01

  順番が逆ですが 『 プロローグ 』 の出会いのお話です。(1年ほどさかのぼってます。)
  椎凪 : 耀の高校の美術の教師。(まだ耀にその事はバレてない。)
   耀 : 元気×2な女の子。椎凪と同じ高校の今回は1年生。(椎凪が教師だと知らない。)






オレの名前は 『望月 耀』 只今高校1年の夏休みの真っ最中。
『 オレ 』 なんて言ってるけど正真正銘の女の子だ。

何で 『 オレ 』 なんて言ってるかというと…
オレの父親は早くに母さんを亡くして男手一つでオレを育ててくれた…
で!悪い虫がつくのが嫌で男だったらつかないだろうとオレを男として育てたんだ。
なんて安直な考えの親なんだか……情けない…オレはその時1歳くらい…

『 今日からお前は男だ! 』

って親父はオレにちゃんと断ったって言うけど 小さいのにそんな事分かるわけないっての…
結構アバウトで所々無理があったけど…

『 世間はお前を女と見るかもしれんがお前の心は男だっ!! 』

で親父は通した!!
小さかったオレは何か違う気がしたけどその言葉を信じて
『 うん。 』
って答えてた。

確かにオレも変だなぁ… とは思ってたんだよな…どー見ても身体は女だし…
でも小さい頃からそう育ってきたからあんまり気にしなかったけど…

と・こ・ろ・が・だっーーーー!!!!

親父が小6の時再婚した。
再婚した相手がオレを見て…

『 こんな可愛いのにヒドイわ…修さん!! 』

の一言で…

『 耀っ!!実は お前は女の子だったんだ!!今日から女として生きていけっ!! 』

だって!!…なんじゃそりゃ??だよ…
っつーか自分が女だって知ってたって… オレもそこまでバカじゃないって…
ちゃんとその場その場で男と女を使い分けてたよ…

スカートは中学・高校の制服しか穿かないし…オレって 言うのも直らない。
時々ナンパされるけど男だって言うとみんなそうそう強引には寄って来ないし…
念の為に胸にはサラシ巻いてる…昔胸が目立ってきた頃 巻いてたんだよな…親父命令で!
プールは女子の水着だったけど…これまた矛盾なのに…親父は惚けて誤魔化した。
中学はラッキーな事にプールが無かったから…

色々豪快な父親で適当な親父だったから疲れる時もあったけど感謝もしてる。
まぁでも男の方が楽ってのもあって私服はほとんどズボン。
それにオレは男に興味が無い… だからって女子に興味があるわけじゃないけど…
男となんて付き合う気まったく無いし…

もしかしてとんでもなく宙ぶらりんな恋愛感情なのかもしれない。



「あ!」

オレは駅前のゲームセンターで時間つぶし。
人と待ち合わせしてるからで…取れると思っていたUFOキャッチャーで
景品のぬいぐるみを取り損なって思わず声が出ちゃった…
チェ…取れると思ってたのに… どうやら相当悔しがってたように見えたらしい…
ガラスに両手を付いてケースの中を覗きこんでたから…

「惜しかったね。」

び く っ !!

耳元でいきなり囁かれた!!
「えっ!?なっ…何???」

もの凄い勢いで振り向くと男の人が1人…ニッコリと笑ってた。

「あ!ごめん驚かしちゃった?」

凄く人懐っこい笑顔だ…

「あの水色のでいいの?」
「は?」

そう言うとお金を出してゲームの挿入口に入れる。

…なっ…何?この人??
オレは 機械にへばり付いて横目でクレーンを操作するこの人を眺めてた…

「あ!成功!」

そんな言葉通りにカコンと軽い音がしてオレが落とした景品の ぬいぐるみが
下の取り出し口に落ちた。

「はい!どうぞ。」
「あ…」

そう言ってオレの前に差し出す。

「枕なのかな?これ?」
「…………」

オレは微動だにせず…じっと差し出されたぬいぐるみを見下ろしてた。

「お…お金払うよ…」
「いいよ。君に取ってあげたかったんだから  ♪♪ 」
そう言ってニッコリと笑った…

え?何?これって…オレナンパされてんの???

「どーぞ。」
「…………」

ど…どうしよう… このまま受け取らないのも…ヤバイかな…?

「あ…じゃあ…ありがとう…」

受け取ったら速攻逃げようっっ!!!
そう思って恐る恐る手を伸ばして受け 取った。

「あっ!!」

相手の方が一枚上手だった…その瞬間抱き寄せられて捕まったっ!!!

「……!!!」

じぃぃぃぃ…っと見られた。

「君…男の子?女の子?どっち?何となく微妙なんだよね…さっきから見てたんだけどさ…」

「あ…あ…あ…」

オレは硬直っ!!こんな間近で…男に 抱きしめられるなんて……

「 男だよっ!!離せっ!!! 」

そう怒鳴って思いっきり突き飛ばした。
その拍子に持ってた景品のぬいぐるみが 足元に落ちた。
でもオレはそんな事構ってられなくて慌てて走り出してた。

「あ…」
足元にあの子に渡したぬいぐるみが落ちてた。
「忘れてるよ!枕…」
拾ってそう声を掛けたんだけど…

「 いらないよっ!!! 」

そう叫ばれて逃げられた…うわっ…メッチャ逃げるの早っ!!
……そっか…男の子か…

逃げるその子の後ろ姿を眺めながらそんな事を呟いた。


男に…抱きしめられた!!!信じられないっ!!不覚っ!!一生の不覚だっ!!!

走りながら ずっと反省してた。


「うわっ!!何だよ?どうしたんだよ?耀…」

祐輔を見つけるなり抱きついた。
今日の待ち合わせの相手… オレと同い年の幼馴染み……新城祐輔。

「祐輔ぇ…オレ男の人に抱きしめられたぁ…!!」
耀が半ベソでオレにしがみ付きながら訴える。
「抱きしめらた? 抱きつかれたんじゃ無くてか?」
思わず聞きなおした。
「うん…」
「…………」

何かいつもと違う?
時々ナンパされるけど今日は怖かったから じゃなくてビックリしたのか?

「大丈夫か?今度はウチから一緒に来ような。」

今日はオレが用事があったから待ち合わせにしたんだが…
耀1人だと 何かと危なっかしい所がある…

「うん…」

やっと落ち着いたのかそう返事をするとホッとした様な顔をした。



それから数日後… オレは近くのお弁当屋さんへ夕飯を買いに出た。
祐輔の分と2つ注文して時間つぶしにお店の外でブラブラしてた。

「あ!」
「え?」

誰かに気付かれて視線を向けた。

「ああっ!!あの時の!!」

ゲームセンターにいた男の人…!!やばいっ!!
思わず逃げ出す素振りを見せると…

「お弁当待ってるんじゃないの?」

その人に言われて…そうだったと気付いた…何だか情けない…


何となく捕まって店の前のイスに2人で座ってる…
ナゼかオレの隣にチャッカリと腰を 下ろしてるのは何でだ????
のんびりと…タバコ吸ってる…そんな横顔をチラチラと眺めてた…
社会人…だよな?…どう見ても成人してそうだし…
でも何でこんな昼間っからいい大人がウロウロしてるんだ?
大学生なのかな?流石に高校生には見えないし…
そんな事をさっきからオレは考えてた…

「あ!そうだ!」

ビ ク ッ !!

オレは過剰反応でこの人が言うとチョットの事でビクリとなる…
なんせ抱きしめられた人だから…

「はい。どーぞ!」

そう言って目の前に差し出されたのはあの時のUFOキャッチャーの景品…

「会えたら渡そうと思っててさ…」
「…ずっと持ち歩いてたの?」
「少し使わせてもらったよ。結構寝心地良かった ♪ ♪ 」
そう言ってニッコリ笑う。

「ねぇ…オレと付き合わない?」

突然そんな事言われた。

「え?何処に??」

何処に連れてくつもり??

「 !!……え?」

もの凄いビックリした顔された??何で??

「え?何??」

オレも聞き 返した…だって…

「 ……ぶっっ!!!! 」

思いっきり噴き出されたっ!!!

「えーーーーっっ!!!!なっ…何だよっっ!!!」

オレは訳がわかんない??何でそんなに大笑い???

「お待たせしました。」
「あ!はい…」

その時お店の人に呼ばれた…でもまだ笑ってる…
一体何なんだよ…もう…

「あれ?お弁当いいの?」
オレと一緒に店を出るから思わず尋ねた…
「だってオレ買うつもり無いもん。くすくす…」
まだ笑ってる…
「え?じゃあなんで?」
「君と一緒にいたかったから。」
「え?」

「もう1回言うよ。オレと付き合ってくれませんか? これなら通じる?」

そう言ってオレの背に合わせて少し屈む。

「え?」
それって…もしかして…
「あ!さっきも??」
そう言う意味で 言ったの??

「そ!はぐらかされたと思ったよ。でもマジだったんだね。面白かった。」

何だよ…そう言う事なのか…だからあんな大笑いされて…って

「だっだっだっだめっ!!だめだよ!!オレ男だよ!!」
この人にはオレは男って叫んだんだった。
「分かってるよ。オレはそれで構わない。」
普通に言ってるよ…この人…
「オ…オレが構うよっ!だっだめ!!無理ですっ!!」
「え?なんで?」
「なっ…なんでって…オ…オレはそう言う趣味… 無い…」
「オレも無いよ。」
「は?なんか…言ってる事わかんないんだけど???」

「今まで男の子となんて1度も無いよ。君が初めて! だからそう言う趣味持って無いよ。」

もの凄い爽やかな笑顔だ…
「え?でも…男でもいいんだろ??」
そうだよな?そう言う事だろ??

「君だけね…君1人だけ。」

「………は?」

オレを真っ直ぐ見つめてそう言った…
なんか…この人の言ってる事が正論なのか分からない…???

「かっ…からかってるんだろ?絶対ヤダね!」

オレは出来るだけ落ち着いて話した…
気を抜くとこの人のテンポに引きずられそうだ…
それにオレ… 女だし…

「からかってないよ。君みたいな年下も初めてだけど…
初めっから決めてたんだ…一目惚れなんだよ。
男でも女でも…諦めないって決めてるんだ。」

「………え?」


高校生初めての夏休み…
カレンダーも8月に入ったばかりだって言うのに…

オレは何か…とんでもない男と出会ってしまったみたいだ………