝室。
白い壁に黒のベッド…しかもキングサイズとおぼしきデカイベッドに男が一人真っ赤な顔して荒い息を
吐いて埋もれてた。
『なっ…コイツが和海の彼氏?』
思わずあんぐりと口が開いた…サラサラの肩より長い髪に熱にうかされてるくせにキメ細やかな肌…
男のクセに女らしい身体の線…なのに男らしさもしっかりと漂ってる… 何なの?この男は…
どこでこんな男探してきたんだか…
「祐輔さん」
和海がそっと声を掛けた。
ベッドの男はその声に気付いたらしい…苦しそうに目を明けた。
真正面に立ってた私に気付いたらしい…ボーっと見つめられた。
と…私を認識したその瞬間ギラリと瞳の奥が光ったような気がした!
「 誰だ…お前… 」
荒い呼吸をしながらもの凄い視線で私を睨みつけてゆっくりとベッドの上で身体を起こす…殺気?
「祐輔さん!大丈夫ですか?彼女私の知り合いでお医者様だから来て もらったんです。
今診てもらいますから…」
和海が彼の視界の外から声を掛けた。
彼はその声の方に目をやって和海を確認したらしい…その途端フッと全身から殺気が 引いた。

「風邪だね。喉もやられてる…良くここまで我慢してたね。」
ほんと変な意味で感心した。
「医者なんてクソ喰らえ!」
きっと頭痛が酷い んだろう…額を手で押さえながら悪態をついてる。
『何だとォ!!』
心の中で叫んだ。一応患者だからな…
「 …がっ!!! 」
彼が呻いた。
ムカついて注射の針を乱暴に腕に突き刺してやった!ざまあみろっ!!

「注射しといたから今に熱も下がるよ。」
一通りの診察と治療をしてダイニング テーブルのイスに座って出されたコーヒーを飲んでる。
「ありがとうございました。助かりました。」
和海が安心した顔で笑顔を見せた。
久しぶりの和海の笑顔… 癒されるねぇ…
「でもあんたにはビックリさせられっぱなしだよ。刑事になるって聞いた時もそうだけど彼氏が出来たと
思ったらこんな所に住んでるイイ男とは ねぇ…」
「はぁ…」
何とも可愛い仕草でコーヒーを飲んで誤魔化した顔してる。

「彼ってホストなの?」

「 ぶっ!!ごほっ!けほっ…なっ… 何でですか?」
おーおーそんなに慌てまくちゃって…
「だってこんな高級なマンションに…ブランドものばっかりじゃん。この部屋…『TAKERU』だろ?貢物?」
「ちっ…違いますよ…い…家がお金持ちなだけで…」
新城たけるの孫って言う事は内緒だから…ゴメンなさい…照美さん…
「ふーん…ならいいけどさ。」
多少疑いの眼差しを残しつつそれ以上は追求しなかった。
「ま!気をつけなよ。遊ばれて捨てられたなんて話ザラだからさ。」
「う…ん…」
バツの悪そうな顔で 私を上目ずかいに見つめてる。
「特にあんたは男の免疫無いんだからさ!」
私の知る限りでは生まれてこの方男と付き合うのなんて今回が初めてのはず…高校は 女子高。
バイトの経験も無い…いわゆる世間知らずのお嬢様ってトコだと思うんだよね。
「………」
指付きで警告した…和海は黙ってジッと私を見てる。

「もしそんな事になったらアイツの顔面に正拳突き2・3発入れてやるけどね。」
玄関のドアを開けながら照美さんが本気でそう言った。
「じゃあお大事にね!」
にこやかに照美さんが帰って行く。
「ありがとうございました。気を付けて…」
お互い見えなくなるまで手を振ってた…でも…照美さんそんな事したら多分 返り討ちに遭っちゃうと
思います…

部屋に戻ると照美さんの声が頭の中で繰り返される…
『遊ばれて捨てられたなんて話ザラだからさ。』 ……か…
「…………」
事件…起きなければいいな…

「あーーーーっっ!!気持悪りぃ…」
あの女医が帰ってから暫くして全身汗びっしょりで目が覚めた。
バタン!!
浴室の方でドアが閉まる音がした…祐輔さん?行ってみるとシャワーの音がする…
「祐輔さん!大丈夫なの?シャワーなんか浴びて!!熱は?祐輔さん!!」
呼びかけながら浴室のドアを叩いた。
「一緒に入るか?」
中から祐輔さんの声が返ってきた。
「は…入らないけど…もう…大丈夫なのかな…」
オレはシャワーを浴びながらドアの前で困った顔をしてる和海が想像出来てクスリと小さく笑った。

「はーサッパリした。」
シャワーを浴びたからとは違う身体の 火照りを感じつつそれでもさっきの身体の不快感に比べれば
気分は上々だった。
「はい!これ飲んで下さいね!」
「 ……… 」
リビングに入るなり和海が 真面目な顔でミネラルウォーターのペットボトルを差し出した。
「ちゃんと水分補給しないとダメですから!」
至って真面目らしい…黙って従う事にした。
半分ほど飲んでダイニングテーブルに肘を着いて呆けていた…知らぬ間に溜息まで出る。
「 こつん! 」
「ん?」
不意に和海が両手を後ろに組んで自分の オデコをオレのオデコにくっ付けてきた。
「…………」
女にそんな事されたのは初めてだった…しかも和海だ…いつの間にか心臓がトクリと鳴った。
「まだ熱がありますね…」
和海はオレがそんな風になってるなんて分からないだろうな…暫くしてそっと和海が離れた。
「これ飲んでもう少し眠ってください。」
そう強めな物言いでしっかりと和海の手の平に薬が乗っていた。
「………薬?」
オレの目の前に薬と半分残ったミネラルウォーターが差し出された。
逆らう事 なんて出来る筈もなく…オレは素直にそれを受け取った。

「…ん…?」
次の日の朝…ベッドで目が覚めると直ぐ傍に人の気配がしてチラリと目をやると和海が スヤスヤと
眠ってるのが見えた。ああ…そういや夕べは泊まって行ったんだっけ…
泊まるなんて久しぶりで思わず口元が緩む。そっと眠ってる和海の髪に触れた。
「…あ…祐輔さん…」
そっと触れたつもりなのに和海が直ぐに目を覚まして身体を起こしてるオレを寝ぼけた顔で見上げてる。
「熱は?」
「 ! 」
ガバッと起き上がるとそのままの勢いでまた『コツン』と自分のオデコをオレのオデコにくっ付けた。
オレは動かずに目だけ動かして和海をジッと見つめた…お互いもの 凄い近い位置で視線が合う。
「ん?あ!…ごめんなさい…母が良く熱を出すとやってたものだから…つい…」
顔を真っ赤にしながら照れた様にそう呟くとオレから 少し離れた。
オレはそんな和海を追って照れ隠しに口元に運んだ手を掴んで引き止めるとそっと顔を近づける…
「あ…」
小さく声が漏れる…それを塞ぐように 和海の唇に自分の唇をそっと重ねた。
「で?熱はあったのか?」
唇はつけたまま尋ねた。
「あ…下がって…る…ん…」
そう和海が喋る間も何度も何度も 触れるだけのキスをワザと繰り返す…反応が面白いから。

朝起きて直ぐ傍に和海が居ると言う事が自分にとってどれだけ嬉しい事かいつも思い知らされる…
真面目で恥ずかしがり屋で奥手で…仕事熱心なのがたまにキズだ…
時々オレの事なんて二の次なんじゃないかと疑う事もある…
そんな思いもこの一瞬で全部打ち消される 事を和海は知ってるんだろうか…
普段泊まっていく事をなかなか実行に移してもらえない苦労を考えれば
無条件で一緒の朝を迎える事が出来るなら病気になるのも 悪いもんじゃないとニヤケつつ…

和海にするキスが次第に本気になっていく…

          その事に和海が気付く前に…しっかり捕まえておこうと両手を伸ばした…