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本当はもっと落ち着いた場所で…2人っきりで…
ムードたっぷりにプロポーズするはずだったのに…

レポーターに迫られて慌てて裏口に向かう由貴の後ろ姿を見て…
自然に由貴の名前を呼んでた…

「オレと結婚してください。」

なんの迷いも無く…ずっと何度も練習して自分のモノにした台詞の様に言葉に出来た…
言ってすぐ…由貴の返事を聞く前に…由貴にキスをしてた……本当に自然に……

由貴とキスがしたかったから…


「由貴…」
「………」

唇が離れた後優しく由貴の名前を呼んだ…
由貴はちょっと困ったような照れてる様な…なんとも言えない顔してオレを見上げてる…

「由…」

「返事!どうされるんですか!!」
「楠さん今のプロポーズですよね!!」
「公開プロポーズですか!!」
「返事!!返事聞かせて下さい!!」

「え!?あ…」

返事聞かせて下さいってお前等がプロポーズしたわけじゃ無いだろうがっ!!

「えっ……あっと……」

由貴が凄い挙動不審になってる。

「マネージャーさん!!」
「えーっと……柊木さん!!」

あんなに大勢の人の前でいきなりプロポーズされてキスまで されてしまって…
周りはレポーターの人に警備の人に…
えー!?いつの間にかスタジオの中から皆も出て来てて…

やだ…私どうしようっっ!!


由貴が周りを気にしながらパニック状態らしい…
オレの服と腕をギュッと掴んでる。

これは…まさか…いっぱいいっぱいで断ったりしないよな?
ありえそうで…怖い……

「由貴…」

名前を呼んだら一目でわかるほど由貴の身体がビクン!と跳ねた。

「……惇哉さん……」

凄い不安げな顔して…

「由貴の正直な気持ちを答えてくれればいいから…」
「………」
「正直に…言って…」
「惇哉さん…」

その言葉と惇哉さんの笑顔で今まで聞こえてた周りの声と視線が消えた…


「……宜しくお願いします。」


私はそう返事をして頭を下げた……





「由貴…」

「…………」

「いい加減機嫌直しなよ。」

由貴が撮影所から戻ってからイジケて布団に包まって出てこない。

「由貴…」

オレはベッドに腰掛けて包まってる由貴をさっきからなだめてる。

「もう外歩けない!」
「オレと一緒なら歩けるって!」
「余計歩けない!うー!!…ぐずっ…」
「由貴…」


あの後…


「おめでとうございます!楠さん!」
「おめでとうご ざいます!」

あっという間に囲まれて…

「いつからのお付き合いなんですか?」
「式はいつ頃?」

「やっとプロポーズOKしてもらったんだから式なんてこれからだから。」

「どうですか?柊木さんは?早く式を挙げたいと思いません?」
「あ…あの…」
「でもびっくりされたんじゃありません?いきなりマスコミのカメラの前で公開プロポーズなんて?」
「……は…あ…」

ん?カメラ?公開?

「しかもキスなんて…きっと全国の方も驚かれますよ。」

女性のレポーターがニコニコしながらそんな事を言う…

え?全国?

「詳しい事は今度話すので!今日は撮影始まるんでこれで ♪ 」

「あ!もう少し…楠さん!」

「あ!そうだ…今回オレ達の事リークしてくれた人には感謝してます。どうもありがとう!」

そう言ってオレはカメラに向かって頭を下げた。
真面目に今回それが無かったらこんなに早い由貴との結婚は決まらなかったと思うから…

「楠さん!!その辺の事もっと詳しく!!!」
「楠さーん!!!」

そんな呼び掛けも無視して由貴の肩を抱き抱えながら裏口から中に入った。

「由貴大丈夫?」
「…大丈夫なわけ無いでしょ……もう…訳のわからない事して…
交際してるって言うだけじゃなかったの?」
「だってあの時言いたかったから…」
「寿命が縮んだでしょ…」
「日本の女の寿命は男より長いからこれでオレと同じになったかな?」
「惇哉さん…」

「ずっと一緒にいよう …由貴…ありがとう…OKしてくれて…オレ本当に嬉しい……
こんな嬉しい事由貴と初めて一緒のベッドに寝れた時と初めてキス出来た時と初めて愛…」

「ちょっと!それ以上は言わなくていいからっ!」

由貴が両手でオレの口を塞ぐ。

「とにかく…」

オレも両手で由貴の手を外した。

「結婚万歳 ♪ 」

「オラ!イチャイチャしてんじゃねー時間はとっくに過ぎてんぞ!」

「あ!」
「監督!」

今にも由貴との結婚承諾後初のキスが出来る所を……

「ったくこんだけのギャラリーで良くそんな事しようと思うな?」

「え?……あっ!」

そうだ…スタジオにいた人も出て来てたんだっけ…恥ずかしい…

「まあでもおめでとう!お2人さん!」
「ありがとう監督。」
「おめでと〜〜〜」

拍手が響く中そんな言葉を皆が言ってくれた…

「柊木さんっっ!!!」
「高瀬さん……」

高瀬さんが涙うるうるで走って来て私の両手を掴んだ。

「おめでとうございます!!とっても素敵なプロポーズでしたっっ!!!
わた…私感激しちゃって……うっ…」
「ありがとうございます……」

「ますます楠さんのファンになっちゃいました!!
これからもお2人の事応援していきますからっ!!お幸せにっ!!」
「高瀬さん……」

本当に嬉しそうに笑ってくれるから…

「私お2人の公開プロポーズ記念に撮っておきますから!!
大切にしますっっ!!」

「……はい…」

………さっきから…何か引っ掛かっているんだけど……
一体…何なんだろう??



夜の10時近くに部屋に戻った。
もう今日1日は気持ちが落ち着かず会う人会う人声を掛けられ…
何でこんなに知れ渡ってるのか不思議で不思議で仕方なかった。
お母さんからはもうそのまま倒れちゃうんじゃないかと
思われる程の興奮振りで電話が入り惇哉さんが 『 満知子さんの息子になるよ ♪ 』
なんて言うもんだからその後は号泣もので話しにならなかった。

部屋に戻ってしばらくすると携帯に寺本さんからメールが届いた。

『 結婚おめでとう〜 ♪ 良いもの見せてもらったわよー
話は今度じっくり聞かせてもらうからねー皆で楽しみにしてるから ♪
本当におめでとう〜』

「………見せて貰った?惇哉さん…」
「ん?」
「寺本さんが見せて貰ったって…何かしら?それに会う人会う人今日の事知ってたし…」
「え?あーまあわかるんじゃない?テレビ見れば…」
「テレビ?」
「由貴は見ない方が良いと思うけど…」
「何でよ?」
「んー何となく……」
「変な惇哉さん?」

そんな事を言いながら由貴がテレビを点ける…
あーあ…何も起きなきゃいいけど…

テレビを点けてチャンネルを廻す…ドラマや バラエティ番組で…
だから一体何なのか…やっと報道番組で…でも…
「何も無いじゃない…」

それから待つ事数分後…

『 芸能ニュースです。今日はとてもおめでたいニュースが飛び込んで来ました。 』

「あ…」

画面には見た事のある建物が映った…あれは撮影所…?

「由貴…見ない方が……」
「………」

由貴に声を掛けても返事もしないでテレビをじっと見つめてる…


『柊木由貴さん』
『…は…はい…』
『オレと結婚して下さい。』


「!!!」

もうその後は自分が体験した事が違うアングルから映し出されてる…
本当に最初から最後まで……

『カメラの前での公開プロポーズになりましたが
楠さんらしいと言えばらしいでしょうか。』
『お相手はあのエステ界でも有名な 「 柊木満知子 」 さんの娘さんで
由貴さんと言う方だそうで…』

「………」

嘘………

「わあああああっっ!!由貴っ!!」


公開プロポーズって…こう言う事だったの?
全国の人がこれを見てるの……

そう思ったら急に意識が遠くなって…

惇哉さんの声もテレビの音も…何も聞こえなくなって…


目が覚めたらベッドの中だった。