09





「なあ…オレとしない?」
「いいわよ…」

中学を卒業した春休み…
たまたまオレの家で2人きりだったからそう声を掛けてみた。
断られるかと思ったらあっさりとOKされた。

快の担当の女編集者…佐伯彩。

悠の女友達と何度かしてたから別に慌てたりはしなかった。
相手も大人の女でオレなんかより慣れてたし…



「あ……」

何処が違うんだ?
同じオレのベッドで同じ年上で…なのにあの女とは違って感じてる声も顔も身体も…
何もかも上品だ…キスだってこんなに…

「……ん…」

何度舌を絡ませても飽きる事が無くて…気持ち良い………
ああ…そうか…香水の匂いもタバコの味もしないからか……




「私が初めてじゃないのね…」

毛布で裸の身体を隠しながらニッコリ笑ってそう言った…
「あんたと違って激しい女。」
「じゃあ私じゃ物足りなかったんじゃない?」
「そんな事ない…」

どっちかと言えば今日の方が良かった…

「でも…あんた快の事好きだったんじゃないの?」

前悠の奴がそんな事を言ってた。

「好きよ…でも相手にしてもらえないから貴方としたの。」

悪びれた風も無く…正直に言われた。

「快の代わり…か?」
「……フフ」
「だったら悠の方が良かったんじゃねーの?オレよりも女の扱い慣れてる。」
「悠君は後々面倒だからダメよ…」
「オレは後腐れ無いってか?」
「だってそうでしょ?そんな冷めてる所は快先生そっくり…」
「…………」
「貴方は快先生に似てるのよ…」

そう言って起き上がると身体から毛布が滑り落ちて裸の身体が視界に入る…
形の良い胸…分かってるのか隠そうともしないでオレの首に腕を廻して引き寄せられる。
舌を絡ませるキスを長い時間された…

「もう1回くらい出来るでしょ?」

オレの唇から離れながらそう囁いた……



「芫くん?」

「!!」

「聞いてる?」
「あ…悪い聞いてなかった。」

オレの部屋でみかげと2人直接床の上に並んで座ってる。
床の上にはみかげが持って来た女の子向けの雑誌が広げられてる。

「やっぱり興味無いんでしょ?」
「そんな事無い…みかげとの初デートだもんな。」
「じゃあ真剣に考えてよ。」
「何処行きたいの?」
「何処に連れてってくれるの?」
「みかげが行きたい所。」
「……なんかズルイな…」
「そう?オレはみかげが喜ぶ場所に行きたい。」
「……だからそれを芫くんが考えてくれるんじゃないの?」
「だから何処がいいか聞いてるんじゃん。」
「………もういい!わけわかんない…」
「そう?オレこう言うの初めてだから良くわかんないからさ。」
「とにかく私の行きたい所で良いのよね?」
「そう言う事。」

「う〜ん…何処がいいかなぁ…考えてみたら私もデートって初めてなんだよね。」

雑誌を両手で持ち上げて悩んでる。

「みかげ…」
「ん?」

ちゅっ……

「もうすぐそうやってキスしないで!」
「なんで?嫌?恋人同士の特権に定番だろ?それに悩んでるみかげが可愛いかったし…」
「そうかな…」
「冷めてるなぁ…みかげは…」
「そんな事無いよ。」
「そう?」
「キスするたんびに心臓がドキドキしてるもん。」
「え?ウソ…ホントに?」

「…ひゃっ!!!」

言いながらみかげの胸に耳を当てたら小さな悲鳴を上げて座りながら跳び跳ねた。

「ホントだ…ん?」
オレは不思議顔でみかげを見た。
みかげは顔真っ赤。

「い…いきなりそんな事しないでよ!」
「これくらいもダメ?」
「ダ…ダメ……」
「わかった。」

「…………」

「なに?」

「随分素直だなぁって…」
「みかげの事が好きで大事だから。」
「……!!!」
「?どうしたの?また顔真っ赤だよ。」

「な…何でもない………さて何処にしようかな…ンッ!」

今度は正面に入り込んで真正面からキスをした。
しかもちょっと長め…

舌を絡ませるのはまだみかげには刺激が強くて敬遠されるから
今は大人しく唇を重ねるだけ…まあそれなりにみかげの唇を堪能してるけどね。
何とか軽く口を開けてくれるけどそれ以上はまだお許しがない。
初日に強引に舌を絡ませるキスをしたからそれからみかげは警戒してるんだよな…失敗した。

「………だからキスしすぎだってば……」
「そう?ホントはまだ足りないくらい…」
「あ!もう帰らなきゃ…」
話題を逸らす様に時計に視線を向けてそんな事を言う。
「……ムード無いな…みかげは…」
「え?そう?これが普通じゃない?」
「普通じゃないよ…普通の恋人同士はもっとこうイチャイチャと…」
「じゃあ家に帰ってじっくり考えよーっと。」
「誤魔化した。」
「そんな事ないもん。」
さっさと立ち上がって鞄に手を伸ばしてる。

「前途多難だな………」

「え?なに?」
「いや……」

まあじっくりと攻めるのも愉しみがあるし…普通の女の子ってこうなんだろうな…なんて思う。
特にみかげはブラコンのこう言う事にウブで疎いから…
ってそんな事みかげには言えないけど。


「あれ?みかげちゃんもう帰っちゃうの?オレと全然お喋りしてないのに…」

階段を下りて玄関に行く途中のリビングの入り口のドアが開いてて
オレ達に気が付いた快が顔を出した。

「お前と話す事なんてねーよ。」
「馬鹿弟には聞いてねぇ。黙れ!」
「お邪魔しました…快さんはまだ打ち合わせ終わらないんですか?」
「あともう少しかかりそうなんだよ…もう飽きた。」
「先生!真面目に取り組んで下さればすぐに終わりますから。」
「彼女は真面目だしさ…みかげちゃんが一緒なら気が紛れるのにな。」
「人の彼女当てにすんな!ほらみかげ行くぞ。」
「うん。じゃあ快さんまた…佐伯さんもお先に…」
「さよなら。」
「…………」

彩とはあの時……1度だけだ…
今ではお互い何事も無かったかの様に振る舞ってる…

彩は…まだ快の事が好きなんだろか……



「ここでいいよ。」
みかげが駅の入り口でオレを振り返って言う。
「そんなの頷くわけないだろ?ちゃんと家まで送る。」
「いいよ。電車賃かかるしワザワザ送らなくても」
「彼氏の特権奪うな。オレはみかげを送るのが愉しみなの。
それに何かあったらみかげの兄貴に何言われるかわかったもんじゃないし。」
「そんな…ホントに大丈夫なのに…」
「文句言わない!とにかく今は出来るだけ2人の時間作るんだよ。」
「?…何で?」
「何でって……みかげがそんなんだからだよ!オレと1年会わなくても平気たろ?」
「え?そんな事無いよ…でもどうしてもそうなった時は仕方ないと思うけど…」

「はぁ〜〜〜〜」

「!?何よ!何でそんなため息つくの?」

「…………くすっ」
「?」
芫くんが笑って私の頭をクシャってした。

「そんなみかげに惚れちゃったんだもんな…」

「……芫くん…」
「みかげを振り向かせるのは大変だ。」
「……それってもう…さよならって……こと?」
「何でそうなるのかな?」
とんでもない事言い出す。
「だって…私の相手…大変って事じゃないの?」
「落とし甲斐あるって事だよ。」
「落とし甲斐?……もう芫くんってばいやらしい!」
「恋人同士なら普通の事だよ。」
「そんな事無いよ…」

「ほら手!」
「あ…うん…」

いつも芫くんは私と手を繋ぐ。

「芫くんは恥ずかしくないの?」
「何が?」
ホームを歩きながら芫くんが軽く返事を返す。
「これ…」
そう言って繋いでた手を持ち上げた。
「え?何で?みかげは恥ずかしいのか?」
「違くて…なんか芫くんってこう言う事しないタイプかなぁって思ったから…」

最初からそうだった様な気がするんだけど…

「脅迫観念!」

真面目な顔で芫くんが言う。
「脅迫観念?」
「またいなくなったら困るから!」
はっきりと言い切られた。
「……………」
私は無言……
「あ!堪えた?」
「……意地悪…」
「だからもういなくならない様にこうやって手を繋いでおくんだよ。わかった?」
「…うん…」

「これからは沢山2人で同じ時間過ごしてキスして…いつかみかげが許してくれたら……
全部みかげをオレのものにして……ずっと一緒にいれたらいいと思う……」

「芫くん……」
「まあ先はわかんねーけど今の所それがオレの理想かな…」
「………芫くんって意外と真面目なんだね。」
「何?その眼差しは?もしかしてバカにしてる?」
ホームに入って来た電車に乗りながらの会話。
「そんな事無いよ。なんか照れるって言うか…しっかりしてるんだなぁって…
遊んでたって聞いてたから…」

「遊んでたよ。」
「え?」

「みかげがいなかったから…」

ニッコリと芫くんが笑った。
「……!!!!」
「?…どうした?」
「ううん…」

時々芫くんの笑顔に私は射ぬかれちゃう…
やっぱり芫くんってカッコイイんだな…って思う。

「ずっと一緒にいれるかな…」

握ってた手に自然に力が入って強く握ってた。

「………2人がそう思ってればいつまでも一緒にいられるよ。」
「うん…」

私は自分でもびっくりする…自然消滅を狙ってたなんてウソみたい…
今はこんなに芫くんの事…頼って…一緒にいたいなんて思える…
まだついていけない所もあるけどこうやってる時は楽しいし嬉しいし…

ずっと一緒にいたいと思える…


「あ!ヤバイ……」
そう呟いて自分の掌で口を押さえてる…?
「どうしたの?気分悪いの?」

『今みかげにキスしたくなった…』

「!!!」

耳元に囁かれた!私はびっくりのどっきりで…
まあ囁いたのは感心するけど…ここは電車の中なんだから!!

『し…しませんからっ!!』
私も耳元に囁いてあげた。
『いつか堂々と出来る様になりたいな…』
また耳元に返された。
『一生無いから!!』
『あら…残念。くすっ…』


笑った瞬間横に立ってた芫くんの頭がそのまま横に倒れて…

私の頭にコツンと当たった。