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「こんばんは。」
「あら先生いらっしゃい。」

ここはいつも弥咲と小夜子の父親が飲みに来ているスナック。
小さいながら女の子も3人いてなかなか上品なお店…
店の中はカウンターが数席とテーブル席が4つほど…

「先生はやめてってば…」
「あら本当の事なのに…じゃあ弥咲さん。お身体大丈夫でした?
この前大分ご機嫌で飲んでらしたから。」

そう言ってにっこり笑うのはこのお店のママ 『 中森智捺 』 推定年齢28歳…
ただあくまでも噂で私生活は謎の方…

「ご親切に…見ての通り元気だよ。」
「相変わらずお酒強いわね。」
「酔っ払うけどね。」
「どんなに呑んでも二日酔いにはならないでしょ?」
「身体だけは丈夫なんで。」
「くすっ…で?また閉店間際に来て今夜は私の所に泊まるおつもり?」
「泊めてくれると嬉しいな。」
「まったく…ご自分のお家ちゃんとあるくせに…」
「最近人肌恋しくて…それに智捺さんはオレを縛ったりしないから…ニコッ!」
「あら…都合のいい女って事かしら?」
「大人の女性だと思ってます。」
「あらお上手な事。」
「終わるまで待ってても?」
「…どうぞ」



「やっぱり女性の身体は柔らかい…」

智捺の部屋のベッドの中…
約束通り弥咲は泊めてもらっているらしい。

「……ちょっと弥咲さん…ここまで人の身体…イジクリ廻すんだったら…
いっその事…抱いちゃって欲しい気もするんですけど…」

シャワーも浴びてネグリジェに着替えた智捺が
後ろから抱きかかえている弥咲を振り返りながら訴える。

「え〜〜オレこうやって女の人の身体に擦り寄ってんの好きなんだよね ♪ ♪ 」

こちらは洋服を着たままの弥咲が智捺のまだ微かに濡れている髪に
顔をうずめながら返事をした。

「…そうですか……?」

確かに擦り寄ってるだけなのだが当然の事ながら相手に密着!
お互いの脚は絡まって弥咲の両手は別々に智捺の身体を軽く触れる様に
撫で上げていく…
唇も背中から肩…首筋…頬と智捺の唇の横を掠める様に優しく啄んでいく…
どう見ても愛撫のナニモノでもないのだが…弥咲は擦り寄ってるだけと言い張る。
確かにその後の一線は越えた事は無い。

「…ここまでして…良く我慢出来ますね…いつも思うけど…」
「言っただろ…人肌恋しいだけだって…これさせてくれるの智捺さんだけなんだ…」
「…もう…最初は馬鹿にしてるのかと思ったけど…
本当に人の温もりが欲しいだけなのよね…変な人。」
「いつかお礼に抱きますから…」
「なんか…それも変な感じよね?不能なわけじゃなさそうなのに…」
「……今のトコロそこまでは大丈夫だから…」
「益々変だわ…いい人がいるのかしら?」
「色々と…ね…」
「あら…忘れられない人でも?でも女性とはイチャつきたいと?」
「正解!!」
「…まったく…甘えん坊さんって事かしら?」
「それも正解!!」
「……真面目な顔で良く言うわ…でも…なぜかしら…憎めないのよね…得な人…」
「褒め言葉として受け取っておきます。」
「でも……」
「ん?」
「いつまでも私のお許しがあるとは思わないで頂戴ね…
これでも言い寄って下さる殿方もいるのよ…お子様みたいな貴方と違ってちゃんと
私の将来を考えてくれる殿方が…ね…」

「その時は他探しますから。早めに言って下さい。」

「……少しはガッカリなさったら?普通に即答で返事しないで下さいな。
………ホント憎めない人なのに…憎らしい人……ぎゅうっ!」

「いててててて…智捺さん…痛いです…鼻…取れる…」




「え?あの人が物書き?」

自宅の卓袱台で夕飯を頬張りながらお母さんに聞き返した。

「うん…お父さんが言うにはそう言ってたってたよ。売れてないらしいけどね。
だってオーラが無いだろ?」
「……ホント?」
「最初の頃何して食ってんだって聞いたら物書きだって言ったんだってさ。
売れてないならサッサと職変えてさ…あの顔ならホストにでもなりゃいいのにねぇ…
それなりに客も付くんじゃないのかと思うけど…」

「…………」

そんなお母さんの分析をあのいい加減さならそれもいけるんじゃないか…
なんて思ってる自分がいた……



「 ふわぁ〜〜 」

湯船に浸かりながらあんまりにも気持ち良くて声が漏れた。

「物書きねぇ…」

さっきの衝撃の事実を思い起こしながらそんな事を呟いた。
と言う事は小説家って事??あの人が?
まあ本読むのが好きとは言ってたけど……でも……え〜〜〜〜??!!

ああ…でも物書きって言ったって小説とは限らないし…
翻訳家とか…?童話作家なんてあの人にはありえ無さそうだし…

これは今度本人に会ったら確かめみようかしら……
あ!だからこの前好きな小説家の事聞いて来たのかな?
自分の名前が出てくると思って?っていっても売れてないんじゃ
あたしが知ってるわけないし…
今まで話さないって事は自分でも気にしてるって事なのかな…
だからコーチなんかして小遣い稼ぎしてたのかしら?

そんなどうでもいいあの男の事を考えてたら危うくのぼせる所だった。

「お母さん…何か飲み物あ……」

言いながらリビングのドアを開けたら……

「こんばんは。お邪魔してます小夜子さん ♪ 」

アイツが振り向いてニッコリと私に笑いかけた。

「 !!!!!!!……なっ…… 」

なんで?なんでこの男がまたウチに上がり込んでるの??

「なっ…なんで貴方がここにいるの??」
「え?お父さんに誘われたんで。」
「ええ?」

思わずお父さんを振り返った。
そう言えば飲みに行くって出かけて行ったはず……なのに何でいるの??

「あんちゃんとゆっくり飲みたくてな。酔っ払ってもウチなら泊まってきゃいいしよ!」

………はぁ??ちょっ…冗談じゃ…




「冗談じゃないわよ…」

あの後飲み物を持って速攻2階の自分の部屋に逃げ込んだ。
下からは笑い声が聞こえてくる…まったくウチの親ときたら………
それよりもあの男よ!アイツも一体何考えてるんだか…

あれほどもうウチに迷惑かけないでって言ったのに…