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快  (kai)   : 東雲家の長男で人気小説家。來海に惚れている。
來 海(kurumi): 快の担当編集者。快から離れたくて快に黙って担当を降りた。






「あ…東雲先生!どうされました?打ち合わせですか?」
「ちょっとな…森川は?」
「ああ森川なら先週から児童書の方に…」
「らしいな…何階だ?」
「えっと…3階です。」
「サンキュ!」

エレベーターで降りながらどんな風に問い詰めてやろうかとずっと考えてた。

あの初めての日から週に1度は身体を重ね合った。
打ち合わせや出版社で捕まえてお昼と称してそのままホテルに連れ込んで
抱いた事も数え切れない。
大体は暴れまくって反抗的だがものの5分でオレの腕の中で感じて乱れてた……なのにだ!

オレに黙って担当下りるなんて誰が許すか!


「どーも。」

「!!!」

入口から覗いたオレと一発で目が合ってとんでもなく引き攣って驚いた顔しやがった。
もっと後悔させてやる。

「編集長。そこのオレの前担当の森川しばらく借りたいんだけど?
オレの執筆活動を迅速かつスムーズに進ませるために!」

「へ?は?」
いきなりオレにそう切り出されあせってる。
「も…森川さん…どなた?」
「………東雲…快先生です…」
言いたくないと言う顔と諦めた顔とあーあと言う顔だ。
「東雲?あの?」
「どうも。」

芫の奴等はオレの事を『エロ小説家』なんて言うがこうみえてもそれなりに有名な作家だ。
小説の中にそう言う表現があるだけでどちらかと言えばバイオレンスアクションと
言った内容でオレの書いたモノが原作となってアニメ化や漫画化になったモノもある。
流石に映画化はなかなか映像化が難しいのかまだ無いがジャンルの違う編集長も
名前くらいは知ってるだろう。

「あ…どうぞ…変わったばかりで何かとご不便でしょうから…森川さんいいよ。」
「………すみません…」

カッタルそうに立ち上がってオレの方に歩いて来る。

「昼付き合え。」

「!!!!」

それがどんな意味を持つか來海はわかってる。


「どう言う事かオレが納得行くように説明してもらおうか?」

出版社から少し離れたラブホテルの一室で來海をベッドに座らせて
オレは目の前で腕を組んで來海を見下ろしてる。

「異動命令ですから。
それに私が前からそっちに行きたいって言ってたの知ってるじゃないですか!」
「そんな事は聞いてねぇ。オレになんで黙ってたかって聞いてる。」
「だって……」
「だって?」

「色々うるさいから……」
最後の方はゴニョゴニョと口ごもってたけどちゃんと聞こえたぞ!!!
「ああ?何がうるさいだ!?そこまで話の分からない男じゃねーぞ。」

「………私は快先生の愛人でもベッドのお相手でも……恋人でもありませんからっっ!!!」

いきなりそっぽを向いてそんなセリフを叫ばれた。

「はあ?」
「いつまでもこんな風に…身体だけの関係なんてもう嫌なんです!!!」
「!?」
「担当から外れればこんな関係も終わりに出来ると思ったから…」

「終わらせたいのか?」

「当たり前です。大体最初だって酔って訳が分からないうちに……
それからだっていっつも強引にホテルやベッドに連れ込んで…」

「感じまくってるのは誰だよ。」

「!!!!」

見る見る真っ赤な顔になったかと思ったらあっという間に涙目になった。
あ…!ヤベー…つい口が滑った。

「快先生なんて大嫌い!もう私の事構わないで下さいっっ!!
ホテルにもベッドにも誘わないでっっ!!」

「じゃあオレの女になるか?」

「え?」

間抜けな顔で見上げられた。

「オレの女なら身体だけの関係じゃ無くなるだろ?」

そう言う事だろ?

「………嫌っっ!!」

思いきり否定された!?

「はあ?お前…何言ってんだ?」
「快先生の女なんて絶対ならないっっ!!!」
「なっ…ちょっと待てコラ!お前言ってる事が違うだろ?」
「何がですか!」
「身体だけの関係が嫌だっつーからオレの女にしてやるって言ってんだよ。素直に頷け!」

「誰が快先生の女になりたいなんて言いました?私はこんな関係止めたいって言ってるんです。」

「!!!」

コイツ…オレ自身を自分から廃除したいって言ってんのか?

「それは承諾できねぇ。」
「は?どういう事ですか?快先生の意見なんて関係ありません!もう終わらせるだけですから!」

「……………」

今まで生きて来た人生で…生まれて初めて…女にこんなに拒絶された。

「私1人くらい手が切れたって先生にとって痛くも痒くもないでしょ?
相手に不自由しないじゃないですか。」

確かにコイツとしなくなったからってオレには痛くも痒くも無い……そう…そのはず…

「!!」

組んでた腕を伸ばして來海の顎を掴んだ。
持ち上げて視線を合わせる。

「お前の身体にオレは残らなかったか?」

「………」

「答えろ…残ってねーのか?」

「…残って……無い…」

ったく…そんなトコは天然じゃねーんだな…

「じゃあなんで泣く…」
今にも零れそうな涙を両目に溜めて堪えてる。
「………これは…汗だ…もん…」
「……そうかよ…」
「……ン…」

顎を掴んだままゆっくり顔を近付けてやったのに逃げる素振りが無いから
そのまま舌を絡ませる濃厚なキスを延々としてやった。

「…うっ…ぐずっ……ン……」

本当素直じゃねーし訳わかんねーし…




「あっ…あっ…ンア…は…ぁ…せんせ…」


いつもより…お互いがお互いを求め合う…
オレは來海を忘れないために…來海はオレを忘れるために…


「なんだ……」

「…ホントに…さよならだから…ね…」
「…………」
「うあ……ン…」



泣くくらいなら…なんでオレから離れるんだよ…

          この…天然娘の大馬鹿野郎が………







「どうしたん?快の奴?」
学校から帰ると快の野郎が昼間っから酒を飲んでる。
しかも量が半端ない…ビールにチューハイワインにウィスキー…
その他ありとあらゆる酒の空き瓶空き缶がリビングのテーブルと床に転がってる。

「さあ?帰って来るなりああだよ。」
悠がウンザリした顔でダイニングテーブルでダレてる。
「酒なんか快にとっちゃ水だろ?なんであんなに?」
「知らね!女にフラれたんじゃね?」

ギロッ!!!そんな悠の言葉に快の奴が鬼の形相で振り向いた!!

「テメェ等何か言ったら八つ裂きで殺す!」

「はあ?何だよそれ?」
「そう言や担当変わったよな?それか?」

「おい芫…」
「ああ?」

「勘が鋭いと早死にするぞ!」

どうやらそれが原因らしい普段の快からは想像出来ない失態振りだ。

誤魔化そうとしない…


「このままで済むと思うなよ…來海…」

オレはそう呟くと何も割っていないウィスキーを一口で飲み干した。



快先生に別れを宣言して1週間…
最初の頃は携帯が鳴る度に心臓がドキドキ言ってたけど今は大分落ち着いた。
担当になったのは1年間で身体の関係が始まったのは2ヶ月くらい前…
酔っててほとんど覚えていない初体験で…
それからは一体何度この身体を好きなだけ遊ばれて…抱かれまくったか………

あのエロ小説家めぇ〜〜〜〜もう好き勝手にさせないんだから!
身体だけの関係の女の1人なんて真っ平ごめんだもん…
オレの女にしてやるなんて一体何様のつもりよ!!誰があんな男の女なんて……

…でも……なんであの時泣いちゃったのかな………


そんな事を上るエレベーターの中で1人考えてた。
乗ってるのは私1人だったから大きなため息も誰に遠慮する事無く吐けた。

「はあ〜〜〜〜〜あ………」

ため息吐くと幸せが逃げるんだっけ?更に落ち込む……

ピンポ〜ン ♪
音がなって3階に着いた。
開く扉の真っ正面に立ってたら開いた扉の目の前に………

「おい!昼付き合え!」

「ひっ!!!」

エッ!?幻覚?最初はそう思って頭真っ白で立ち尽くしてた。
グイッと奥に押されて初めて我にかえる!

「ちょっ…何よ!!こんな所で何してるのよ!!どいて!降りるんだから!!」
「だから昼付き合えって言ってんだろ?」
「誰が…フングッ!!ウーーーっっ!!」

口を掌で塞がれて快先生の後ろでエレベーターの扉が閉まった!



「ふあっっ!!」

やっと離してくれたのは誰もいない屋上…

「一体なんのつもりですか?もう先生とは…」
「オレは承諾しないって言ったよな?」
「だからそれは関係無いって…」
「オレと離れるのが嫌で泣いたくせに威張るな。」
「なっ…そんな事で泣いたんじゃありません!先生と縁が切れるのが嬉しくて嬉し泣きです!」

「お前がオレの女になったら他の女とは手を切ってやる。」

「は?」

「どうする?」
「だからなんで私が快先生の女にならなきゃいけないんですか?」

「お前に…來海に惚れてるからだよ。」

「えっ!?」

とんでもなく驚いた顔しやがった。
まさか…コイツ…

「お前一体どんな解釈してた?」
聞くのも恐ろしいが…

「えっっ!?あ…だって…先生が私なんか…と言うか…
誰かと付き合うなんて…だから…身体だけの関係の女の一人になれって事かと……」

慌て振りに笑えるがとにかくハッキリ分からせる必要ありだ。
しかしホントにコイツの天然には呆れる…

「じゃあオレの言ってる意味わかるな?」
「……はい…」
「そう言う事だ。じゃあもう何も問題無いな。」

「…………」

「何で無言なんだ?何か言え。」

黙って真っ赤になりながら俯いてる來海を見下ろして返事を待った。

「…せ…」
「ああ?聞こえねぇ。」

「 先生の女なんて絶対にならないっ!!!! 」

「 !!!! 」

コイツ…この期に及んで…

「来いっっ!!」

そう叫んで腕を引っ張った。
「あ…!」

屋上のフェンスに両手を押さえ付けて追い詰めた。

「ななななな…何ですか?」
「何ビビッてんだよ。聞きたい事は1つ!」
「…な…何ですか?」

「お前オレに惚れてるか?」

「……!!!」

真ん丸く目を見開いて更に真っ赤になりやがった…ならいい…答えを聞けた。

「ほ…惚れてるわけ無いじゃないですかっ!!もう先生とは縁を切りたいんですっ!!」

「オレが他の女と付き合うのが嫌なら1日でも1時間でも1分でも1秒でも早く
オレの女になりたいって言え。」

「はぁ?何言って…」
「言ったよな?來海がオレの女になったら他の女と切れてやるって。」
「だから…それは私には関係…」

「いつまでそんな事言ってられるかな?來海……」

來海の瞳を真っ直ぐ見つめながらニッコリと笑って言ってやった。

「オレはお前を手に入れる為なら何でもするぞ……」

「……………」

何だか大変な事になったのかもしれないと蛇に睨まれたカエル並みの怯えでそう悟った。
こうなったら素直にこの俺様男の言いなりになって『あなたの女になる』と言えばいいのか…?
今更言えないし…それ以上に言いたくない方の気持ちが強い。

どうやら私は快先生に惚れられてるらしい。(本人が言うには…)
今までそんな事思いもしなくて…今日初めて知って驚いた。

「この前…さよならって…言いました…」
「覚えてねぇな…來海の記憶違いだろ?」
「そんな事ない…んっ…」

いつもの…噛み付く様なキスで口を塞がれた…

「……ふぁ…んんっ…ん…ン…」

服の上から快先生の掌が私の身体を優しく撫でる…
それが力強いくせに…滑る様に私の身体の上を動き回ってる…
胸の上でそれが止まると…指先だけに力が入って…
絶妙なタッチで私の胸を押し上げるから…

「あ……んっ…やぁ…」

ダメ…身体がもう言う事を利かない…
勝手に快先生の首に腕が伸びる……コンチクショウ!!!

「はぁ…はぁ…快先生なんか…大嫌いなんだから……」

感じて息が弾んでるからなんの説得力も無い。

「オレは心が広いんだ…しばらくは待ってやる…
その間に自分の気持ちの整理するんだな…まあ結果はもうわかってるが…
今オレの女になりたくないならそれでも構わねぇ…自由にしてればいい…
だがな…何処で何してようとも森川來海って人間は髪の毛1本に至るまで
すべてオレのものだって覚えとけ。誰にも触れさせんな。
お前を自由に出来るのはオレだけだってそれだけ覚えとけ。」

「……自分は…他の女の人と…好き勝手するくせ…に?」

「それはお前次第だって言っただろ?嫌なら今すぐ頷け。」
「だ…誰が……べ〜〜〜…だ…」
「良く言った。いつかお前がオレの女になる時を愉しみに待っててやる。」
「待って…なくて…いい…」

「待ってるぞ。來海……」

深い深い…こげ茶色の瞳で…見つめられて…落ちないわけがない…
ホントこの男は…自分を良くわかってて…ズルイ…

待ってるって…どのくらい待っててくれるんだろう?
結構気が短いから半年くらいかな?3ヶ月?

本人に聞けるはずも無く…
私は手探りで彼の心を探らなければならない…

でも…こんな私に呆れてあっという間に私の事なんて相手にしなくなるかも…

そんな事を考えながら…
あれから3年たった今でも…お昼が近付くと時々快先生がひょっこり編集部にやって来て…


「來海昼付き合え!」


って私に向かって命令する…

           いつもの…俺様の態度で……