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「耀…21歳の誕生日おめでとう。」


今日は耀くんの21歳の誕生日。
昼間はオレとテーマパークに出掛けた。
去年の誕生日は付き合い始めて…と言うか耀くんと知り合って初めて
2人でテーマパークに出掛けた。
耀くんも初めての事ですごく喜んでくれて…
だから毎年誕生日には必ず行こうと耀くんと約束してたから…

あの時は耀くんはまだ自分の事男の子だと思ってた…

でも今年は右京君に女の子に戻してもらったから…
また違った意味の誕生日だ。

そして夜は右京君の所で耀くんの誕生日を祝ってると言うわけで…
まあ…事実戸籍上まで本当の親になった右京君だから
オレとしては従うしかないわけなんだけど…

ナゼか面白くない!!

「はい。有り難う御座います。」

耀くんってば…そんなに満面の笑みで微笑まなくてもいいのに…

「僕の手元で育っていたなら結婚するまで綺麗な身体で嫁がせたものを…」
「…………」

何だよ…オレが汚したとでも言うのかよ…
ホラ見ろ…耀くんも流石に黙っちゃったじゃねーか!

「いやその前にもっと違う相手を探したのに…」

ブチッ!!

流石に勘忍袋の緒がキレた!

「ちょっと右京君!オレじゃ不服なの!!」
「………何だい…自覚してないのかい?」

すんげー上から目線じゃねーか!!!
ブッチーーーーン!!!!!!もう黙っちゃいねーぞ!!!

「ふざ……」
「椎凪!!」

耀くんがオレの腕を掴む。
ごめん耀くん!でも我慢の限界だよ!!

「やかましいっっ!!椎凪!いちいち右京の挑発に乗ってんじゃねーよ!
右京もコイツの性格考えろっっ!単純なんだからよ!!」

「 「 なっ!!! 」 」

2人で祐輔に振り向いた。

「耀が困ってんだろーがっっ!!」
「 「 !!! 」 」

今度は2人で耀くんを見ると耀くんがマジで困った顔してる!

「ご…ごめんね耀くんっっ!!何でも無いからっっ!!ハハハ…ね?」

オレは耀くんの肩を掴んで笑顔で覗き込んだ。
「……ホント?」
か細い声と今にも泣きそうな顔で聞く。
「ホントだよ!ね?右京君!!」
右京君にも笑顔で振り向いた。
「………」

無言かよっっ!!空気読めっっ!!この世間知らず男がっ!!

ド ン !!

「ワッ!!」
いきなり突き飛ばされた!

「済まなかったね…耀…つい耀の事が大切で大人げない事をしてしまった…
許してくれるかい?」

そう言って耀くんを抱きしめた。
「……!!」
まったく…懲りない男だ…
「はい…」
「そうかい?よかった!さぁ耀の為に美味しい料理を用意したんだよ。」

宣言する通りテーブルには所狭しと何種類もの豪華な料理が並んでる。
どんだけ金かけてんだって…

「うわぁ…有り難うございます!右京さん!!美味しそう!!」
「喜んで貰えて何よりだよ…」

出だしで何だかんだと揉めたけど…こんなのはいつもの事で…
オレの耀くんへの盲目の愛と右京君の溺愛はお互い一歩も引かずにぶつかり合う。
周りはただただ呆れるばかりだ。

「まったく…本当2人共耀君の事となると引かないんだから…
愛されてるね…耀君。クスッ」
「慎二さん…」
料理を頬張ってたら慎二さんが隣に立った。
「バッチリだったね。」
ニッコリと慎二さんが笑う。
「うん。丸く収まったみたい…」
「ああ言う時はどっちかの肩持つと更に揉めるからね…
2人のウィークポイント突くのが1番だからね!」
「うん。」

慎二さんに前もってアドバイスされてたんだ。
絶対椎凪と右京さんが揉めるから…って。
その時はオレがイジケた方が2人が文句も言わず大人しくなるからって…
まさか本当にしかもあんなに揉めるなんて思わなかった…


「耀僕からの誕生日プレゼントだよ。美味しい料理とデザート食べ放題の
一流ホテルの宿泊券だから…ゆっくり好きなだけ泊まって来るといい。」
これまた満面の笑顔で耀くんに微笑む。
「えっっ!!わぁ…有り難うございます!耀嬉しい!!」

……って一人分かよ?
そりゃオレもそこまで図々しくはねーけど…何だ?耀くん一人旅か?
まさか自分がしっかりついてくつもりじゃねーだろうな?

「なんだい?まさか自分の分まで貰えると思ってたのかい?耀の誕生日だよ。」

あの瞳で睨まれた!!かぁぁぁっっムカつくっっ!!

「はい!椎凪さんの分ですよ。」

まさに右京君にくってかかろうとした時慎二君がオレの目の前に
耀くんと同じホテルの宿泊券を差し出した。

「え?」
オレは訳がわかんなくて…
「僕と右京さんからのプレゼントです。2人で愉しんで来て下さい。」
ニッコリと爽やかな笑顔で渡された。

「やはり単純だね。すぐ騙される。フッ…」

呆れた顔された…チッ!

「心がピュアなもんで!!!」

勝ったか??心の中でそう叫んだ。


「まだ怒ってるの?椎凪…」

右京君の所からの帰り道…夜道を2人で散歩しながら歩いてる。
耀くんと手を繋いで歩くのはいつもいつでもどんな時でも愉しい。
今の季節ちょっと寒いけど…だから余計身体をくっつけて歩く。

「怒っては無いけどさ…
何であんなにオレに対抗意識燃やすのかわかんないよ!まったく…」
「オレの事が心配なんだって。大丈夫なのにね…クスッ」
「余計なお世話だっつーの!でもまぁ…
右京君には世話になったのは事実だし…耀くんの父親だから仕方ないか…
娘の彼氏は父親にイジメられんのは世の常だからさ!」

「ねぇ椎凪…」
「ん?」

「もしも…もしもね…本当に最初から右京さんの娘だったとしても…
オレ達絶対出会うよね?出会って必ずオレ達愛し合うよね?」

耀くんがオレを見上げてそんな事を聞く…
「耀くん…」
そんな必死な眼差しで見つめないでよ…こんな場所なのに…
「当たり前だよ…きっと…絶対出会って愛し合うんだ…」
「あ…椎凪…ン…」

抱き寄せて引き上げて深い深いキスをする…
本当なら今すぐ此処で押し倒して愛し合いたいくらい…ああ…オレ…幸せ…

「まったく…イチャイチャしやがって!!恥ずかしいったらありゃしないぜ!」

「 「 ン? 」 」

腰の辺りから声がした…小学生くらいの男の子だ。
「何だ?お前?」
見下ろすとホントにいた。
「夜だからってな人目が無いと思ったら大間違いだぜ!!」
腕まで組んで何故いばる?
「こんな時間にこんな所で何してる?クソチビガキ!!」
オレも腕を組んで見下ろしてやった。

夜の9時過ぎの人気の無い冬の夜道…深夜とは言えないが小学生が
1人で出歩く時間でも場所でも無い。

「何だガキ親に虐待でもされたか?」
「椎凪!!」
「んなわけあるかっ!俺から出て来てやったんだよ!」
「じゃあもう帰れ。じゃあな!気をつけて帰れよ。さ…行こう耀くん。」
「椎凪…!!」

オレは本気で帰るつもりで耀くんを促した。
こんなクソ生意気なガキ知るか!

「ちょっと…椎凪待っ…」
「いいんだよ。迷惑だってさ。帰ろう帰ろう!!」
「椎凪っっ!!」
耀くんがちょっと怒った。

「はぁぁぁぁ〜〜」
オレは深いため息を吐く。
折角の2人の時間が…折角の甘い雰囲気が…ったく台なしなんですけどぉぉ…

「オラクソガキ家何処だ?優しいお兄さんが送ってってやる。」
「帰らないよっ!それに帰ったって誰もいないし…」
「親は?」
「俺んち母子家庭でママは夜の仕事してんだよ。」
「……ママ…?…プッ!!」
「!!何だよっ!!仕方ねーだろ!!そう呼ばないと文句言われんだからっ!!」
「で?そのママと喧嘩したのか?」
「違うよっ!俺の誕生日忘れたから頭にきて…出てきたんだよっ!」

「 「 誕生日? 」 」

「今日…俺の誕生日なのに…ママの奴…すっかり忘れやがって…」
「何?祝って欲しかったの?」

小学生の…高学年らしき年頃でも親に祝って欲しいのか?
オレはそんな経験無いし…あんま自分の誕生日なんて意味が無かったから…
ガキの頃は園で祝ってくれたけど…別に何とも思ってなかったしな…
なんせ同じ月の他の奴らと一緒に祝ったし…

今年耀くんに誕生日を祝ってもらって…生まれて初めてこんなにも誕生日が
嬉しいもんなんだと実感したばっかだし…

「…べっ…別に祝って欲しいとかじゃ無くて…
いっつも忙しいのはわかってるし…金だってそんな余裕無いのも
わかってるしさ…でも忘れるって無いだろう?
普段いろんな事に我慢してるんだぜ!俺だって!だから…『おめでとう』って
言ってくれるだけで良かったのに…」

………ふむ…愛されてるって…証拠が欲しかったのか?
確かにオレももし耀くんがオレの誕生日に 『おめでとう』 の
一言も無かったら不安になるかもな…こんなガキなら尚更か?

「じゃあ一緒に誕生日お祝いしようか?」
「え?」
「耀くん?」

「オレも今日誕生日だったんだ。家に椎凪が作ってくれたケーキもあるし…
一緒に食べようよ。君が嫌じゃ無かったらだけどさ。」

そう言ってニッコリと微笑んだ。
「……………」
夜道でも分かる…照れてんじゃねーよ!このマセガキがっ!!
「…いいの?」
おいおい…遠慮しろ!
「うん。いいよね?椎凪。」
「別に構わないけど…知らねーぞ。このまま誘拐されたって!」
「俺んち身代金なんて払えないぞ…
でもこのまま外にいるのも寒いからお邪魔してやるよ!」
「はぁ?お前家出してきんだろ?野宿するくらいの根性ねーのか?」
「今の季節野宿なんて凍死だよ!凍死!!そのくらいわかんだろ?」
「げっ!生意気!!」
「もー椎凪!!でも後でちゃんと家に帰るんだよ。送ってってあげるからさ…ね?」

「………う…ん…」

そう言ってまたテレながら頷いた。


「ホントこれお前が作ったのかよ?すげーな…お店のケーキみたいだ…」

耀くんの為に作ったフルーツたっぷりのケーキを見つめながら
ガキが…昌人が驚きの声を出す。

「それにこの部屋…ホテルみたいだ…すっげー豪華…」
さっきからキョロキョロと部屋中を見回してる。
「耀くんの為のケーキなんだからな!有り難く食えよ。」
ケーキを切り分けて昌人の目の前に置いてやった。
「昌人君は幾つなの?」
「…11歳…になった…」
「そっか!オレは21歳になったんだ。おめでとう!」
「あ…ありがとう…お…おねえさんも…おめでとう…」
「ありがとう。」

他愛も無い会話をして…あっという間に時間は過ぎる。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

「ん?お前の携帯じゃねーの?」
「…あ………ママからメールだ…」

そっか…今時の小学生は携帯は必需品か…特に昌人の場合は必要不可欠か?

「……………」
「どした?」
昌人が無言で…でも明らかに嬉しそうな顔をしてる。
「……誕生日おめでとうって…忘れててごめんって…プレゼント買ってくれるってさ!」
「良かったね。」
耀くんがニッコリと笑ってそう言った。
「うん!…ったく金無いくせに…無理しなくたって…いいのに…」
「何大人びた事言ってんだよ。甘えられる時に甘えとけ!お前まだガキなんだから!」
「…ガキじゃねーっ!!もう11歳だぞっ!!」

「ガキだよ!ガキっ!!あそこの毛も生え揃ってないガキんちょだろ?」

「……なっ!!お前…」
「し…椎凪っ!!子供に向かってなんて事言うんだよっ!!もーーーーっっ!!!」

「…え?あれ?オレなんか変な事言った??」

オレは真っ赤になった2人から軽蔑にもにた眼差しで散々文句を言われた…

えー?何で??



それから2人で昌人を家に送り届けた。
直ぐに母親も帰って来るらしいから…母親の分のケーキを持たせてやった。


「何か変わった誕生日になちゃったね。」

昌人の家からの帰り道…お散歩デートのやり直しだ。
「折角の耀くんの誕生日だったのにバタバタしてゆっくり出来なかった…
でも…こうやってまた耀くんと2人で手を繋いで歩けるから…ま!いいか?」
「…ふふ…寒いけど…愉しいね。椎凪!」
「ホント…オレは耀くんと一緒にいられれば愉しいし嬉しいし幸せ ♪♪ 」
「ありがとう…椎凪…」
「!!…あっ!まだ間に合う!早く帰ってシャワー浴びよう!耀くん!!」
オレは携帯の時間を見て叫んだ。
「え?」
オレが急にそんな事言い出して耀くんの繋いでた手を引っ張ったから
耀くんは訳がわからずキョトンとした顔してる。

「まだ 『12月14日』 だもん!今日中に耀くんと愛し合いたいっ!!
たっぷりサービスしてあげるから!!時間が無いっ!!」

「え?だって…今日の…夜中に14日になったって…オレの事いっぱい…」
「終わりよければ全て良し!!だって今日の最初と最後のセットで耀くんに
サービスするって決めてたの!!耀くんと同じでしょ?
ほら!急いで!急いでっ!!」

「え〜〜…サービスって…どう見ても椎凪の方が愉しんでたじゃん…」

「サービスの取り消しは受け付けておりませんので!」

「え〜〜…悪徳業者みたい…」
「何言っての!決め細やかなサービスがモットーなんだから!!
12時過ぎると深夜料金掛かっちゃうよ。いいの?身体で払ってもらうからね ♪♪ 」
「どんちにしろ身体で払うんじゃないかっ!!もー椎凪ってば…」

「愛してるの ♪♪ 耀くんの事。」

「…ズルイなぁ…椎凪ってば…」

でもそう言いながら…耀くんはオレについて来てくれて一緒に小走りに走り出す…



来年も…そのまた次の年も…これから先ずっと…

             2人で誕生日をお祝いしようね…耀くん…