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「何でダメなの?」

放課後の人気の無い階段の踊り場で帰ろうとするオレを呼び止めてその子が詰め寄る。
もうどのくらいそんな押し問答が続いてるだろう…
まあハッキリ断らないオレが悪いのか……でも…

「あ〜〜…ごめん…だからオレ誰とも付き合う気ないからさ……」

この理由がダメなのか??
どうも相手を諦めさせるには弱いらしい…

「でも遊んでるんでしょ?色々聞いてるもん!何でダメなのよ?」

「だからさ…」

相手の理由も似たようなもんで…
オレが遊んでれば簡単に女と付き合うと思ってる辺りがおかしい…
なんでって…決まってんだろ?

テメェみたいなしつこい女と付き合う気無いからだよっ!!気付けよなっ!!


人前では…猫を被ってて誰にでも優しい 『フリ』 をしてるから…
こういう時に困る…本当はこう言う相手にオレは結構気が短い!

どうすっかな…いい加減キレてもいいか?…なんて考え出してる自分がいる…
でもそうすると後々の学校生活に支障が出そうだし…う〜〜ん…

「好きな子でもいるの?」

相手が質問を変えてきた…

「へ?」
一瞬返事に迷う。

「だから…好きな子でもいるの?」

「え?…!!…ああ…そういるんだ。」

本当はいないけど…この際そんな事は構う問題じゃない。


「だからごめん。他の子と付き合う気無いんだ。」




「は〜〜〜疲れた。」

オレは階段を登りながら溜息を吐く。
あの理由で引き下がってくれた同級の女と別れて鞄を取りに教室に戻る所だ。
何とか自分の本性はバラさずに済んでホッと胸を撫で下ろした。

だから同じ学校の子とは付き合いたくないんだよ…
1日中ベタベタされたらたまったもんじゃ……


「ん?」

そんな考え事をしながら階段を登るオレの目の前が急に暗くなった。

「 ええっっ!!! 」


見上げると…上から女子高生が落ちて来たっ!!!


「 うわっ!!なっ…何で??? 」

そう叫びながらも咄嗟に…
と言うかオレの所に狙った様に落ちて来たから必然的に抱き止めた!


ど さ っ !!  ド コ ッ !!


「 いてっ!!! 」


思いっきり勢い良く階段の壁に激突して後頭部を強打した!

「…いって〜〜〜何だよもーーー!!何だ?この子は???」

結構な勢いと重さでオレに飛び込んで来たにもかかわらずオレはヨロめきながら
何とかその子を床に落とさずにお姫様抱っこしてた。

「この上履きの色…1年生か…」




「よっと…」

器用に片足で保健室の扉を開けた。
どんなに呼びかけても揺すっても目を覚まさなかったから仕方なく保健室に連れて来た。

「あれ?先生いないじゃん…何だよもう…今日は厄日か?」

もう放課後であと少しで5時になろうという時間…先生も帰るか?

「とりあえず寝かせとくか……」

ずっと抱きかかえてた彼女を保健室のベッドに寝かせた。


「……ふむ…」

寝かせたベッドの淵に座りながらしばし観察。
息はしてるし…苦しそうでもないから平気だよな…顔色も悪くないし…
切羽詰った状態では無い事は確かだ…貧血かな?良く女子はそれで倒れたりしてるから…
なんて思いつつも……

でも…この子…良く見ると……結構可愛い ♪ ♪

ギシ…

ベッドに手を付いて寝てる彼女を覗き込んだ…それでも起きる気配が無い……

「キスしたら起きるかな?」

至って真面目にそんな事を考えた。
後から思うと何でそんな事を思ったのか…
いつもいきなり唇を奪うなんて事はしないんだけど…
でもその時は何の疑いも無しにそう思った。

そっと唇に指先で触れる…淡いピンク色の…唇…柔らかい…

そのまま屈み込んで顔を近づけた…
そして…そっと彼女の唇にオレの唇を重ねて…

…優しいキスをした……



「………ん?」

そんな声がしたけどオレはそのままキスをし続けた。

「…………?」

ちょっと彼女が動いたかな?でもオレは離れなかった。

「……んんっ!!!!」

あ…目を覚ましたらしい…暴れ出した。

「ちょっとっ!!あなた誰!?」

「お!」
身体を押し戻された。

「何勝手に人にキスしてんのっ!!信じらんないっ!!!!」

わー顔真っ赤…面白い。

「へーおとぎ話って本当なんだ。王子様のキスでお姫様の目が覚めるんだね。くすくす…あ!」

そんな事言ってたら彼女が慌ててベッドから抜け出して逃げ出す気配。

「あっ!!」

でもベッドから下りた途端ふらついてよろけた…
「倒れたの憶えてないの?」
そんな彼女の身体を支えながら聞いた。
「え?」
彼女はオレの支えを拒む事無くオレの腕の中に納まった。
「……あ…」
「思い出した?ほら…ベッド戻って。」
「あなたが…運んでくれたの…?」
大人しくベッドに戻ると枕を背凭れに座る。
「そ!オレがいなかったら君大怪我してたよ。」

「……あ…ありがとう…」

「!!…いいえ…どういたしまして。」
あれれ?急に素直になった…?恩人と言う事に気付いたか?


彼女がじっとオレを見る…そんな彼女をオレも見てる……
でも…それにしても…この子…本当に可愛いな…起きたら余計にそう思う。

幼い顔だけど…大きな瞳に淡いピンクの頬と唇に…ショートの髪も似合ってる…

それに結構胸も大きい…


…ドキン! …あれ?なんだ?今オレ…胸の奥が…


ドキン!!って言った???


「あ!でもそれとキスは別問題ですからねっ!!!!」

急に真っ赤になりながらオレに叫ぶ。
「なんで?目覚めたじゃん。」
「他にやり方があるでしょ!!!ひ…人のファースト・キスを………」
最後の方はボソボソと…?
「え?ファースト・キス???」
そう聞えたよな?
「あ…あなたには関係ないっ!!」

照れて…慌てて…可愛いな…ふふ…

「ふーん……君さ!彼氏いる?」

「は?」
急にこの人何言い出すんだろう…って思った。

「ま!いいやいても…関係ない。その時は相手の男叩きのめすだけだし…」

「は?」
え?何さっきから…?この人何言ってるの???

「ね!君さ今日からオレの彼女ね。今ここでオレに抱かれたって事にすれば皆納得するから。」

皆?皆って誰と誰??納得してもらう理由あるの???

「はぁ???何言ってるのっ!!!あなたおかしいんじゃないの???」

「オレ3Fの東雲 芫。君は?」

人の話を聞けっ!!!こいつはぁ〜〜〜!!!

「………………」
無言を決め込んだ。
「あなたには教えない!言いたくないっ!!」
「え?なんで?調べればすぐわかるよ?君1年でしょ?」
「そうかもしれないけど…自分からは言わない。」
「あれ?何か怒ってる?なんで?」

「普通怒るでしょ?あなた…自分勝手過ぎるもん!!そう言うの嫌!!」

「へーー……」
「な…なに?」

「オレフラれたの初めて。これでもオレと付き合いたいって子結構いるんだよ。
断るの面倒くさいくらい…くすっ…」

「は?」
なに?自慢??

「やっぱり本当に既成事実作っちゃった方が早いかな?……ねぇ…くすっ」

び く っ !!!

彼の…雰囲気が一瞬で変わって…妖しい瞳で見つめながらそんな事を言う……

「ね?どう思う?」
ギシリとベッドの軋む音がして…彼が手を着いて近づいて来た…
「ど…どう……って……」
更に近付いてくる……

「へ…変な事したら…お…大声…出す…わよっ!!!」
わぁ〜〜どうしよう……どんどん近付いてくる…!!!


「大声出す余裕があればいいけどね……」

そう言って彼がニッコリと笑った……