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バ キ ャ ッ !!!

「…でっ!!!」

「ぎゃっ!!」

オレの言葉が終わるか終わらないかで祐輔がなんの迷いもなく椎凪の背中に足蹴りを叩き込んだ!

「わあーーーーっっ!!椎凪っ!!」

椎凪が無防備な背中を蹴られてその勢いで飛ばされてあの彼を巻き込んで床に倒れた!!

「……いってぇ……げほっ!」
「椎凪大丈夫?もう!祐輔!!!いくらなんでもやり過ぎだよ!!」
「耀が止めろって言うからだろ?それにそのくらいどって事無いだろ?そのエロ椎凪には。」
「どって事あるよっ!!祐輔いきなり何すんだ!!」
「椎凪大丈夫?あ…あの…大丈夫ですか?」

椎凪が起き上がった下で未だに仰向けでノビてる見知らぬ男の人に声を掛けたけど…

返事が無い…

「え?あれ?」
「ったく軟弱な男だな。」

「椎凪が思い切りぶつかるからだろ!」

「祐輔が手加減無しでオレを蹴るからだ。」

「耀の手前加減してやったろうが。感謝しやがれ。」

「はあ?」
「もう2人ともやめてよ!どうしよう…」
「寝かしときゃ起きんだろ。」
「祐輔!」

何だかオレが祐輔に頼んだからで…きっとオレ絡みで椎凪が怒ってて…
だから何だかオレのせいの様な気がして放っておけなくて…

「耀くん何?こんな奴の事気になるの!」
「ちがくて…なんかオレのせいなのかなって…」
「違うよ。コイツのせい。」
「椎凪!」
「軽い脳震盪だから大丈夫だよ。ほらソファに寝かせるから手伝いな。」
「ええ!?」
「椎凪!」
「だって…」
「じゃあオレが手伝うよ!」

ムッとしながらオレが倒れてる彼に手を伸ばす。

「ダメだよ!いいよ!もう…」
「サッサと手伝いなよ。もとはあんたのせいだろ。」
「だから違うって…」

何だよ皆して…

オレは仕方なくノビてる彼をソファに寝かせた。

「………」
祐輔がさっきからノビてる彼をじっと見てる。
「祐輔どうしたの?」
「コイツ時々耀の事見てた奴だろ?」
「えっっ!?」
「何?祐輔知ってたの?」
「ああ…まあたまに見掛けてただけだったしな…様子見てた。」

「え?何で?オレ彼に何かしたのかな?」

「………」

耀くん…そんな訳ないじゃん…

「耀に惚れたんだろ。」

「え″え″っっ!!!」

「だからオレが諦めて貰おうって話してたのに…邪魔するから…」
「あれが話し合い?」
「オレと耀くんがどれだけ仲がいいか見てもらった方が早いじゃん。」
「またエロイ事でもやったのか?バカ椎凪。」
「してないって!」
「しただろ!目の前でキ……!!」

「普通なら謹慎ものだけどね。まあ彼氏には仕事手伝って貰ったから
今回は大目にみてあげるよ。」

「すみません…」

オレはもう恥ずかしいったら……大学の関係者の人の目の前で……

「オレ着替えてくる。待ってて耀くん。」
「うん…って椎凪そう言えば何で?」
「ガサツな彼女に聞いて!」
「え?」
「そのお陰で茂手木君の事がわかったんだから感謝して欲しいね。」
「オレはそれ以上に働いたよ!」
「はいはい…だからコーヒー淹れてやっただろ。」
「飲んだ気しなかったけどね。」

そう言うと椎凪は部屋から出て行った。



「もう椎凪は…」

「………ん…」

「あ!気がついたみたいだね。」
「え?」
「う……」

「大丈夫ですか?」

オレはまだ横になってる彼の傍によった。

「……え?」

「ごめんなさい…何だかオレのせいなのかな…」


これは…夢…?

彼女が…こんな近くで…しかも僕に話しかけてくれてる…

ああ…そんな心配そうな顔…しないで……僕は大丈夫だから…

やっぱり君は優しい人なんだね……夢でも嬉しい…

夢だから…これくらいは許してくれるよね……



「え?」

彼がゆっくり起き上がったと思ったらオレを正面から抱きしめた!!

「!!」

ああ…あったかくて柔らかくて本物みたいだ…嬉しい…

「…う…」

男の人に抱きしめられたっっ!!

「 わ あ あ あ あ あ っっ !!!やだっっ!!ゆ…祐輔ーーーーっっ!!!」

「へ?」

耳元で叫び声が聞こえる?なん…

「ぐえっ!!!」

いきなり押し倒されて息が苦しくなった!

「……ぐっ…な…何?…うっ…」

はっきりしてきた僕の視界に映ったのは……いつも彼女と一緒にいる彼だ…

「…苦…し……」

僕の喉を彼が片手で押さえ付けてるからだ…息が…

「調子にのんなよ…」

「…は?」

「これ以上耀に関わったら…」

「………」

「殺す!」

「!!!」

本気らしい事が伝わって僕はドキリとなる…

「わかったな…」

そう言うと彼の手が僕の喉からゆっくりと離れた。

「ゲホッ…ゴホッ…」

「大丈夫か耀?」
「…う…ん……」

何で?彼女が真っ青な顔で今にも泣きそうだ…

「行くぞ。」
「うん……」

彼が彼女の身体を抱き抱えるようにして部屋のドアを開けた。
彼女は出て行く時にこっちに向かって頭を軽く下げた。

でもそれは僕にじゃなくて滝沢さんにだ…


「……一体何が起きたんですか?」

僕はこの短時間でこの部屋で起こった事が信じられない…

「好きになった相手が悪かったね。茂手木君。」
「え?」
「あれじゃ茂手木君に勝ち目ないよ。」
「………」
「それにあの子の父親も相当クセのある人物だし…」
「え?滝沢さん知ってるんですか?」
「ここの大学の関係者は全員知ってるんじゃないのか?」
「え?」
「結構な資産家の娘らしいよ。大学にも多額の寄付金納めてるし…
しかも父親がかなりの溺愛で常に目を光らせてるらしいから…
本当にしつこいと何されるか分からないよ…茂手木君。」
「へ?」
「色んな所に繋がってるらしいしね。何でも出来るって噂だよ。
これから先の人生…無事に送りたいだろ?」
「………」
「彼女の事は諦めな。」

「僕…彼女に嫌われたんでしょうか…」

「多分。」

「ぐっ!」

それが一番グッサリと来た。

「って言うか入り込む余地無しって感じかな。」

「………はあ…」

「まあ今度はもっと普通の相手見つけるんだね。寿命縮めたく無いだろ?」

「………」

確かに滝沢さんの言う通りで…僕みたいのがあの2人相手に勝てる自信は無い…

彼女の事を少しでも手に入る確率があるのならまだ頑張り様もあるけど…

あの2人の関係を見てもそれは皆無に等しい事がわかる……


僕の…短い…本当に短い恋が…たった今終わった……







「お!」

「あ!」

それから数日後大学に耀くんを迎えに行くとまたあの滝沢と言う女に会った。

「また来たの…暇人だね。」
「このままデート ♪ 」

「ふーん…あんたも大変だよねあの右京が相手じゃ…」

「は!?」

なんでこの女から右京君の名前が出るんだ??

「あんた何?右京君とどんな繋がり?」
「ウチは草g家の分家でね…あの子が右京の娘になってからこの大学にお世話になった。
まああたしだけじゃ無いけどね…あたしの他に数人…あの子の監視に付いてるよ。」

「え!?」

うそ…初耳!

「あんた右京の溺愛っぷり知ってるだろ?あいつもともと常識からズレてる所あるから…
こっちはエライ迷惑だけどさ…まあ昔からの付き合いだし本家のご当主様の命令だからね…」

「もしかして…オレの事も知ってたのか?」
「ああ…顔だけはね。」
「もしかしてワザと水掛けたの?」
「そう。あの茂手木君が気にしてる子が右京の娘かもしれないと思ったから
あんたに知らせた方が良いと思ってさ。自分で処理すんの面どかったし…」
「は?」
「ああ言う輩があの子に近付いたら排除する様に言われてんのよ。
まったく右京の親バカも困ったもんよ。そんなの今の世の中日常的にあるのにさ…
それにあの子にはあの喧嘩っ早い彼がいつも張り付いてるし…大丈夫って言ってんのに…
どうも右京あの新城って子にも良い顔しないのよね…何でなんだか?」

「…………」

右京君と祐輔犬猿の仲だもんな……はは…

「まあどうやって茂手木君の事あんたに話そうかと思ってたら本人が来てくれたら
手っ取り早かったわ…早々に諦める方向に持って行けたしね…は〜ホント疲れるよ…」

「…………」

「でもこれでこれから何かあったら直接アンタに言うから何とかしなよね。」
「そりゃ構わないけど…」
「じゃあまた ♪ 」

滝沢と言う女はそう言うとサッサと何処かへ歩いて行った…



右京君……流石と言うべきか…鬱陶しいと言うべきが……


オレにとっては目の上のタンコブな事には変わりない……