yuusuke&sakurako





「新城さん包帯取り替えますよ。」

そう言って病室に入ると…ん?タバコくさい…なんで?
「あっ!新城さん!ここ禁煙ですよ!いつの間にタバコなんて…」
堂々とタバコを吹かしながら私を横目で見る。
「身体に障りますから!」
吸っているタバコと置いてあるタバコを取り上げた。
いくら個室だからって…
「吸わない方が身体に障る。」
変な理屈捏ねちゃって…
「何言ってんですかっ!!もう…」
そう言いながら新城さんの方に顔を向けながら替えの包帯を 取ろうとして
バランスが崩れた。
「あっ!」
そのまま新城さんを巻き込んでベッドに倒れ込む…!!
「…いっ…!!」
「 !! 」
新城さんが 言葉も発せず…胸を押さえてる…
「あっ!ごめんなさい!私…」
肋骨にひびが入ってるのに…思いっ切りその上に倒れこんじゃった…!!
早く退こうと慌てれば 慌てるほど新城さんに負担がかかってるみたい…
「あっ!」
その時病室の入り口で声がした。
「和海ちゃん見ちゃダメだよっ!!刺激が強すぎっ!
いくら生ナースだからって祐輔…昼間っからそんな…」
「………」
そう言って一緒にいる女の人の目を手で 隠してる…
「あっ!あっ!違うんです!これは…そのっ…」
一生懸命説明をしようと慌ててると…
「いいから…早くどけ…殺すぞ…」
痛みに耐えながら新城 さんが私を下から睨みつけていた…

「本当にスミマセンでしたいくら…」
深々と頭を下げた。
「次やったら本当に殺すからなっ…」
青ざめた顔で新城さん が私を脅す…
「もー祐輔だって悪いんだからさっ!」
「オレは悪くないだろう?まったく…」
「タバコなんて吸うからだろ。」
「…………」

買い置き のタバコまで取り上げられて仕方なく1階の販売機まで買いに来た。
まだ胸に響くからあんまり出歩きたくは無いが仕方ない…
…ん?タバコを買うオレをジッと見つめる 女のガキが一人…何だ?こいつ…
気にしつつもオレはそんなガキを無視して病室に戻った。

夜の11時を回った頃か…?勝手に病室のドアが開いた。
しかも ゆっくりと…静かに…ナースじゃなさそうだ…
「 ? 」
ガサゴソと音がする…
黙って見ているとベッドの端に指がかかって…子供が顔を出した。
あの販売機 の所にいたガキだ…
「何だお前?何しに来た?ここはお前の病室じゃねーぞ。早く出てけ。」
「いやよ!私決めたんだもの。」
そう言ってベッドによじ登って来た。
「私あなたの事好きになちゃったの。一目惚れよ。」
「はぁ?」
言いながら布団に入って来る…
「残り少ない人生好きな人の傍で過ごすって決めたの!」
「何だそりゃ?」
何なんだ?しっかりオレの隣に入り込んで座った。
仕方なくオレは少し横にずれてやった…
「ナース呼ぶぞ。」
「そんな事したら無理矢理 連れ込まれたって叫んじゃうよ。
変質者になっちゃうけどいいの?」
「…………」
オレを脅す気か?上等だな…
かと言って叩き出す訳にも行かねーし…
「少しだけだから…いたいけな少女の夢叶えると思ってさ!ね!」
そう言ってニッコリ笑う。
「ねって…お前なぁ…」
呆れて…ものも言えない…
「私井上桜子。小学校3年生。ヨロシクね。お兄さんは?」
「……祐輔だよ…」
何でこんなガキに自己紹介しなきゃなんねーんだ…
「祐輔お兄さん?」
「 !? 」
気持ち悪りぃ…身体中が変な悪寒で疼く。
「祐輔でいい…」
言った後溜息が出た。

私はナース・ステーションで座っていた…今夜は夜勤 だったから…
一人昼間の事を思い出す…はー昼間は失敗した…焦った…
でも…あの人いい男なのよねぇ…だから緊張しちゃうのよ…
包帯取り替えるだけでも ドキドキしちゃう…気を付けなきゃ…
なんて反省していると…廊下の角に新城さんが立っていた…
え?新城さん?え?何?何なの?
新城さんが私に向かって指を クイクイ曲げて呼んでる…
「どうしたんですか?新城さん?」
声を掛けると何も言わず病室の方へサッサと歩いて行ってしまう…
「ちょっと…どう言う事?」
仕方なく後を着いて行く事にした…
まさか…誘ってるわけじゃないわよね…まさ…か…ね…えーーどうしよう…?
違うと思いつつも期待も無いわけじゃなかったりする… 何なの?
病室に辿り着くと新城さんがそっとドアを開けた…
「あの…新城さん…一体…」
何も話さない…まさか…昼間の仕返し…?とか?
えー…でも新城さんが 中を見ろと言いたげに顔を動かした。
「え?中ですか?」
薄暗い病室を覗き込むとベッドに…誰か…
「え?桜子ちゃん?」
小児病棟で入院してる女の子じゃない…
傍に行こうとすると新城さんに腕を掴まれた。
「やっと寝たんだ。起こすな!」
「でも…」
「とにかくオレの所にいるから騒ぐなよ。」
そう言うと新城さんは ジッとベッドを見つめてた…


それから毎日の様に桜子はオレの病室に来た。
ホントに彼女気取りでオレの世話を焼きたがる…まぁ暇だったし…
気晴らし にもなったからそのままにさせていた…時々2人で外に散歩もした。
桜子はデートだと言い張る…こんな散歩がか?

「ホント祐輔は女性に弱いよね。くすっ」
慎二がからかってオレに言う…あながち間違ってるとは言えない…
オレは親父が浮気をしてるのを知らずに親父の事を信じてたおふくろと妹には弱かったから…

最近桜子が元気が無い…気になって外を歩きながら聞いてみた。
「どうした?桜子…何かあったのか?」
「…!何でもないよ…女の子だから色々あるの!」
ちょっとびっくりした様な顔をオレに向けて強気な言い方をした。
「何だそりゃ?」
でも…何か隠してるな?桜子の奴…まあ言いたくないなら聞かないけどな…
「ねえ…祐輔…」
しおらしく桜子がオレに声を掛ける…なんだ?
「ん?」
「手…繋いで…いい?」
オレの方を見ないで自分のパジャマをギュッと掴んでる。
最初の積極的な態度はどうした?
男のベッドに入るより手を繋ぐ方が恥ずかしいのか?…まったく…
「…仕方ねーな…ほら。」
オレは素直に手を出してやった。
「ありがと。祐輔。大好き!!」
一瞬で明るい顔になりやがって…そんなに嬉しいか?
「はい。はい。」
こんなガキに告白されても嬉しくも何とも無いんだが…
オレはいつも黙って桜子の言う事を大人しく聞いていた。

「彼女ね…来週心臓の手術受けるんだって…成功の確率…低いらしいよ…」
慎二が情報を仕入れて来てオレに 話す…
「ふーん…」
オレは慎二を見なかった…だから桜子の奴…考え込んでたのか…

2日ほど桜子がオレの部屋に来ていない…どうやら明日手術で出歩くのを 禁止されたらしい…
ホント…オレは女に弱い…自分でも呆れるくらい…

病室からストレッチャーに乗って手術室に向かった…
いつもの病室の前の廊下…私… 戻って来れるのかな…
ここを曲がると…祐輔の病室に行ける…祐輔には手術の事話してないから…
あーあ…最後に…祐輔に会いたかったな…
そう考えると怖くて 悲しくて…涙が出そうだった…

進む廊下の先に誰か立ってる…え?…あれって…
「 !?…祐輔!なんで? 」
祐輔が…廊下で待っててくれた…うそ…
「来て…くれたの?私言ってなかったのに…」
「そんなに驚く事ねーだろ?何て顔してんだよ…ブスに見えるぞ。」
不安が顔に出て…今にも泣き出しそうな顔だ…
「だって…だって…もう祐輔に会えないかもしれないんだよ!」
オレに向かって叫ぶように桜子が話す。
「桜子ちゃん…何言ってるの?」
ナースが声を掛けた。
「知ってるよっ!成功するの…難しいって…みんな言ってるもん…」
堪えていた…涙が零れる…
怖い…本当は怖くて…逃げちゃいたいくらいなのに…
「おい!桜子。」
頭の上から祐輔の声がした…
ちょっとキツめな呼び方でハッと我に返る。
「 ? 」
泣きながら桜子がオレを見上げた。
「絶対成功するおまじないしてやるよ。」

オレはそう言うとゆっくりかがんで…
桜子の小さな唇にそっとキスをしてやった…

「 !! 」
ナース達が驚いてる…そんな事オレの知ったこっちゃない…
桜子が何も言えず…真っ赤な顔をしてオレを見つめてた。
「退院したら本当のデートしてやるよ。オレがデートするなんてすっげー珍しいんだぞ。
だからちゃんとオレの所に 帰って来いよ。」
慎二が見てたらどんな顔すんだろう?
オレが優しく桜子に向かって微笑んだから。
「……う…ん……」
桜子が心此処に在らずって感じの 顔でオレを見上げてた。

初めて…キスをした…しかも…病院の廊下で…人が見てる前で…
なにより相手は祐輔だ…心臓が手術の前だって言うのに…
こんなにドキドキしてる…いつもと違う胸の苦しさがある…もう…祐輔ってば…
でも祐輔のお陰で…怖いなんて無くなった…
絶対成功して祐輔とデートするんだもんっ!! 絶対祐輔に会いに行くんだからっ!!
そしたら…『おかえり』って言ってくれるかな?


「まったく…女の子なら誰でもいいんだから…」
慎二が呆れた様に オレに向かって文句を言った。
「病棟中噂で持ちきりだよ。相手は小学生だろ?もー…考えてから行動に移しなよ…」
「まさかあそこまで騒ぎになるとは思わなかった んだよ。」
オレが一番びっくりだっつーの…
その日のうちに入院病棟中に噂が広まった…何でだ?
「でも良かったね。手術成功して…しばらくすれば普通の子と 同じ様に生活出来るってさ。」
「ああ…」
「どうしたの?なんか暗いけど…」
慎二がイマイチな態度のオレに気付いてオレを覗き込みながら聞いてきた。
「桜子に手術成功したらデートしてやるって言ったんだけどな…」
思わず溜息が出る…
「うん…?」
慎二はどうした?って顔でオレを見続けてる。
「 ディズニー・ランドに行きたいんだと…」
目だけ宙を仰いだ。
「ええーー?祐輔が?ディズニー・ランド??うそっ!!」
もの凄い驚いた声出された…まあ予想は してたけど…
「一番祐輔に似合わないよっ!和海ちゃんとだって行った事無いんだろ?」
「行くわけねーだろっ!!」
恥ずかしくて行けるかっ!!
「ははっ!!笑えるーーっ!!」
想像以上の大笑いだっ!!ムカつく!!
「うるせーな…殴られてーか…はぁー…なあ…慎二…」
「ん?…くっくっ…」
まだ笑うか…
「……券手に入るか?」
「え?うん…大丈夫だと思うけど…くっくっ…ホント祐輔って女性に弱いよね…」
「…………」
「特に守ってあげたく なる娘にはさ…」

オレはしばらく笑い続ける慎二を無視して外を眺めていた…
桜子の奴…喜ぶかな…なんて珍しく心配なんかしてる自分がいて…
オレにとって初めての小さなガールフレンドの顔を思い出して…

        慎二に見えない様にクスリと微笑んだ。