06
カチカチと時間は過ぎていく…
下からの話し声と笑い声が俯せた枕の下から聞こえてきて…
その声が心地良くて…私はどうやらウトウトとしてたらしい…
「…ん…」
俯いて寝てたせいか身体が痛くて目が覚めた。
「いた……首が…」
「小夜子さん……」
「…ん…?」
誰かに呼ばれた…誰?お母さん?
「小夜子さん…」
「ん?」
「小夜子さんちょっと起きて。」
俯せから顔だけ声の方に向くと同じ目線で誰かと目が合った。
「…!?…ん?」
「起きて小夜子さん。話があるんだ。」
「ンン???」
この顔…どっかで…
「王子様のキス…欲しい?」
「!!!」
がばっと跳び起きるとあの男が顎を私のベッドに乗せたまま跳び起きた私を見上げてた。
「!!…なっ…人の部屋で一体何してるんですかっっ!!!」
「え?だからちょっと話を…」
「いやぁぁぁ!!チカ…んぐ…!!」
どう素早く動いたのかあっという間に口を手で塞がれた。
「…………」
「シーッ!ご両親もう寝てるし夜中だよ。ん?」
「コクコク」
と…とにかく頷いた。
「よろしい。」
そう言うとゆっくりと手を外した。
離れる瞬間…空手をやってる割には柔らかな手だっな…なんて思った…
「まずは小夜子さんに謝らなきゃね。ごめんねまたお邪魔しちゃった。」
「ホントよ…一体どう言うつもり?」
「いやぁお父さんに誘われたら断れなくて。それに…」
「それに?」
「小夜子さんに会いたかったから。」
「!!」
「本当だよ。」
「なっ…何言ってるんだか…」
私は彼から目を逸らして呟いた。
「あ!私も貴方に話があったのよね。」
「え?本当?何?何だろ?」
「貴方…物書きなんですってね。」
「え?」
「親から聞きました。」
「え?何だ…そっか…そう言えば知り合った頃つい話しちゃったんだ…覚えてたんだ…」
「何で最初に言ってくれなかったんですか?」
「え?いや…何となく…」
「小説家って事ですか?」
「まぁ…」
「まったく…いくら売れな作家さんだからって黙ってる事ないじゃないですか!
別に恥ずかしくないですよ。」
「…………」
「で?何てペンネームで書いてるんですか?」
「え?」
「名前ですよ!名前!」
「いや…それは内緒!」
「?何でですか?」
「いや…なんか恥ずかしいから…」
「そんな事無いですよ!いいから教えて下さい。」
「やだ。」
カ チ ン !!
自分は好き勝手やって人の事なんて無視なのにあっさりと拒否されて…
今までの事もあって私の堪忍袋の緒が簡単に切れた。
「コラッ!弥咲憂也!!そんな我が儘許さないわよっっ!!潔く…って…あっ!あっ!」
調子のってベッドの上から床に座ってる彼を腕を組んで見下ろして覗き込んでたら…
バランスが崩れた…!!
「!!」
彼の顔がスローモーションの様に近づいてくる……
「わっっ!!」
「おっ!!」
どうやら彼が私をかばってくれたらしい…
結構な勢いで倒れ込んだのにあんまり痛くなかった。
私は彼の腕の中にしっかりと収まってる。
両腕がしっかりと抱きしめられてて自由に動けず起き上がるに起き上がれない。
「………イテテテ…」
「ごめんなさい…大丈夫?」
一応…謝っとこうか…
「何とか…」
「じゃあちょっと腕…退けてもらっていいですか?」
「…うん」
「…………あの…」
うんと返事をしながらまったく退けようとしない。
「あのぉ………」
「うん…」
「いい加減に……」
じゃないと私の心臓がドキドキで…彼に伝わっちゃう…
こんなに男の人と密着なんて生まれて初めてで…
でもこの人結構身体が大きくて…しっかりしてるんだ…
「女性の身体はみんな柔らかいな…」
さりげなく言ったつもりだろうけど…
「 『 みんな 』 って一体私は何人目なんですかね?」
サラリと女性経験自慢しないで欲しいんですけど……
「え?んーー」
「真面目に考え込まないで下さい!
はい!本当離して!!もうウチに出入り禁止にしますよ!!」
「仕方ない。ハァ…」
「そんなあからさまなため息止めて下さい。
本当貴方って何考えてるんだかわらないわ……」
「オレの事知りたいなら教えてあげてもいいけど?
その代わり添い寝の相手になると言う特典がついてきます。」
バシッ!!!
「あたっ!!」
有無も言わさず後頭部を引っ張たいてやった!
「出入り禁止決定!二度とウチに入って来ないで!」
「オレはいいけどお父さんががっかりするだろうな〜〜
息子みたいだって喜んでくれてるのに…なんか辛いな……」
「じゃあ普通に飲み友達になれば良いじゃないですかっっ!
本当夜中の女の子の部屋に勝手に入るのも禁止。わかりました?」
「………とりあえず寝よ。」
スクッと急に立ち上がりながらボソリと呟いた。
「あ!何で返事しないんですか?」
「そんな約束出来ないから。」
「ええ!?何?何でいきなりそんな反抗的なんですか???」
「やっと小夜子さんとこんなにお近づきになれたんだ…
もうこれ以上2人の距離あけるつもり無いし…縮めるなら何でもするけどね。」
「………」
私はびっくりで…心臓がドキドキで…きっと顔が真っ赤で…
「誰にでも言ってるんでしょ…それにそんな事言ってもなびきませんから!」
「そうかな?」
「!!…そうです。」
「小夜子さんならなびいてくれると思ったんだけどな…」
「自意識過剰!!」
「くすっ…」
「ハナで笑うなっっ!!」
「ごめん。」
「謝るなっっ!!」
「おやすみ。」
「おやすみなさい…もう勝手に入らないで下さいね!!!」
「だって鍵がかかってなかったから…」
「勝手な事言わないっっ!!
元々このドア鍵付いてないの!だからってそれ理由になりませんから!!」
「おやすみのキスは?」
「!!!…するかっ!もうヤらしいっっ!!」
「いつか…」
「?」
彼を強引に部屋から追い出して乱暴にドアを閉めようとした瞬間…彼が呟いた…
「小夜子さんとキスする時ってくるのかな…?」
「………………」
え……?ひとり言?
私は気付かないフリをしてそのまま部屋のドアを閉めた。
閉まる瞬間…彼の背中が視界に入った…
バタンと乱暴に閉めたドアにまた寄り掛かって乱れた呼吸を整えた…
いつか…なんて…彼は本当にそんな事…思ってるの?