yuusuke&shinji+ukyou





「和海ちゃんから手を引いてもらえないかな?」

ここは小暮グループの本社の社長室…
僕の目の前には社長の小暮圭一郎氏が薄笑いを浮かべて僕を見てる…
ある事件で和海ちゃんを知って必要以上に付き纏ってくる…祐輔と付き合ってるって知ってて…
だから僕が会いに来たんだ…

「橘慎二…橘コンツェルンの 一人息子…まさかこんな所で繋がってるとはね…」
「祐輔ね…本気なんだよね…絶対彼女を諦めない…このままだと君何するか分からないだろ?」
「なら彼に彼女を 諦めさせるんだな。」
「後からチョカイ出したのは君だろ?」
「仕方ないだろ?好きになっちまったもんは…くっくっ」
馬鹿にした様に小さく笑う…この男… 余り良い噂は聞かない…
和海ちゃんの事も単なる遊び…真面目で人のモノだから手を出してみたくなっただけ…
自分になびかないから余計なのか…

それから 数日後…僕の所に連絡が入って…彼の会社に呼び出された…
指定された階に行くと全面ガラス張りのフロアの一室で彼を見付けた…応接間らしい…
でもそこには… 何で…和海ちゃんがいるんだ…

ドアノブに手をかけておもいっきり引くと鍵がかかっていた…こんな目の前に和海ちゃんがいるのに…
「和海ちゃん!!」
大きな声で呼んだ…でも和海ちゃんは彼に壁際に追い詰められている…
「彼女は実に真面目な刑事さんだ…クスッ…この前の事件の事で話しがあるから一人で来てくれ って
頼んだら本当に一人で来てくれたよ。」
「どうせ一人で来なかったら何も話さないって言ったんだろっ!」
彼が僕の方を見てニヤリと笑った。
「止めて ください。」
和海ちゃんが彼をよけながら言った。
彼はしっかりと両腕を壁に突き付けて和海ちゃんを捕まえてる…
「何をだい?」
「どいて下さい!」
「嫌だね。」
ニッコリと笑う…
「私は君が気に入った。だから今ここで私のモノにする。」
「なっ!!」
「大人の男を知るいい機会だよ。ハタチの子供相手 ばかりじゃつまらないだろ?」
「…………」
そう言って和海ちゃんに更に近付いて行く…その時和海ちゃんが戦闘体制に入った。
直ぐに彼が和海ちゃんから離れる。
「おっと…その相手は私じゃない…彼が相手をする。」
そう言うと彼は後ろに下がって代わりにいかにも格闘技に慣れているボディガードが現れた。
「和海ちゃん!!」
二人の戦いが始まった…でも体格の差か…和海ちゃんがおされてる…
何度目かの蹴りの応酬で和海ちゃんが負けて壁にぶつかって崩れ落ちた。
「もう諦めなさい。 いくら強くても所詮男には勝てない。無駄な努力だ。」
彼がソファの背もたれに腰をかけて息を切らしてしゃがみ込む和海ちゃんを見つめながら話しかけた。

…あ…どうしよう…このままじゃ…祐輔以外の人に…嫌…そんなの絶対イヤ!

「うっ…」
和海ちゃんが自分の身体を抱えながら…震えて…泣いてる…
「どうしよう…祐輔さん…どうしよう…」
「和海ちゃん!!」
僕は何度もガラスを叩いたけどビクともしない…ドアも同じだ…
周りを見回してもガラスを割れ そうな物が何も無い…
「くそっ!」
「そこで彼女が私に抱かれるのを見ているがいい…くっくっ」
僕を見つめながら勝ち誇った様に彼が笑った。
「君って 人は…」
「…祐輔さん…」
和海ちゃんが呟く様に言いながら黙ってしまった…そしていきなり立ち上がるとボディガードに向かって
構えた…
「無駄な事を…」
彼の台詞を聞いてボディガードも口元に薄笑いを浮かべた。

「はあああああ」

和海ちゃんが仕掛けた。
ボディガードの左腕に廻し蹴りが入った!
「何度やっても同じ…!!」
でも今度の蹴りは違ってた…重くて相手が押されてるのが分かる。
「なっ…」
「あああああ」
そのまま強引に相手を蹴り倒した!
「和海ちゃん…」
「な…」
!…でも何だか和海ちゃんの様子がおかしい…ユラユラと立ってブツブツ何かを言ってる…
どうやら追い詰められてキレたらしい… そのままヨロヨロとあるきだして傍にあった自分の何倍も
重さがある応接セットのソファの椅子の一つをがっしり掴むと力任せに僕が立っているガラスに
めがけて投げ 付けた。
「やっ!」
「え…うそ…うわっ!」
ガシャーン!
ガラスがもの凄い音を立てて砕け散った…すごいよ…和海ちゃん…
「和海ちゃん!大丈夫?」
フラフラと歩く 和海ちゃんの傍に駆け寄った。
触れた途端和海ちゃんが僕に倒れ込んだ。
「…絶対…嫌…祐輔さん以外の人なんて…」
そう呟くと気を失った。
「!…そうか… そうだね…良く頑張ったね…」
僕は和海ちゃんを抱き上げて彼を睨んだ。
「君!これは僕に対する宣戦布告とみなすよ。今のうちに手を引いた方がいいと思うけど…」
「ご忠告どうも…」
「………」
僕の言葉なんか気にしないかの様に彼は静かに笑ってた…

僕の部屋に連れて帰るとベッドに和海ちゃんを寝かせた。
「慎二さん…」
「ん?」
「今日の事…祐輔さんには言わないで下さい…心配するから…」
「分かってるよ。言わないよ」
僕は心配させない様にニッコリと 笑った。
「ありがとうございます…」
知らせないよ…祐輔に知られたら…彼を殺しかねないもん…さて…どう手を打つか…
超ムカついたから…なんて考えてたら 和海ちゃんの携帯が鳴った。
「!内藤刑事?」
和海ちゃんの代わりに出るといきなり怒鳴られた。
『深田!何やってんだ連絡も入れないでっ!』
「内藤さん?慎二です。」
『え?慎二君?深田は?』
「彼女小暮氏に呼び出されて襲われました。」
『はっ!?』
「今僕の所で休んでます。…ケガとかは ありません…」
『しかし…何でまたそんな事に…』
「さぁ…ただ彼が言うには和海ちゃんの事が気に入ったって言ってましたけど…」
『はぁ?何ですかそれ… しかし…刑事と分かってて襲ったって事はよほど捕まらない自信が
あるのかな?』
「多分…でもこの事はご内密に和海ちゃんの希望でもありますので…」
『はい。 分かってます。彼に知られない様にでしょ?』
「話しが早いな内藤さん。で…ちょっとお願いがあるんですけど…」

内藤さんと一通り話しが終わり…
「…さて…一番の難関だよ…出るかな…」
和海ちゃんの携帯で祐輔にかけた…何回目かのコールの後携帯が繋がった。
うわっ!出た!
「あ!祐輔?僕…」
『 ? 何で和海の携帯でお前がかけてくるんだ?』
いきなり疑いの気配…
「え?あ!あのね…和海ちゃんと食事してたら彼女貧血で倒れちゃって… 今僕の所で休んでるんだ…
もしかしたら今夜泊まってくかもしれないけど心配しないでいいからさ。」
僕はなるべく普通に話す様にしたつもりだったんだけど…
『…………』
嫌な沈黙…
『 何かあったのか? 』
うっ!鋭いっ!
「何も無いよ。何で?」
『 まぁいい…わかった。今からそっちに行く。 』
え! 来るの…
「うん…分かった…」
仕方なく返事をした…マズイ…疑ってるよ…

慎二からの電話の後すぐ外に出た。
しばらく歩いた時…出会い頭で頭を 殴られた…同時に何本かだったから一本よけそこなって頭を
かすめた…随分甘くなったもんだ…
「何だお前ら…」
いつの間にかオレの周りを結構な数の男どもが 囲んでいた。
「あんたをさぁボコってくれって頼まれたのよ。たんまり金も貰ったからさぁサービスしとくぜ。はははっ!」
鉄パイプを持った男の一人が馬鹿みたいに 得意げに話す…
相手が一人だからって負ける気がしないんだろう…
額から左の頬にかけて生暖かいモノが流れて落ちる…どうやらさっきので頭を切ったらしい…
でも…オレは…自分でもわかる…身体の奥からウキウキとした気持ちが込み上がって来る…
「へー…嬉しい事してくれる奴がいるんだな…久しぶりに手加減無しでやらせて くれるのか…クスクス…」
13…いや…15人か…確実に一人づつ仕留めればどうにかなるか…
「でやっ!」
一人が鉄パイプを振り上げてかかって来た。
そいつをよけながら顔面に蹴りを入れてそいつが持っていた鉄パイプを掴んで直ぐ横にいたもう一人に
叩き込んだ!
「ギャッ!!」
そうやって3人…4人…5人…
 ガ ッ ! 
「 !! 」
いきなり背中を鉄パイプで殴られた。背中が一瞬で激痛と熱が広がる。
チッ…一度殴り倒した奴が起き上がって来たか…ならまだマジで やってなかったって事か?
確かに久しぶりだからな…本当何ヶ月振りだ…あーゾクゾクする…
たまらないな…この血の匂い…殺さない様に出来るかな…
「なっ…何だコイツ」
「笑ってやがる…」

オレは無意識に笑ってたらしい…さて…これからがお楽しみだな…
オレはそんな事を思って自分の頬に流れる血を舐めながら左手に ナイフを滑らせた…

夜の9時過ぎ…突然玄関のチャイムが鳴った。誰か来るなんて…約束なんかしてない…
でも何度もチャイムが鳴るから…恐る恐るドアを開けた。
「今頃誰…?」
開けた途端祐輔が倒れ込んで来た!
「わっ!祐輔?!」

「え?祐輔が?」
耀君からの電話…凄く慌ててる。
「うん…すごいケガ なんだ…頭からも出血してるし…でも救急車呼ぶなって言い張るし…
10人位とやりあったらしい…でも医者に見せないと…これってマズイと思うんだ…」
耀君の慌てぶりから言ってきっと凄いケガなんだろうと分かる…
昔から祐輔のケンカを見て来てる耀君だから…
「分かった…T病院わかる?そこに行って!僕から話しとくから。 うん。じゃそこで…」

耀君からの電話を切った後…僕はしばらく動かなかった…
小暮圭一郎…やってくれたね…僕を…怒らせたな…

病院のベッドに祐輔が治療を終えて眠ってる…
頭には包帯が巻かれて顔にはいくつもの絆創膏…腕もケガして…
「頭の方は異常ないって…全身打撲と肋骨3本ヒビ 入ってるって…
鉄パイプみたいなので殴られたんだろうって…先生は言ってたけど…」
耀君が辛そうに話す…
「さっき調べたらね…今夜S区で不良グループ同志の ケンカがあったて…相手は15人…全員病院行き…
中には耳切り落とされたり全身ナイフで切られてたのもいたって…」
「それって祐輔?」
昔からそうだ…祐輔は時々 ナイフ使うんだ…それに相手に容赦しないから…
「あのっ…慎二さんっ…これって私のせいですか?」
一緒に来た和海ちゃんが涙を一杯目に溜めて震えながら僕に聞く。

そう…君のせいだよ…君が祐輔と出会わなければこんな事にはならなかったはずさ…
でも…君にそんな顔されると辛い…二人がお互いどれだけ大切な存在か僕は知ってる…
祐輔が君を守るって決めたのなら…僕も君を守ってあげる…

「違うよ…和海ちゃんのせいじゃないよ…」
和海ちゃんを抱きしめながらそっと言ってあげた…

数時間後…祐輔が目を覚ました…
「………なんて顔してんだよ…」
傍にいた和海を見て優しく話しかけた…
「……だって…心配で…このまま祐輔さん…起きなかった らって…う…」
両手で顔を隠して…泣いてる…
「バカだな…勝手に人を…殺すな…」
「う…ごめんな…さい…でもこんなに怪我してる祐輔さん見たの初めてだったし…
本当に凄く…心配したのよ…」
「相手には倍以上にして返した自信はある…」
「変な…自信…くすっ…」
泣きながら笑う和海に手を伸ばして…引き寄せた…

「…ん…」
優しくキスをする…
「うっ…本当…良かった…ヒック…ぐずっ…」
安心したのか和海が余計に泣き出した…
「…もう…泣くな…」
何度も何度も和海に キスをした…
「は…い…」
和海はまた…泣きながら…笑った…

病室の入り口でそんな2人を眺めながら…ホッと一息ついた…
まったく…祐輔の奴… 無理しちゃって…身体中痛いくせに…さて…と…


   待ってなよ…小暮圭一郎…僕のお気に入りに手を出すとどうなるか…思い知らせてあげる…