08





次の日の午後…
あの犬の持ち主の島崎との約束の場所…大学から程近い公園だ…

「お前があの犬っころを耀に預けた女か?」

「え?」

公園には耀ではなくオレが島崎を待っていた。

「耀は来ない…今日は大学も休んでる…」

本当は休ませた…あんな事があった後だし…
それにその…あんまりにもオレが耀を攻めぬいたもんだから…
爆睡中で起きなかったのが本当の所だ…

まあそれはそれでいいんだが…

「あなた…誰?」

女が警戒する。
フード付きの上着にサングラスを掛けてるからオレが半獣だとはわからない。

「耀の代理の者だ…」
「そう?まあいいわ…犬返して!」
「礼の一言も無しか?」
「ああ……ありがと。」
「犬は此処にはいない。」
「は?」
「正当な持ち主のもとに返した。」
「…なっ…なんですって!?ちょっと何いい加減な事言ってんのよ!
大体あの犬が何処の誰のかも判らないでしょ?」

「あの犬はとある資産家の未亡人の飼い犬で名前はリアン…メス2歳。」

「な…なんで?」
「お前が耀にあの犬を預けた後あの犬を狙ってある男が犬を奪いに来た。
男はその未亡人の遠い親戚に当たる男であの犬を使ってその未亡人の婆さんから
金を奪おうとした…大分金に困ってたみたいだからな…」

「へ…え…」
「ただその計画も未遂で終わった。
捕まえて警察に突き出したから飼い主の身元なんて直ぐに分かった。
だからオレからその飼い主に返しておいた…別に構わないだろ?
どうせ返す犬だ。手間を省いてやったんだからな…」
「…余計な事を…」

「お前もその婆さんの遠い親戚なんだってな…」

「 !! 」

女が驚いた顔でオレを見る。
…くすっ…笑える……

「あの婆さんには子供もいなくて親戚はお前とあの男だけなんだってな。」
「…………」
「お前知ってたんだろう?あの男が金に困ってて婆さんの処から犬を連れ出せば狙って来る事?
ヤバイ所から金借りてたからな…命か掛かってりゃ必死だよな。」
「……な…何言ってるのよ…」
「何気にあの男に情報流してただろ?婆さんが旅行に出る事や自分がその間犬を預かる事も…
その犬を耀に預けた事も…なあ?そうだろ?」
「…………」
女の顔が引き攣ってる…
「婆さんが言ってたよ。1度その男の事を聞かれた事があるって…
そこでそいつに連絡取ったのか?親しげに近付いて良い様に操って…」
「…だから…何よ…あたしは知らないわよ…あいつがあの人の犬を狙ってたなんて…」

「何で耀に預けた?」

「え…!?」

「分かってたんだろ?あいつが犬を奪いに来るの…耀が危険な目に遭うって…」

「…………」
「だから預けたんだろ?
耀がどんな危険な目に遭うとしても…それもお前が狙ってた事なんだもんな?」
「……何を証拠に…」

「お前…耀が半獣の飼い主って知ってて預けたんだろ?そう言ってたもんな…
国絡みの半獣飼ってるから狙われてもどうにかなると思ったのか?違うよな…
そんな場所にいる犬に手を出せばあの男が警察に捕まると踏んでたんだろ?」

「 !! 」

「そうすれば遺産相続の権利剥奪だもんな…すげーよな…そこまで計算してるなんてな…」


「……デタラメ…言わないでよ…」

「…………」

オレは黙ってサングラスを外して女に近付く…

「!!…な…何…よ…!!!」

そっと顎に指を掛けて軽く上を向かせた…オレと視線を合わせる為に…
半獣の瞳の能力をこの女に掛けるために…

「本当の事話せよ…怒らないから……ん?何で耀に預けたんだ?危険な目に遭わせる為だろ?」

「…………」

女の瞳が恍惚と潤む…オレの虜になった証拠だ…
耀には効かないがこの女には完璧効いてる…浅く早い呼吸まで急にし始める…

「……そ…うよ…あなたの…言う通り…よ……あいつを…相続人から…外す…為よ…」

「それで…耀がどんな目に遭っても構わなかったのか?」
「噂であの子が半獣の飼い主だって…聞いて…羨ましくて…
でも…半獣を飼ってるなら…国に監視されてて…そんな危険な目に遭わないでしょ?」


「 ……ふーん…… 」

パ ン ッ !!!!!

「きゃっ!!!」

一応加減して女の頬を手の甲で平手打ちした。
確かに半獣は全てじゃないが監視されてる…
でも飼い主の行動まで国は責任なんて持たない。
余程のVIPか危険人物でもない限り…


「痛いか?耀はもっと傷ついた…そんな痛み耀が受けた心の痛みに比べたら何億分の1だ…」


半獣の瞳の能力に掛かってるから女はオレに叩かれても虚ろな目でオレを見てる。

「もう2度と耀に近付くな…分かったか…女…」

今度は耳元にそっと囁いてやった…
これでこの女はオレの言う事を聞いて耀には近付かないだろう。

「……わかったわ…」

「…いい子だ…もう行け。」

「……はい…」

そう言ってフラフラと女は歩いて公園を出て行った。
この後しばらくはあの女は夢うつつの状態だろう…頭の中にオレの囁きだけが残ってるはず…



「お帰りしいな。」
「起きてたのか?」
「うん。気分スッキリだよ…しいなのお陰かな。」
「無理すんなよ…昨日の今日なんだから…」
「うん。平気だよ。それよりもリアンちゃんは?」
「もうあの女に返してきた。」
「え?ホント?良く分かったね…」
「耀の携帯に連絡があったからな。耀が無理そうだったから勝手にメール見たぞ。」
「…あ…それは別に構わないけど…さ…でもリアンちゃん大丈夫かな…」
「あの男達も警察に突き出したし犬もちゃんと飼い主のもとに戻ったんだから
もう耀が心配する事じゃないだろ。」

「そうだけど…」

「…ちゅっ…そんな顔すんな…もう忘れろ……」

しいなが触れるだけのキスをしてくれた……
何だかとっても優しいキスで…オレは一気に心の中がホワンとなる……オレってゲンキンだな…

「ならまた忘れさせてやろうか?」
「え?」

「昨夜忘れられただろ?」

「………へ?…あっ…」

オレは一瞬で顔が真っ赤!!!何故だか昨夜の事はとっても恥ずかしくて耐えられない…
だってオレしいなにとんでもなく恥ずかしい事言った様な気がするんだもん……

「ううん…大丈夫!ありがと…しいな…」

オレは何気に後ずさる……

「遠慮すんな。」

オレが後ずさりした分しいながオレに近付く…

「してないから…ホントしてないから……してないってば!!!しいなっっ!!!あん!!やぁ…」



そんなオレの叫びも虚しく…オレは今起きて来たばっかりの寝室に連れ戻された…

本当に何もかも忘れちゃう様な事一杯されて……


      しいなの腕の中で…オレはまた……深い眠りについた………