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「まだ間に合うかな…」

私は杉山香奈23歳。
今勤め帰りのスーパーへの道を走ってる。
ナゼかと言うと今の時間タイムサービスで卵が安くなってる からっ!!
でももう始まって20分は経ってる…もう間に合わないかな…
とりあえずどうせ買うなら安い方がっ!!の勢いで走ってる。
目当てのスーパーが 見えて来た…入り口手前で止まってゆっくり歩いて
駆け込むのを止めた。やっぱり…恥ずかしいもんね…
記憶を辿って卵売り場に急ぐ…わーーやっぱりもう無い 雰囲気…?って…
「あった!!」
あれはまさしく卵!しかも最後の1パック!
素早く手を伸ばすと…

「 !! 」  「 およ? 」

誰かと手が重なった。
誰?思わずその方を振り向いた。

「 !! 」
「ん?」

男の人だ…
「あ!すいませんっ!!」
思わず出した 手を引っ込めた。
「ああ…こっちこそ。」
ニッコリと笑う。
「はい。どうぞ。」
そう言って最後の1パックを私に差し出した。
「えっ!?いや… でも…」
そう言われて慌てた…だって…
「うちはまだ家に残ってるから。ただ買っとこうかなって思っただけだから。はい!どうぞ。」
そう言ってまた目の前に差し 出された…流石にそこまでされたら…断るのも悪いかな…
「あ…あ…どうも…すみませ…ん…」
オズオズと手を伸ばして卵を受け取った。

「じゃあお料理頑張ってね!」

そう言ってニッコリ笑って手まで振って帰って行った…
ナゼか私は心臓がドキドキ…

だって…なんかカッコイイ人だったから…それに…とっても優しそうな人だった…

「お早うございます。」
出勤して部屋に入るなり 挨拶をする。
ここは私の職場…那瑠壬署の刑事課。
「あ!杉山いい所に…紹介するよ。」
同僚の古山さんが出勤して来た私を見るなりそう言って呼ぶ。
「え?」
「昨日休みでいなかったから…」
「…?」
そう言えば1人お休みで紹介されてなかったんだっけ?
「椎凪さん昨日うちに配属になった杉山香奈さん。 23歳独身です。」
そんな…そこまで紹介しなくたって…
「あ!」
古山さんの視線の先に男の人が…
「杉山さん?椎凪です…よろしく。」
… そう言って紹介された人は…
「杉…山…です…」
この人は…
「あれ?君…」
相手も気が付いたみたい…
「あ…昨日はありがとうございました…」
思わず頭をペコリと下げた。
「2人共知り合いですか?」
雨宮さんが不思議そうに聞いて来た。
「いや…昨日ちょっとね。2人だけの秘密だよね?」
そう言って軽くウィンクされた。
「えっ!?いや…あの…」
何でだろ??思わず慌て捲くってしまった!
「は?」
雨宮さんは益々不思議顔。

「椎凪っ!何が2人だけの秘密なのよっ!!」

が ば っ !!
「ちょっ…ルイさん!!」
椎凪さんの後ろから逆帋さんが思いっきり抱きついた!?
もの凄い密着!!
「耀君に言いつけるわよ!浮気してるって!!」
愉しそうな顔で言ってる…
「してないしっ!!余計な事言わなくていいからっ!!」
椎凪さんは何とか逆帋さんを引き離そうとしてるけど…当の逆帋さんは離れる気配が無い…
「もー結婚しても変わんないんだから…柊苹さんに言いつけるよ。オレに チョッカイ出すって…」
(ルイさんも椎凪よりも前に結婚致しました。おめでとう!!)
「煩いわね!弟分に絡んだからって文句言わせないわよ!」
引き下がる 気配も見せず更に詰め寄って言い切ってる…
「オレ弟分じゃないし…ほら…離して…みんな見てるってば…」
…何?何なの??
「何よー冷たいわね!! 」
「普通だって…古山くんルイさんの相手してよっ!!」
「嫌よっ!!こんなガキンチョ!!」
「ちょっ…ルイさんヒドッ…」

この2人…随分馴れ 馴れしい???
仲が良い??っていうのかしら??なんかイチャイチャ??

私は何とも言えない眼差しで2人を眺めてしまった…


今日の 仕事はとある政治家の後援会のパーティーの警備。
数日前に政治家のもとに今日の後援会のパーティーで
危害を加えるって脅迫文が届いた。
そんな脅迫文はいつも の事とタカを括ってる本人だけど
念の為にって事で私達が警備に付くことになった。
一般の人に紛れて警備にあたる私達もそれなりの服装をしてる。
何だか仕事とは かけ離れた格好で…変な感じだ。

「そろそろ持ち場に着いた方がいいよ。」
古山さんと雨宮さんと話してたら椎凪さんにそう声を掛けられた。
「 ! 」  「 ! 」
「一般のお客も入って来る…ん?なに?どうした?」
3人が無言でオレを見つめてる?
「いや…その…椎凪さん…決まってるなぁ…って… なぁ?杉山?」
「えっ!?あっ!!はいっ!」
急にフラれて…ビックリした…
でもホント…椎凪さん…スーツ姿が似合ってる…
「もー何言ってんの…仕…」

「椎凪ーーーーーっっ!!」

が ば っ !!

「 うわっ!!」

逆帋さんがまた思いっきり椎凪さんに飛びついて抱きついた!!
「やっぱりいい男は何着ても似合うわねぇ〜〜カッコイイよぉ〜〜椎凪っ!!」
もう逆帋さんはニコニコ…
「あ…ありがと…いちいち抱きつかなくていいから…」
椎凪さんが引き攣った顔で逆帋さんを押し戻す。
「ほら…離れて…仕事…仕事!!」
「あんたってキスと見た目だけは得してるわよねぇ〜〜」
言いながら 椎凪さんの胸をバシバシと叩いてる。
「何それ?褒めてんの??」

納得のいかないといった椎凪さん…私も何の事か…キスって??


結局その日は何事も無く無事にパーティーは終了した。
いつもの如く悪戯だったらしい…まぁ何も無くて良かった。

「じゃあ杉山の歓迎会も兼ねて仕事も 無事済んだ事だし飲みに行こうか!!」
ルイさんが愉しそうに言う。
「え〜?オレ無理。予定ある。」
「どうせ耀君迎えに行くんでしょう?いいから連れて 来なさいよ。」
「ようくん?って誰ですか?息子さんですか?」
小さな声で古山さんに聞いた。
確か椎凪さんは結婚してるのよね…指輪もちゃんとはめてるし…
「椎凪さんの奥さんなんだよ。何故か椎凪さんもルイさんも『ようくん』って
呼ぶんだよね…ニックネームなんだってさ。」
「はぁ…ニックネームですか…」
なんだか不思議な感じ…
男っぽいってことなのかな?
「そうですよ!連れて来て下さいよ!オレ達一度も会った事ないんですから!」
古山さんがここぞと ばかりに言う。
「えーだからオレの奥さんは人に見せると減っちゃうんだって!だからダメ!」
「え…?」
椎凪さんのそんな説明にちょっとびっくりで…
「いっつもそんな事言って逃げるんですから…そんなに俺達に会わせんの嫌なんですか?」
「嫌!!」
…思いっきり即答…
「ったく!!椎凪さんっっ!!」
「とにかく今日はオレ パス!ごめんね杉山さん。また今度埋め合わせするから…」
そう言ってニッコリ微笑まれた!!
「あっ…いえ…そんな…」

わ〜〜この位で…なんで 心臓ドキドキ???


「ルイさん…何でオレ達こんな事してんですか?」
古山さんがボソリと呟く。
「椎凪の奥さん見たいんでしょ?見せてあげるって 言ってんじゃない。」
「また怒られますよ…ルイさん…」
雨宮さんが呆れた様に言う。
「椎凪が怒ったってあたしは平気!」
自信満々の返事が帰って来た。
私達は椎凪さんと別れた後こっそりと椎凪さんの後をつけてる…

「あんたらガキンチョ相手じゃつまんないのよ!」

…が理由だそうだ。
だからって…いいのかしら…こう言うの…??
「椎凪勘が鋭いから気付かれんじゃ無いわよ!」
ルイさんからの命令が下った。

それからしばらくして 椎凪さんが1人の女性と合流した。

「あ!あれが奥さんですか?」
何だかんだと言いながら古山さんが身を乗り出した。
「そう!相変わらず可愛いわねぇ…」
ルイさんが急にニコニコし出した。
「でもちょっと遠くて良く顔がわかんないっす…」
古山さんがそんな事を言う。
「ほら!先回りするわよっ!!」
「えっ??」
思わず叫んじゃった…そこまで??
「あ…あの…そこまでしなくても…」
雨宮さんに耳打ちする。
「無理だね…もうルイさんああなると 止まんないし…
ルイさん椎凪さん困らせんの好きだから…」
苦笑いの雨宮さん…
「…はぁ…?」
私はそう返事をするしかなかった。


「椎凪ぁ〜〜〜 ♪♪ 」

わざとらしくルイさんがニッコリ笑ってオレの前に現れた。

「げっ!!ルイさん??」

椎凪さんが思いっきり嫌な顔をした。
「偶然ねぇ〜〜」
そう言って覗き込む。
「偶然?嘘つくな!だったらなんでオレの前から現れるんだよ!先回りしたな?」
鋭いです!椎凪さん。
「2人共何でルイさん止めないんだよ!まったくもーー…」
雨宮さんと古山さんに向かってそう言った。
「オレ達の言う事なんて聞くわけ無いじゃないですか!」
古山さんが自信満々で返事をする。
「はぁ〜〜〜もう…」
どうやら諦めたみたい?

「仕方ないなぁ…紹介するよ…オレの奥さん。」

言いながら ちょっと身体をずらして今まで自分の後ろに隠してた女の人を紹介してくれた。

「は…初め…まして…耀です…」

そう言って照れ臭そうな顔をした その人は…
同性の私から見ても可愛くて…綺麗な人だった…